・合成高分子化合物


(1)高分子化合物の分類

普通の化合物の分子量は、500以下であることが多いです。それに対し、分子量が1万を超えるような巨大分子を高分子といい、その化合物を高分子化合物(macromolecule)といいます。高分子化合物は、炭素Cを主な骨格とした有機物である有機高分子化合物(organic polymer)と、ケイ素Siや酸素Oなどを主な骨格とした無機物である無機高分子化合物(inorganic polymer)に分類されます。一般的に、高分子化合物といえば、有機高分子化合物を指します。また、高分子化合物のうち、デンプンやケイ酸塩などのように天然に存在するものを天然高分子化合物(natural polymer)といい、ポリエチレンやナイロンなどのように人工的に合成したものを合成高分子化合物(synthetic polymer)といいます。

 

.1  高分子化合物の分類と例

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多くの高分子化合物は、小さな構成単位が繰り返し結合した形をしています。この構成単位となる小さな分子を単量体(monomer)といい、この単量体が次々に結合する反応を重合(polymerization)、重合により生じる高分子化合物を重合体(polymer)といいます。重合体はその作り方によって、2つの主なグループに分類できます。

 

(i)付加重合

重付加重合体(addition polymer)は、単量体が他の単量体に繰り返し付加することで、できあがるものです。この単量体は一般的にアルケンであって、不飽和結合を持つ単量体が次々に付加反応し、付加反応の繰り返しで進行する重合を、付加重合(addition polymerization)といいます。また、2種類以上の単量体を混合して行う重合を、共重合(copolymerization)といいます。この重合反応には、触媒または開始剤が必要で、これが炭素-炭素二重結合に付加して、活性中間体を生じます。そして、この中間体が2番目の単量体の二重結合に付加して、新たな中間体を生じます。この反応工程は、最終的にある形で反応が停止するまで連続して進行し、重合体鎖が形成されます。したがって、重付加重合体は、単量体単位に含まれる原子を、すべて重合体中に保持することになります。この重付加重合体の最も良い例は、ポリエチレンです。

 

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.1  ポリエチレンの合成反応

 

(ii)縮合重合

重縮合重合体(condensation polymer)は、単量体が他の単量体と繰り返し縮合することで、できあがるものです。縮合の繰り返しで進行する重合を、縮合重合(condensation polymerization)といいます。縮合重合は、一般的に2つの異なる官能基間の反応で形成されるものであり、そこでは水H2Oのように小さな分子が失われます。したがって、重縮合重合体は、単量体単位に存在した原子を、必ずしも含まないことになり、その部分は、小さな脱離分子となって失われます。ここで使用される単量体単位は、縮合を行う官能基が一般的に複数存在し、重合体分子中では、単量体単位が交互に存在することになります。重縮合重合体の好例は、ポリアミドの6,6-ナイロンです。これは、ヘキサメチレンジアミン(1,6-ジアミノヘキサン)とアジピン酸(ヘキサン二酸)から製造されています。

 

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.2  6,6-ナイロンの合成反応

 

(2)合成繊維

合成繊維(synthtic fiber)は、単量体を重合させて合成した鎖状の高分子を、紡糸することによって得られます。単量体の結合様式によって分類され、代表的なものとして、ポリアミド系合成繊維、ポリエステル系合成繊維、ポリアクリロニトリル系合成繊維、ポリビニル系合成繊維などがあります。

 

(i)ナイロン

アミド結合により重合した合成繊維を、ポリアミド系合成繊維といい、一般的にナイロンと呼ばれています。主なナイロンには、6,6-ナイロン(ナイロン66)6-ナイロン(ナイロン6)などがあります。ナイロンも、絹糸に代わるものとして開発された繊維でした。6,6-ナイロンは、1935年にアメリカのデュポン社のウォーレス・カロザースのグループによって初めて作られ、それから5年して、工業化に成功しました。カロザースが合成した6,6-ナイロンは、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を、縮合重合して作られます(.2を参照)

6,6-ナイロンには、絹に近い感触があり、吸湿性に乏しいものの、摩耗や薬品には強いという特性があります。「石炭と水と空気から作られ、鋼鉄よりも強く、クモの糸より細い」というデュポン社のキャッチフレーズが示すように、丈夫で軽く、弾力があり、天然繊維と比べても遜色ないので、今日においても、衣料用繊維として広く使用されています。

