・第15族元素(窒素族元素)


(1)15族元素

 周期表において、第15族に属する窒素N, リンP, ヒ素As, アンチモンSb, ビスマスBiなどの元素を、総称して窒素族元素といいます。窒素族元素の原子は、最外殻電子配置がns2np3である元素(n=2,3,4・・・)です。

窒素族元素の単体のうち、窒素N2のみが常温で気体であり、他はすべて固体です。窒素NとリンPの価電子は、混成軌道を形成し、共有結合物質として振る舞います。窒素Nでは、安定なπ結合を形成することができるので、多重結合を含む化合物が多く知られています。しかし、リンPでは、原子半径が大きすぎて、安定なπ結合を形成することができず、リンPを含む化合物の種類は、窒素Nよりもずっと少なくなります。

一方で、ヒ素AsやアンチモンSbの単体は、共有結合性と金属結合性との性質を併せ持つ物性を示すので、半金属と呼ばれ、半導体などの材料として使用されます。ビスマスBiでは、金属結合性がずっと強いです。窒素族元素のうち、ヒ素As, アンチモンSb, ビスマスBiは、混成軌道を形成するよりは、2個の電子が占有したs軌道と、3個の電子で半閉殻したp軌道として振る舞うので、酸化数は+3+5が安定です。

 

(2)窒素

窒素(nitrogen)の単体は、空気中に体積比で78.1%を占める無色無臭の気体です。窒素分子は、常温では安定な二原子分子N2からなります。「窒素酔い」という中毒症状がありますが、これは高分圧の窒素N2を呼吸することで引き起こされる酩酊状態のことです。圧縮空気を使うスキューバダイビングには、必ずこの問題が伴います。液化した窒素分子(液体窒素)は、冷却材として汎用されます。窒素N2の沸点は-196℃であり、この温度から、窒素N2は凝縮して液体になります。

窒素Nは、アミノ酸や核酸塩基など、多くの生体物質中に含まれており、すべての生物にとっての必須元素でもあります。しかし、空気中に大量に存在している窒素N2は、熱力学的に極めて安定であり、反応性が小さいので、それをどう取り入れるかが、生命にとっては重要な意味を持ちます。ほとんどの生物は、空気中の窒素N2をそのまま利用することができません。それ故に、マメ科の植物の根に共生して、根粒を形成する根粒菌などの微生物が、窒素固定によって窒素化合物を作り出し、それを摂取することで、多くの生物は体内に窒素Nを取り込んでいます。

植物にとって、窒素NはリンPやカリウムKと並んで、肥料の三要素の1つであり、これらは必要量が多いため、土の中で不足しがちになり、農業では肥料により補充しています。工業的には、窒素N2は主に液体空気の分留によって得られます。

実験室では、主に亜硝酸アンモニウムNH4NO2の熱分解によって得られます。硬式のテニスボールには、空気穴がありませんが、硬式のテニスボールには、この反応で生じる窒素N2が充填されています。なお、実際には、亜硝酸アンモニウムNH4NO2は爆発性があり、取り扱いが難しいので、亜硝酸ナトリウムNaNO2と塩化アンモニウムNH4Clをボールの中に入れ、生じる亜硝酸アンモニウムNH4NO2を熱分解することで、窒素N2を得ているようです。

 

NH4NO2 (加熱) N2 + 2H2O

 

窒素Nの酸化物には、一酸化二窒素N2Oや一酸化窒素NO、二酸化窒素NO2、四酸化二窒素N2O4などがあります。窒素酸化物は、深刻な大気汚染を引き起こし、酸性雨の原因物質にもなります。また、窒素Nのオキソ酸には、硝酸HNO3や亜硝酸HNO2が含まれます。次の図.1に、主な窒素酸化物及びオキソ酸の構造式を示します。

 

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.1  主な窒素酸化物及びオキソ酸の構造式

 

一酸化二窒素N2O、無色の香気と甘味のある気体で、硝酸アンモニウムNH4NO3を約250℃で注意深く加熱することで生成します。「注意深く」加熱するのは、硝酸アンモニウムNH4NO3が爆発する可能性があるからです。一酸化二窒素N2Oは、吸入すると麻酔効果があり、笑気ガスとも呼ばれています。笑気ガスと呼ばれるのは、これがアメリカで一種の娯楽用ドラッグとして用いられていたときに、これを吸い込んだ者が、くすくすと笑い出したことに由来します。笑気ガスに酔って、舞台を飛び跳ねていた観客の一人が、向う脛をぶつけたときに、酷い切り傷を負っていたにも関わらず、まるで痛みを感じていないようであったことから、麻酔作用が発見されたといわれています。意外なところでは、リボルバー式の拳銃を普及させたサミュエル・コルトが、若かりし頃に笑気ガスの体験ショーを主催して、生活費や銃の開発費を稼いでいた、なんて話も残っています。

