・第2族元素(アルカリ土類金属など)


(1)2族元素

 周期表において、第2族に属するベリリウムBe, マグネシウムMg, カルシウムCa, ストロンチウムSr, バリウムBa, ラジウムRaなどの元素を、総称して第2族元素といいます。このうち、カルシウムCa, ストロンチウムSr, バリウムBa, ラジウムRa4種類の元素を、アルカリ土類金属(alkali earth metals)といい、互いによく似た性質を示します。ベリリウムBeとマグネシウムMgは、一般的にアルカリ土類金属に含めませんが、広義には、第2族元素とアルカリ土類金属とは、言い換えて使用されます。

2族元素は、いずれも最外殻の電子配置がns2であり(n=2,3,4・・・)、原子はこの2個の電子を失って、希ガスと同じ電子配置を取り、安定化します。そのため、第2族元素の金属イオンでは、酸化数が+2となる状態が一般的です。また、アルカリ土類金属は、アルカリ金属と同様に炎色反応において、各元素に特徴的な発色を示します。単体の製法についても、アルカリ金属と同様に、化合物の溶融塩電解によります。次の表.1に、主な第2族元素の単体の性質を示します。

 

.1  主な第2族元素の単体の性質

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2族元素では、自由電子が2個になっているため、アルカリ金属よりも金属結合が強く、このことが単体の密度や融点の増加をもたらしています。また、第2族元素の中でも、アルカリ土類金属は、空気中の酸素O2や水H2Oと容易に反応するので、それらを避けるために灯油中に保存しますが、その反応性は、アルカリ金属ほど高くありません。さらに、イオン化エネルギーについても、第2族元素では、アルカリ金属よりも原子核の正電荷が大きい分だけ、最外殻電子を強く引き付けているので、イオン化エネルギーは、アルカリ金属よりも大きくなります。

 

Ca + 2H2O → Ca(OH)2 + H2

2Mg + O2 (点火) 2MgO

 

(2)ベリリウム

アルカリ土類金属において、ベリリウム(beryllinm)は、アルカリ金属におけるリチウムLiと同様に特異性を示します。これは、主にベリリウムBeの原子半径およびイオン半径が、他の第2族元素と比べて、非常に小さいことに起因します。ベリリウムBeの最外殻電子は、強く原子核に引き付けられており、ベリリウムBeの関与する化学結合では、電子はベリリウムBeにかなりの割合で引き寄せられ、化学結合は共有結合性を帯びます。それ故に、ベリリウムBeの化学的性質は、他の第2族元素よりも、むしろ第13族元素であるアルミニウムAlに類似しています。

ベリリウムBeの単体は、常温常圧では、銀白色の金属固体として存在します。ベリリウムBeの密度は1.85 g/cm3で、軽金属であり、リチウムLiの密度(0.53 g/cm3)の約3.5倍ありますが、それでもアルミニウムAlの密度(2.70 g/cm3)よりずっと低いです。

リチウムLiが軟らかく、融点が低く、反応性が高いのに対して、ベリリウムBeは強度があって、融点が高く、表面に酸化被膜を生じて、不動態化するために、反応性があまり高くありません。その上に、高価で毒性があるため、ベリリウムBeは極めて特殊な製品、例えば、ミサイルやロケットなどの軍事産業や、航空宇宙産業における構造部材として用いられます。それならばコストは問われず、軽量で強靭であることが至上命題であり、毒性物質を使用しても、一般の人々が心配する必要もないのです。

 

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.1  ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のベリリウムミラー(画像はこちらからお借りしました)

 