6,6-ナイロンが開発されるまでは、女性用のストッキングは絹でできていました。しかし、このストッキングは繊細で高価、その上に品薄でした。ナイロン製のストッキングが発売されてからは、たった数年で6,400万足ほどのストッキングが売れました――これは、当時のアメリカにいた大人の女性の数より多いのです。ナイロン製のストッキングは、簡単に買える安さで、しかも格好も良く、女性たちを魅了したのです。

しかし、カロザースの最期は、随分と悲惨なものでした。カロザースは、ナイロンを発見したグループのプロジェクトリーダーでしたが、ナイロンの生産体制からは外されました。その後、カロザースは、ナイロンで成功を収めたにもかかわらず、「自分は何も達成できておらず、才能が枯渇した」と考えるようになります。そして、アルコール依存症と鬱病の果てに、1937428日、チェックインしたホテルの一室で、青酸カリKCNを混ぜたレモンジュースを飲んで、自殺してしまいました。化学者であるカロザースは、酸性溶液が、青酸の毒性を強めることを知っていたのです。カロザースは41歳の誕生日を迎えたばかりで、彼の娘は7か月後の1127日に誕生しました。カロザースの発明したナイロンは、綿から合成繊維への転換をもたらし、世界を変える偉大な発明でした。しかしながら、死亡した当時は、ナイロンはデュポン社の企業秘密であったため、功績の大きさにもかかわらず、カロザースは無名のままこの世を去りました。200011月、没後60年以上が経過して、カロザースはようやく、アメリカ科学復興協会から表彰を受けることになります。

 

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.3  6,6-ナイロンの構造式

 

一方で、6-ナイロンは、1941年に日本の東洋レーヨンの星野孝平らによって、初めて作られました。ε -カプロラクタムに少量の水などを加えて加熱すると、7員環が開いてアミノ基が生成し、これが2番目のε -カプロラクタム分子のカルボニル基と反応します。そして、そこからまたアミノ基が生成し、次の分子と反応します。このように次々と環内のアミド結合が切れて重合が進み、6-ナイロンが生じるのです。このような環式化合物の開環を伴う重合を、開環重合(ring-opening polymerization)といいます。

 

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.4  6-ナイロンの合成反応

 

(ii)ポリエステル

エステル結合により重合した合成繊維を、ポリエステル系合成繊維といいます。主なものにポリエチレンテレフタレート(PET)があり、1953年にアメリカのデュポン社が特許を取得して、工業化しました。ポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸とエチレングリコールの縮合重合によって合成されます。

ポリエチレンテレフタレートは、ペットボトルの原料として大量に利用されています。耐熱性や耐摩耗性に優れ、紫外線にも強いので、繊維やフィルムとしても用いられます。また、リサイクルも比較的容易です。ポリエステル系合成繊維を用いた衣料には、羊毛に近い感触があり、吸湿性がほとんどないため乾き易く、洗濯などによっても型崩れしにくいです。しかし、点火すると融解しながら徐々に燃え、黒褐色の塊を残します。

 

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.5  ポリエチレンテレフタレートの合成反応

 

(iii)アクリル

主にアクリロニトリルを単量体として付加重合させて作られる合成繊維を、アクリロニトリル系合成繊維といい、一般的にアクリルと呼ばれています。ポリアクリロニトリルは、1950年にデュポン社が初めて工業生産を開始し、柔軟で軽く、肌触りも羊毛に近いので、衣料や毛布、敷物、カーテンなどに用いられています。

 

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.6  ポリアクリロニトリルの合成反応

 

(iv)ビニロン

酢酸ビニルを付加重合させてポリ酢酸ビニルとし、これをメタノール溶液中で水酸化ナトリウムNaOHなどの塩基で処理すると、ポリビニルアルコール(PVA)が生じます。ポリビニルアルコールの親水コロイド溶液を、細孔から飽和硫酸ナトリウムNa2SO4水溶液に押し出すと、塩析が起こり、繊維状に固まります。この繊維は水に溶けやすいので、乾燥後、ホルムアルデヒドHCHOを含む水溶液を作用させると、アルデヒド基が一部のヒドロキシ基と反応して、水分子を脱離し、水に不溶の繊維ができあがります。この繊維を、ビニロンといいます。

ビニロンには、ヒドロキシ基が多く残っているため、水素結合により、適度な吸湿性を示し、木綿に似た性質を示します。ビニロンは、1939年に日本で初めて開発された合成繊維であり、耐摩耗性や耐薬品性に優れ、防護ネットやロープ、漁網などに用いられます。しかし、点火すると軟化収縮しながら徐々に燃えます。

 

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.7  ビニロンの合成反応

 

