・理想気体の状態方程式


(1)気体とは何か?

気体粒子は、熱運動(thermal motion)によって空間を激しく動き回っており、構成粒子間の距離が非常に大きいです。そのため、気体のほとんどは空間で、固体や液体に比べて、密度が小さいです。熱運動によって粒子が広がる現象は、拡散(diffusion)と呼ばれます。気体粒子の熱運動の運動エネルギーと温度には密接な関係があり、気体粒子の平均の運動エネルギーは、次の式で示されるように、絶対温度Tに比例します。

 

 

ここで、kはボルツマン定数と呼ばれる定数で、上式の左辺は、気体粒子1個の平均の運動エネルギーを表します。この式は、気体粒子の平均の運動エネルギーが、気体の圧力や体積に関係なく、絶対温度Tだけに比例するということを示しています。

次の図.1に、気体分子の運動エネルギーと温度の関係を示しました。このように、気体粒子が取り得るエネルギー準位による分布を示したグラフは、一般的にマクスウェル・ボルツマン分布(Maxwell-Boltzmann distribution)と呼ばれます。この曲線の極大は、その運動エネルギーを持つ気体粒子の割合が、最も大きいことを示します。ボルツマン分布より、温度が高いほど、大きな運動エネルギーを持つ気体粒子の割合が増加し、より速く気体粒子が動き回っていることが分かります。

 

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.1  気体分子の運動エネルギーと温度の関係

 

気体のほとんどが空間であるのにも関わらず、ある体積を保つことができるのは、気体粒子間の分子間力によって集合しようとする勢いに、負けないだけの運動エネルギーを持って構成粒子が飛び回り、内壁に当たって押し返しているからです。容器内の気体粒子は、内壁と衝突を繰り返し、内壁に圧力を及ぼしているのです。

 

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.2  気体粒子の衝突の様子

 

圧力とは、単位面積あたりの力であり、1 N/m21 Paと等しいです。また、大気圧は約1.013×105 Paであり、これは760 mmの水銀柱の圧力に相当します。1643年、イタリアの物理学者で、ガリレオ・ガリレイの弟子だったトリチェリーは、次の図.3のように、水銀柱を利用して大気圧を測定しました。

 

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.3  トリチェリーの実験

 

大気圧下で、長さ1 m程度の筒に水銀Hgを詰め、水銀Hgを満たした皿の上で筒をひっくり返すと、筒の中の水銀Hgは徐々に下がっていき、高さが760 mmになったところで止まります。これは、760 mmの高さの水銀柱の圧力と、大気圧がつり合ったために起こる現象です。筒の中の水銀Hgは、外に出ようにも、大気がそれを阻止しようと圧をかけているので、外に出られないのです。このとき、筒内の上部はほぼ真空になり、これをトリチェリーの真空(Torricellian vacuum)ということがあります。大気圧を760 mm相当の水銀柱の重力による圧力とみなして、重力加速度を9.8 m/s2、水銀Hgの密度を13.6 g/cm3、筒の断面積をS cm2とすると、

 

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これより、筒の断面積S cm2によらず、760 mmの水銀柱の圧力が、約1.013×105 Paであることが分かります。現在、圧力の単位はSI単位系であるPaを使うことが多いですが、慣例として、大気圧を760 mmHg(ミリメートル水銀柱)と表すことも多いです。

また、トリチェリーの行った実験では、水銀Hgの代わりに別の液体を使うこともできますが、水銀Hgが最も合理的な液体だと考えられています。この理由は、水銀Hgの密度が大きく、データの測定がしやすいという点と、水銀Hgの蒸気圧が小さいために、蒸気圧を無視できるという点にあります。例えば、水銀Hgの代わりに水H2Oを使った場合は、水H2Oの密度は約1.0 g/cm3なので、水柱の高さは10 mほどにもなります。実際に10 mの筒を用意して、これを実験で行うのは、現実的ではありません。また、水銀Hgの蒸気圧を無視できることは、実験時の温度を考えなくても良い点で、実験が楽になります。このような利点から、大気圧の測定には、水銀Hgが好まれて使われるのです。

