・基礎化学


(1)化学物質の分類

物質を化学的に分類すると、純物質(pure substance)と混合物(mixture)に分けることができます。

純物質は一定の性質を持ち、窒素N2や水H2Oのように、1つの化学式で書くことができる物質です。純物質を構成しているそれぞれの元素の組成や密度、融点、沸点などは一定であり、それらの物理的性質から、純物質の種類を判別することができます。

それに対して、混合物は複数の純物質が混合している物質です。混合物は、混じっている物質の種類とその混合比によって性質が異なります。空気は身近にある混合物であり、空気は窒素N2や酸素O2、アルゴンAr、二酸化炭素CO2などの混合物です。自然界の物質は混合物であることが多く、例えば、海水や岩石、石油などは混合物です。

また、純物質はさらに単体(simple substance)と化合物(compound)に分けることができます。単体は窒素N2のように単一の元素から構成される純物質であり、化合物は水H2Oのように複数の元素から構成される純物質です。

 

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.1  物質の分類

 

また、物質の成分が同一であっても、化学構造の違いにより、異なる性質を示す物質が存在することがあり、これらを互いに同素体(allotrope)といいます。同素体は、同じ単一の元素からなる単体ですが、化学的性質や物理的性質がかなり違います。

代表的な例としては、ダイヤモンド(diamond)と黒鉛(graphite)が互いに同素体の関係です。これらは、どちらも化学式で書けば炭素のCですが、原子の配列や結合様式が異なるために、それぞれが全く違った性質を見せるのです。ダイヤモンドは無色透明で硬く、電気伝導性がありませんが、黒鉛は黒色で軟らかく、電気伝導性があります。炭素Cの他には、硫黄Sや酸素O、リンPなどに同素体が存在します。

 

.1  主な同素体

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(2)原子の構造

物質を構成する原子の種類を、元素(element)といいます。現在、元素は118種類が知られており、各元素に固有の原子(atom)が存在します。元素のうち、約90種類は自然界に存在し、他の元素は、加速器実験などで人工的に作られたものです。各元素は、ラテン語名などの頭文字から取った元素記号(大文字)で表されます。ただし、頭文字が同じになる場合には、もう1文字(小文字)を添えて区別します。

 

.2  元素と元素記号の例

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原子は、物質を構成する基本的な粒子であり、中心にある正電荷を帯びた原子核(atomic nucleus)と、その周りにある負電荷を帯びた何個かの電子(electron)から成り立っています。

原子核は、正電荷を持つ陽子(proton)と電荷を持たない中性子(neutron)から構成されます。また、陽子と電子は、互いに符号が反対で同じ大きさの電荷を持っており、陽子は+e、電子は-eの電荷を持ちます。陽子と電子の電気量は±1.602×10-19 Cで、これは電気量の最小単位であり、電気素量(elementary electric charge)といいます。

電気的に中性な原子では、陽子と電子は互いに正負の電荷を打ち消し合うので、原子核中の陽子の数と電子の数が等しいです。

 

.3  陽子及び中性子・電子の質量と電荷

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原子核中の陽子の数は、元素の種類によってすべて異なり、陽子の数を、その原子の原子番号(atomic number)といいます。例えば、水素は陽子を1個持つので原子番号は1で、酸素は陽子を8個持つので原子番号は8となります。

また、原子核中の中性子の数は、原子によってばらばらで、ほとんどの原子が、原子核中に何個か中性子を持っています。

陽子と中性子の質量はほぼ等しく、原子核中の陽子と中性子の数の和を、その原子の質量数(mass number)といいます。これを質量数と呼ぶのは、陽子と中性子の質量の和が、その原子の質量とほとんど等しいからです。電気的に中性な原子では、原子核の周りを陽子の数と同じ数の電子が取り巻いていますが、電子の質量は、陽子や中性子1個の質量の約1/1840と非常に小さいので、電子の質量は無視してもほとんど問題なく、原子の質量は、事実上質量数で決まります。

原子を原子番号と質量数も含めて表示するときは、」のように、元素記号Xの左下に原子番号Zを、左上に質量数Aを表記します。なお、質量数は原子の正確な質量を表しているわけではない、ということを念頭に入れておかなければなりません。また、元素記号と対応する原子番号は決まっているため、左下の原子番号を省略することが多いです。

 

質量数 = 陽子の数 + 中性子の数

 

原子の大きさは、種類によっていくらか異なりますが、どの原子も、直径が約0.1 nm (10-10 m)程度の大きさです。例えば、原子番号1の水素原子の直径は0.106 nmで、原子番号18のアルゴン原子の直径は0.142 nmです。原子番号95のアメリシウムでも、原子の直径は0.350 nm程度にしかなりません。アメリシウムの電子数が、水素の電子数の95倍になっても、直径は3.3倍程度にしかならないのです。

