・天然高分子化合物(タンパク質と核酸)


(1)アミノ酸

アミノ酸(amino acid)とは、アミノ基(-NH2)とカルボキシ基(-COOH)の両方の官能基を持つ有機化合物の総称です。一方で、タンパク質を希酸や酵素で加水分解すると、カルボキシ基に隣接するα位の炭素上に、アミノ基が結合した構造を持つアミノ酸が得られます。これを特にα -アミノ酸といい、次の図.1に、その構造式を示します。生体のタンパク質には、Rで表記した側鎖の違いにより、約20種類のα -アミノ酸が存在します。

 

a.png

.1  α -アミノ酸の構造式

 

一部の特殊なものを除き、タンパク質は、約20種類のα -アミノ酸が結合して作られています。次の表.1に、タンパク質を構成する主なα -アミノ酸を示します。アミノ酸の名称としては、一般的に慣用名が使われます。さらに、これらのアミノ酸には、アルファベット1文字、または3文字からなる略号が付与されています。

それぞれのアミノ酸は、構造によって異なる酸塩基性を持ちます。構造内に2つのカルボキシ基を持つグルタミン酸などのアミノ酸は酸性を示し、2つ以上のアミノ基を持つリシンなどのアミノ酸は塩基性を示し、その他のアミノ酸はほぼ中性を示します。中性アミノ酸は、カルボキシ基及びアミノ基以外に、特徴的な基によって、いくつかに分類されます。例えば、アルキル鎖を持つグリシンやアラニン、ヒドロキシ基を持つセリン、硫黄Sを含むシステインやメチオニン、アリール鎖を持つフェニルアラニンやチロシンなどに分類され、タンパク質の持つ性質は、これらの分類を考慮しながら考察されます。

また、体内で全く合成できないか、もしくは必要な量を十分に合成できず、生育のために外部から摂取しなければならないアミノ酸を、必須アミノ酸(essential amino acid)といいます。ヒトの必須アミノ酸は、メチオニンやフェニルアラニン、リシン、ヒスチジン、トリプトファン、イソロイシン、ロイシン、バリン、トレオニンの9種類で、幼児ではさらに、アルギニンも加わります。アルギニンは体内でも合成され、成人では必須アミノ酸ではありませんが、成長の早い乳幼児期では、体内の合成量が十分でなく、不足しやすくなるのです。

また、アミノ酸は、うま味や甘味などを持つことが多いです。例えば、グルタミン酸はうま味を持ち、昆布やチーズ、緑茶、魚介類などに多く含まれています。グルタミン酸ナトリウムは、「味の素」の主成分でもあります。また、グリシンは甘味を持ち、カニの甘味の主成分になっています。グリシンには静菌作用もあり、ご飯に入れると腐敗しにくくなり、味も良くなります。アラニンは甘味とうま味を持ち、シジミやハマグリなどの貝類に多く含まれています。しかし、毒のあるアミノ酸もあり、ベニテングタケに含まれるイボテン酸は、強いうま味を持ちますが、強い毒性があります。

また、バリンやロイシン、イソロイシンのように、側鎖のRに枝分かれの構造があるアミノ酸を、分枝鎖アミノ酸(branchedchain amino acids)といいます。これらのアミノ酸は、その英語の頭文字を取って、「BCAA」ということもあります。BCAAは、筋繊維を構成するタンパク質の主成分として知られており、筋繊維を肥大させるためには、欠かせないアミノ酸です。BCAAを運動前に補給することで、筋力向上や筋力低下の防止、さらに持久力の向上にもつながるといわれています。アミノ酸飲料などに配合されることの多いBCAAですが、食品として考えた場合には、1つだけ欠点があります。それは、他のアミノ酸と比較して、とにかく苦いということです。筋力向上をうたっているアミノ酸飲料に、甘味を加えているものが多いのは、BCAAの苦味を緩和するためです。

 

.1  タンパク質を構成する主なα -アミノ酸

a.png

 