 さて、トリチェリーが大気圧を760 mmHgと表現したのが17世紀ですから、それまで人類は、大気圧がどのようなものなのかを、よく理解していなかったのです。しかしながら、大気圧が760 mmHgであると分かるずっと前から、10 m以上深い井戸から、水を直接吸い上げることができないことは、経験的によく知られていました。H2Oと水銀Hgの密度の比がおよそ114ですから、この10 mという高さが、水柱の圧力と大気圧とがつり合う高さであり、これ以上の高さまで水を吸い上げることは、物理的に不可能なのです。したがって、ストローで水を飲もうと思っても、10 m以上の長さのストローでは、どんなに頑張っても、水を飲むことができません。水を10 m以上吸い上げようと思ったら、途中でポンプとタンクを何段階か中継するなどの工夫が必要になります。

 

(2)気体法則の歴史

(i)ボイルの法則

1662年、イギリスの物理学者であったボイルは、気体の圧力と体積について、「同温で一定量の気体の体積は、それに働く圧力に反比例する」ということを見出しました。この関係をボイルの法則(Boyle's law)といい、気体の体積をV、圧力をPとすると、次式で表されます。

 

PV = k (kは定数)

 

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.4  ボイルの法則

 

したがって、圧力Pかつ体積Vの気体が、一定温度で、圧力2Pかつ体積V/2に変化したとき、次式が成り立ちます。

 

P × V = 2P × V/2

 

ボイルの法則が成り立つのは、気体の体積と単位体積当たりの気体粒子数が、反比例するからです。つまり、気体が入っている容器の内容積を1/2にすると、単位体積当たりの気体粒子数は、2倍になります。したがって、器壁への気体粒子の衝突回数も単位時間当たりで2倍になり、気体の示す圧力も2倍となるのです。

 

(ii)シャルルの法則

気体の圧力が一定のとき、気体の温度が上昇すると、体積はどんどん大きくなっていきます。0℃のときの体積をV0t ℃のときの体積をVとすると、体積Vは次のように表されます。

 

V = V0(1 + t /273)

 

この式より、気体はt =-273℃ではV =0となることが分かり、これより低い温度はないことが推定され、この-273℃を起点とする、絶対温度(absolute temperature)が新しく使われるようになりました。絶対温度には、単位としてK(ケルビン)用います。絶対温度TK〕は、セルシウス温度t〔℃〕とは、次のような関係になります。

 

T = t + 273

 

ここでT =t +273T0 =273として、先に示したV = V0(1 + t /273)を変形すると、「同圧で一定量の気体の体積は、その絶対温度に比例する」という関係になります。この関係は、1787年にフランスの物理学者であったシャルルが見出し、この法則をシャルルの法則(Charles's law)といいます。

 

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シャルルの法則では、温度が1 K下がるにつれ、体積は0℃のときに比べて1/273だけ減少するので、-273℃では、気体の体積が0になります。これが、絶対零度(absolute zero point)への概念へとつながっていきました。絶対零度は、気体分子すべての熱運動がなくなった状態であり、熱力学的に考えられる最低温度です。絶対零度は、絶対温度では0 Kで表され、セルシウス温度で表すと-273.15℃です。1 K程度までは、液体ヘリウムHeによる冷却で実現できますが、0 Kに到達することは難しいです。

また、すべての気体は温度を下げれば、絶対零度になる前に、液体または固体になります。凝縮する温度、すなわち沸点は、窒素N2では77 K(-196)、ヘリウムHeでは4 K(-269)です。液体窒素は、断熱膨張による空気の凝縮で容易に作ることができ、主に冷却材として用いられています。

 

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.5  液体窒素に手を突っ込んでも凍傷を起こさない(画像はこちらからお借りしました)

 

 液体窒素を使った簡単な実験が、液体窒素に手を突っ込むという実験です。液体窒素の沸点は-196℃であり、普通に考えれば、突っ込んだ手は大変な凍傷になりそうです。しかし、現実には、手を数秒入れただけでは、手に何の傷害も残しません。この現象は、一般的にライデンフロスト効果(Leidenfrost effect)と呼ばれます。

ライデンフロスト効果は、身近なところでも観察することができ、高温に熱したフライパンに水滴を垂らすと、水滴は瞬時に蒸発することはなく、水滴はフライパンの上をコロコロと転がるように横滑りします。この理由は、液体がその沸点よりもはるかに高温に熱された固体に触れると、蒸気気体の被膜が液体と固体の間に生じて、液体が固体に直接接することを妨げて、熱伝導を遅らせるためです。

実は、これと同じような現象が、液体窒素と手の間にも起こっているのです。液体窒素の沸点(-196)に比べると、手の温度(36)ははるかに高温であり、手を突っ込んだ瞬間、生じた気体窒素の被膜が皮膚表面に生じるため、凍傷には至らないのです。ただし、ライデンフロスト効果は、熱伝導を遅らせるだけなので、手を突っ込むのは、せいぜい12秒に留めておいた方がいいと思います。