他に変わった用途としては、ベリリウムBeは低密度かつ原子量が小さいために、X線を透過させ、その特性を利用して、X線装置や、粒子物理学の試験におけるX線透過窓として用いられます。これは、ベリリウムBeには内部を完全な真空に保てる強度があり、微弱なX線も透過できる薄さに加工できるからです。また、金属銅に数パーセントの金属ベリリウムを混ぜたベリリウム銅合金は、金属銅よりもはるかに高強度で、純銅に近い良好な電気伝導性があります。ベリリウム銅合金は、叩いても火花が出ないため、油田や可燃性ガス関連産業で使う工具の材料になります。鉄の工具で火花が飛び散ったら、大惨事になりますからね。ベリリウム銅合金製のヘッドを付けたゴルフクラブもあります。ハイテク素材なら、ボールを思った場所に飛ばせるのではないかという風潮に乗った製品です。しかし、このクラブを使ったからといって、特別にスコアが良くなる訳ではありません。

 

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.2  ベリリウム銅合金製の工具(画像はこちらからお借りしました)

 

(3)マグネシウム

マグネシウム(magnesium)は、密度が1.74 g/cm3の軟らかい金属で、マグネシウムMgには手頃な価格、強さと軽さ、加工しやすさが揃っています。しかしながら、マグネシウムMgには可燃性があり、そのことが唯一の欠点です。マグネシウムMgは、酸素O2と化合しやすく、強い還元性を持つため、空気中で放置すると、表面が酸化されて灰色を帯びてしまいます。また、マグネシウムMgは、二酸化炭素CO2や水H2Oとも反応しますが、いずれも表面に酸化被膜を生じて、不動態化するため、アルカリ金属やアルカリ土類金属と異なり、腐食は内部まで進行せず、灯油中で保存する必要はありません。

 

2Mg + O2 (点火) 2MgO

Mg + CO2 (点火) 2MgO + C

Mg + 2H2O (加熱) Mg(OH)2 + H2

 

金属マグネシウムは、非常に軽い軽合金材料として重要であり、金属マグネシウムとして、様々な合金の第一金属(合金の基本となる金属)や、添加剤に利用されています。金属マグネシウムは身近なところでは、航空機、自動車、農業機械、工具、精密機械、スポーツ用具、携帯電話、医療機器、宇宙船、兵器などの様々な分野で用いられています。これらの部品に燃えやすい金属マグネシウムを使うのは、危険に思えるかもしれません。しかし、大きな金属マグネシウムに点火するのは、非常に困難です。大きい金属塊は、熱伝導で表面の熱を素早く逃がすので、着火には至らないのです。

 

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.3  マグネシウムホイールは軽量でかつ強靭である(画像はこちらからお借りしました)

 

アルカリ土類金属の硫酸塩は、水に対して難溶性であるのに対して、マグネシウムMgの硫酸塩MgSO4は、水溶性です。硫酸マグネシウムMgSO4は、その溶解度の高さを利用して、肥料として用いられ、特に有機合成の分野では、硫酸マグネシウムMgSO4の無水物が、乾燥剤として汎用されます。また、炭酸塩についても、マグネシウムMgは例外的であり、炭酸カルシウムCaCO3炭酸ストロンチウムSrCO3炭酸バリウムBaCO3の室温(25)での溶解度積が、10-10 から10-9 のオーダーであるのに対して、炭酸マグネシウムMgCO3の溶解度積は、1.0×10-5 と比較的大きな値となります。

 

.2  2族元素の炭酸塩の溶解度積

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酸化物や水酸化物に関しても、マグネシウムMgは比較的に難溶性であり、水酸化カルシウムCa(OH)2水酸化ストロンチウムSr(OH)2水酸化バリウムBa(OH)2は、水に溶けると強塩基となりますが、水酸化マグネシウムMg(OH)2の水溶液は、弱塩基性を示します。

また、塩化マグネシウムMgCl2は、水溶性で潮解性があり、「にがり」に含まれる主成分として知られています。にがりは、海水を煮詰めて塩化ナトリウムNaClを取り出したあとにできる苦味のある煮汁で、主に伝統製法において、豆乳を豆腐に変える凝固剤として使用されます。今では、豆腐の凝固剤は塩化マグネシウムMgCl2だけでなく、硫酸カルシウムCaSO4、グルコノデルタラクトン、塩化カルシウムCaCl2、硫酸マグネシウムMgSO4など、様々な物質が使用されます。