.1α -アミノ酸で、R=Hのグリシンは例外として、α -アミノ酸のα炭素は、基本的には不斉炭素原子です。このため、グリシン以外のタンパク質から得られるアミノ酸は、一般的に光学活性であり、さらに次の図.2に示すように、グリセルアルデヒドを基準とするL-立体配置を、ほとんどのα -アミノ酸が持っています。つまり、地球上のすべての生物は、ほとんどがL-アミノ酸だけで構成されているということになります。それでは、なぜ生物はL-アミノ酸ばかりを選ぶのでしょうか。確実に言えることは、もしL-アミノ酸の鏡像異性体であるD-アミノ酸だけでできた生物が地球上にいたとしても、その生物は、他の生物の作った「L-アミノ酸だけでできている栄養」を摂取することができないということです。隕石の中から、α -アミノ酸が発見されることがあります。そして、隕石中のα -アミノ酸には、L-アミノ酸とD-アミノ酸の両方が含まれています。仮説ですが、私たちの身体がL-アミノ酸だけでできているのは、初期地球で生命が誕生したときの最初の生命が偶然にL-アミノ酸だけでできていたため、その子孫である今の生物もそうなっているということです。ちなみに、D-アミノ酸は自然界に存在しないとされてきましたが、実は微生物や植物をはじめ、哺乳動物にも様々なD-アミノ酸がわずかに存在し、様々な生理機能を果たしていることが近年分かってきています。

 

a.png

.2  天然に存在するα -アミノ酸は、ほとんどがL-立体配置を持っている

 

(i)酸塩基としての性質

アミノ酸は、分子内に酸性のカルボキシ基(-COOH)と塩基性のアミノ基(-NH2)を持ち、酸と塩基の両方の性質を示します。そのため、結晶中や水中では、分子内で酸塩基反応が起こり、アミノ基(-NH2)はプロトンH+ を受け取ってアンモニウムイオン(-NH3+)に、カルボキシ基(-COOH)はプロトンH+ を失ってカルボキシイオン(-COO-)となっています。このように分子内に正と負の両電荷を持つイオンを、両性イオン(dipolar ion)といいます。一般的にアミノ酸は、カルボキシ基とアミノ基とが、本来の形のままで存在しているように書かれることが多いのですが、実はそれは理解しやすいように、単純化して示してあるだけなのです。

 

a.png

.3  α -アミノ酸の両性イオン構造

 

アミノ酸は、通常固体あるいは溶液中で、この両性イオンの構造をしています。アミノ酸が水に溶け、エーテルなどの極性の少ない有機溶媒に溶けない、高融点の物質であることは、この構造に起因しています。ただし、ほとんどのアミノ酸は融解せずに、融点以下の温度で分解することが多いです。

 アミノ酸は両性体です。したがって、酸として働くときは、強塩基にプロトンH+ を与え、また塩基として働くときは、強酸からプロトンH+ を受け取るというように、2つの異なる挙動を示します。この挙動は、平衡式で次の図.4のように表現できます。

 

a.png

.4  アミノ酸は水溶液中でこのような電離平衡の状態にある

 

アミノ酸の水溶液では、陽イオン、両性イオン、陰イオンが平衡状態にあり、pHの変化により、その組成が変わります。特に、これらの平衡混合物の電荷が全体として0となるときのpHを、等電点(isoelectri point)といいます。等電点の値は56のものが多いですが、酸性アミノ酸のグルタミン酸は3.2、塩基性アミノ酸のリシンは9.7など、アミノ酸によって多少異なります。

等電点では、ほとんどのアミノ酸が両性イオンになっており、電圧をかけても、アミノ酸分子は移動しません。しかし、等電点よりpHが小さいと、陽イオンとなり陰極側へ、等電点よりpHが大きいと、陰イオンとなり陽極側へ移動します。等電点の異なるアミノ酸の混合溶液に、適当なpHの下で電圧をかけると、陽極側と陰極側へそれぞれが移動するために、等電点の異なるアミノ酸を分離することができます。この手法は、電気泳動法と呼ばれています。

 

