天然高分子化合物(糖類)


(1)炭水化物とは何か?

「炭水化物(carbohydrate)という学術用語は、これらの化合物の分子式が、炭素Cの水和物としての「Cn(H2O)mで表示できるものが多いことに由来しています。例えば、グルコースは「C6H12O6の分子式を持っていますが、これは「C6(H2O)6というようにも表現できます。このような分子式の表記法は、炭水化物を学ぶ上では、あまり役に立ちません。しかし、それでもこの古い名称が、未だに使われています。

現在の定義によれば、炭水化物とは、分子中にアルデヒド基(-CHO)またはケトン基(-CO-)1つと、ヒドロキシ基(-OH)を多数持つ化合物のことです。したがって、「炭水化物の化学」といえば、「ヒドロキシ基(-OH)とカルボニル基(-CO-)を同一分子内に持つ化合物の化学」ということになります。

炭水化物は、構造によって、「単糖(monosaccharide)」・「オリゴ糖(oligosaccharide)」・「多糖(polysaccharide)3つに分類されます。「糖類(saccharide)という言葉は、ラテン語で「糖」を意味する「saccharumに由来します。単純な構造を持った炭水化物が、一般的に「甘味」を呈することが多いので、この名称があります。このように分類された3種類の炭水化物は、加水分解反応を中間に介して、互いに関連を持っています。

 

多糖 (加水分解) オリゴ糖 (加水分解) 単糖

 

「単糖類」は、それ以上加水分解されない炭水化物のことです。「多糖類」は、極めて数多くの単糖単位で構成され、例外もありますが、同じ単糖単位だけで構成されているものが多いです。例えば、「デンプン」と「セルロース」は、代表的な多糖類ですが、どちらもグルコース単位だけが繋がった構造を持っています。「オリゴ糖類」は、一般的に220程度の単糖単位が繋がったものであり、結合している単糖単位の数によって、「二糖類(disaccharide)」や「三糖類(trisaccharide)などと呼ばれることもあります。この場合、構成成分の単糖は、すべて同一のこともあるし、また異なることもあります。例えば、「マルトース」は、グルコース単位2つからなる二糖類ですが、「スクロース」は、グルコースとフルクトースという2つの異なる単糖が結合したものです。次の表.1に、糖類の分類とその例を示します。

 

.1  糖類の分類とその例

分類

化合物の例

加水分解の性質

単糖類

グルコース(ブドウ糖)

フルクトース(果糖)

ガラクトース(脳糖)

希硫酸を加えて熱しても加水分解されない

二糖類

マルトース(麦芽糖)

スクロース(ショ糖)

ラクトース(乳糖)

セロビオース

希硫酸を加えて熱すると加水分解され、1分子の二糖類から2分子の単糖類を生じる

多糖類

デンプン

グリコーゲン

デキストリン

セルロース

希硫酸を加えて熱すると加水分解され、1分子の多糖類から多数の単糖類を生じる

 

(2)単糖類

(i)グルコース

「単糖類」には、「グルコース(ブドウ糖)」・「フルクトース(果糖)」・「ガラクトース(脳糖)」などがあり、これらの分子式はすべて「C6H12O6です。この中で、天然に最も広く分布しているが、グルコースです。グルコースは、無色の結晶で甘味があり、水によく溶けます。グルコースの名は、ギリシャ語で「甘い」を意味する「glykys」に由来します。これは、大阪市中央区の道頓堀にある看板「グリコポーズ」で有名な江崎グリコ株式会社の名前と同じ由来です。別名の「ブドウ糖」は、発見者であるドイツの化学者アンドレアス・マルクグラーフが、1747干しブドウの中からグルコースを発見したことに由来します。このように、グルコースはブドウに多く含まれるため、その搾り汁に酵母を入れて、アルコール発酵させると、容易に「ブドウ酒」となります。グルコースは、人間を含めて、動物や植物が活動するためのエネルギー源となる、重要な物質の1つです。

 

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非常に高い精度で生成された説明

.1  ブドウの甘味成分としては、「グルコース」と「フルクトース」がほぼ等量含まれている

 