 

(iii)アボガドロの法則

 1808年、フランスの化学者であったゲーリュサックは、「各種気体間の反応で、気体の体積の間には簡単な整数比が成り立つ」という気体反応の法則を発表しました。この法則は、当時の化学者にあまり受け入れられませんでしたが、これを説明するため、アボガドロは、「同温同圧のもとで、一定体積中に含まれる気体粒子の物質量は等しい」という関係を見出しました。この関係を、アボガドロの法則(Avogadro's law)といいます。

 

 

これより、以上の(i)~(iii)の諸法則を、1つにまとめてみましょう。(P, V, T, n)で表される点Oと、(P3, V3, T3, n3)で表される点IIIの関係を導いてみます。(i)~(iii) の諸法則が使えるようにするために、このO→IIII(P1, V1, T1, n1)II(P2, V2, T2, n2)のステップにさらに分けます。ただし、O→Iのボイルの法則ではTnが一定であり、I→IIのシャルルの法則ではPnが一定、II→IIIのアボガドロの法則ではPTが一定であることに注意してください。

 

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まず、ボイルの法則(O→I)とシャルルの法則(I→II)より、それぞれを体積V1の式に変形して、V1を消去します。

 

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仮定より、T1= TかつP1= P2なので、ボイルの法則とシャルルの法則を、次のようにまとめることができます。この式は、一定量の気体では、PV /Tの値が常に一定になることを表しています。このように、ボイルの法則とシャルルの法則から、「一定量の気体の体積は圧力に反比例し、絶対温度に比例する」ことが分かります。この関係を、ボイル・シャルルの法則(combined gas law)といいます。

 

 

また、アボガドロの法則(II→III)より、V2=(V3n2)/n3として、これを得られたボイル・シャルルの法則に代入します。

 

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仮定より、n2= nかつT2= T3なので、ボイルの法則とシャルルの法則、アボガドロの法則の3つの法則を、次のようにまとめることができます。

 

 

この定数kRとすると、PV=nRTという、よく知られた理想気体の状態方程式(ideal gas law)が導かれます。つまり、理想気体の状態方程式とは、ボイルの法則とシャルルの法則、アボガドロの法則の3つの法則を、まとめあげた式なのです。この状態方程式を利用することで、気体の密度から、分子量を決定することなどができます。例として、質量w gで分子量Mの理想気体について、状態方程式を使ってみましょう。

 

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 ただし、理想気体の状態方程式PV=nRTは、1つの気体の情報であることに注意しましょう。圧力Pを変えたり、体積Vを変えたり、温度Tを変えたり、物質量nを変えたり・・・・・・、というような状態の変化がある場合は、ボイルの法則、シャルルの法則、アボガドロの法則を使います。しかし、これらの諸法則も、すべて理想気体の状態方程式に含まれているのだから、物質量nが一定の場合は、先のボイル・シャルルの法則を使えば、どのような問題にも対応できます。

 

 

ボイル・シャルルの法則において、左辺に変化前の気体の情報、右辺に変化後の気体の情報を書いて計算すれば、ボイルの法則やシャルルの法則などを意識しなくとも、簡単に問題を解くことができます。また、気体定数Rは、使用する圧力や体積の単位によって数値が変化します。高校の化学では、圧力の単位として〔Pa〕、体積の単位として〔L〕を使うことが多いですが、高校の物理では、圧力の単位として〔Pa〕、体積の単位として〔m3〕を使うことが多いです。以下に、いろいろな単位を用いたときの気体定数Rの値を示します。

 

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なお、気体定数Rは、次のように求めます。気体の標準状態(273 K, 1.013×105 Pa)におけるモル体積Vm=22.4 L/molを、理想気体の状態方程式PV=nRTに代入すると、

 

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(3)混合気体

互いに反応しない2種類以上の気体を、1つの容器に充填すると、各気体の成分は、拡散の原理により、高濃度の領域から低濃度の領域に移動し、均一な気体となります。このように2種類以上の気体を含んでいる気体を、混合気体といいます。また、混合気体中のそれぞれの気体を、成分気体といいます。