(ii)ニンヒドリン反応

 ニンヒドリンは、アミノ酸の検出と定量を目的として用いられる試薬です。この化合物は、環状トリケトン水和物の構造を持っており、アミノ酸と反応して、紫色の色素を生成します。この反応を、ニンヒドリン反応(ninhydrine reaction)といいます。注目すべき点は、アミノ酸の窒素原子だけが、この紫色色素の生成に関与しており、残りの部分は、アルデヒドや二酸化炭素CO2などに分解してしまうことです。この色素は、第一級アミノ基の-NH2を持っているアミノ酸ならどれからでも生成し、その色濃度は、含有アミノ酸濃度に比例します。

 

a.png

.5  ニンヒドリン反応

 

(iii)ペプチド結合

 アミノ酸は、カルボキシ基(-COOH)とアミノ基(-NH2)を持っているので、アミノ酸同士で縮重合することができます。この縮合で生じる-CO-NH-結合は、一般的にアミド結合と呼ばれますが、アミノ酸同士から生じるアミド結合を、特にペプチド結合(peptid bond)といいます。2個のアミノ酸が縮合したものはジペプチド(dipeptid)3個のアミノ酸が縮合したものはトリペプチド(tripeptid)、多数のアミノ酸が縮合したものはポリペプチド(polypeptid)と呼ばれます。タンパク質は、巨大なポリペプチドを主な構成単位としています。

例として、次の図.6に、アラニンとグリシンのジペプチドの構造を示します。なお、このジペプチドには2つの可能性があります。それは、グリシルアラニンとアラニルグリシンです。グリシルアラニン構造では、グリシンがアラニンの置換基となったアミノ酸と考えることができ、アラニルグリシンでは、アラニンがグリシンの置換基となったアミノ酸と考えることができます。

 

a.png

.6  アラニンとグリシンのジペプチド

 

(2)タンパク質

 タンパク質は、数多くのアミノ酸が、互いにペプチド結合によって繋がっている生体高分子です。分子量がおよそ1万以上のものをタンパク質と呼びますが、ポリペプチドとタンパク質の間に明確な境界はなく、例えば、分子量がおよそ6,000のインスリンも、タンパク質と呼ばれています。

タンパク質は、生命系における、無数といえるほどの生命現象の役割を果たしています。あるものは筋肉や皮膚、爪、毛髪などの構造組織の主成分であり、あるものは生命系の中である分子を移動させるために働いています。さらに、あるものは生命を維持するために、必要な数多くの生化学反応における触媒として働いているのです。天然のタンパク質を構成するアミノ酸は約20種類ですが、アミノ酸の種類や配列順序、数の違いにより、数多くの組み合わせが可能になってきます。ヒトでは2万種類以上のタンパク質が作られており、非常に多様なタンパク質が存在しています。

 

(i)タンパク質の高次構造

 生物体内で起こっている反応は、DNAの情報をもとに合成された物質によって行われています。DNAでの情報は、たった4種類の核酸塩基が並んでいるに過ぎません。これらは、アミノ酸の縮合順序のみを決めているのです。このようなタンパク質を構成するアミノ酸の配列順序を、タンパク質の一次構造(primary structure)といいます。1955年、ウシのインスリンを構成するアミノ酸51個の配列が、初めてイギリスのサンガーによって明らかにされました。現在では、多くのタンパク質のアミノ酸配列が、明らかにされつつあります。

タンパク質は、アミノ酸が1列に配列した長い分子鎖からできているので、一見すると、その形状は無定形で不確定なもののように想像しがちです。しかし、この予想は正しくありません。ポリペプチドは、1本の鎖状高分子であるに過ぎませんが、水素結合や疎水基間の集合、ジスルフィド結合などにより、立体的な構造を取るようになるのです。

多くのタンパク質のポリペプチド鎖は、らせん構造を取ることが多く、この構造を、α -ヘリックス(α -helix)といいます。1本のポリペプチド鎖のうちで、ペプチド結合のN-H基と、別のペプチド結合のC=O基が、分子内で水素結合をすることにより、らせん構造は堅固に固定化されています。α -ヘリックスは、通常右巻きであって、平均3.6個のアミノ酸単位が、らせ1巻き分になります。この構造は、毛髪や爪を作るケラチン、筋肉を作るミオシンなどに見られます。