このように、原子の大きさがあまり変わらない理由は、電子の数が増えるのと同時に、逆の電荷を持つ陽子の数も増えるからです。電子が増えると、クーロン力による斥力が働いて、電子の占める領域が広くなり、原子は大きくなります。しかし、同時に陽子も増えて、原子核と電子の引力も強くなるので、現実には両者のバランスの結果、電子が増えても原子の大きさはあまり変わらないことになるのです。

さらに、原子核の大きさはというと、水素原子の原子核の直径が2.40 fm(2.40×10-15 m)です。水素原子の原子核は、水素原子全体の大きさの約1/44000程度の大きさしかありません。これは、原子全体の大きさをドーム球場に例えると、原子核の大きさは、ほぼ1円硬貨に相当します。原子核が、原子と比べていかに小さいかが理解できると思います。したがって、一般的に知られているような図.2のような原子モデルは、大きさの観点から見ると、実は正しくはないのです。

ちなみに、原子核の大きさのオーダーである1 fmを、「1 yukawaと呼ぶことがあります。これは、1949年にノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹の業績にちなんでいます。

 

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.2  有名な原子モデル(画像はこちらからお借りしました)

 

さらに原子の中には、陽子の数は同じでも、中性子の数の違いで、質量数が異なる原子が存在する場合があります。これらの原子を、互いに同位体(isotope)といいます。

例えば、天然に存在する水素原子には、質量数が11H (99.9885%)と、質量数が22H(0.0115%)があります。また、質量数が33Hも、自然界に微量だけ存在しています。このように多くの元素は、いくつかの同位体が、ほぼ一定の割合で混じったものとして存在しているのです。

同位体は、質量数が異なるだけで同じ元素であり、化学的性質はほぼ等しいです。同位体は、中性子の数が異なっても原子番号は一緒なので、同じ元素記号で表します。

また、同位体の中には、構造が安定なものと不安定なものがあり、不安定なものは時間が経過すると、放射線(radiation)を出して、安定な原子へと変化していきます。これを放射性崩壊(radioactive decay)といい、このときに放射線を出す性質を放射能(radioactivity)といいます。

不安定で放射線を出す同位体は、特に放射性同位体(radioisotope)と呼ばれています(放射線を出さない安定な同位体は安定同位体という)質量数が33Hは、代表的な放射性同位体です。放射線は細胞を壊したり、遺伝子に傷を付けて変化させたりする働きがあるため、ある量以上の放射線を浴びることは生体に有害であり、その扱いには注意が必要になります。しかし、十分な管理下では、放射線は殺菌や医療、生物の品種改良などに利用できます。また、放射性同位体の出す放射線を目印として、生体内の原子の動きや、化学反応の仕組みを調べる研究が行われています。

同位体を調べることによって、気候変動のメカニズムを知ることもできます。現在の地球は、地質学的に新生代の「第四紀」と呼ばれる時代で、氷河期に分類されます。現在は温暖期だと思っていた人もいるかもしれませんが、地球史においては、むしろ寒冷な時代に分類されるのです。ただし、現在は氷河時代における温暖モードである「間氷期」に相当します。もう一方の寒冷モードは「氷期」と呼ばれており、いわゆる「氷河期」というのは、このモードのことです。

海底堆積物に含まれている、有孔虫という生物の殻に含まれる酸素Oの同位体比の分析結果から、「氷期と間氷期は約10万年の周期で繰り返されている」ということが明らかになりました。有孔虫の殻は、炭酸カルシウムCaCO3でできており、その酸素同位体比は、当時の海水の酸素同位体比を反映したものとなります。海水の同位体比は、本来変わらないはずですが、一部の海水が蒸発して雪になり、陸に積もるプロセスを通じて、徐々に変わっていくことが知られるようになりました。

酸素Oには、原子量が異なる安定同位体が、酸素16 16O、酸素17 17O、酸素18 18Oの三種類あります。このうちの99%以上は、酸素16です。水が蒸発する際、重い酸素同位体を含む水よりも、軽い酸素同位体を含む水の方が蒸発しやすいため、大陸の内陸部に積もった雪の酸素同位体は、次第に軽い組成になっていきます。逆に、海水には重い酸素同位体が取り残されていきます。すなわち、海水の酸素同位体比が重いということは、大陸に氷河が発達していることを意味し、有孔虫の殻に含まれる酸素Oの同位体比を分析することで、間接的に当時の海水の酸素同位体比を調べることができるのです。