この他、マグネシウムMgのホウ化物である二ホウ化マグネシウムMgB2は、21世紀に入って早々に、最も注目を浴びた無機化合物です。これは、この物質が合金としては最高の39 Kにおいて、超伝導相に転移することが見出されたためです。

 

.3  2族元素の水酸化物塩の溶解度積と飽和水溶液のpH

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これまでの無機化合物とは趣の異なる物質として、有機合成化学の分野で重要な有機化合物の1つである、グリニャール試薬(Grignard reagent, R-MgX)についても触れておきましょう。これは、一般的にRMgXの化学式で表される、マグネシウムMgを含んだ有機化合物であり、Rはメチル基(-CH3)やフェニル基(-C6H5)などを表し、Xはハロゲンを表します。この化合物は、完全に水を除去したジエチルエーテルなどの有機溶媒中で、金属マグネシウムをハロゲン化アルキルなどと反応されることにより得られます。

 

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.4  グリニャール試薬の調製

 

この反応は、マグネシウムMgとアルカリ土類金属との相違点を表すものであり、マグネシウムMgには、ベリリウムBeほどの共有結合性はないものの、若干の共有結合性があるのです。このため、グリニャール試薬は、カルボニル化合物などに対して、炭素型の求核剤として作用し、カルボニル炭素との間に、新たな炭素-炭素共有結合を形成します。それ故に、グリニャール試薬は、有機合成分野において、重要な試薬として用いられています。グリニャール試薬を発見した功績により、フランスの化学者であるヴィクトル・グリニャールとポール・サバティエは、1912年にノーベル化学賞を受賞しました(詳細は有機反応機構(カルボニル基に対する求核付加反応)を参照)

 

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.5  グリニャール試薬とカルボニル化合物の反応

 

(4)カルシウム

カルシウム(calcium)と聞くと、「白色」をイメージするかもしれませんが、白色なのはカルシウムの化合物です。単体のカルシウムCaは、銀白色で密度1.55 g/cm3の非常に軟らかい金属で、皆さんが金属カルシウムを見る機会は、めったにありません。その理由は、カルシウムCaの単体は、空気中では非常に不安定であり、直ちに空気中の酸素O2や水H2O、二酸化炭素CO2などと反応して、水酸化カルシウムCa(OH)2や炭酸カルシウムCaCO3などに変化するからです。そのため、金属ベリリウムや金属マグネシウムとは異なり、金属カルシウムは、灯油中で保存する必要があります。

 

2Ca + O2 → 2CaO

Ca + 2H2O → Ca(OH)2 + H2

CaO + H2O → Ca(OH)2

CaO + CO2 → CaCO3

Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O

 

酸化カルシウムCaOは、水H2Oと反応させると、発熱して水酸化カルシウムCa(OH)2となるため、慣用名として、「生石灰」(せいせっかい)と呼ばれます。この反応は、身近な所でも応用されており、酸化カルシウムCaOは、乾燥剤や殺虫剤などに用いられる他、缶入の清酒や、弁当を温めるために酸化カルシウムCaOと水H2Oを袋詰めにし、紐を引くと両者が混合して、発熱するようにしたものもあります。この反応は、火も使わず煙も出ないため、火を使えない状況や、火に弱い素材で包装された食品を温める用途に使われることが多いです。

 

CaO() + H2O() = Ca(OH)2() + 65.2 kJ  

 

その一方で、この反応で生成する水酸化カルシウムCa(OH)2は、「消石灰」(しょうせっかい)と呼ばれます。水酸化カルシウムCa(OH)2は、塩基として酸性化した河川や土壌の中和剤として使われます。水酸化カルシウムCa(OH)2は、かつてグラウンドなどに白線を引くラインパウダーとして使われていましたが、強塩基性で傷口や目に入ると危険なため、現在では主に炭酸カルシムCaCO3の粉末が使われています。