ちなみに、日本では戦中から戦後の物不足時代には、毛髪を塩酸HClで加水分解してシステインを得ていました。そこから得られる量は、システイン生産量全体の7割にも及び、そこから醤油に似た調味料を作っていたといいます。ただし、揮発成分に乏しく、香りの点で本物に劣り、またコスト的に商業レベルの実用には堪えないものであったといいます。現在では、この方法は行われていません。

 

a.png

.7  α -ヘリックスの構造

 

 また、隣り合ったポリペプチド鎖同士が、折れ曲がって並んだひだ状構造を取ることもあります。この構造を、β -シート(β -sheet)いいます。この構造は、ペプチド結合のN-H基とC=O基が、隣り合うポリペプチド鎖間で水素結合することにより、安定に保たれています。この構造は、絹フィブロインのような繊維状タンパク質などに見られます。α -ヘリックスやβ -シートのようなポリペプチドの立体構造を、タンパク質の二次構造(secondary structure)といいます。なお、このαβは発見された順番(α -ヘリックスが先に発見された)であり、化学的に何らかの意味がある訳ではありません。

 

a.png

.8  β -シートの構造

 

 さらに、多くのタンパク質は、α -リックスやβ -ートを組み合わせたり、構成アミノ酸の官能基間による水素結合や、ジスルフィド結合を形成したり、疎水基間の集合などにより、分子全体が複雑な立体構造を作ります。このようなポリペプチドに、糖や脂質などが結合することもあります。このような三次元的な構造を、タンパク質の三次構造(tertiary structure)といいます。この三次構造により、それぞれのタンパク質特有の構造が保たれており、分子の立体構造は、タンパク質の機能に重要な役割を果たしています。次の図.9に、筋肉中で酸素の貯蔵と運搬を行うタンパク質であるミオグロビンの構造を示します。次の図.9で、リボンのように見える部分は、α -ヘリックスを表しています。

 

a.png

.9  タンパク質の三次構造(画像はこちらからお借りしました)

 

 どんな生物のタンパク質も、平均数百個のアミノ酸で作られていますが、このうちの1個が異なるだけでも、生理機能が変わってしまう可能性があります。よく知られているのは、赤血球中のヘモグロビンの異常によって生じる「鎌状赤血球貧血」という病気です。ヘモグロビンは、α鎖とβ鎖が2個ずつ集合した四量体と呼ばれる構造を取り、それぞれ141個、146個のアミノ酸から成り立っています。しかし、遺伝子の突然変異によって、このうちのβ鎖の6番目のアミノ酸が、グルタミン酸からバリンに変わるだけで、重篤な貧血症状を引き起こすことが分かっています。こうしたタンパク質中のアミノ酸の変異は、「ミスセンス変異」と呼ばれ、多くの遺伝性疾患の原因になっています。

 

(ii)タンパク質の分類

 タンパク質は、その形状から、繊維状タンパク質(fibrous protein)と球状タンパク質(globular protein)に大別されます。繊維状タンパク質は、動物の構造物質であり、その役割のために、水に不溶です。この種類のタンパク質は、すでにいくつか紹介していますが、ケラチンやコラーゲン、絹糸の3つに分類することができます。ケラチンは皮膚や毛髪、羽、爪など保護を目的とする組織であり、コラーゲンは軟骨組織や血管などの結合組織です。絹糸には、クモの巣や繭を作るフィブロインなどがあります。それに対し、球状タンパク質は水溶性であり、名称が示すように、球形に近い形をしています。そして、球状タンパク質は、一般的に構造的物性よりも、生物学的に重要な役割を果たしているものが多いです。

球状タンパク質は、酵素やホルモン、運搬タンパク質、貯蔵タンパク質の4つに分類することができます。酵素は生物学的触媒であり、ホルモンは生物学的作用を調整する化学的前駆体、運搬タンパク質は血液中で酸素を運ぶヘモグロビンのように、体の一部から他の部分へ小さな分子を運搬するタンパク質、貯蔵タンパク質は卵白のオボアルブミンのように、食品貯蔵庫のような役割をするタンパク質です。