(3)プラスチック

合成高分子化合物の多くは、熱や圧力を加えることによって、目的とする形に成形することができます。このような性質を持つ高分子材料を、プラスチック(plastic)または合成樹脂(synthetic)といいます。プラスチックの一般的な特徴としては、電気を通さない、耐薬品性がある(分解しにくい)、燃えやすい、紫外線に弱いなどがあげられます。しかし、現在では、電気を通す導電性プラスチックや、微生物によって分解される生分解性プラスチック、燃えにくい難燃性プラスチックなど、一般的な性質に当てはまらないプラスチックが製品化されています。プラスチックは、熱に対する性質から、熱可塑性樹脂(thermoplastic resin)と熱硬化性樹脂(thermosetting resin)に分類されます。

 

(i)熱可塑性樹脂

熱可塑性樹脂は、熱を加えると軟化し、冷却すると硬化する性質を持つプラスチックです。熱可塑性樹脂は、一般的に合成繊維と同様に、鎖状構造を持つ高分子化合物からなり、付加重合で合成されるものが多いです。ただし、ポリエチレンテレフタレート樹脂やナイロン樹脂などは熱可塑性樹脂ですが、縮合重合で合成されています。熱可塑性樹脂は、成形加工が容易であるため、各種シートや包装材料、容器、パイプ、電気絶縁物、歯車、有機ガラスなど、幅広く用いられています。次の表.2に、主な熱可塑性樹脂と、その用途を示します。

 

.2  主な熱可塑性樹脂とその用途

 

(ii)熱硬化性樹脂

熱硬化性樹脂は、加熱することで硬化反応が進行し、熱や溶剤に強くなる性質を持つプラスチックです。熱可塑性樹脂と違って、一度硬化した後は、再び熱を加えても軟らかくなりません。熱硬化性樹脂は、付加反応と縮合反応の繰り返しで起こる重合反応である付加縮合(addition condensation)で合成されるものが多く、合成過程の熱処理で重合反応が進み、三次元網目状構造が発達して、硬くなります。硬化剤や補強材を加えて、硬化させることも多いです。熱硬化性樹脂は、剛性や耐熱性、耐薬品性に優れるため、電気器具やテーブル、棚、食器、雑貨、塗料など幅広く利用されています。

 

.3  主な熱硬化性樹脂とその用途

 

(ii-1)フェノール樹脂 

フェノール樹脂は、フェノールとホルムアルデヒドHCHOを付加重合させることで作られる合成樹脂です。燃えにくく、電気絶縁性にも優れるため、電気部品やプリント電子配線基板、熱器具部品、自動車用部品などに広く用いられています。

フェノール樹脂は、合成時の触媒が酸であるか塩基であるかにより反応が異なり、用途により触媒が選択されます。酸触媒下で合成を行うと、ノボラックと呼ばれる熱可塑性樹脂が得られます。これは一般的に固形の樹脂であり、ノボラックは加熱しても硬化しないため、硬化させて使用する場合には、硬化剤を加えて加熱する必要があります。また、塩基触媒下で合成を行うと、レゾールと呼ばれる熱硬化性樹脂が得られます。これは一般的に液状であることが多く、レゾールはヒドロキシメチル基(-CH2OH)を多く有するため、加熱によりそのまま硬化させることができます。

 

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.8  フェノール樹脂の合成反応

 

(ii-2)尿素樹脂

アミノ基を持つ化合物と、ホルムアルデヒドHCHOを付加縮合させて作る熱硬化性樹脂を、アミノ樹脂といいます。尿素樹脂(ユリア樹脂)は、尿素(NH2)2COとホルムアルデヒドHCHOから作られるアミノ樹脂で、酸や塩基を触媒として付加縮合させ、これを加熱して作られます。

無色透明で着色や成型がしやすく、耐熱性や電気絶縁性が高いという特徴があり、食器や照明器具、キャビネット、ボタン、化粧板などに用いられています。尿素樹脂は文房具やおもちゃの他、食器にも使用されているので、名称に「尿素」という語は語感が良くないということで、もっぱらユリア樹脂という名称が好まれて使われています。ただし、「ユリア」という名称の方も、英語の「urea(尿素)の訛りであるから、結局は同じことではありますが・・・・・・。

 

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.9  尿素樹脂の合成反応

 

(ii-3)メラミン樹脂 

メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドHCHOから作られるアミノ樹脂で、塩基触媒を用いて、尿素樹脂と同様の方法で合成されます。