水酸化カルシウムCa(OH)2は、水にやや溶けにくいですが、その水溶液は、石灰水と呼ばれます。水酸化カルシウムCa(OH)2が水に溶解する反応は発熱反応であり、その溶解度は、温度の上昇とともに減少する珍しい物質です。また、石灰水に二酸化炭素CO2を吹き込むと白く濁り、この反応は、二酸化炭素CO2の検出反応としてあまりにも有名です。石灰水が白濁する理由は、生成する炭酸カルシウムが、水に難溶であるためです。

 

Ca(OH)2() + aq = Ca2+ aq + 2OH- aq + 16.7 kJ

Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O

 

炭酸カルシウムCaCO3は、水に難溶な白色固体であり、貝殻やサンゴの骨格、鶏卵の殻、石灰岩、大理石などの主成分です。「月のしずく」や「人魚の涙」とも呼ばれる真珠は、炭酸カルシウムCaCO3とタンパク質の層が、交互に積層されて形成される生体鉱物です。

現在市販されているカルシウム錠剤の有効成分は、炭酸カルシウムCaCO3ですが、カルシウムCaを摂取すると、犯罪発生率が下がるかもしれないという研究があります。研究によれば、鉛PbとマンガンMnの血中濃度が高いと、殺人や暴行、強盗を犯しやすいのだそうです。鉛PbやマンガンMnは、カルシウムCaの摂取量が不十分であると、脳に吸収されやすいことが分かっています。

雨が降った後、ブロック塀やコンクリート壁にカタツムリがたくさん現れるところを見ることがありますが、これは、カタツムリがコンクリートに含まれるカルシウムを摂取するために集まっている現象です。カタツムリの殻の主成分は炭酸カルシウムCaCO3であり、そのカルシウム分を、コンクリートから摂取しているのです。炭酸カルシウムCaCO3は、中性の水にはほとんど溶けませんが、希塩酸HClなどの強酸性の水溶液には溶けて、二酸化炭素CO2を発生します。

 

CaCO3 + 2HCl → CaCl2 + H2O + CO2

 

また、炭酸カルシウムCaCO3は、加熱すると酸化カルシウムCaOと二酸化炭素CO2に分解します。この反応は、酸化カルシウムCaOの工業的製法として利用されています。さらに、このような炭酸塩の分解反応は、他のアルカリ土類金属でも起こり、熱分解が起こる温度は、原子番号の小さいものほど低いです。

 

CaCO3 (加熱) CaO + CO2

 

水酸化カルシウムCa(OH)2の水溶液である石灰水に、二酸化炭素CO2を吹き込むと、炭酸カルシウムCaCO3の白色沈殿が生じます。しかし、さらに過剰の二酸化炭素CO2を吹き込むと、炭酸水素カルシウムCa(HCO3)2となって、水に溶けるようになります。

 

Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O

CaCO3 + H2O + CO2 Ca(HCO3)2

 

炭酸水素カルシウムCa(HCO3)2を含んだ水溶液を加熱すると、水溶液中の二酸化炭素CO2の減少により、平衡が左へ移動し、炭酸カルシウムCaCO3の微粒子が、水中に分散したコロイドとなります。

この反応は、鍾乳洞形成の原理となっています。すなわち、二酸化炭素CO2を含む弱酸性の雨水により、炭酸カルシウムCaCO3を主成分とする石灰岩が浸食され、このような浸食によって、石灰岩体の内部に多くの空洞が生じます。そして、石灰岩中の微細な割れ目などを満たした雨水が、洞窟内に滲出(しんしゅつ)すると、二酸化炭素CO2を含む雨水と炭酸カルシウムCaCO3との化学反応が可逆的であることから、洞窟内で二酸化炭素CO2が抜けて、炭酸カルシウムCaCO3が方解石として晶出し始め、それが沈積して、鍾乳洞などの洞窟生成物が形成されるのです。このようにして、鍾乳石は200年間で約1 cm成長するといわれています。

 

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.6  山口県にある秋芳洞

 