 また、タンパク質は、構成成分でも分類されます。タンパク質を加水分解したとき、アミノ酸のみを生じるものを単純タンパク質(simple protein)、アミノ酸以外に糖類や色素、核酸、脂質、リン酸などを生じるものを複合タンパク質(conjugated protein)といいます。複合タンパク質には、糖類を含む卵白や、色素を含むヘモグロビンやクロロフィル、リン酸を含む牛乳のカゼインなどがあります。単純タンパク質を構成する成分元素の質量百分率は、タンパク質の種類に関係なく、ほぼ一定です。窒素N16%前後の値を取ることが多いため、窒素量の6.3倍を粗蛋白量と定義しています。次の表.2に、単純タンパク質の元素組成を示します。

 

.2  単純タンパク質の元素組成

a.png

 

(iii)タンパク質の性質

 タンパク質水溶液に、硫酸ナトリウムNa2SO4などの塩の水溶液を多量加えると沈殿が生じます。これは、親水コロイドであるタンパク質の塩析が起こったためです。また、タンパク質水溶液を加熱すると、立体構造を保っている水素結合などが切れ、分子の形状が変化して、性質が変わります。これを、タンパク質の熱変性(thermal denaturation)といいます。加熱により、タンパク質の一次構造が変化することはほとんどありませんが、二次以上の構造は、比較的崩れやすいです。例えば、卵を加熱すると、熱変性によりタンパク質の凝固が起こり、ゆで卵のようなゲル状になります。この場合は、タンパク質の立体構造に変化を生じているので、不可逆的です。なお、塩析の場合は、タンパク質の立体構造に変化を生じている訳ではないので、塩を取り除くなどをして、タンパク質の水和水を戻してやれば、再び元の状態に戻ります。

また、タンパク質は、pHの変化によっても変性(denaturation)します。pHが極端に変化すると、タンパク質表面や内部の置換基の荷電状態が変化します。これにより、分子の立体構造にストレスがかかり、タンパク質の変性が起こるのです。また、タンパク質の中には、金属イオンを含んでいるものがありますが、重金属イオンを加えると、重金属イオンが内部の金属イオンと置換するために、タンパク質の機能が失われます。このようなときも、変性と呼びます。タンパク質にアルコールなどの有機溶剤を加えた際にも、変性は起こります。これは、有機溶剤の影響で、内側にあった疎水基が外側に飛び出てきて、立体構造に変化が生じるためです。

ところで、かつてはタンパク質の変性は、不可逆的であると考えられていました。例えば、調理した卵の白身は、冷めても硬くて白いままで、ねばねばした透明な状態には戻りません。しかし、比較的弱い損傷なら、多くのタンパク質は修復して、正しい構造を再生することが可能であることが分かってきました。例えば、生体内には、シャペロン(chaperone)というタンパク質の変性を抑制するタンパク質があります。シャペロンにはいくつかの種類があり、その多くは、ヒートショックプロテイン(Heat Shock ProteinHSP)です。ヒートショックプロテインは、細胞が熱などのストレス条件下にさらされた際に、発現が上昇することが知られています。ある研究によれば、4042℃の温度で入浴することで、ヒートショックプロテインが活性化し、健康な身体になるといいます。シャペロンの多くは、まだまだ研究段階ですが、最近では、タンパク質の立体構造そのものを修理するシャペロンが発見されました。このシャペロンを加えた卵白は、加熱しても変性しません。シャペロンの研究が進めば、いずれ「ゆで卵を生卵に戻すこと」も可能になるかもしれません。

 

a.png

.10  卵の熱変性(ゆで卵)

 

 タンパク質水溶液に、水酸化ナトリウムNaOH水溶液を加えて塩基性にしたあと、薄い硫酸銅(II)CuSO4水溶液を少量加えると、ペプチド結合部位で銅(II)イオンCu2+ と配位結合を形成して、赤紫色になります。この反応を、ビウレット反応(biuret reaction)といいます。ビウレット反応は、2つ以上のペプチド結合を持つペプチド、すなわちトリペプチド以上のペプチドで見られます。アミド基の窒素原子に結合している水素原子は、隣接する位置にカルボニル基が存在するために、わずかに酸性度が高くなっています。そこで、水溶液を塩基性にすると、プロトンH+ の電離がかなり起こるのです。そうすると、アミド基の窒素原子は電子豊富になり、銅(II)イオンCu2+ と錯体を作りやすくなります。