混合気体を扱うとき、必ず問題となるのが、各成分気体が、どのような比率で含まれているのかということです。これらの比率を考えるときは、混合気体を分離して、1つの成分気体について、仮想的な状態を設定してやらなくてはなりません。混合気体を分離するとき、その方法には、圧力Pと温度Tを一定にして分離する方法と、体積Vと温度Tを一定にして分離する方法の2種類があります。

 

(i)体積と温度が一定のとき

 気体ABの混合気体について、体積Vと温度Tを一定のまま、圧力を変えて仮想的に分離した状態を考えます。混合気体の圧力をP、気体Aの圧力をPA、気体Bの圧力をPBとすると、

 

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(1), (2), (3)の状態方程式より、次式が成立します。

 

PV= (PA + PB) V

P = PA + PB

 

これを、ドルトンの分圧の法則(Dalton's law)といいます。混合気体の圧力を全圧(total pressure)といい、各成分気体が単独で、混合気体の全体積Vを占めるときの圧力を分圧(partial pressure)といいます。混合気体の全圧Pは、各成分気体の分圧PAPBの和に等しいです。

また、分圧PAPBは、全圧Pとその成分気体のモル分率の積になります。これは、分圧の比が、各成分気体の物質量の比に等しいことを示しています。また、同温同圧では、気体の物質量は体積に比例するので、分圧の比は、混合前の各成分気体の体積比にも等しいです。

 

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 気体を水上置換で捕集すると、捕集された気体は、水蒸気が飽和した混合気体になっています。したがって、捕集気体の分圧は、捕集気体の全圧から、水蒸気の分圧を引いた値です。なお、このときの混合気体の全圧は、大気圧と等しいです。つまり、捕集気体の分圧は、大気圧から水蒸気圧を引いた値と等しくなります。

 

捕集気体の分圧 = 大気圧 – 水蒸気圧

 

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.6  水上置換では見かけの捕集気体の圧力は水蒸気圧の分だけ大きくなっている

 

(i)圧力と温度が一定のとき

一定温度Tと一定圧力Pで、気体の体積Vは、気体粒子の数に比例します。これはアボガドロの法則ですが、この法則は、混合気体でも同じように成り立ちます。まず、気体ABの混合気体について、圧力Pと温度Tを一定のまま、体積を変えて仮想的に分離した状態を考えます。混合気体の体積をV、気体Aの体積をVA、気体Bの体積をVBとすると、

 

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(1), (2), (3)の状態方程式より、次式が成立します。

 

V = VA + VB

 

混合気体の体積を全体積(total volume)といい、各成分気体が単独で、混合気体の全圧Pを示すときの体積を分体積(partial volume)といいます。混合気体の全体積Vは、各成分気体の分体積VAVBの和に等しいです。

また、分体積VAVBは、全体積Vとその成分気体のモル分率の積になります。これは、分体積の比が、各成分気体の物質量の比に等しいことを示しています。

 

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(iii)混合気体のまとめ

 気体ABの混合気体の全圧をP、全体積をVとしたとき、理想気体の状態方程式より、PV=nRTが成立します。また、各成分気体の分圧をPAPB、分体積をVAVBとすると、次の表.1のような関係が成り立ちます。

 

.1  分圧と分体積の関係

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.1の関係において、十分に注意しなければならないことは、分圧というのは、飽くまでVTを一定にして分離したときの成分気体の圧力であり、分体積もまた、PTを一定にして分離したときの成分気体の体積であることです。よくある間違いとして、状態方程式を作るときに、成分気体の分圧を考えているのに、体積としてその成分の分体積を使ってしまうことがあるのです。つまり、PAVA=nARTPBVB=nBRTなどの式を作ってはいけません。1つの成分気体が与えられたとき、その成分の物質量nで決めることができるのは、PVのどちらか一方であることに注意しましょう。例えば、1つの成分気体の物質量としてnAが与えられたなら、成り立つ状態方程式は、PAV=nARTあるいはPVA=nART2つしかないのです。

 

(4)理想気体と実在気体の違い

 気体の本質は、「ほとんどが空間であること」「ほとんど自由な粒子の運動であること」の2点に集約されます。つまり、「完全に空間」かつ「完全に自由な粒子の運動」を持つ気体は、気体としての本質を完璧に備えたものになります。ただし、実在する気体の粒子は、それ自身の体積を持ち、また気体粒子間の分子間力は、決して消えはしないのだから、そのような気体は、観念上でしか存在しません。このように、分子間力が働かず、分子自身の大きさもゼロという理想化された気体を、理想気体(ideal gas)といいます。これに対して、実在する気体は、実在気体(real gas)といいます。実在気体では、分子間力が働いており、分子自身の大きさもゼロではありません。