結晶中のグルコース分子は、炭素原子5個と酸素原子1個が、環状に結びついた6員環構造で存在し、「α -グルコース」と「β -グルコース」の2種類の立体異性体があります。水溶液中では、この2種類の他に少量の鎖状構造の分子も存在し、3種類の異性体が平衡状態にあります。鎖状構造のグルコース分子は、分子内にアルデヒド基(-CHO)を持つため、水溶液は還元性を示し、フェーリング液を還元したり、銀鏡反応を示したりします(カルボニル化合物(アルデヒドとケトン)を参照)

 

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.2  水溶液中のグルコース分子の構造変換

 

 グルコースは、結晶状態では、「α型」あるいは「β型」として存在しています。しかし、グルコースを水に溶かして水溶液にすると、徐々にα型とβ型の「平衡混合物」になっていきます。α型とβ型では、甘味の強さが異なり、α型の方がβ型よりも1.5倍も甘いことが知られています。したがって、グルコースを溶かした直後の甘味度と、しばらく経ってからの甘味度を測定することで、結晶のグルコースが、α型とβ型のどちらであるのかが分かります。すなわち、溶かした直後の方が甘ければα型で、しばらくたってからの方が甘ければβ型です。

なお、「糖尿病」は、血液中のグルコース濃度(血糖値)が、常人の数倍以上に高くなる病気ですが、これが危険となる理由は、グルコース分子にあるアルデヒド基(-CHO)にあります。アルデヒド基(-CHO)は反応性が高いため、インスリンなどが上手く働かずに血糖値が高くなりすぎると、グルコースが血管内皮のタンパク質と結合する「糖化反応」を起こしてしまうのです。すると、体中の微小血管が徐々に破壊されていき、眼や腎臓を含む、体中の様々な臓器に重大な障害(糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症の微小血管障害)を及ぼす可能性が生じてきます。現在、糖尿病は、先進国において「10大疾病」となっており、他の国でも、その影響は増加しつつあります。2012年の全世界での糖尿病罹患率は8.3%であり、日本では5.1%です。

 

(ii)フルクトース

「フルクトース」は、グルコースの構造異性体で、水溶性の無色の結晶であり、すべての糖の中で最も水によく溶けます。フルクトースの名は、英語で「果物」を意味する「fruits」に基因し、名前の通り、果物に多く含まれています。果物以外では、花に含まれるため、結果としてハチミツにも存在します。フルクトースは、質の良い甘味を呈し、しかもその甘味は、砂糖の1.31.7倍とされ、糖類の中では、甘味が特に強いです。フルクトースが、商業的に食品や飲料に使われる主な理由は、そのコストの低さと強い甘味にあるのです。

結晶中のフルクトース分子は、6員環の環状構造をしており、水溶液中では、ケトン基(-CO-)を持つ鎖状構造や、5員環の環状構造と平衡状態にあります。また、よく果実は冷やすと甘味が増すといいますが、これには理由があります。フルクトースは、グルコースとは逆に、「β型」の方が「α型」よりも3倍甘いのです。フルクトースは、温度変化によるα型とβ型の平衡移動が大きく、温度が低いほど、甘味の強いβ型の割合が大きくなります。例えば、5でスクロースの1.5倍程度の甘味度のものが、60ではスクロースの0.8倍程度にまで低下します。そのために、フルクトースを多く含む果実やジュースは、よく冷やした方が甘味が強くなって、おいしくなるのです。

 

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.3  水溶液中のフルクトース分子の構造変換

 

また、フルクトースには、鎖状型構造にアルデヒド基(-CHO)がないので、還元作用を示さないように思えます。しかし、塩基性水溶液中では、鎖状型は次の図.4のような平衡にあり、結果としてアルデヒド基(-CHO)を形成することができるので、還元作用を示します。この異性化反応を、「ロブリー・ド・ブリュイン-ファン・エッケンシュタイン転位(Lobry de Bruyn–van Ekenstein transformation)」といいます。反応はややこしいように思えますが、「ケト-エノール互変異性」の応用に過ぎません(有機反応機構(カルボニル化合物におけるα位の反応)を参照)。すなわち、ケト型のフルクトース(.4)が、ケト-エノール互変異性によりエノール型(.4真ん中)になり、末端のヒドロキシ基(-OH)が水素イオンH+ 失って、別のケト型(.4)になることで、アルデヒド基(-CHO)が形成されるのです。