 

a.png

.11  ビウレット反応の原理

 

 タンパク質水溶液に、濃硝酸HNO3を加えて加熱すると黄色になり、冷却後に、アンモニア水などを加えて塩基性にすると橙色になります。これを、キサントプロテイン反応(xanthoprotein reaction)といいます。ほとんどのタンパク質は、チロシンやフェニルアラニンのような側鎖にベンゼン環を有するアミノ酸を構成単位の1つとして持っているので、この呈色は、そのベンゼン環がニトロ化されて、黄色になったことによると考えられています。なお、アンモニアNH3を加えたときに、さらに橙色に変化するのは、チロシンのフェノール性ヒドロキシ基のプロトンH+ が電離するためです。フェニルアラニンの場合は、電離できるプロトンH+ がないので、アンモニアNH3を加えても色は変化しません。

 

a.png

.12  チロシンのニトロ化反応

 

 タンパク質水溶液に、水酸化ナトリウムNaOH水溶液を加えて加熱すると、ジスルフィド結合が切れてチオール基に戻り、さらに水酸化物イオンOH- による求核置換反応が起こって、硫化水素イオンHS- が遊離します。そして、硫化水素イオンHS- は、すぐに中和されて硫化物イオンS2- になります。この液に、鉛(II)イオンPb2+ を加えておくと、硫化鉛(II) PbSの黒色沈殿が生じます。この反応は、システインなど硫黄Sを含むアミノ酸を構成単位とするタンパク質で起こります。なお、鉛(II)イオンPb2+ は両性イオンなので、アルカリ性溶液中で水酸化鉛(II) Pb(OH)2として沈殿することはありません。

 

a.png

.13  硫黄Sの検出反応

 

(3)酵素

 酵素(enzyme)は、1001,000個程度のアミノ酸でできた、タンパク質を主体とした高分子化合物であり、生体内の化学反応に対して、触媒として働きます。例えば、デンプン水溶液に酵素アミラーゼを加えて約40℃に保つと、デンプンは加水分解されて、マルトースやグルコースなどに変化します。また、食事で摂取したタンパク質は、タンパク質分解酵素であるプロテアーゼの働きで、生体内でアミノ酸にまで加水分解されます。私たちの体内で起こっている化学反応を、フラスコ内で起こそうとすると、通常かなりの高温を必要としますが、生体内の種々の反応が、約40℃という穏やかな条件でも速やかに進むのは、触媒として働く様々な酵素が存在するからに他ありません。

 さて、酵素や反応物は、体内の各細胞や血液中などに混在しています。それにもかかわらず、酵素は自分が触媒すべき反応物(基質)をしっかりと識別して、誤りなく反応を進めることができます。これは、酵素は立体的に複雑な構造を形成していて、触媒作用を行う活性点付近に、特定の反応物のみが上手くはまり込む穴を有しているからです。この穴の表面には種々の官能基があり、反応物の官能基とイオン結合などの相互作用をすることで、反応物を固定します。この穴に捉えられた反応物は、分子鎖の運動ができない上に、効率よく反応を受ける環境に置かれるため、素早く構造変化を受けて生成物になり、その穴に適合できなくなって、酵素から離れます。その結果、酵素は反応物を捉えることができるのです。これを基質特異性(substrate specificity)といい、無機物質の触媒にはない性質です。

 

a.png

.14  酵素の鍵と鍵穴説

 

 酵素の中には、食品に含まれるものもあります。例えば、パパイヤやキウイ、パイナップルなどにはプロテアーゼが含まれており、食肉を軟らかくする効果があるため、食肉の軟化剤としての利用がされています。プロテアーゼは洗剤にも配合されており、タンパク質による汚れの分解を促進します。プロテアーゼはウグイスの糞にも含まれており、平安時代から、和服のシミ抜きに応用されてきました。また、プロテアーゼは、顔のシミや肌のタンパク質を分解することにより、肌を白くするとされています。そのため、ウグイスの糞は、女性によって、昔から美肌を作るためにも使われ続けました。次の表.3に、主な酵素とその働きを示します。