この研究によると、明らかに10万年の周期で、気候変動が繰り返されていることが分かったといいます。そして、この気候変動のサイクルは、地球の軌道要素の天体力学的な変動によって、引き起こされていると考えられています。この周期的な変動は、提唱者であるセルビアの地球物理学者ミルティン・ミランコヴィッチの名前を冠して、「ミランコビッチサイクル」と呼ばれています。

 

(3)化学式と化学反応式

例えば、ある物質に対して、「食塩, 塩化ナトリウム, NaCl」の3つの表し方があります。食塩は食用の塩という意味であり、古くから使われていた名前です。一方で、後の2つは、この物質が「塩素」と「ナトリウム」からできた物質であるということが、明らかになってから初めて使われるようになったものであり、たった200年ほどの歴史しかありません。

これらの表し方(慣用名, 化学名, 化学式)は、いずれも化学の記述で登場するものであるから、何を意味しているのかが、分かるようになっていなくてはなりません。ただ、化学の現象をミクロなレベルからしっかりと理解していくときは、NaClと表す化学式(chemical formula)が最も多くの情報を与えてくれます。

例えば、食塩をNaClと書けば、NaClの個数比が11であると分ります。しかし、これがもし塩化ナトリウムと書かれていたならば、個数比の情報は分らないままなのです。このように、化学の理解において化学式を使って物質を表すことは、決定的に重要な意味を持っています。

化学式は化学物質を元素記号で記述するものですが、その書き方には様々なものがあります。例えば、組成式は、化学物質の各元素の粒子数比を表す式です。金属やイオン性結晶などのように、結合が連続して物質が構成されているときは、化学式としてはこの組成式しか書けません。一方で、物質が分子からなる場合は、分子式を使います。分子式は、分子中にある元素とその数を示した式です。また、構造式は、分子中での元素と元素の結合関係を表した式で、有機化合物はこの書き方で表されることが多いです。次の表.4に主な化学式の種類を示します。

 

.4  主な化学式

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化学変化において、反応する物質(反応物)と生じる物質(生成物)の関係を、化学式で示した式を化学反応式(reaction formula)といいます。

例えば、水素と酸素を混合して点火すると、水が生じます。この反応を例にすると、水素=H2, 酸素=O2, =H2Oであるから、まずは次のように書くことができます。

 

H2 + O2 → H2O

 

ところが、化学反応では、原子間の結合関係が変化するだけであり、どの原子もなくならないから、このままでは、まだ正しい式になっていません。H原子は左辺も右辺も2個で問題ありませんが、O原子は左辺で2個、右辺で1個になっているからです。そこで、左辺のO2の前に1/2を付ければ、原子数については問題がなくなります。

 

H2 + 1/2O2 → H2O

 

しかしながら、酸素分子O2と酸素原子Oでは反応性が異なり、化学的には全くの別物なのです。原子数の上では1/2O2=Oですが、物質の基本単位の表示方法という点からすると、1/2O2=Oとはなりません。酸素分子の最小単位はO2であり、1/2O2なるものは、全く実体のないものなのです。したがって、化学反応式において、化学式の前の係数を分数で表記することは、一般的に望ましくありません。そこで、全体を2倍して、分数を消してやると次のようになります。

 

2H2 + O2 → 2H2O

 

このようにすると、化学反応式が完成します。以上をまとめると、化学反応式の書き方は一般的に次のようになります。

 

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また、イオンが関与する反応において、反応しないイオンを省略した化学反応式を、特にイオン反応式といいます。イオン反応式では、左辺の電荷総和と右辺の電荷の総和が等しいことに注意してください。

例えば、硝酸銀AgNO3水溶液と塩化ナトリウムNaCl水溶液を混ぜると、反応が起きて塩化銀AgClが沈殿します。この化学変化は、次のように表されます。

 

Ag+ + Cl- → AgCl ・・・イオン反応式

Ag NO3 + NaCl → AgCl + NaNO3 ・・・化学反応式

 

化学変化では、反応物(reactant)の量により生成物(product)の量が決まります。これらの量的関係は、化学反応式から求めることができます。

そこで私たちは、水素と酸素が反応して水が生じる反応において、水素がW gなら水は何gできるか、というような問題によく出会います。この問題を解くためには、化学反応式2H2+O2→2H2Oから、正しい情報を読み取らなければならないのです。この反応式の係数が意味していることは、2個の水素分子と1個の酸素分子が反応して、2個の水分子ができるということです。化学反応式の係数は、反応する粒子の数と生成する粒子の数の比を表しているのです。化学反応式において、私たちが化学式の係数から読み取れる情報は、反応に関与する粒子の個数の関係だけであることに注意してください。したがって、化学反応で質量を扱うときには、物質の個数に関係する量と、物質の質量に関係する量の変換方法を学ばなければなりません。