メラミン樹脂は、強度や耐衝撃性が、尿素樹脂と比較して優れています。表面は光沢を持ち、耐水性や耐候性、耐摩耗性にも優れているため、家具や木工製品の表面材の接着、あるいは食器や日用品に利用されることが多いです。

 

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.10  メラミン樹脂の合成反応

 

(ii-4)シリコーン樹脂 

 ジクロロジメチルシラン(CH3)2SiCl2やトリクロロメチルシランCH3SiCl3は、水H2Oと容易に反応し、それぞれジメチルシラノール(CH3)2Si(OH)2やメチルシラノールCH3Si(OH)3になります。これらのシラノールが縮合重合し、三次元的網目状構造を持つ樹脂をシリコーン樹脂(ケイ素樹脂)といい、無機高分子化合物の1つです。

シリコーン樹脂は化学的に安定で、耐熱性や耐水性、電気絶縁性に優れています。

 

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.11  シリコーン樹脂の合成反応

 

(4)ゴム

小さな力で大きな伸び縮みをする性質をゴム弾性(rubber elasticity)といい、このような性質を持つ高分子化合物をゴム(rubber)といいます。ゴムには、ゴム製品とその材料としての原料ゴムがあり、さらに原料ゴムは、天然ゴム(natural rubber)と合成ゴム(synthetic rubber)に分類されます。

 

(i)天然ゴム

ゴム園は、そのほとんどが赤道周辺、特に東南アジア諸国に集中しています。中南米原産のクワ科の植物であるゴムの木の幹に傷を付けると、そこから白い樹液が染み出してきます。これを何千本もの樹木から集めるという、非常に地道な作業をします。こうして得られた白い乳液を、ラテックス(latex)といいます。ラテックスは、微細なゴムの粒子が水に分散した疎水コロイド溶液であり、これに酸を加えて凝析させたものを、天然ゴムまたは生ゴムといいます。なお、ラテックスを作る植物は他にもいくつかあり、タンポポなどもそ1つです。メキシコにはサポディラという木があり、原住民たちは、その樹液から得られる「チクル」を噛む習慣がありました。これが、現在のチューイングガムの起源とされています。

天然ゴムは、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)という分子が付加重合した構造を持つ、シス形ポリイソプレンです。天然ゴムを乾留すると、イソプレンのみが生成物として得られることから、その化学構造が決定されました。このイソプレンという分子は、自然界において重要な単位構造であり、多くの化合物が、このイソプレンを基礎として作られています。例えば、柑橘類の香り成分であるリモネンや、ミントの香り成分であるメントールは2つ、バラの香り成分であるファルネソールは3つ、ニンジンの色素であるカロテンは8つのイソプレン単位を元にして作られています。レモンやバラの香りとゴムは、一見似ても似つきませんが、分子レベルで見れば、非常に近い親戚筋ということになります。

このことは、簡単な実験で確かめられます。膨らませたゴム風船にレモンの皮の搾り汁をかけると、しばらくして風船が破裂するのです。似た者同士の分子は混じり合いやすいので、皮に含まれるリモネンがゴムの成分を溶かし、風船の膜を弱めて破裂させてしまうのです。

 

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.11  天然ゴムの乾留

 

天然ゴムは、力が加わっていないときは、ポリイソプレン分子がシス形であるため、分子全体が曲がりくねった丸まった形をしています。ゴムを引っ張ると、分子全体が伸びた形になりますが、引っ張るのを止めると、伸びた分子はこの状態が不安定なため、-CH2-CH2-の炭素間結合を軸にして回転し、元のように丸まった状態に戻ろうとします。このような理由で、ゴムは特有の弾性を示すのです。

また、ガタパーチャ(マレー語で「ゴムの木」という意味)いわれるマレーシア原産のアカテツ科の樹木およびその樹液から得られる樹脂は、トランス形ポリイソプレンだけでできています。トランス形ポリイソプレンは、シス形ポリイソプレンに比べて、分子間鎖に働く分子間力が強いため、ガタパーチャから得られる天然ゴムは、通常の天然ゴムより固く強靭で、弾性に乏しいです。そのため、この天然ゴムは、ゴルフボールの外皮や歯科用充填剤に利用されています。