 

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.4  鎖状型フルクトースの「ロブリー・ド・ブリュイン-ファン・エッケンシュタイン転位」

 

なお、一般的には「塩基性水溶液中でフルクトースは還元性がある」と見なされていますが、これには少し語弊があります。フルクトースが異性化してアルデヒド基(-CHO)を持つ化合物になるとき、グルコースの鎖状型と全く同じ構造を取ることもあるのです。塩基性水溶液中では、フルクトースとグルコースは、平衡関係にあるともいえます。つまり、正確には、還元性を示しているのはフルクトースではなく、グルコースなどの別の糖であるということです。

 

.5  フルクトースとグルコースは、塩基性水溶液中で平衡関係にある

 

グルコースやフルクトースのような単糖類は、酵母の働きによる「アルコール発酵(alcohol fermentation)」で、エタノールC2H5OHと二酸化炭素CO2になります。この反応を利用して、グルコースやフルクトースから、清酒やビールなどのアルコール飲料が生産されています。ちなみに、人為的に作る酒の発祥は、「口噛み酒」であるといわれています。デンプンを含む食物を口に入れて噛むことで、唾液中のアミラーゼが、デンプンをグルコースに加水分解します。それを吐き出して溜めておくと、野生酵母がグルコースを発酵して、アルコールを生成するという訳です。日本では、口噛み酒は神事の際に作られていたといい、原料を口で噛む人間としては、巫女や処女が選ばれていたといいます。

 

C6H12O6 (発酵) 2C2H5OH  2CO2

 

 また、世の中には珍しい病気があり、「ビール自動醸造症候群(Beer automatic brewing syndrome)」という症状があります。2015年、ニューヨーク市バッファローで、警察官がある女性を飲酒運転の疑いで逮捕しました。女性は呂律が回らず、酒臭い上に、道路をフラフラと運転していたのだから、警察官として当然の行為でした。血液中のアルコール濃度は、法律で認められる濃度の4倍を超えていました。しかし、女性は裁判で無罪となりました。彼女は、酵母に感染しており、体内でアルコールが勝手に作られてしまう体質だったからです。「ビール自動醸造症候群」というこの症状は、パンやパスタなどの炭水化物を摂取すると、腸内でアルコール発酵が起こり、飲酒しなくても、酷い二日酔いに悩まされることになります。驚いたことに、彼女がこの症状を発症したのは、ほんの数日前のことで、弁護士の調査で明らかになるまで、本人はこの病気に全く気が付いていませんでした。日本でも、症例がいくつか報告されており、抗生物質を服用して腸内細菌が死滅したあとにビールを飲んだりすると、酵母が腸内に定着して増殖することが稀にあるようです。

 

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.6  「ビール自動醸造症候群」に罹患すると、腸の中がビール醸造所のようになってしまう

 

(iii)ガラクトース

「ガラクトース」は、グルコースの立体異性体で、乳製品やサトウダイコンなどに見出される他、ヒトの体内でも合成され、各組織で糖脂質や糖タンパク質の一部を形成しています。乳幼児の脳の成長に必須の成分といわれており、「脳糖」の別名があります。ガラクトースは、エネルギーとなる単糖であり、栄養性の甘味料であると考えられています。ただし、甘味はそれほど強くなく、砂糖の1/3程度とされています。環状構造には、「α型」と「β型」、及び還元性を示す「鎖状型」があります。

「寒天」は、ガラクトースが多数結合してできた多糖類です。寒天の見た目は、ゼラチンとよく似ていますが、化学的には全く異なる物質です。寒天が「多糖類」であるのに対して、ゼラチンは「タンパク質」だからです。ゼラチンはタンパク質であるため、特別な注意が必要になる場合があります。例えば、パイナップルやキウイフルーツには、タンパク質分解酵素である「プロテアーゼ」が大量に含まれています。そのため、多糖類からなる寒天にパイナップルやキウイフルーツを閉じ込めることは問題なくできるのに対し、ゼラチンにこれらの果物を閉じ込めることはできません。タンパク質であるゼラチンは、これらの果物に含まれるプロテアーゼによって加水分解されるため、固まらなくなるのです。

 

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.7  水溶液中のガラクトース分子の構造変換

 