 

.3  主な酵素とその働き

a.png

 

 酵素が基質に作用するには、酵素が基質と結びつく必要があります。しかし、pHの変化や加熱により、酵素タンパク質が変性し、酵素の活性部位の立体構造が大きく変化すると、酵素は基質を受け入れることができなくなり、活性を失います。このことを、失活(deactivation)といいます。

酵素や基質の立体構造や、電離基の電子状態は、pHにより変化するので、酵素ごとに最もよく働くpHがあります。このpHを、最適pH(optimum pH)といいます。例えば、唾液に含まれるアミラーゼの最適pHは約7で、弱塩基性の膵液に含まれるトリプシンの最適pHは約8など、多くの酵素では最適pHは中性付近です。しかし、強酸性の胃液に含まれるペプシンの最適pHは約1.5であり、最適pHは、酵素の種類によって異なることが分かります。

また、一般的な化学反応では、温度を上げると、活性化エネルギーを超す分子数が増加するので、反応速度は大きくなります。しかし、酵素が作用する反応では、ある温度までは反応速度は大きくなりますが、それ以上の温度になると、急激に反応速度が小さくなります。これは、酵素がタンパク質であるために、ある温度以上では、高温になるほど変性が進み、触媒としての機能を失うからです。多くの酵素は、60℃以上で失活してしまいます。反応速度が最大となる温度を、最適温度(optimum temperature)といい、通常3540℃の付近です。

 

(4)核酸

 生物の細胞には、核酸(nucleic acid)という高分子化合物が存在しており、遺伝情報の伝達の中心的な役割を果たしています。核酸の単量体を、ヌクレオチド(nucleotide)といい、その中の五炭糖に、窒素Nを含む有機塩基が共有結合した部分を、ヌクレオシド(nucleoside)といいます。このヌクレオシドのヒドロキシ基とリン酸がエステル結合し、ヌクレオチドができています。核酸は、ヌクレオチド同士がC-3位のヒドロキシ基とリン酸部分のヒドロキシ基で縮合重合した、ポリヌクレオチドです。

 

a.png

.15  DNAのヌクレオチドの構造式

 

 核酸には、リボ核酸(ribonucleic acidRNA)とデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acidDNA)があります。DNAは、糖部分がデオキシリボースC5H10O4です。また、RNAは、C-2位の水素原子がヒドロキシ基に置換された、リボースC5H10O5からなります。

DNAの塩基は、アデニン(A), グアニン(G), シトシン(C), チミン(T)4種類があり、それらの塩基配列は様々です。生物の遺伝情報は、細胞核の中の染色体に存在しているDNAの塩基配列として受け継がれているのです。DNAの遺伝情報には、タンパク質のアミノ酸配列順序が記録されており、遺伝情報に従って、特定のタンパク質が合成されます。また、アデニン(A)とチミン(T)2本、グアニン(G)とシトシン(C)3本の水素結合で塩基対(base pair)を作っています。

 

a.png

.16  DNAの塩基は4種類しかない

 

 DNAの構造は、2本のヌクレオチド鎖が、アデニン(A)とチミン(T)及びグアニン(G)とシトシン(C)で塩基対を作り、二重らせん構造を取っています。DNA3個ずつの塩基配列の組が、それぞれタンパク質を構成するアミノ酸1つに対応しています。例えば、CCCはグリシンで、CGAはアラニンで、AAAはフェニルアラニンです。この構造を考案したのは、アメリカの生物学者であるジェームズ・ワトソンとイギリスの生物学者であるフランシス・クリックで、彼らは1953425日号のネイチャー紙にたった2ページの論文を発表し、DNAの二重らせん構造を世に示したのです。彼らはこの功績により、1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