 

(4)化学で使われる量

(i)原子量

各原子の質量は10-23 gと極めて小さく、このような非常に小さな質量を取り扱うことはとても不便です。そこで、種々の原子の質量は、陽子6個と中性子6からなる質量数1212C原子1個の質量を12(単位なし)したときの「相対的な質量」で表します。

これによると、各原子の相対質量は、ほぼ質量数に近い値となります。これは、電子の質量は陽子や中性子の質量に比べて無視できるほど小さく、また陽子と中性子の質量がほとんど等しいためです。

例えば、1H原子1個当たりの質量は1.6735×10-24 gで、12C原子1個当たりの質量は1.9926×10-23 gなので、12C原子1個の質量を121H原子1個の質量をMHとすると、次のようになります。MH1.0078は、1Hの質量数1とほぼ同じ値です。

 

1.6735×10-24 g 1.9926×10-23 g = MH 12

MH 1.0078

 

ただし、1つの元素の原子には、中性子数の異なる同位体が存在することが多いため、ある元素の相対質量を決めようというときには、その同位体も考慮しなければなりません。そこで、その元素の相対質量は、同位体も含めた期待値で表します。このような各元素の同位体の相対質量と、同位体の存在比から求められる原子の平均相対質量を、一般的に原子量(atomic weight)といいます。

例えば、自然界にある炭素には12C98.93%13C1.07%存在するので、炭素の原子量は次のようになります。

 

炭素の原子量 = 12 × 0.9893 + 13 × 0.0107 12.01

 

よって、同位体も考慮した炭素の原子量は12.01となります。このように原子量は相対的な質量であり、単位のない量です。原子量は質量に関係する量なので、単位としてgなどを付けたくなりますが、単位を付けてはいけません。

子量は化学計算の際、最も基本的な数値として重要です。一般の周期表には、有効数字4桁の数値が示されていますが、高校では特に指示がある場合を除いて、有効数字2桁もしくは3桁の原子量の概数値で計算を行うことが多いです。表.5に主な元素の原子量を示します。ただし、原子量は通常問題に与えられているので、覚える必要はありません。

 

.5  主な元素の原子量

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(ii)分子量と式量

 元素の原子量の和によって、分子1個や組成式1単位分の相対質量も表すことができます。これらを、それぞれ分子量(molecular weight)、式量(formula weight)といいます。ただし、式量のことも合わせて分子量ということもあります。

例えば、原子量はH=1, N=14, O=16, Na=23, Cl=35.5なので、分子量はH2O=18, NaCl=58.5, NO3-=62となります。NO3- のように電荷を持つ場合でも、電子の質量は原子核の質量に比べて非常に小さいので、電子の質量は無視して、イオンの相対質量は、構成する原子の原子量の総和に等しいと近似的に考えるのが一般的です。また、分子量と式量も相対的な質量であり、単位を付けません。表.6に主な物質の分子量および式量を示します。

 

.6  主な物質の分子量および式量

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(iii)アボガドロ数と物質量

 原子の相対質量の基準である質量数12の炭素原子12C12 gだけ分取します。これに含まれる12C原子の個数Nは、12C原子1個当たりの質量を1.9926×10-23 gとすると、次のように求めることができます。

 

N = 12 ÷ 1.9926×10-23 6.02×1023

 

このN=6.02×1023をアボガドロ数といいます。化学では6.02×1023個の粒子の集団を1 molと定義して、molを単位として表した物質の量を、物質量(amount of substance)といいま。「mol」の語源は、ラテン語の「moles」にあり、「ひと山の」とか「ひと塊の」という意味を持ちます。

例えば、粒子を2×6.02×1023個集めると2 mol、粒子を3×6.02×1023個集めると3 molとなります。また、1 mol当たりの粒子数6.02×1023 /molをアボガドロ定数(Avogadro constant)NAといいます。

 

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.3  アボガドロ数と物質量

 

粒子6.02×1023個の集団 = 粒子1 mol

 

12C原子を6.02×1023個集めると12 gとなるので、原子量や分子量に単位としてg/molを付けたモル質量(molar mass)がよく用いられます。

例えば、H2Oの分子量は18なので、H2O分子を1 mol集めたときの質量は18 g/molと表せます。モル質量は、化学において物質のmolgの関係を与える基準となる概念なのです。

 

