・コロイド化学


(1)コロイドとは何か?

コロイド粒子(colloidal particle)とは、直径が大体1 nm(10-9 m)1 μm(10-6 m)程度の原子と比べて、比較的大きな分散粒子のことです。身近な例でいえば、牛乳や泥水などがコロイド粒子の溶液です。

牛乳のような分散質が液体のコロイド溶液は、一般的にエマルション(emulsion)といいます。それに対して、泥水のような分散質が固体のコロイド溶液は、一般的にサスペンション(suspension)といいます。コロイドの分散媒は、主として液体あるいは固体の場合が多いですが、分散媒が気体の場合もあり、そのようなコロイドは、エアロゾル(aerosol)といいます。

ゾル(sol)というのは、流動性を持ったコロイドのことであり、それに対して、加熱や冷却などの何らかの原因で、ゾルが流動性を失ったものをゲル(gel)といいます。ゲルの例としては、身近では寒天やゼリー、豆腐などがあります。

 

.1  身近なコロイド

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コロイド粒子の大きさは、大体直径が1 nm1 μmの範囲なので、ちょうど、ろ紙を通過して半透膜を通過しない程度の大きさです。この性質を使用すれば、分子とコロイド粒子を分けることができます。

また、コロイド粒子の形状も、球状のものから棒状や板状、繊維状、膜状のものまで、様々な形状で存在しています。

コロイド粒子は、光学顕微鏡では小さすぎて観察することができませんが、限外顕微鏡や透過型電子顕微鏡(TEM)などを使えば、観察することができます。限外顕微鏡は、特殊な照明装置により、微粒子の散乱光(チンダル光)を観察して、微粒子の動きを見る顕微鏡のことです。また、透過型電子顕微鏡は、可視光の代わりに電子線を照射して、対象を観察する電子顕微鏡のことです。いずれにしても、コロイド粒子は非常に小さいので、観察するには特殊な装置が必要となります。

 

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.1  コロイド粒子の大きさ

 

コロイドは、その構造により、高分子コロイドや会合コロイド(ミセル)、分散コロイドに分類することができます。

高分子コロイド(polymer colloid)は、分子1個ずつが溶けていて、その分子1個の大きさが、コロイド次元の分散系です。コロイド化学の初期には、高分子コロイドの研究がコロイドの主流でしたが、現在では、高分子化学という別の学問分野ができ上がっているので、高分子をコロイド化学で扱うことは、ほとんどありません。

会合コロイド(association colloid)は、多くの分子が集まって、コロイドの大きさを持つようになった分散系のことです。洗剤などの界面活性剤分子は、溶液中である濃度以上になると、ミセル(micelle)と呼ばれる会合体を作ります。

分散コロイド(dispersed colloid)は、溶媒には本来溶解しない不溶性物質の分散系のことです。本来溶解するはずのない物質が分散しているのだから、分散コロイドは熱力学的には不安定な系です。後に述べるように、分散コロイドは不安定な系なので、簡単に破壊することができます。ちなみに表.1で示したコロイドは、すべて分散コロイドであり、分散コロイドは、最も身近に溢れているコロイドになります。

 

.2  コロイドの分類

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(2)疎水コロイドと親水コロイド

分散コロイドは、不溶性の粒子が分散している系であって、粒子が溶解している溶液とは、区別されます。溶液は、結晶が基本構成単位粒子の次元までばらばらになって、溶媒に溶けている状態であるのに対して、コロイドは、103109個程度の原子が集まって、1つの大きな粒子となり、それらが分散している状態であるからです。高分子コロイドなどの例外はありますが、コロイドと言ったら、一般的には粒子の集合体が分散媒に分散している系だと思えば良いのです。したがって、コロイドの分散条件を保つためには、いくつかの条件が必要になります。

第一には、粒子がさらに小さな粒子まで、ばらばらにされることがないことです。例えば、食塩NaClやショ糖C12H22O11でコロイドを作っても、これらは水中では、さらにナトリウムイオンNa+ やショ糖C12H22O11分子などの小さな粒子となって、分散していきます。これでは最早コロイドとはいえなくなってしまいます。

第二には、粒子が衝突して凝集し、大きな粒子にならないことです。分散コロイドは、熱力学的には不安定な系なので、分散コロイドは安定になろうと凝集する傾向があります。粒子が凝集して大きな粒子になると、単に浮くか沈むかという状態になってしまい、最早コロイドではなくなってしまいます。分散コロイドが凝集しないようにするには、2つの方法があります。