 

NH4NO3 → N2O + 2H2O

 

一酸化窒素NOは、無色無臭の気体で、実験室では、銅Cuに希硝酸HNO3を加えて発生させ、水上置換法で捕集します。一酸化窒素NOは、生体内でも発生し、血管拡張作用や神経情報伝達など、様々な生理活性を持つことが分かっています。狭心症の発作を鎮める治療薬として、ニトログリセリンが用いられるのは、これが体内で分解されて、一酸化窒素NOを生じるからです。この効果は、偶然発見されたもので、狭心症を持病とする工員が、ニトログリセリン製造工場で働いていたのだそうです。ところが、この工員は家では発作を起こすのに、工場では発作を起こしたことがないというのです。そこで調べたところ、ニトログリセリンが、狭心症の発作を抑えていたという訳です。

 

3Cu + 8HNO3 → 3Cu(NO3)2 + 2NO + 4H2O

 

一酸化窒素NOは、空気中の酸素O2とすぐに反応し、赤褐色の二酸化窒素NO2を生成します。二酸化窒素NO2は、常温常圧で赤褐色の液体、または気体として存在し(b.p.21)し、人体に対して、呼吸器系統への毒性があります。実験室では、銅Cuに濃硝酸HNO3を加えて発生させ、水と反応するので、下方置換で捕集します。

 

2NO + O2 → 2NO2

Cu + 4HNO3 → Cu(NO3)2 + 2NO2 + 2H2O

 

二酸化窒素NO2は、その二量体である四酸化二窒素N2O4と平衡状態にあり、一般的には、室温で両者は混合状態にあります。四酸化二窒素N2O4は、無色の固体です。両者の存在割合は、温度によって変化し、低温では四酸化二窒素N2O4の方が安定です。

 

2NO2 N2O4 (+ 53.5 kJ)

 

硝酸HNO3は、常温常圧では揮発性のある無色の液体で、代表的な強酸の1つです。硝酸HNO3に触れると、キサントプロテイン反応によって、皮膚のタンパク質が変成して黄変します。実験室では、硝酸塩に濃硫酸H2SO4を加え、加熱して発生させます。

 

NaNO3 + H2SO4 (加熱) HNO3 + NaHSO4

 

工業的には、硝酸HNO3は、アンモニアNH3を酸化して得られる一酸化窒素NOを、空気により二酸化窒素NO2に酸化し、これを水に溶かすことによって作られます。これを、オストワルド法(Ostwald process)といいます(無機工業化学を参)

オストワルドは、ドイツの物理化学者であり、反応速度と触媒の研究で、ノーベル化学賞を受賞した偉大な人物です。哲学や心理学、芸術にも造詣が深く、後世に多大なる影響を与えました。紙の寸法規格(A判など)の発案者でもあります。市販の濃硝酸HNO3は、濃度6070%程度のものが多く、無色の溶液です。熱や光で分解して、徐々に黄色を帯びるのを防ぐため、通常は褐色瓶に入れて、冷暗所に保存します。

 

4HNO3 () 4NO2 + O2 + 2H2O

 

硝酸HNO3には強い酸化作用があり、希硝酸HNO3であっても、水素H2よりイオン化傾向の小さい金属を溶かすことが可能です。白金Ptや金Auを溶かすことはできませんが、濃硝酸HNO3と濃塩酸HCl13の体積分率で混合した王水(aqua regia)を作用させることにより、これらの金属も溶かすことが可能になります。このような強い酸化力を示す理由は、塩化ニトロシルNOClと塩素Cl2が生成するからです。塩化ニトロシルNOClは、酸化力が非常に強く、ほとんどの金属を酸化することができます。

しかし、アルミニウムAlやクロムCrFeコバルトCoニッケルNiなどは、濃硝酸HNO3に溶けません。これは、金属表面に、厚さ数nm程度の緻密な構造を持つ酸化皮膜が生じて、金属内部を保護するようなるからです。このような状態は不動態(passivity)と呼ばれ、不動態になると、酸や塩基に対して耐久性を示すようになります。

 

3HCl + HNO3 → NOCl + Cl2 + 2H2O

Au + NOCl + Cl2 + HCl → H[AuCl4] + NO

 

