18族元素(希ガス)


(1)18族元素

周期表において、第18族に属するヘリウムHeネオンNeアルゴンArクリプトンKrキセノンXnラドンRnなどの元素を、総称して「希ガス(noble gas)」といいます。これらは、すべて常温常圧で分子を作らずに、1原子が単独で存在する無色無臭の気体です。これらの元素の大きな特徴は、最外殻の軌道が完全に電子で満たされていることであり、このため原子はイオン化しにくく、他の原子や分子と結合して、化合物を作ることはほとんどありません。これが、「不活性ガス」とも呼ばれる所以です。

しかし、今日では、希ガスの化合物もいくつか知られており、数少ない希ガスの化合物の一例は、キセノンXnとフッ素Fとの化合物に見ることができます。これらは、二フッ化キセノンXnF2四フッ化キセノンXnF4六フッ化キセノンXnF6などであり、キセノンXnの酸化数は、2・+4・+6と変化します。ここに示したキセノンXnのフッ化物は、すべて常温常圧で結晶状態であり、これらの化合物は、いずれも強力なフッ素化剤となります。キセノンXnが、希ガスの中でも比較的化合物を作りやすいのは、原子半径が大きいために、イオン化エネルギーが比較的小さいからです。クリプトンKrの化合物としては、二フッ化クリプトンKrF2のみが知られています。次の表.1に、「希ガス」の性質を示します。

 

.1  「希ガス」の性質

元素記号

電子配置()

融点

()

沸点

()

空気中の存在比

(vol%)

用途など

K

L

M

N

O

P

He

2

 

 

 

 

 

-269

0.000524

気球、低温実験

Ne

2

8

 

 

 

 

-249

-246

0.00182

ネオンランプ

Ar

2

8

8

 

 

 

-189

-186

0.934

蛍光灯封入ガス

Kr

2

8

18

8

 

 

-157

-152

0.000114

ガスレーザー

Xe

2

8

18

18

8

 

-112

-107

0.0000087

キセノンランプ

Rn

2

8

18

32

18

8

-71

-62

医療用放射線源

 

レーザーは、希ガスの有効的な応用の1つです。実用化されている代表的なレーザーに、「ヘリウム-ネオンレーザー」があります。ヘリウム-ネオンレーザーは、気体レーザーとしては、最初に開発されたものです。真空ガラス管内に、ヘリウムHeとネオンNeの混合気体を封入し、レーザー細管を通して、電圧をかけて放電をします。すると、安定な軌道を回っていた電子が、さらに外側の軌道に押し出されます。しかし、これは不安定な状態(励起状態)なので、すぐに元の安定な状態(基底状態)に戻ろうとします。このときに放出されるエネルギーを利用することで、レーザーとして発光させることができるのです。赤色のレーザー光が一般的ですが、緑色や黄色のレーザー光もあります。

 

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.1  多色の「ヘリウム-ネオンレーザー」

 

レストランの店頭や看板で煌々と輝く「ネオンサイン」も、レーザーと同じ発光原理です。ネオンNeは、大気中に0.0018%含まれ、大気中には、アルゴンArの次に割合が多い希ガス元素です。1907年、フランスの化学者であるジョルジュ・クロードは、液体空気からアルゴンArやネオンNeを大量に得る方法に成功し、その3年後には、ネオンサインを初めて公開しました。ネオンサインの赤色は、ネオンガスを封入したものであり、明るい白色や青色などは、アルゴンガスと水銀ガスを封入し、ガラス内面に蛍光体を塗布して色を出します。世界で初めてのネオンNeによる広告サインが登場したのは、パリのモンマルトル通りにある小さな理髪店で、1912年のことでした。

 

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.2  「ネオンサイン」で彩られた歓楽街の代名詞として、「ネオン街」という言葉が使われることもある

 

また、アルゴンArは、白熱電球にも使われています。白熱電球に電気を通すと、タングステンWのフィラメントが非常に高温(2,2002,700)になります。そうすると、点灯時間の累積とともに、フィラメントの表面からタングステンWが昇華します。すると、フィラメントが細くなって切れやすくなるので、タングステンWの昇華を抑えるために、アルゴンArを入れて長持ちさせているのです。ただし、白熱電球は消費電力の約90%が熱になり、光エネルギーへの変換効率が悪いため、現在はLEDなどの新しい光源に変わりつつあります。

 

.3  「白熱電球」は、フィラメントのジュール熱による放射を利用した電球である

 

(2)ヘリウム

希ガス元素の中でも、「ヘリウム(helium)」は、他の元素と一線を画く特異な性質を有しています。自然界に存在するヘリウムHeのほとんどは、質量数が4の原子核を持ちます。これを、「ヘリウム4」と呼びます。ヘリウム4は、1気圧の下では、絶対零度下においても固体になりません。固体のヘリウム4は、25気圧以上の圧力下で、初めて得られます。ヘリウム41気圧下での沸点は、4.21 Kです。

歴史的に見ると、ヘリウムHeは、あらゆる気体の中で、最も遅く液体が得られた物質です。オランダの物理学者であるカメルリング・オネスは、特別な冷却機を用いて、1908年にヘリウムHeの液化に初めて成功しました。当時、金属を冷却していくと、電気抵抗が小さくなっていくことは分かっていました。1911年にオネスは、水銀Hgや鉛Pbなどの純金属を冷却し、超低温での電気的性質の分析を行うことにしました。オネスは、絶対零度では電気抵抗が0になると思っていましたが、水銀Hgを冷却していくと、約4.2 Kで電気抵抗が不連続に0に変わりました。