第一の方法は、粒子表面を帯電させることです。例えば、粒子表面を負に帯電させたとします。このとき、溶液は電気的には中性であるから、表面電荷と同じ量の陽イオンが、コロイド粒子を取り巻いています。このような表面電荷と反対符号のイオンを対イオンといい、次の図.2のような状態を、電気二重層(electric double layer)ができているといいます。

2のコロイドでは、陽イオンはこの表面電荷に引き付けられてはいるものの、液中を自由に動いて遠くまで広がっていくことができます。それ故に、2つの粒子が凝集しようと接近しても、まず外側にある対イオン同士がぶつかり合い、その結果としてクーロン力の反発が働いて、粒子の凝集を妨げるようになるのです。

 

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.2  電気二重層の生成()と電気二重層を持つコロイド間の反発()

 

第二の方法は、粒子表面をべっとりと溶媒分子で覆っておくことです。コロイド粒子が互いに接近しても、表面を覆っている溶媒分子が離れなければ、コロイド粒子間の接触を妨げることができます。

 

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.3  水和されているコロイド間の反発

 

コロイド粒子のうち、第一の方法のみで水中で分散している場合、それを疎水コロイド(hydrophobic colloid)といいます。水に対して不溶であり、本来沈降すべき物質がコロイド粒子の大きさになった上に、何らかの理由で表面が帯電してしまったために、コロイド粒子が分散状態になっているのです。

これに対して、第二の方法が主たる理由で水中に分散している場合、それを親水コロイド(hydrophilic colloid)といいます。コロイド表面に溶媒である水分子がべっとりとくっついて離れないのは、それだけ水に対して親和性が高いからです。

一般的に疎水コロイドには分散コロイドが多く、その大半が無機物質です。一方で、親水コロイドには分子コロイドや会合コロイドが多く、その大半が有機物質です。

 

.3  コロイドの分類

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(i)疎水コロイドの凝析(DLVO理論)

 疎水コロイドの分散している溶液で、電気二重層を持つ2粒子が接近すると、二重層の外側の対イオンの重なりが起きて、系が不安定になって反発が働きます。

しかしながら、粒子同士がかなり近くまで接近したときは、粒子間の分子間力により引き合って凝集するはずであるから、現実には、2粒子間の距離がある所までは反発力が働き、それよりも近い距離では逆に引力が働くことになります。距離rだけ離れた粒子間のポテンシャルエネルギーE (r)とその点に働く力f (r)には、f (r)=-dE (r)/drの関係があります。

 

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.4  粒子間に働く力f (r)とエネルギーE (r)の関係

 

したがって、反発力と引力が等しく働く粒子間の距離をr0とすると、r >r0ではdE (r)/dr <0となってf (r)>0の反発力が働き、r <r0ではdE (r)/dr >0となってf (r)<0の引力が働くはずです。

実際に理論計算をすると、次の図.5のようにr =r0E (r)が極大になる曲線が得られます。粒子間のポテンシャルエネルギーE (r)は、大きいほど不安定になるので、コロイド粒子には無限に遠ざかるか、凝集するかのどちらかの選択肢しかないのです。

 

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.5  粒子間のポテンシャルエネルギーE (r)曲線

 

さて、コロイド粒子間に働く分子間力の大きさは、コロイドを構成する物質に固有のものであるから、変えることはできません。

一方で、コロイド粒子間に働く反発力の大きさは、電気二重層の厚さによるので、周囲のイオンの分布を変化させることで、この反発力を減少させることができるのです。

疎水コロイドの分散している溶液に塩を加えると、コロイド粒子を取り巻いている対イオンは、粒子表面の近くへと押しやられます。すなわち、電気二重層の厚さが減少するのです。この対イオンを押しやる効果は、加えた塩の中で、対イオンと同じ符号のイオンが特に効いてきます。つまり、表面電荷と反対符号のイオンが、有効に作用するのです。そして、このイオンの価数が大きくなると、その働きは格段に高まります。凝集に必要な塩の濃度は、イオン価数の6乗に反比例することが、実験より分かっています(シュルツェ・ハーディーの原子価法則)

こうして電気二重層の厚さが減少したコロイド粒子は、対イオンの反発なしに、粒子同士が近づくことができるようになります。このように粒子が近づくと、粒子間で分子間力が働く圏内(r <r0)に入り込んでしまい、対イオン間の反発が起きる前に、凝集してしまうのです。

 

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.6  DLVO理論による凝集のメカニズム

 