また、ベリリウムBeとマグネシウムMg以外の第2族元素の硫酸塩は、水に溶けにくく、硫酸カルシウムCaSO4は、石膏の主成分です。硫酸カルシウムCaSO4の固体には、無水物の他、1/2水和物および2水和物が存在し、無水物は硬石膏、1/2水和物は焼き石膏、2水和物は石膏と呼ばれます。石膏を約130℃で焼くと、脱水して焼き石膏になり、焼き石膏は、適当な水と混ぜると、発熱しながら硬化して体積が少し増え、2水和物の石膏になります。この性質を利用して、硫酸カルシウムCaSO4は、壁の塗装や陶磁器の型、塑像やギプスに使用されます。

 

CaSO42H2O CaSO41/2H2O + 3/2H2O

 

2族元素の塩化物は、水によく溶け、無水塩は吸湿性が強いです。塩化カルシウムCaCl2は、乾燥剤や路面の凍結防止剤として利用されています。ただし、塩化カルシウムCaCl2を乾燥剤として用いる際には、アンモニアNH3と反応してCaCl28NH3を作るので、アンモニアNH3の乾燥には不適です。塩化カルシウムCaCl2は、工業的には、炭酸ナトリウムNa2CO3を生成するアンモニアソーダ法の副生成物として得られます(無機工業化学を参照)。また、実験室的には、水酸化カルシウムCa(OH)2と希塩酸HClの中和反応で生成します。

 

2NaCl + CaCO3 → CaCl2 + Na2CO3

Ca(OH)2 + 2HCl → CaCl2 + 2H2O

 

また、カルシウムカーバイド(炭化カルシウム)CaC2は、灰色がかった白色固体で、主にアセチレンガスの簡便な発生源として利用されます。アセチレンC2H2は、水H2Oよりも弱い酸であり、この反応は、弱酸であるアセチレンC2H2の遊離反応とも見ることができます。また、カルシウムカーバイドCaC2は、工業的には石灰とコークスの混合物を、電気炉で約2,000℃に加熱することによって作られます。

 

 CaC2 + H2O → C2H2 + Ca(OH)2

CaO + 3C (加熱) CaC2 + CO

 

人体の構成成分としてカルシウムCaは、成人男性の場合で約1 kgを占めます。カルシウムCaは、主に骨や歯として、ヒドロキシアパタイトCa5(PO4)3(OH)の形で存在します。海綿動物の中には、ガラス繊維の二酸化ケイ素SiO2の骨格を持つものがおり、人体における骨や歯も、物理的にはガラスなど他の材料でも作れると考えられています。

しかしながら、細胞内におけるカルシウムイオンCa2+ の生化学的な働きは、代替がききません。例えば、筋肉の収縮には、カルシウムイオンCa2+ がトロポニンというタンパク質に結合することが不可欠であり、カルシウムCaが不足すると、足がつるなどの症状が出やすくなるといいます。また、カルシウムイオンCa2+ は、生体において神経伝達物質として働いており、視神経などで重要な働きをしています。脳の活動を促す働きもあり、カルシウムCaが不足すると、イライラするなどとよくいわれることです。

このように、生体におけるカルシウムCaの働きがあまりにも重要なので、カルシウムイオンCa2+ の血中濃度が下がると、身体は骨からカルシウムCaを溶け出させて、濃度を維持しようとします。骨は進化の過程で、最初はカルシウムCaの貯蔵庫として作られ、後から構造材になったとする説もあるくらいです。

 

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.7  二酸化ケイ素SiO2の骨格を持つ海綿動物(画像はこちらからお借りしました)

 

(5)ストロンチウム

ストロンチウム(strontium)は、銀白色の軟らかいアルカリ土類金属で、化学反応性が非常に高いために、金属ストロンチウムは灯油中に保存されます。ストロンチウムSrには、放射性同位体であるストロンチウム90Sr(ストロンチウ90)があり、このストロンチウ90のおかげで、世間におけるストロンチウムSrのイメージは最悪です。普通のストロンチウムSrには放射能はなく、死の灰だといって非難されるいわれは全くないのです。