窒素Nの水素化物の代表は、アンモニアNH3です。その名称は、エジプトのアムン神の礼拝者であるアンモニア人に由来しています。彼らは、後世の神がかりと同じように、儀式のときに塩化アンモニウムNH4Clを使いました。塩化アンモニウムNH4Clは、天然には火山の近くの割れ目で産出するもので、加熱すると分解して、アンモニアNH3が生成します。

アンモニアNH3は、常温常圧で刺激臭のある無色の気体で、水に溶けると、弱塩基性を示します。アンモニアNH3は、窒素原子上の非共有電子対の働きで、金属錯体の配位子となり、アンモニアNH3が配位子の錯イオンは、アンミン錯イオンと呼ばれます。

工業的には、アンモニアNH3はハーバー・ボッシュ法(Haber-Bosch process)により、大気中の窒素N2と水素H2から合成されています(無機工業化学を参照)。世界中で、植物が1年で固定する窒素量は、約1.8tといわれていますが、ハーバー・ボッシュ法で固定される窒素量は、約1.6tにもなるといわれています。この方法は、チリから硝酸塩の供給を受けていたドイツが、第一次世界大戦のときにその供給を断たれたので、ドイツの化学者であるフリッツ・ハーバーが、空気から採取する方法として発明しました。実験室では、アンモニウム塩を強塩基と共に加熱して発生させ、水に溶けやすいので、上方置換法で捕集します。

 

2NH4Cl + Ca(OH)2 (加熱) 2NH3 + 2H2O + CaCl2

 

アンモニアNH3と塩化水素HClの反応は、塩化アンモニウムNH4Clの白煙を生じるので、互いの気体の検出に用いられます。また、アンモニアNH3は、ネスラー試薬によって褐色の沈殿を生じます。ただし、ネスラー試薬には、水銀Hgが含まれており、その毒性や環境汚染の懸念から、現在は使われなくなりつつあります。

 

NH3 + HCl → NH4Cl

 

アンモニアNH3は、-33℃で水H2Oとよく似た溶剤として働く性質を持った無色の液体となります。アンモニアNH3は、ナトリウムNaやカルシウムCaなどを溶かして、青い溶液になるという面白い性質があるのです。この色は、アンモニア分子NH3の間の隙間に捕らわれた、溶媒和電子e-[NH3]nによるものです。

 

Na + nNH3 Na+ + e-[NH3]n

 

(3)リン

リン(phosphorus)の単体は、常温常圧で固体ですが、いくつかの同素体が存在し、黄リン(白リン)や赤リンなどが知られています。黄リンは、正四面体型の分子P4からなる淡黄色ろう状の固体で、水に溶けず、空気中で自然発火する(発火点が約34)ので、通常は水の中で保存します。ニラに似た悪臭を発し、毒性が極めて強く、手に触れると皮膚を侵します。その急性毒性はLD50=10 mg/kgであり、青酸カリ(LD50=7 mg/kg)やニコチン(LD50=7 mg/kg)に匹敵する猛毒です。また、暗所で、青白色に弱く光る性質を持ちます。

方で、赤リンは、通常は無定形高分子Pxであり、容易に自然発火せず(発火点が約260)、毒性もほとんどありません。赤リンは、マッチ箱の側薬(赤褐色の部分)や医薬品、農薬の原料などに用いられています。

マッチの着火メカニズムは、マッチ棒の頭薬部分をマッチ箱の側薬部分に擦ると、マッチ箱の側薬に使われている赤リンが、マッチ棒の頭薬に付着し、これが摩擦熱により発火するというものです。マッチ棒の頭薬には、塩素酸カリウムHClO3などの酸化剤と硫黄Sなどの可燃剤、およびガラス粉などの摩擦剤を混ぜたものが付けてあります。摩擦により発生した火が頭薬に移ると、酸化剤が分解し、酸素O2を供給するので、燃焼が一層激しくなります。なお、初期のマッチには、頭薬に黄リンや酸化剤、可燃剤などが全部一緒に塗ってあり、どこでも軽く擦ると、簡単に火が点きました。西部劇でそんなシーンを見たことがある人はいませんか?