疎水コロイドの分散と凝集現象について、粒子間の電気二重層による反発力と分子間力によって説明できるとした理論を、DLVO理論といいます。DLVOとは、ソ連のデルヤーギンとランダウ、オランダのフェルウェイとオーベルビークの4人の研究者の頭文字に由来しています。また、このように疎水コロイドに少量の電解質を加えて凝集させることを、一般的に凝析(precipitation)といいます。

 

(ii)親水コロイドの塩析

親水コロイドの表面には、親水性の官能基(-OH-COOH-CO--NH2など)がたくさんあり、これらが水分子を強く引き付けているために、水和水が立体障害になって、粒子同士の凝集は妨げられています。したがって、親水コロイドを凝集させるためには、表面での水素結合を切り、親水コロイドを覆っている水和水を、表面から剥ぎ取らなければなりません。

塩は水中ではイオンに電離していて、これらのイオンは親水性の官能基よりも強く水分子と引き合うので、塩化ナトリウムNaClなどの塩を加えれば、理論上は水和水を失って、親水コロイドは沈殿するはずです。

しかし、塩化ナトリウムNaClの濃度を1 mol/Lぐらいにしても、なかなか沈殿しません。なぜなら、水溶液には約1000/18=56 mol/Lの自由な水分子が存在し、かつナトリウムイオンNa+ や塩化物イオンCl- のイオンは、1個当たりせいぜい4個ぐらいの水分子を強く引き付けられるだけであるからです。塩の濃度が1 mol/L程度では、イオンの数が少なすぎて、親水基と水分子の水素結合を切るに至らないのです。よって、親水コロイドは少量の塩を加えただけでは凝集が起こらず、塩化ナトリウムNaClの濃度が510 mol/Lぐらいになって、初めて親水基と水分子の水素結合が切れ、親水コロイドの凝集が起こります。このように親水コロイドに多量の電解質を加えて凝集させることを、一般的に塩析(salting out)といいます。

セッケンのコロイド溶液に飽和食塩水を加えてセッケンを析出させたり、タンパク質のコロイド溶液である豆乳にニガリMgCl2や硫酸カルシウムCaSO4を加えて豆腐を分離させたりするのは、塩析を利用したものです。

 

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.7  親水コロイドの凝集のメカニズム

 

また、親水コロイドを疎水コロイドに加えると、疎水コロイドが凝析しにくくなります。そのとき加える親水コロイドを、保護コロイド(protective colloid)といいます。このとき、疎水コロイドの周りを保護コロイドが取り囲み、さらにその周りを水分子H2Oが水和しているため、少量の電解質を加えただけでは、そのイオンの影響は、内部にある疎水コロイドには及びにくくなっているのです。墨汁のニカワや写真の感光乳剤のゼラチン、マヨネーズの卵黄は、代表的な保護コロイドです。

 

(3)会合コロイド(ミセル)の特性

ミセルとは、界面活性剤の分子、またはイオンの集合体のことです。界面活性剤は分子内に親水基と疎水基の両方を持ち、両親媒性分子と呼ばれることもあります。次の図.8に代表的な界面活性剤であるステアリン酸ナトリウムC17H35COONaの構造式を示します。また、界面活性剤を図.8のようにモデル的に簡単に書くことも多いです。

 

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.8  ステアリン酸ナトリウムC17H35COONaの構造式

 

水溶液中の界面活性剤の濃度を上げていくと、界面活性剤が集合して、大きなミセルを形成します。しかし、ミセルは界面活性剤の水溶液中で、いつでもできる訳ではないのです。

水溶液中に溶解している界面活性剤分子の疎水基は、その疎水性のため水H2Oから逃げようとします。このため、界面活性剤を水に溶かしても、最初はわずかに溶解するだけで、次の図.9Aのように、大半の界面活性剤は水溶液表面へと吸着するのです。

疎水基を空気に向けて吸着する理由は、空気を構成する主な分子(窒素N2や酸素O2、アルゴンAr)が、疎水性であるからです。また、水H2Oと空気ではなく、水H2Oと油のような状況でも、界面活性剤はその界面へと吸着します。界面活性剤が、表面または界面へと吸着しようとする傾向(界面吸着能)は、界面活性剤の重要な物性の1つです。

水溶液中の界面活性剤の濃度を更に上げていき、ある濃度C0に達すると、それ以上は吸着できない状態となります。この状態は、表面が界面活性剤分子で満員になり、次の図.9Bのように、表面吸着が飽和してしまった状態なのです。

こうして行き場のなくなった疎水基は、分子の疎水基同士を重ね合わせ、親水基を外側(水側)に向けて互いに集まることにより、次の図.9Cのように、安定な集合体を作るのです。これがミセルです。