(iv)モル計算

物質の変化は、すべて原子や分子などの小さな粒子が動くことによって引き起こされます。そして、質量や体積、気体の圧力なども、粒子の数に比例する値です。物質に関する量は、常にこれら粒子の数が関係するので、化学では粒子数を考えることが最も重要になります。ただ、この数は1023個程度の非常に大きな数であるので、通常はmolという集団量使って個数を扱うことにしています。

ところが、このmolは、結局のところ粒子の数であるので、これを直接測定することは通常不可能です。私たちが物質の量で測定できるのは、質量や体積、気体の圧力などであるから、これらを使って、物質の量を与えることが多くなります、したがって、次の図.4のような変換が自由自在にできることが、化学の量に関する計算問題を解くための第一歩です。

 

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.4  化学で扱う量

 

(iv-1)質量と物質量

 物質の質量と物質量の関係は、モル質量(単位:g/mol)から変換することができます。モル質量は物質を1 molだけ集めたときの質量(g/mol)でした。また、モル質量は原子量や分子量の値に単位としてg/molを付けたものです。

例えば、二酸化炭素CO2はモル質量44 g/molなので、2 molの二酸化炭素は44×2=88 gです。したがって、一般的には質量と物質量は次のような関係にあります。

 

物質の質量〔g= モル質量〔g/mol× 物質量〔mol

 

日本では、古くから尺貫法という単位系が用いられてきました。現在では、商取引での尺貫法の単位の使用は、原則として禁止されていますが、今日でも日本酒や焼酎の販売は、主に尺貫法の単位で行われています。

例えば、1勺は約18 mLであり、1合は約180 mL1升は約1.8 L1斗は約18 Lです。水H2Oの密度は1 g/mLなので、水H2O18 mL集めると18 gになります。水H2Oのモル質量は18 g/molなので、ちょうど、水1勺=水1 mol、水1合=水10 mol、水1升=水100 mol、水1斗=水1,000 molということになります。できすぎた偶然ではありましょうが、尺貫法を制定した人は、molことをすでに知っていたのではないかと思わせるほどですね。molの概念を確認する際には、ちょっと思い出していただきたいことです。

 

(iv-2)体積と物質量

物質の体積と物質量の関係は、アボガドロの法則(Avogadro’s law)より変換することができます。アボガドロの法則は、「同温同圧の下で同体積の気体には、気体の種類に関係なく同数の分子が含まれる」という法則です。アボガドロの法則によれば、同温同圧の下で気体の体積は物質量のみに比例し、1molの分子が占める気体の体積は、すべての気体でほぼ同じになります。温度0℃で通常の大気圧(1atm)の状態を、気体の標準状態(standard state)といい、気体の体積を考えるときは、この条件を基準にすることが多いです。

さて、実際に測定してみると、標準状態ではどんな気体も1 molで体積がほぼ22.4 Lになります。また、このことは、空気のような2種類以上の混合気体においても成り立つことです。物質1 molが占める体積をモル体積(molar volume)といい、気体のモル体積は、標準状態ではその種類に関係なくほぼ22.4 L/molです。例えば、標準状態で3 molの空気の体積は、22.4×3=67.2 Lです。したがって、一般的には体積と物質量は、次のような関係にあります。

 

気体の体積〔L= 22.4L/mol× 物質量〔mol

 

(iv-3)圧力と物質量

物質の圧力と物質量の関係は、気体の場合と溶液の場合で変換の仕方が異なります。気体の場合は、理想気体の状態方程式PV=nRTを用います。ここで、Pは気体の圧力、Vは気体の体積、nは気体の物質量、Rは定数、Tは絶対温度を表します。同温同体積の下では、気体の圧力は物質量のみに比例し、1 molの分子が与える圧力は、すべての気体でほぼ同じになります。これはアボガドロの法則に似ていますね。したがって、一般的には気体の圧力と物質量は、次のような関係にあります。理想気体の状態方程式は、アボガドロの法則よりも普遍的な気体法則です。

 

気体の圧力〔Pa× 気体の体積〔L= 物質量〔mol× 8.31×103PaL/(molK)× 絶対温度〔K

 

 また、溶液の場合では、浸透圧(osmotic pressure)を物質量に変換する方法があります。浸透圧と物質量の関係は、ファントホッフの式π=CRTで表されます。ここでπは浸透圧、Cは溶液の濃度、Rは定数、Tは絶対温度を表します。溶液の濃度は、物質量を体積で割った値C=n/Vなので、この式をπV=nRTのように書くと、理想気体の状態方程式PV=nRTと同じ形になっていることが分かります。

しかし、この結果は偶然の一致であり、ここに自然科学の神秘を感じますね。一般的には、浸透圧と物質量は、次のような関係にあります。

 