(3)二糖類

最も一般的な「オリゴ糖」は、「二糖類」です。二糖類には、「マルトース(麦芽糖)」・「スクロース(ショ糖)」・「ラクトース(乳糖)」・「セロビオース」などがあり、これらの分子式は、すべて「C12H22O11です。二糖類の分子は、2個の単糖類分子「C6H12O6」から、水H2O1個取れて縮合した構造(C6H12O6C6H12O6H2OC12H22O11)を持ち、加水分解により、2個の単糖類分子を生じます。二糖類に見られる単糖類分子同士のエーテル結合(-O-)を、特に「グリコシド結合(glycosidic bond)」といいます。

 

.2  二糖類の構造とその性質

名称

構造

構成単糖類

還元性

加水分解酵素

所在

マルトース

(麦芽糖)

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α -グルコース

グルコース

あり

マルターゼ

水飴

スクロース

(ショ糖)

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α -グルコース

β -フルクトース

なし

インベルターゼ

スクラーゼ

砂糖

サトウキビ

サトウダイコン

ラクトース

(乳糖)

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β -ガラクトース

グルコース

あり

ラクターゼ

牛乳

セロビオース

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β -グルコース

グルコース

あり

セロビアーゼ

マツ葉

 

(i)マルトース

「マルトース」は、デンプンを酵素「アミラーゼ」で加水分解すると生じます。このマルトースをさらに加水分解すると、グルコースだけが得られるので、マルトースは、グルコース単位2つが結合した構造を持っています。すなわち、左側の糖単位のC-1位に結合したヒドロキシ基(-OH)と、右側の糖単位のC-4位に結合したヒドロキシ基(-OH)とが縮合した構造です。

次の図.8に、マルトース分子の構造式を示します。ここで、左側の糖単位の立体配置はα型です。また、右側の糖単位の立体配置もα型になっていますが、水溶液中では、右側の糖単位の立体配置は、α型の他にβ型や鎖状型と平衡状態にあるので、マルトースの水溶液は還元性を示します。また、マルトースを希酸、または酵素「マルターゼ」で加水分解すると、グルコースを生じます。

 

マルトース.png

.8  マルトース分子の構造式

 

2(C6H10O5)n  nH2O (アミラーゼ) nC12H22O11

C12H22O11  H2O (マルターゼ) 2C6H12O6

 

(ii)スクロース

 二糖類の中で最も重要なのは、砂糖の主成分である「スクロース」であって、世界で毎10t以上が生産されています。スクロースは、すべての光合成植物中に存在し、その植物のエネルギー源として働いています。スクロースは、一般的にはサトウキビやサトウダイコンから抽出し、その搾り汁の1420%がスクロースです。

 

.9  サトウキビは「甘蔗」とも呼ばれ、砂糖の原料となる農作物である

 

 まず、サトウキビの搾り汁から、不純物として含まれている遊離の酸、タンパク質、ペクチン、繊維などを除き、濃縮すると砂糖の結晶が析出します。この操作によって得られた結晶と液体の混合物を、「白下(しらした)」といいます。この白下から、「分蜜糖」という結晶を分離した残りが「糖蜜」で、糖蜜を含んだままの砂糖が、普通にいう「黒砂糖」です。黒砂糖は、成分である糖分の他にカリウム、鉄、カルシウム、亜鉛などのミネラル成分を多く含み、特有の香味を持ちます。

 分蜜糖をさらに精製し、結晶化させたものが、私たちのよく見る「砂糖」です。砂糖はさらに、「ザラメ糖」・「グラニュー糖」・「粉砂糖(グラニュー糖を粉砕したもの)」のように、結晶の大きさの違いによって区分されます。「氷砂糖」は、白ザラメ糖やグラニュー糖などを原料とし、溶かした糖液を4570℃において、2週間以上もかけて大きな結晶としたもので、いわば純粋な砂糖の巨大結晶です。氷砂糖は、梅酒を作るときによく使われます。