 

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.9  界面活性剤の水中への溶け方

 

このミセルの大きさと形状は、図.9Cで分かるように、直径が分子の長さの約2倍の球状粒子であり、コロイドの範囲に入ります。したがって、界面活性剤の濃度がC0以上になって初めて、界面活性剤水溶液はコロイドになるのです。界面活性剤水溶液は、C0以下の濃度ではコロイドではないので、濃度によってコロイドになったり、そうでなくなったりする、興味深い溶液です。そして、このミセルは濃度をC0以上にすれば、自然と生成します。作るのに特別な操作は不要なのです。C0という濃度は、コロイドであるかないかを区別する重要な値であって、界面活性剤がミセルを形成し始めるこの濃度のことを、臨界ミセル濃度(critical micellar concentration)といいます。また、臨界ミセル濃度は、その英語の頭文字を取って、単に「cmcと呼ぶことも多いです。

 ところで、この界面活性剤を使うと、水H2Oと油のように互いに混ざり合わない物質の一方を、他方に分散させることもできます。これは、界面活性剤がミセルを形成して、ミセル内にその物質が取り込まれるからです。このように、液体に溶けにくい物質が、界面活性剤の存在下でその溶液に溶けるようになる現象を、可溶化(solubilization)といいます。したがって、界面活性剤溶液への可溶化は、臨界ミセル濃度以上で起こります。この場合の可溶化量と界面活性剤の濃度との間には、一般的に次の図.10のような関係があります。このグラフから、逆に臨界ミセル濃度を間接的に求めることもできます。

 

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.10  可溶化量の界面活性剤濃度依存性

 

可溶化量が増すと、ミセルは膨らんでいきます。光の散乱能は、ミセルが膨らむと増大し、液は半透明になって乳光を発したり、やや濁って見えたりします。そこで、この現象を界面活性剤の乳化作用といいます。マヨネーズや乳液などには界面活性剤が使われており、この乳化作用のために、白く濁って見えるのです。

 

(4)コロイド溶液の性質

(i)透析

コロイド粒子は、ろ紙の穴より小さいので、ろ紙で集めようと思っても、ろ紙を素通りします。しかし、セロハン膜やコロジオン膜の穴よりは大きいので、これらの半透膜は通過できません。一方で、コロイド粒子より小さなイオンや分子は、このセロハン膜の穴をも通ることができます。

そこで、次の図.11のような装置を使って、小さなイオンや分子を除き、コロイド粒子のみの溶液にすることができるのです。これを透析(dialysis)といいます。

 

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.11  透析

 

大学入試でよく出題されるのが、透析を利用した、水酸化鉄(III) Fe(OH)3コロイドの作成です。沸騰水に塩化鉄(III) FeCl3水溶液を加えると、次の反応により、赤褐色の水酸化鉄(III) Fe(OH)3コロイド溶液が作成できます。これは、沸騰水との反応では、高温のために加水分解反応が急激に進み、液中に多量にできた水酸化鉄(III) Fe(OH)3の小さな結晶核が、大きな沈殿粒子まで成長せずに、コロイド粒子の大きさで成長がストップしてしまうからです。このコロイドは、溶液中の水素イオンH+ または鉄(III)イオンFe3+ が表面に吸着しているので、正に帯電した疎水コロイドになっています。

 

FeCl3 + 3H2O → Fe(OH)3 + 3HCl

 

生じたコロイド溶液を半透膜であるセロハン袋に入れて、流水中に浸して、透析を行います。すると、水素イオンH+ や塩化物イオンCl- は拡散の原理に従ってセロハン膜を通過して出ていきますが、水酸化鉄(III) Fe(OH)3のコロイド粒子は、大きいために半透膜を通過できず、セロハン膜内に留まることになります。この操作によって、水酸化鉄(III) Fe(OH)3のコロイドを、セロハン袋中に精製できるのです。

また、透析を有効に利用しているのが、私たちの身体の中にある腎臓です。腎臓には、血液中の老廃物(特に尿素など)を取り除く働きがあります。しかし、腎臓病により、腎臓の機能が低下してくると、老廃物を体外に排泄できなくなり、尿毒症により生命の危機に陥ります。これを回避するために、人工透析が行われるのです。人工透析には、次の図.12のような血漿分離器が用いられます。

 

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.12  血漿分離器(画像はこちらからお借りしました)

 

血漿分離器に導かれた血液の中で、血液を構成する赤血球や白血球は、透析膜を通過しませんが、小さい分子である尿素(NH2)2COは、外へ通過するので分離できます。人工透析は、半透膜としての作用が弱った腎臓の働きを人工的にさせている治療法なのです。