ちなみに、リンPは体重70 kgの成人で700780 gも豊富に含まれており、墓地に土葬されていた遺体が分解され、リンPを含む化合物が生成すると、自然現象の放電で引火し、火の玉が生じることがあります。このことが、「幽霊は火の玉とともにでる」という伝承につながったと考えられています。

 

.1  リンPの同素体の性質

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工業的には、リンPの単体は、電気炉中でリン鉱石Ca3(PO4)2をケイ砂SiO2やコークスと反応させることで作られます。このとき、リンPは蒸気となって発生し、これを水中に導いて固化させると、黄リンP4が得られます。赤リンPxは、空気を断って黄リンP4を約250℃で保つと、次第に生成してきます。

 

2Ca3(PO4)2 + 6SiO2 + 10C (加熱) 6CaSiO3 + 10CO +4P

 

 リンPを過剰の乾燥空気、または酸素中で燃焼させると、十酸化四リンP4O10の白煙を生じます。十酸化四リンP4O10は、吸湿性や脱水性の強い白色結晶で、強力な乾燥剤として用いられます。硫酸H2SO4や硝酸HNO3を脱水することができ、それぞれから三酸化硫黄SO3や五酸化二窒素N2O5が得られます。

 

4P + 5O2 (加熱) P4O10

 

十酸化四リンP4O10は、水H2Oに対する反応性が高く、音と熱を発しながら溶解し、リン酸H3PO4を生成します。リン酸H3PO4は、分子間に水素結合を多く形成できる分子性物質であり、常温で白色固体または無色の液体です。リン酸H3PO4は、生化学において最も重要なオキソ酸であり、DANRNAATPを構成する成分として非常に重要です。この他、リン酸H3PO4は、肥料や洗剤の製造、清涼飲料水の酸味料など、その用途は幅広いです。

 

P4O10 + 6H2O → 4H3PO4

 

ヒドロキシアパタイトCa5(PO4)3(OH)は、生体骨や歯の主要な構成成分です。例えば、生体骨や歯の組成は、水分を除くと、概ね65%がヒドロキシアパタイトCa5(PO4)3(OH)35%がコラーゲンというタンパク質です。生体骨や歯は、カルシウムCaの塊だと思っている人が多いようですが、純粋なカルシウムCaは金属です。ヒドロキシアパタイトCa5(PO4)3(OH)の水酸化物イオンOH- は、比較的容易に置換され、フッ化物イオンF- などに置換します。フッ化物イオンF- は、ヒドロキシアパタイトCa5(PO4)3(OH)の耐酸性を高めるとされています。歯磨き粉などにフッ化ナトリウNaFが配合されているのは、この効果をねらったものです。このように、無機物質と有機物質の特徴を活かすように設計された骨や歯は、天然に存在する優れた無機/有機複合材料の好例といえます。

 

Ca5(PO4)3(OH) + F-   Ca5(PO4)3(F) + OH-

 

また、キシリトールは、虫歯を予防する糖として有名で、多くのチューインガムがキシリトールを採用し、まるで虫歯予防の特効薬のように宣伝されています。しかし、キシリトールの摂取で、虫歯を予防することはできません。というのも、キシリトールは、口内細菌の作用によって、酸に変化することがないというだけであって、虫歯の原因になることはなくても、虫歯を積極的に予防する力はないからです。ただ、キシリトールの甘味の強さは、グルコースとほぼ同じなのに、カロリーは40%も少ないですから、ダイエット効果は期待できるかもしれません。

リン肥料として使われる過リン酸石灰は、リン鉱石Ca3(PO4)2と硫酸H2SO4と水H2Oから得られる、リン酸二水素カルシウム1水和物Ca(H2PO4)2H2Oと硫酸カルシウムCaSO4の混合物であり、リン酸二水素カルシウムCa(H2PO4)2が水に溶けて、リン酸二水素イオンH2PO4- となり、これが植物に吸収されます。

 

Ca3(PO4)2 + 2H2SO4 → Ca(H2PO4)2 + 2CaSO4


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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学」啓林館(2012年発行)

2) セオドア・グレイ「世界で一番美しい元素図巻」創元社(2011年発行)

3) 平尾一之/田中勝久/中平敦「無機化学」東京化学同人(2013年発行)

4) メートランド・ジョーンズ「ジョーンズ有機化学()」東京化学同人(2000年発行)

5) Peter W. Atkins/千原秀昭・稲葉章訳「分子と人間」東京化学同人(1993年発行)

6)トレヴァー・ノートン「世にも奇妙な人体実験の歴史」文藝春秋(2012年発行)

7) ジョーシュワルツ「シュワルツ博士の化学はこんなに面白い」主婦の友社(2002年発行)

8) 斉藤勝裕「最強の「毒物」はどれだ?」技術評論社(2014年発行)

9) 左巻健男「面白くて眠れなくなる元素」PHP研究所 (2016年発行)