ストロンチウ90は、周期表ですぐ上にあるカルシウムCaと化学的性質が似ているために、骨に蓄積されやすいです。そのため、ストロンチウ90は、生物学的半減期が非常に長くなって、人体に対する毒性が非常に強くなるのです。ストロンチウムSrの用途の1つに夜行塗料がありますが、中には放射能を持つ塗料もあって、イメージ改善には役立たず、それどころか、ここでも妙な連想のせいで、誤解される始末です。アルミン酸ストロンチウムSrAl2O4入りの際立って明るい塗料は、確かに暗闇でも光ります。けれども、それはラジウム化合物入り塗料のような原子核崩壊による発光ではなく、周囲の光をよく吸収し、その後数十分ないし数時間かけて、エネルギーを光として放出しているからです。

 

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.8  アルミン酸ストロンチウムSrAl2O4入りの蓄光塗料

 

(6)バリウム

 バリウム(barium)は、銀白色の軟らかいアルカリ土類金属で、他のアルカリ土類金属元素と類似した性質を示しますが、カルシウムCaやストロンチウムSrと比べると、化学的反応性は高いです。アルカリ土類金属としては、密度が3.51 g/cm3と大きく重いため、ギリシャ語で「重い」を意味する、「barys」にちなんで命名されました。ただし、実際の金属バリウムが他の金属と比べて特に重いということではなく、分類としては、軽金属に分類されます。純粋な金属バリウムは重くないのに、その化合物の大半が重いのが特徴的です。

バリウム化合物の用途の多くは、バリウム化合物の懸濁液の密度の大きさを利用します。その代表例が、油井(ゆせい)の掘削です。ドリルで地面を掘削しながら、硫酸バリウムBaSO4の懸濁液を穴に注入していきます。破砕した岩石屑を、それより比重が大きいこの懸濁液で浮き上がらせ、穴から取り除く訳です。

また、硫酸バリウムBaSO4は、X線を透過させないという性質を利用して、医学検査の造影剤として利用されます。消化管のどこを撮影するかによって、口から飲むか、肛門から注入されるかします。X線で撮影すれば、消化管のくびれや曲がりが丸見えです。

純粋な金属バリウムは、酸素ガスと反応して、酸化バリウムBaOに変化します。この反応を利用して、金属バリウムは、酸素ガスを取り除くゲッターとして用いられます。旧式の真空管はほとんどの場合、ガラス管の内側に銀白色の金属バリウムを蒸着させてあります。微量の酸素ガスやその他の気体が、製造時に真空管内に残っていたり、年月とともにガラスの接合部から潜り込んだりしたとしても、金属バリウムが反応して、それを除去してくれます。同様のバリウムゲッターは、真空を利用する各種装置や電球の中でも、酸素ガスや水蒸気を完全除去するために働いています。

 

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.9  真空管の内側には金属バリウムが蒸着させてある(画像はこちらからお借りしました)

 

 しかしながら、この用途は、真空管を使わない液晶テレビやプラズマテレビの普及によって、徐々に姿を消しつつあります。真空管が時代遅れになった今、バリウム化合物の用途の花形は、イットリウム系超伝導体YBa2Cu3O7です。これは、構成する元素の頭文字を取って、「YBCOとも呼ばれます。液体窒素温度(77 K)を超える転移温度の初めての超伝導体であり、イットリウム系超伝導体YBa2Cu3O7の発見以後、超伝導の研究が盛んに行われるようになりました。


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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学」啓林館(2012年発行)

2) セオドア・グレイ「世界で一番美しい元素図巻」創元社(2011年発行)

3) 平尾一之/田中勝久/中平敦「無機化学」東京化学同人(2013年発行)

4) ジョーシュワルツ「シュワルツ博士の化学はこんなに面白い」主婦の友社(2002年発行)

5) 左巻健男「面白くて眠れなくなる元素」PHP研究所 (2016年発行)

6) 齋藤勝裕「へんな金属すごい金属」技術評論社(2009年発行)