 

(ii)チンダル現象

コロイドは濁っているとは限らず、透明または半透明なものも多いです。しかし、透明に見えていても、コロイドの横から強い光を当てると、光の通路が光って見えます。これは、コロイド粒子の大きさが光の波長とよく似ていて、その表面で光がよく散乱されるためです。そこで、この現象をチンダル現象(Tyndall effect)といい、この光をチンダル光といいます。これはコロイドの特性の1つであり、これによりコロイドを見分けることが可能になります。

 

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.13  チンダル現象

 

チンダル現象は光の散乱が原因であり、散乱の強さは、粒子の体積の2乗に比例します。よって、原子やイオンのような小さな粒子では、光をほとんど散乱しませんが、コロイドぐらいの大きさの粒子では、光をかなり強く散乱をします。暗い部屋や夜の空に、光の通路が見えることがありますが、これは空気中に浮遊している微粒子によって光が散乱され、チンダル現象が起こるからなのです。なお、疎水コロイドのチンダル現象は、比較的はっきり現れますが、親水コロイドは弱いです。

ちなみに、光の散乱現象は、粒子の大きさによって分類がされており、比較的大きな粒子ではミー散乱(Mie scattering)が、比較的小さな粒子ではレイリー散乱(Rayleigh scattering)が適用されます。

レイリー散乱は、光の波長の依存性が高く、波長の短い青色の光は、赤色の光よりも強く散乱されます。波長の長い光は粒子にぶつかりにくく、波長の短い光ほど粒子にぶつかりやすい性質があるのです。空が青いのは、レイリー散乱より説明でき、これは、大気中の微粒子により、青色の光が強く散乱されるからなのです。また、ミー散乱は、波長の依存性が低く、どの波長の光も同程度に散乱します。図.13のチンダル現象や雲が白く見えるのは、ミー散乱が原因です(色の科学を参照)

 

(iii)ブラウン運動

 イギリスの植物学者であるブラウンは、1827年に植物の花粉から生じた微粒子が、不規則な運動をすることについて発見しました。しかし、初めはこの現象は、生命力に基づくものであると誤解されていたのです。ブラウンは、これをブラウン運動(Brownian motion)と呼び、長い間その原因は不明のままでした。

しかし、1905年に相対性理論で有名なアインシュタインが、ブラウン運動は、熱運動する媒質分子の不規則な衝突により引き起こされると説明しました。ブラウン運動によるコロイド粒子の移動距離xは、気体定数をR、絶対温度をT、時間をt、粘度をη、粒子の半径をr、アボガドロ数をNAとすると、次のように表されます。

 

 

アインシュタインの導いた式によると、ブラウン運動による拡散の速さは粒径が小さいほど速く、また粒子の平均速度はボルツマン分布に従い、温度が高いほど拡散の速さは速くなります。

泥水のようなコロイドで、なかなか微粒子が沈降しないのは、微粒子がブラウン運動をしているからなのです。重力によって微粒子が沈降しても、ブラウン運動によって微粒子はまた上部へと拡散していきます。コロイド粒子が沈降して下部に沈積してしまうか、液中に浮遊しているかどうかは、媒質の粘度にもよりますが、主として粒径に依存し、粒径が大きいものは沈降して、粒径が小さいものは拡散していきます。大まかにいうと、半径が100 nm以下になると沈降はかなり遅くなります。

 

(iv)電気泳動

表面が正あるいは負に帯電しているコロイド粒子は、電極を入れて電圧をかけると、表面電荷と反対符号の極へと移動します。これを電気泳動(electrophoresis)といいます。この現象から、コロイドの表面が正負どちらに帯電しているのかが決定できるのです。

粒子の移動は、粒子の大きさや形状、表面電荷、加えた電圧、pH、温度などによって影響され、異なるコロイド粒子を、移動速度の差を使って分離することもできます。これは、タンパク質の分離などによく用いられる手法です。なお、疎水コロイドの電気泳動の移動速度は大きいですが、親水コロイドは水和水のために、移動速度は小さいです。また、最近では、帯電板に電気を通して電気泳動を行うことにより、空気中のホコリを除去してくれるエアコンが登場しています。


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・参考文献

1) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)

2) 卜部吉庸「化学の新研究」三省堂(2013年発行)

3) 北原文雄「コロイドの話」培風館(1984年発行)

4) 北原文雄「界面・コロイド化学の基礎」講談社(1994年発行)