浸透圧〔Pa× 溶液の体積〔L= 物質量〔mol× 8.31×103PaL/(molK)× 絶対温度〔K

 

(5)周期表

ロシアのメンデレーエフは、元素を原子量の順に並べると、性質の似た元素が周期的に現れることを発見し、1869年には当時知られていた63種類の元素を並べた周期表(periodic table)を発表しました。

その周期表にはいくつか空欄がありましたが、メンデレーエフは、そこには未だ発見されていない元素が当てはまるはずだと考えました。そして、空欄に入るべき元素の存在とその性質を、周期表での上下左右の元素の性質から予言したのです。

例えば、メンデレーエフは、周期表でアルミニウムの下に位置する未知の元素を「エカアルミニウム」、ケイ素の下に位置する未知の元素を「エカケイ素」と名付けて、それらの性質を予言しました。ちなみに、「エカ」とはサンスクリット語で「1」を表し、メンデレーエフは、アルミニウムの一つ下という意味で「エカアルミニウム」、ケイ素の一つ下という意味で「エカケイ素」という名前にした訳です。

その後、「エカアルミニウム」や「エカケイ素」が実際に発見されました。まず1875年には、フランスの化学者であるボアボードランが、亜鉛の硫化鉱物の中から、ガリウムを発見。その性質から、メンデレーエフが「エカアルミニウム」と名付けた、周期表でアルミニウムの下に位置する未知の元素であることが分かりました。さらに1886年には、ドイツの化学者ヴィンクラーが、アルジロダイトという銀鉱石の中から、ゲルマニウムの単離に成功。これは、メンデレーエフが「エカケイ素」と名付けた、周期表でケイ素の下に位置する未知の元素であることが確認されたので、メンデレーエフの名声と周期表の地位は、不動のものとなったのです。

ただし、現在の周期表は、元素を原子番号の順に並べ、その電子配置(electron configuration)も考慮して作られています。周期表において、横の行は周期といい、縦の列は族と呼ばれます。周期表では、第17周期の7つの周期と、118族の18の族があります。

同じ周期にある原子は、最外電子殻が同じであり、周期が変わると最外殻が変化します。(1周期はK殻、第2周期はL殻、第3周期はM殻・・・)また、同じ族に属する元素は、同族元素と呼ばれ、価電子数が同じであるため、化学的性質が類似しています。このように物理的性質や化学的性質が周期的に変化することを、周期律(periodic law)といいます。

 

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.5 周期表(画像はこちらからお借りしました)

 

元素の周期律によく従う1族や2族、および1218族の元素を典型元素(typical elements)といい、金属元素と非金属元素がほぼ半分ずつ含まれます。典型元素の価電子数は18族が0の他、族番号の下一桁の数と一致します。

そのため、典型元素の同族元素では、元素同士の化学的性質がよく似ています。特によく似た同族元素は固有名が付いており、水素H以外の1族元素をアルカリ金属(alkali metals)、ベリリウムBeとマグネシウムMg以外の2族元素をアルカリ土類金属(alkaline earth metals)17族元素をハロゲン(halogens)18族元素を希ガス(noble gas)といいます。

一方で、周期表の中央部に位置してい311族の元素を遷移金属(transition metals)といい、そのすべてが金属元素です。遷移元素では、原子番号の増加に伴って増加する電子が、最外殻ではなく内殻に配置されていくので、原子の最外殻電子の数が、通常12個であまり変化しません。そのため、周期表で隣り合う元素同士で互いに化学的性質がよく似ていることが多いです。

また、通常周期表の欄外に置かれることが多い、原子番号5771の元素をランタノイド(lanthanoids)、原子番号89103の元素アクチノイド(actinoids)といいます。ランタノイドはそのすべてが工業的に有用な希土類元素であり、アクチノイドはそのすべてが放射性元素です。

 

(6)化学史

物質の量や化学変化における量的関係の理論は、主に18世紀後半から19世紀にかけて、以下の諸法則の発見により確立されたものです。それまでの化学はというと、様々な物質の構造・性質・反応を調べるために、実験や観察をただ繰り返して、データを積み重ねるだけというものでした。初期の化学はまさに暗記と経験則の学問だったのです。しかし、この時代で量的関係の理論が確立されてから、経験則の化学は終わり、近代の化学まで急速に発展してきました。

現代では、化学反応論などが進歩して、物質の挙動についてある程度の予測はできるようになりました。しかしながら、まだまだ化学には分らないことがたくさんあります。「分かれば分かるほど分からないことが出てくる」、それが化学なのです。

 