DNAの二重らせん構造は、塩基間の水素結合により保たれていますが、DNAを水溶液中などで穏やかに加熱すると、らせん構造がほどけて1本鎖になり、それをゆっくり冷ますと、元の2本鎖に戻ります。細胞が分裂するとき、まずDNA2本鎖がほどけて、それぞれの1本鎖に対応する新たなヌクレオチドを形成し、二重らせん構造がそっくり複製(replication)されます。このとき、塩基対の水素結合の組み合わせ(A-T, G-C)は決まっているので、同じ塩基配列を持つDNAの二重らせん構造2組を複製することができるのです。

DNAにこのような相補性があるおかげで、何らかの理由で二重らせん構造の1本が切れてしまっても、DNAはほとんど元通りに修復されます。しかし、稀に鎖が2本とも切れてしまうことがあり、こうなると修復が上手くいかないことがあります。これを放置しておくと、正常な細胞分裂ができなくなり、ガンなどの原因になってしまいます。しかし、私たちの身体は、損傷した細胞が次の細胞分裂を起こす前に、その細胞を排除する仕組みになっています。これは、アポトーシス(apoptosis)といわれる現象で、細胞の自殺のようなものです。私たちの身体では、異常化した細胞は、アポトーシスによって常に取り除かれているのです。人の指の形成過程も、最初は「水かき」がある状態で形成されますが、後にアポトーシスによって、指の間の細胞が死滅することで完成します。

 

a.png

.17  複製中のDNA

 

RNAも、ヌクレオチド鎖からなる高分子化合物です。RNAの塩基は、DNAの塩基の種類と1つだけ違い、チミン(T)ではなくウラシル(U)が使われています。塩基対は、アデニン(A)とウラシル(U)で形成されます。DNAが、二重らせん構造を取っているのに対し、RNAは、通常1本鎖として存在します。

RNAは、DNAの塩基配列を読み取りながら、細胞の核の中で合成されます。遺伝情報を受け継いだRNAは、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれます。mRNAの連続した3つの塩基配列一組が、1つのアミノ酸に対応しています。mRNAは細胞の核の外に出て、リボソームと結合して、タンパク質の合成の準備をします。塩基配列に対応したアミノ酸をリボソームに運ぶのは、トランスファーRNA(tRNA)です。tRNAは、特定のアミノ酸と結合し、リボソーム上のmRNA3個ずつの塩基配列の組に基づいて、次々と特定のアミノ酸を結合させます。これによって、特定のアミノ酸配列のポリペプチドやタンパク質が合成されるのです。

 なお、ヒトのDNAの中でタンパク質合成に使われる部分は、たったの1.4%に過ぎないことが分かっています。その他の部分で、mRNAにコピーされ、2025塩基程度まで小さくなったものを、マイクロRNA(miRNA)といいます。miRNAは、mRNAに結合して、タンパク質合成を抑制します。このようにして、miRNAは、細胞機能の発現に関わっていると考えられています。

 

a.png

.18  RNAのヌクレオチドの構造式

 

 また、「生命がいかにして誕生したのか」ということは、生物学の重要なテーマですが、生命の誕生に有力な説があります。それは、単純な化合物であるホルムアルデヒドなどから、RNAを構成するリボースのような複雑な糖を作る反応です。これは、ホルモース反応といわれ、1861年にロシアの有機化学者であるアレクサンドル・ブトレーロフが発見しました。初期の地球を模した実験では、リボースは、ホルムアルデヒドとグリセルアルデヒド、コールマナイトまたはケルナイトのようなホウ素化合物の混合物から生成したといいます。興味深いことに、宇宙空間において、ホルムアルデヒドとグリセルアルデヒドが分光学的に観測されており、現在においても「自然発生説」の有力な説となっています。

1967年、アメリカの微生物学者であるカール・ウーズは、生命の起源に関して、「まずRNAが存在し、それが現生生物へと進化した」というRNAワールド仮説を提唱しました。このホルモース反応は、RNAワールド仮説を裏付けする重要な反応であると考えられています。


戻る

 

・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学基礎」啓林館(2012年発行)

2) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)

3) H.ハート/L.E.クレーン/D.J.ハート 共著「ハート基礎有機化学」培風館(1986年発行)

4) 船山信次「こわくない有機化合物超入門」技術評論社(2014年発行)

5) 石浦章一「タンパク質はすごい!」技術評論社(2014年発行)