 余談ではありますが、梅酒作りになぜわざわざ氷砂糖を使うのかというと、これには化学的な理由があります。わざと溶けにくい氷砂糖を使うことによって、梅の果実の周りを取り巻く溶液の濃度を、急激に高めないようにする工夫です。おいしい梅酒を作るためには、アルコールが梅の果実に浸透して、十分に時間が経ってアルコールに梅の風味が移った頃、そのアルコールが外に出る来るようにする必要があります。砂糖が溶ける前は、梅の果実内部の方が浸透圧が高いため、アルコールが果実の中に浸透してきます。しかし、ここで粉砂糖などの溶けやすいものを使ってしまうと、溶液の浸透圧がすぐに高くなって、梅の果実に十分アルコールが浸透するよりも早く、内部の水分が搾り出されてしまい、梅の風味が出てこないのです。

 

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.10  氷砂糖を使わないと、おいしい梅酒が作れない

 

スクロースを希酸、または酵素「インベルターゼ」、または酵素「スクラーゼ」で加水分解すると、グルコースとフルクトースの等量混合物になります。2つの酵素の違いは、インベルターゼはフルクトース側から働くのに対して、スクラーゼはグルコース側から働くという点にあります。

スクロースでは、それぞれが還元性を示す構造を作るα -グルコースのC-1位に結合したヒドロキシ基(-OH)と、β -フルクトースのC-2位に結合したヒドロキシ基(-OH)とが、どちらも結合に使われているため、開環型との間の平衡は存在せず、還元性を示しません。この点が、他の二糖類とは明白に異なっています。

 

スクロース.png

.11  スクロース分子の構造式

 

スクロースの「旋光度」は、66.5°です。これを加水分解して、グルコースとフルクトースの等量混合物にすると、比旋光度は数値のみならず、符号も変わって、-19.9°に変化します。その理由は、グルコースの旋光度が52.7°であるのに対して、フルクトースの旋光度が-92.4°という負の値を持っているからです。つまり、旋光性は「右旋性」から「左旋性」に転じます。そこで、この混合物を「転化糖(invert sugar)」と呼んでいます。ハチミツの主成分が、この転化糖であることはよく知られていますが、それはハチが集めてくる天然の花の蜜に含まれるスクロースが、ミツバチの分泌液中のインベルターゼによって加水分解を受けて、転化するために生じるのです。転化糖は、グルコースやフルクトースを含んでいるので、還元性を示します。転化糖は、フルクトースを含んでいるため、もとのスクロースよりも甘くなります。

 

.3  主な「糖類」の甘味度

糖類

甘味度※

スクロース

1

グルコース

0.640.74

フルクトース

1.151.73

ガラクトース

0.32

ラクトース

0.2

イソマルトース

0.4

ソルビトール

0.50.7

キシリトール

0.651

マンニトール

0.5

スクロースを1としたときの甘味度

 

ハチミツは、人類が古くから利用した甘味料であったと考えられています。その証拠は、今から約9,000年も前の旧石器時代のものと思われるスペインのビコルプ付近の「ラ・アラーニャ洞穴」の岩壁画に、明らかにハチの巣からハチミツを採っていると思われる女性の姿が描かれていることです。サトウキビから砂糖を採るよりはるか昔から、ハチミツは甘味料や薬として用いられ、あるいは発酵させたハチミツは、酒としても役立っていました。

 

.12  スペインの「ラ・アラーニャ洞穴」の岩壁に描かれている、ハチミツを採っている女性の絵

 

ちなみに、一般的に家庭でよく使う砂糖は「上白糖」ですが、上白糖には、スクロースの他に転化糖が23%含まれています。一方で、グラニュー糖や氷砂糖は、そのほとんどがスクロースです。したがって、上白糖とグラニュー糖を舐め比べると、上白糖の方が強く甘味を感じるはずです。

 また、日本独自の砂糖に、香川県や徳島県などの四国東部で伝統的に生産されている「和三盆」というものがあります。この砂糖には、様々な不純物が入っており、独特な風味があります。和三盆は、サトウキビの樹液から、伝統的な職人技で分離することで作られ、スクロースの他にも、様々なうま味成分が入っているとされます。どのような成分が含まれているのかは、あまり詳しく分かっていませんが、各種のミネラルや糖類、あるいはアミノ酸などが含まれているのではないかと考えられています。和三盆は、甘さがくどくなく後味も良いため、和菓子の高級材料として使用されています。

 