(i)質量保存の法則

例えば、身近な化学反応である燃焼について考察すると、木や紙は燃やすと灰になって、質量が大幅に減少します。また、熱気球に見られるように、気体は熱すると軽くなるように感じられます。ただ化学変化を追っている者にとって、その変化の外面的な姿に目が行きがちになるため、18世紀頃までは、化学変化に伴う量の収支を測定しようとする考え方はなかなか出てきませんでした。こうした状況で、空気を視野に入れて反応を考え、正確な量の測定を通じて、何かを見出そうとしたのが、フランスのラボアジエでした。

空気を視野に入れるためには、空気を逃がさないことが重要です。ラボアジエは、ある実験を密閉容器の中で行い、まずは質量の変化を調べてみました。そうすると、容器内で変化が起こり、熱の出入りがあるにも関わらず、密閉容器の全質量は全く変化していなかったのです。ラボアジエはこのことが他の反応についても成立するのかどうかを知るため、次から次へと実験を重ねました。

そして遂に、「化学反応の前後で、物質の質量の総和は変化しない」という質量保存の法則(law of conservation of mass)1772年に確立したのです。この功績から、ラボアジエは「近代化学の父」と呼ばれるようになります。ラボアジエは生涯で多くの実験を行い、18世紀の段階で、33の元素を突き止めていました。

しかし、ラボアジエの最期は悲惨なものでした。ラボアジエの職業は国王の収税管理人であり、その手腕を買われて、国家財政委員を務めていた経歴まであったのです。ラボアジエは実験器具を買い揃えるために、やむなくその職に就いていたとされていますが、やがてフランス革命の火が湧き起ります。王権が倒れ、ルイ16世やマリー・アントワネット、他王族たちが次々に処刑される中、ラボアジエも国民から多額の税金を取ったとして、処刑されることになってしまったのです。しかし、ラボアジエはそこまで酷い徴税はせず、むしろ税の負担を減らそうと努力していたといいます。ラボアジエの処刑には多くの科学者が反対し、ラボアジエの死に際して、「彼の頭を切り落とすのは一瞬だが、彼と同じ頭脳を持つ者が現れるまでには100年はかかるだろう」と言わしめました。

また、ラボアジエはギロチンで処刑される際に、処刑後の人に意識があるのかを実験するため、「ギロチンで処刑されて、自分の首が落ちた後に意識があるかどうかを見ていてくれ」と周囲の人に頼んだそうです。「もし自分の意識があったら、自分はその受け答えをする。話すことはできなくても、目で合図する。首を切られてから、可能な限りまばたきを続ける」と宣言しました。

そして処刑の当日、ギロチンで首を切り落とされたラボアジエは、実際に何回かまばたきをしたそうです。しかし、人は首を落とされると、急激に血圧が下がり、すぐに意識がなくなると考えられているため、この話はどこまで本当なのか分かりません。

質量保存の法則は、20世紀初頭まで科学者たちの間で支持され続けていました。しかし、1916年にアインシュタインは相対性理論においてE=mc2という数式を提示し、質量はエネルギーと等価関係にあるということを提唱しました。これによると、核融合反応などで質量が減少すると、大きなエネルギーが発生するというのです。つまり、エネルギーを与えれば、質量が増えるということも理論上ありえるのです。

このような相対性理論を考慮した現代の化学では、「質量の総和が一定である」という命題は、飽くまで日常的な場面において、近似的に成立するものであると考えられています。

 

(ii)定比例の法則

ラボアジエの死後、質量をはじめ正確な量を測定することが、化学の分野において非常に大切であると認識され始めてきました。まず、酸Aと反応する塩基Bの質量比が、常に一定であるということが明らかにされました。このようなことが、化学反応においてもっと一般的に成り立つのではないかと研究を始めた人が、フランスのプルーストです。

ただ当時では、まだ混合物と化合物の違いが明確に区別されていなかったため、この研究は困難を極めました。しかし、骨の折れる実験を多くの物質について行い、プルーストは「化合物の構成元素の質量比は、化合物の作り方によらず常に一定である」という定比例の法則(law of definite proporiton)1799年に提唱しました。

 

(iii)倍数比例の法則と原子説

定比例の法則は、いったい何を意味するのでしょうか?もし元素Aと元素Bが、気体のようなふわふわした不定形であるなら、ABが必ず任意の割合で混ざり合うという定比例の法則は少し理解しがたいです。質量比が常に一定であるということを説明するには、元素はある一定の質量を持った不可分の粒子からできていると考えれば、都合が良いです。さらに定比例の法則を満たすためには、ABの原子は、ある定まった個数比でのみくっつき合うと考えなくてはなりません。