天然ゴムの分子は長い鎖状で、二重結合がいくつもあります。空気中では、この部分が酸素O2によってゆっくり酸化され、構造が変化するため、次第にゴム弾性を失って劣化します。さらに、天然ゴムの分子は、長い鎖同士が弱いファンデルワールス力で引き合っているだけなので、温度が上がると分子の熱運動が激しくなり、軟らかくなってしまうという欠点がありました。しかし、アメリカの発明家チャールズ・グットイヤーは、様々な実験を繰り返し、天然ゴムに硫黄Sを加えて加熱することで、耐熱性を持たせられることを発見。天然ゴムに硫黄S58%加えて、140℃に加熱したところ、ゴム弾性が大きくなり、化学的にも機械的にも強くなったのです。これは、硫黄Sが鎖状のゴム分子同士をところどころで架橋して、ゴム分子同士を結合させたからです。このように架橋構造を作る操作を加硫(vulcanization)といい、このとき生じたゴムを弾性ゴムまたは加硫ゴムといいます。さらに、天然ゴムに3040%の硫黄Sを加えて、長時間加熱すると、エボナイトという黒色の硬い物質にもなります。

 ちなみに、ゴムという素材をヨーロッパに初めてもたらしたのは、クリストファー・コロンブスの艦隊だといわれています。1493年の第二回目の航海で、プエルトリコとジャマイカに上陸し、そこで原住民が大きく跳ねるボールで遊んでいるのを見て、とても驚いたそうです。しかし、持ち帰られたゴムは、文字消しやおもちゃとして使われただけでした。当時は、加硫という操作がまだ知られておらず、ゴムは冬には固くなり、夏には溶けてベタベタになりました。ゴムが広く用いられるようになるには、加硫という大きなブレイクスルーが必要だったのです。ちなみに、ゴムを意味する「ラバー」(rubber)は、英語で「こすって消す」(rub out)、つまり「文字消し」から来ています。

 

(ii)合成ゴム

イソプレンや、それに似た構造を持つ単量体を付加重合させると、天然ゴムによく似た性質を持つ物質が得られます。このような物質を合成ゴムといい、天然ゴムより耐油性や耐老化性、耐摩耗性、耐熱性などに優れたものを作ることができるため、用途に応じて様々なものがあります。

例えば、1,3-ブタジエンやクロロプレンを付加重合させると、これらの単量体分子の中央部に二重結合が移動して、分子の両端で1,4付加し、ブタジエンゴム(BR)やクロロプレンゴム(CR)ができます。付加するときに二重結合の位置が変わるのは、これら合成ゴムの単量体が、共役した二重結合を持っているからです。ブタジエンゴムは、弾性や耐摩耗性、耐寒性に優れ、タイヤやゴムホース、ゴルフボール、スーパーボールなどに用いられます。他種のゴムと混合して用いることも多く、汎用合成ゴムの1つです。クロロプレンゴムは、耐熱性や耐油性、耐薬品性は天然ゴムよりも優れ、加工も容易であるため、コンベヤベルトやウェットスーツなどに使用されます。

 

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.12  ブタジエンゴムとクロロプレンゴムの合成反応

 

また、共重合で生じる合成ゴムもあり、スチレンと1,3-ブタジエンを共重合させると、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)ができます。スチレン-ブタジエンゴムは、耐老化性や耐熱性、耐水性、耐摩耗性、機械的強度に優れ、品質が安定して良好な加工性を示すため、自動車用タイヤ材として最もよく使用されます。スチレン-ブタジエンゴムは、現在、最も多量に生産されている合成ゴムです。

ちなみに、自動車で使われるタイヤには、スタッドレスタイヤとノーマルタイヤがありますが、大きく異なる点は、ゴムの質にあります。一般的にゴムは温度が下がると、ゴム弾性を失って硬くなりますが、スタッドレスタイヤは、温度が下がっても、ゴム弾性を失わないようになっています。さらに、スタッドレスタイヤには、ミウラ折りなどの工夫をした特殊なトレッドパターンが採用されており、滑りの原因となる氷上の水膜を除去するようになっています。

 

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.13  スチレン-ブタジエンゴムの合成反応

 

さらに、ブタジエン骨格を含まないゴムもあり、シリコーンゴムは、耐熱性や耐寒性、耐薬品性、電気絶縁性に優れています。シリコーンゴムは、分子内に炭素-炭素二重結合を持たないため、長時間空気にさらしても酸化されにくく、劣化しにくいという特徴を持ちます。

 

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.14  シリコーンゴムの構造


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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学基礎」啓林館(2012年発行)

2) H.ハート/L.E.クレーン/D.J.ハート 共著「ハート基礎有機化学」培風館(1986年発行)

3) 左巻健男「面白くて眠れなくなる化学」PHP研究所(2012年発行)

4) 船山信次「こわくない有機化合物超入門」技術評論社(2014年発行)