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.13  「和三盆」は、黒砂糖をまろやかにしたような独特の風味を持ち、高級砂糖として扱われている

 

 (iii)セロビオース

 「セロビオース」は、セルトースを酵素「セルラーゼ」で加水分解すると生じます。このセロビオースをさらに加水分解すると、グルコースだけが得られるので、セロビオースはマルトースの立体異性体です。マルトースと異なる点は、左側のグルコース単位のC-1位が、β配置を持っていることです。それ以外は、すべてマルトースの構造と同じです。

 

セロビオース.png

.14  セロビオース分子の構造式

 

(4)多糖類

(i)デンプン

「多糖類」には、「デンプン」・「グリコーゲン」・「セルロース」などがあり、これらの分子式は、すべて「(C6H10O5)n」です。デンプンは、植物中で光合成により作られ、種子や地下茎などにデンプン粒として蓄えられています。穀類やイモ類、トウモロコシ、米などの主成分はデンプンであり、これは植物がグルコースを貯蔵する形態と考えても構いません。

デンプンの分子量は、数万〜数百万にも及び、デンプン分子は、数百〜数万個のα -グルコース分子が、繰り返し縮合した構造をしています。デンプン粒は、冷水には溶けにくいのですが、80℃のお湯に浸けておくと、溶性部分と不溶性部分に分けることができます。溶性部分は、比較的分子量が小さく、直鎖状構造を持つ分子でできており、これを「アミロース(amylose)」といいます。アミロースは、α -グルコースの1,4位のヒドロキシ基(-OH)が縮重合した、綿状高分子です。

 

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.15  アミロース分子の構造式

 

一方で、不溶性部分は、比較的分子量が大きく、分岐の多い構造を持つ分子でできており、これを「アミロペクチン(amylopectin)」といいます。アミロペクチンは、アミロースと同様の1,4-結合の他、1,6-結合でも連結されています。デンプンが水中で完全に溶けず、膨潤してコロイドになるのは、この分岐構造が原因となっています。一般的な米には、アミロースがだいたい2025%含まれ、残りはアミロペクチンです。もち米では、ほぼ100%がアミロペクチンです。

 

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.16  アミロペクチン分子の構造式

 

デンプンには還元性はなく、ヨウ素液と反応すると、青〜青紫色になります。この呈色反応を、「ヨウ素デンプン反応(iodine-starch reaction)」といいます。ヨウ素デンプン反応が起こるのは、ヨウ素I2がデンプンのらせん構造の中に入り込み、デンプンからヨウ素I2へ電荷の移動が起こり、「電荷移動錯体(charge transfer complex)」を作ることによって、可視光領域に新しい吸収帯を生じるためです(17族元素(ハロゲン)を参照)。アミロースでは、らせん構造が長いので濃青色を呈しますが、アミロペクチンでは、枝分かれが多くてらせん構造が短く、反応が弱まって、赤紫色を呈します。

 

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.17  デンプンからヨウ素I2へ電荷の移動が起こり、ヨウ素デンプン反応」が起こる

 

デンプンを希酸や酵素「アミラーゼ」で加水分解していくと、比較的分子量の小さい「デキストリン(C6H10O5)n’」が生成します。デキストリンは、分類上は多糖類に分類され、デンプンとマルトースの中間にあたります。デキストリンは、デンプンより水に溶けやすいです。生体内では、酵素アミラーゼによってマルトースに分解され、最終的にはグルコースになります。しかし、一部アミラーゼによって分解しにくい成分があり、これを精製して得られる「難消化性デキストリン」は、整腸作用と食後血糖上昇抑制作用があることが報告されています。

また、炭水化物の消化に関わる「アミラーゼ」の遺伝子は、日本人や中国人のように、米のご飯をたくさん食べている民族に多いことが分かっています。これは、「遺伝子重複(gene duplication)」と呼ばれる現象が関わっており、炭水化物を多く摂る人々の間では、アミラーゼ遺伝子の数の増加が見られるのです。遺伝子が重複すると、単一の遺伝子よりも早く経代に伴う変異が蓄積されるため、遺伝子重複は、進化の主要な役目を担っていると考えられています。

 