以上のような推論から、1803年にイギリスのドルトンは、次のような原子説(atomism)を提唱しました。

 

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この原子説は、質量保存の法則と定比例の法則を、全く合理的に説明しました。しかし、だからといって誰も見たことのない「原子」が存在するというこの説を、当時の化学者たちは受け入れることができませんでした。この原子説が正しいと実証できる証拠は何かないものかと、ドルトンは頭を悩ませました。

また、この原子説は、原子Aと原子Bがどのような割合で結合するのかということを、説明していませんでした。そこで、ドルトンは思い切って、自然の根本はシンプルに違いないから、「基本的に11の割合で結合する」と言い切りました。

しかし、一酸化炭素COと二酸化炭素CO2のように、ABからなる化合物で、割合が異なる物質もいくつか知られていたので、「例外的に12とか23などの比もある」と言いました。

そうすると、例えば、炭素Cと酸素Oの化合物である一酸化炭素COと二酸化炭素CO2では、同じ12 gの炭素と化合している酸素の質量比は、

 

16 g 32 g = 1 2

 

このように整数比になります。そして、ドルトンはそのような整数比になる化合物がかなりあるはずであると予言し、これを倍数比例の法則(law of multiple proportion)と名付けました。この予言は見事に的中し、このことによって、原子説を信じる人が増加するようになったのです。

倍数比例の法則は、定比例の法則と似ていて紛らわしい法則ですが、定比例の法則との違いは、定比例の法則は「1つの化合物の質量比」に着目しているのに対して、倍数比例の法則は「2つ以上の化合物間の構成原子の質量比」に着目しているところです。つまり、倍数比例の法則は「原子」の存在を裏付けするものであったのです。

 

(iv)気体反応の法則

1800年代の初めには、発見された気体の種類も多くなり、それらの性質が広く研究されるようになりました。もちろん、その中には気体間の反応も研究の対象になっていました。そして、フランスのゲーリュサックは、「気体の反応では、反応する気体および生成する気体の体積比は、同温同圧の下で簡単な整数比になる」という気体反応の法則(law of gaseous reaction)を提唱しました。

例えば、水素と酸素が反応して水蒸気ができる場合、「反応する水素:反応する酸素:生成する水蒸気=212」という整数比が成立します。

この法則は、物質の最小単位粒子である「原子」が存在するというドルトンの原子説を支持するものと当時は考えられていました。しかし、ドルトン自身はこの法則を認めなかったのです。

 

(v)分子説とアボガドロの法則

気体反応の法則をドルトンは認めませんでした。なぜなら、ドルトンは自然の根本はシンプルに違いないから、原子同士は基本的に11で反応するに違いないと考えていたからです。また、ドルトンは水素や酸素などの単体気体は、当然1原子からなると考えていました。

よって、水蒸気の生成反応について、ドルトンの主張を化学反応式で示すと、次のようになります。

 

H + O → HO

 

これでは「反応する水素:反応する酸素:生成する水蒸気=111」となり、ゲーリュサックの気体反応の法則と矛盾が生じます。そこで、このような矛盾を解決し、気体反応の法則を上手く説明するために、イタリアのアボガドロは、1811年に次のような分子説を提唱しました。

 

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以上から、アボガドロが考える水蒸気の生成反応は、次のようになります。

 

2H2 + O2 → 2H2O

 

これで「反応する水素:反応する酸素:生成する水蒸気=212」となり、実験結果を直接説明できました。アボガドロの分子説は、気体反応の法則を矛盾なく説明する、素晴らしい提案であったのです。また、これが正しいなら、原子量の正確な値も決定できるという注目すべきものでした。

しかし、この説が広く支持されるようになったのは、提唱から約50年後のことで、彼の死後から4年が経過していました。これは、原子が分子を形成する理由が見当たらなかったことや、「同温同圧下で同体積中に同数の気体粒子が含まれている」という仮説の正誤が、上手く実証できなかったことなどが考えられます。

しかし、今日では、アボガドロの分子説のうち、「同温同圧で同体積の気体は、種類に関係なく同数の分子を含む」という内容は、アボガドロの法則(Avogadro’s law)と呼ばれ、科学的に正しいことが認められています。アボガドロの法則は、高校化学では必ず学習する重要法則になりました。


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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学基礎」啓林館(2012年発行)

2) 卜部吉庸「化学の新研究」三省堂(2013年発行)

3) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)

4) 竹内薫「怖くて眠れなくなる科学」PHP研究所(2012年発行)

5) 船山信次「こわくない有機化合物超入門」技術評論社(2014年発行)