 

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.4  オネスは、液体ヘリウムを使って「超伝導」を発見し、「低温物理学」の先駆者として知られる

 

当初、オネスは、試料の電極がショートしたのだと思いました。しかし、すぐに現実に電気抵抗が0になったのだと気付きました。これが、「超伝導(superconductivity)」の発見の瞬間でした。超伝導とは、物質の電気抵抗がゼロとなる状態で、通常の金属伝導とは、質的に異なる現象です。オネスは、「水銀は新たな状態へと遷移した。この状態の特異的な電気的特性から、これを超伝導状態(superconductivity state)とでも呼ぼう」と記しています。その後、オネスは、スズSnや鉛Pbなどでも、超伝導現象が起こることを発見しました。

また、オネスは、超伝導状態の物質に磁場を加えると、超伝導が消失することも発見しました。これら低温物理学における業績により、1913年には、ノーベル物理学賞がオネスに贈られています。超伝導状態では、電気抵抗が0なので、電磁石のコイルに発熱なしで、いくらでも大量の電流を流すことができます。これは、超強力な電磁石の誕生を意味し、この電磁石を「超伝導磁石」といいます。東京から大阪を結ぶ「中央リニア新幹線」も、この超伝導磁石を用いています。

 

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.5  「中央リニア新幹線」は、最高設計速度505 km/hの高速走行が可能で、東京-大阪間を最短67分で結ぶ

 

液体ヘリウムの特異な性質は、他にもあります。液体ヘリウムは、温度の低下に伴い、2.17 Kで「超流動(superfluidity)」という状態になります。これは、液体の粘性が0になる現象です。例えば、超流動状態の液体ヘリウムをコップのような容器中に入れておくと、液体ヘリウムが薄い膜となり、容器の内壁をよじ登って、自ら外へ流れ出してしまいます。超流動現象は、オネスの名前を取って、「オネス効果」と呼ぶこともあります。

 

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.6  超流動状態」の液体ヘリウムは、勝手に内壁をよじ登り、コップの外へ流れ出る

 

ヘリウムHeは、水素H2に次いで、2番目に軽い気体です。その軽さを活かして、浮揚用ガスとしても使われ、広告用バルーンや天体観測用気球、軍事用偵察気球などに使用されます。空気は、窒素N2と酸素O2がだいたい41で混合した気体ですが、ヘリウムHeは、その窒素N2や酸素O2よりはるかに軽いので、空気中で浮かびます。ヘリウムガスは、水素ガスの約93%の浮揚力があり、不燃性であるため、水素ガスよりも安全な浮揚用ガスとして、風船などにも広く利用されています。

193756日にアメリカのニュージャージー州レイクハースト海軍飛行場で爆発炎上した、ドイツの巨大飛行船「ヒンデンブルグ号」に詰められていた気体は、可燃性の水素ガスでした。この事故により、乗員・乗客35人と地上の作業員1人が死亡しました。しかし、ヘリウムガスでは、そのような爆発炎上の心配をする必要がありません。ただし、ヘリウムHeのコストは水素H2よりも高く、ヘリウムHeは水素H24倍以上の値段がします。

 

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.7  「ヒンデンブルグ号爆発事件」は、20世紀の世界を揺るがせた大事故の1つである

 

また、ヘリウムガス中では、音速が空気中よりもずっと速いため、ヘリウムガスを吸入してから発声すると、甲高い音色のような奇妙な声が出ます。このような声の変化のことを、「ドナルドダック効果(Donald Duck effect)」といいます。これに着目して、ヘリウムガスは、パーティーグッズとして利用されます。ヘリウムガスに毒性はないものの、酸素ガスを混入していないヘリウムガスを吸入したことによる酸欠事故がまれに起こっています。間違っても安いからといって、風船用のヘリウムガスを吸入しないようにして下さい。

 

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.8  「ドナルドダック効果」を狙って、パーティーグッズとして利用されるヘリウムガス

 

今日、私たちが使うヘリウムHeは、地下から湧きだす天然ガスから抽出されています。ヘリウムHeは、空気中にも含まれているのですが、その割合はわずか0.0005%です。あまりにも薄すぎるため、空気中から取り出すことは簡単にはできません。しかし、天然ガス中には、ヘリウムHe1%前後含まれ、アメリカやカタールなどでは、天然ガスからメタンCH4などを抽出したあとの気体から、工業的にヘリウムHeを得ています。

また、他のすべての安定元素と違って、ヘリウムHeは、地球ができたときから存在していた訳ではありません。長い年月の間に、ウランUやトリウムThの原子核崩壊によって、少しずつ生成したものです。ウランUやトリウムThは、「α粒子」を放出して、原子核崩壊します。そして、物理学者が「α粒子」と命名したものは、実は「ヘリウム4の原子核」でした。それ故に、この地球上に存在するヘリウム原子は、ほんの数千万年か数億年前には、大きな放射性原子の原子核を構成する陽子や中性子の一部だったのです。


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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学」啓林館(2012年発行)

2) セオドア・グレイ「世界で一番美しい元素図巻」創元社(2011年発行)

3) 平尾一之/田中勝久/中平敦「無機化学」東京化学同人(2013年発行)

4) 斉藤勝裕「最強の「毒物」はどれだ?」技術評論社(2014年発行)

5) 左巻健男「面白くて眠れなくなる元素」PHP研究所 (2016年発行)