 

.2  理想気体と実在気体

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理想気体と実在気体とを比較すると、(i)分子自身の大きさの効果(ii)分子間力の効果により、その振る舞いに差異が見られることになります。

 

(i)分子自身の大きさの効果

同温同圧下で、理想気体と実在気体とを比較すると、分子自身の大きさの効果により、気体粒子の大きさが存在するだけ、実在気体の方が気体の占める体積が大きくなります。しかし、低圧にして全体積を大きくしてやると、分子自身の大きさの効果は、相対的に小さくなります。つまり、高圧では、分子自身の大きさの効果が顕著になり、低圧では、分子自身の大きさの効果は弱まります。

 

(ii)分子間力の効果

同温同圧下で、理想気体と実在気体とを比較すると、分子間力の効果により、気体粒子同士が引き合うだけ、実在気体の方が気体の占める体積が小さくなります。しかし、低圧にして体積を大きくしてやると、気体粒子間の距離が大きくなるので、分子間力の効果は相対的に小さくなります。つまり、高圧では、分子間力の効果が顕著になり、低圧では、分子間力の効果は弱まります。

 

以上の(i),(ii)より、低圧にすれば、「分子自身の大きさ」と「分子間力」の2つの効果が打ち消しあって消えていくのだから、たいていの気体は、低圧にするだけで理想気体に近づきます。しかし、これだけでは、まだ理想気体とのずれが大きい気体もあるので、もう1つ工夫が必要になります。それは、気体の運動と密接な関係にある温度です。気体を高温にしてやると、気体粒子の熱運動が激しくなり、粒子間の引力が、気体の体積や圧に与える影響が相対的に消えていくのです。つまり、一般的には、高温低圧が実在気体を理想気体に近づける条件となります。

また、理想気体と実在気体とを論ずるときに、グラフを使うと視覚的に分かりやすくなります。次の図.7で示すグラフは、様々な圧力下で1 molの気体の体積を測定してPV /(RT )を計算し、Pとの関係をグラフ化したものです。理想気体では、n =1のときPV /(RT )は必ず1となるから、実在気体1 molPV /(RT )1からどの程度ずれるかで、理想気体と実在気体との関係を考察することができるのです。

 

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.7  各種気体1 molPV /(RT )-P曲線

 

低圧では、いずれの気体も理想気体に近づくので、PV /(RT )1となります。しかし、気体の圧力を上げていくと、理想気体と実在気体とのずれが、だんだん大きくなってしまいます。

圧力を上げても、比較的理想気体に近い振る舞いをする物質としては、水素H2やヘリウムHeのような、分子量の小さい無極性分子があげられます。これは、分子量が小さいほど、分子自身の大きさや分子間力が小さくなり、また無極性分子は、極性分子よりも分子間力が小さいからです。

一方で、二酸化炭素CO2のように分子量が大きい分子や、塩化水素HClのように極性のある分子では、圧力を上げていくと、理想気体とのずれが顕著になります。このような分子は、圧力を上げていくと最初はPV /(RT )<1ですが、徐々にPV /(RT )の値が大きくなっていき、圧力が大きいとPV /(RT )>1となります。このように曲線がV字型になる理由は、圧力の変化により、分子自身の大きさの効果と、分子間力の効果の寄与が変わるからです。

圧力が比較的大きいとき、実在気体が例外なくPV /(RT )>1となるのは、圧力が大きくなって全体積が小さくなると、分子自身の大きさのために、全体積が小さくなるのに困難が生じるからです。したがって、圧力が大きいときは、分子自身の大きさの効果のために、理想気体より体積が大きくなり、PV /(RT )>1となるのです。

また、圧力が比較的小さいとき、実在気体がPV /(RT )<1となるのは、分子間力の効果のために、気体粒子が引き合い、粒子が集まって体積が小さくなるからです。理想気体では、分子間力が働かないので、体積は圧力に反比例しますが、実在気体では、分子間力が働くために、体積が理想気体より小さくなるのです。したがって、圧力が小さいときは、分子間力の効果のために、理想気体より体積が小さくなり、PV /(RT )<1となります。図.7では、二酸化炭素CO2の分子量が大きいため、強い分子間力が働いて、圧力が小さい(小さいといっても数百気圧ですが)ときの体積の減少が顕著になっています。


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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学」啓林館(2012年発行)

2) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)