(ii)グリコーゲン

「グリコーゲン」は、「動物デンプン」とも呼ばれ、動物がグルコースを貯蔵する形態です。グルコースが腸から吸収され、血液によって肝臓や筋肉に運ばれたあとに、酵素の働きで重合すると、グリコーゲンになります。体内におけるグリコーゲンの役割は、食物から摂取した過剰量のグルコースを除去するのと同時に、貯蔵もしておいて、あとになって細胞がエネルギーを必要とするときに、供給源となる働きをすることです。グリコーゲンがこのような役割を果たすことで、血液中のグルコース濃度は、ほぼ一定に保たれているのです。グリコーゲンは、動物の肝臓や筋肉に多く含まれています。普通は、筋肉の総質量の12%が、このグリコーゲンです。グリコーゲンの構造や分子量は、アミロペクチンと似ていますが、末端から加水分解しやすいように、分岐がさらに多くなっており、ヨウ素デンプン反応は赤褐色を呈します。

 

(iii)セルロース

「セルロース」は、β -グルコースの1,4位のヒドロキシ基(-OH)が縮重合した、分岐のない鎖状高分子です。β -グルコースは板状分子に近く、このβ -グルコース単位が表裏表裏・・・・・・、と連結した構造になっています。さらに、隣り合った分子鎖が、ヒドロキシ基(-OH)間で水素結合を形成し、結晶性の高い非常に硬い繊維状物質を作ります。そのため、セルロースは、水や熱湯、その他有機溶媒にも溶けにくいです。

セルロースは、植物の細胞壁や、その他植物の骨格となる所に使われています。例えば、樹木の質量の4050%は、セルロースが占めています。このため、セルロースはこの地球上において、最もたくさん存在する有機化合物であり、世界の植物たちによって、年間1,000tが作り出されるといわれています。身近なところでは、麻や木綿などの布は、ほぼ純粋なセルロースです。いわゆる食物繊維も、大半はセルロースであるし、医薬の錠剤にもセルロースが利用されます。

 

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.18  セルロース分子の構造式

 

ヒトや動物は、デンプンやグリコーゲンを消化できますが、セルロースは消化できません。このことは、生化学反応の特異性を明瞭に示している、実に良い例です。デンプンとセルロースの唯一の化学的相違点は、グルコース単位のC-1位における立体化学の違いだけです。ヒトの消化器官には、α -グルコシド結合の加水分解を触媒する酵素だけが存在し、β -グルコシド結合の加水分解に必要な酵素を欠いています。ところが、自然界にはセルロースを分解できる酵素を持ったバクテリアが、数多く存在します。シリアリは、このようなバクテリアの一種を腸管内に宿しているため、木材を主食として繁殖します。牛のような反芻動物は、胃の中に消化に必要な微生物を繁殖させているため、草などのセルロース源を消化できる訳です。

 

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.19  シロアリのセルロース分解能が、バイオマスエタノールの製造に役立つことが期待され、研究が進められている

 

セルロースは、数多くの重要な工業製品の原料として利用されています。セルロースのグルコース単位には、ヒドロキシ基(-OH)3つ残っているので、アルコールと反応する試薬を用いることで、これらのヒドロキシ基(-OH)を化学的に変換することができるのです。例えば、セルロースを無水酢酸(CH3CO)2Oと反応させて、「酢酸セルロース」が製造されています。「アセテートレーヨン」の材料は、セルロースのヒドロキシ基(-OH)の約97%をアセチル化して、アセトキシ基(-OCOCH3)したものです。酢酸セルロースは、写真フィルムや液晶ディスプレイにも使われています。

 

[C6H7O2(OH)3]n  3n(CH3CO)2O  [C6H7O2(OCOCH3)3]n  3nCH3COOH

 

「硝酸セルロース」もまた、重要なセルロース製品です。グリセリンを硝酸HNO3と反応させると、ニトログリセリンが得られるように、セルロースを硝酸HNO3と反応させると、硝酸セルロースが得られます。セルロースの場合、グルコース1単位当たりのヒドロキシ基(-OH)が、いくつニトロ化されるかによって、硝酸セルロースの性質が変化します。硝酸セルロースは、かつて衣類に用いられたこともありましたが、大変に燃えやすく、着用した服が燃えて、モデルが死亡するという事故が起こったために、現在は衣類に用いられることはありません。ニトロ化の程度が大きいものは、「綿火薬」と呼ばれ、無煙火薬として使用されます。

 

[C6H7O2(OH)3]n  nxHNO3  [C6H7O2(OH)3-x(ONO2)x]n  nxH2O

 

 なお、硝酸セルロースに「樟脳」を加えたものが、世界で最初のプラスチックである「セルロイド」です。開発のきっかけは、ビリヤードの大流行でした。1860年代後半、アメリカでビリヤードが大流行しました。しかし、球の原料である象牙が、高価で希少であったため、生産が追い付きません。そこで、メーカーが代替品を懸賞金付きで募集したところ、1869年に発明家のジョン・ウェズリー・ハイエットが、見事にセルロイドの簡便な製法を開発したのです。自由に成形可能でありながら、硬くて丈夫という性質を持ったセルロイドは、爆発的な売れ行きを示しました。

 その後、セルロイドは、アメリカ国内だけでなくヨーロッパにも広がり、袖や襟のカラー、メガネフレーム、ピアノの鍵盤、コルセット、おもちゃの人形、ブラシ、義歯などの日用品に、多用途で使用されるようになります。これらの商品のいくつかは、それまで象牙で作られていたので、セルロイドの発明は、ゾウの密猟を激減させ、多くのゾウの命を救う結果にもなりました。セルロイドが日本に広まったのは、20世紀になってからです。財閥が参入したこと、原料の樟脳が当時支配下にあった台湾の特産品であったこともあり、第一次世界大戦をきっかけに、日本はたちまち世界屈指の生産量を誇るようになります。

 

室内, プラスチック, 物体, テーブル が含まれている画像

高い精度で生成された説明

.20  樟脳は、クスノキの精油の主成分でもあり、強い刺すような樹脂系の香りを有する

 

 1889年には、アメリカの世界最大の写真用品メーカーであるイーストマン・コダック社が、セルロイド製の映画フィルムを開発し、1950年代頃まで広く使用されました。セルロイドは、20世紀の文化の重要な担い手にもなったのです。アニメーション制作に使用される、いわゆる「セル画」は、当初セルロイドのシートを使っていたための名称です。しかし、セルロイドには非常に燃えやすいという欠点があったため、徐々に使用が減少し、他のプラスチックが使われるようになりました。セルロイド製のビリヤード球がぶつかり合った瞬間に、その衝撃で爆発が起きて、銃声と勘違いした男たちが、撃ち合いを始めたという逸話さえ残っています。今やセルロイドを見かけることはほとんどなくなりましたが、材料の歴史において、果たした役割は極めて大きかったといえるでしょう。

 さらに最近では、夢の素材といわれる「セルロースナノファイバー(cellulose nanofibers)」の実用化が進んでいます。セルロースナノファイバーは、パルプから作られ、これを乾燥させて固めると、鉄の半分程度の重さで、強度が5倍にもなる素材になるといいます。セルロースナノファイバーの研究により、2015年には、森林分野のノーベル賞ともいわれる「マルクス・バーレンベリ賞」を、東京大学院教授の磯貝明ら3名の日本人研究者が受賞しました。セルロースナノファイバーは、自動車産業における新素材として注目されている他、化粧品や食品などへの応用も考えられており、今後が楽しみな素材です。


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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学基礎」啓林館(2012年発行)

2) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)

3) H.ハート/L.E.クレーン/D.J.ハート 共著「ハート基礎有機化学」培風館(1986年発行)

4) 都甲潔/飯山悟「トコトン追究 食品・料理・味覚の科学」講談社(2011年発行)

5) 塚原典子/麻見直美「好きになる栄養学」講談社(2008年発行)

6) 山崎幹夫「新化学読本-化ける、変わるを学ぶ」白日社(2005年発行)

7) 斉藤勝裕「最強の「毒物」はどれだ?」技術評論社(2014年発行)

8) 船山信次「こわくない有機化合物超入門」技術評論社(2014年発行)

9) 石浦章一「タンパク質はすごい!」技術評論社(2014年発行)

10) 高村一知「天然および合成甘味料について」聖徳栄養短期大学紀要6,34-44,1975-03-20

11) 前橋健二「甘味の基礎知識」日本醸造協会誌106(12),818-825,2011-12-15