・カルボニル化合物(カルボン酸誘導体)


(1)カルボン酸誘導体

カルボン酸のカルボキシ基のヒドロキシ基部分を、他の置換基で置換した化合物を、カルボン酸誘導体といいます。エステル(ester)は、オキソ酸の-OH部分を、-ORで置換した誘導体です。

例えば、硝酸エステルの一種であるニトログリセリンは、爆薬(ダイナマイト)や心臓病の治療薬として用いられています。ニトログリセリンはわずかな衝撃で爆発する危険な液体ですが、スウェーデンの化学者であるアルフレッド・ノーベルは、ニトログリセリンを珪藻土に染み込ませることによって、安全に運用できることを発見したのです。――これがダイナマイトの誕生です。ノーベルはすぐに50カ国で特許を獲得し、巨額の富を得ました。しかし、あるときにフランスの新聞が、間違ってノーベルの死亡記事を書きます。そこには、「かつてない速さでかつてないほど多くの人間を殺す方法を発見した死の商人が昨日死んだ」と書かれていました。これを機に、ノーベルは死後の評価を気にするようになり、遺産を平和のために活用することを考えるようになったといいます。ノーベルは、その巨額な遺産の大部分を「ノーベル賞」創設に使いました。現在、ノーベル財団には400億円もの基金があり、安全な有価証券に投資したときの利子で、受賞者に賞金を与えています。

ちなみに、ニトログリセリンは舐めると甘い味がします。小林照幸の「床山と横綱―支度部屋での大相撲五十年」によれば、ダイナマイトは表皮を剥くとオレンジ色の塊が現れ、食べると羊羹のようにねっとりと甘い味がするといいます。戦時中、ひもじい日本兵はダイナマイトをナイフで輪切りにして食べ、酒の肴にしていたという話も伝わっています。

 

a.png

.1  ニトログリセリンは硝酸のエステルである

 

オキソ酸の一種であるカルボン酸もまた、多くのヒドロキシ基とエステルを作ります。カルボン酸エステルは、多種多様なものが自然界に存在しており、それを学ぶことは、非常に重要なことです。ここでは、カルボン酸誘導体として、カルボン酸エステルを中心に学んでいきます。

例として、次の図.2に、様々なカルボン酸エステルの構造式を示します。低分子量のカルボン酸エステルは、果実の香り成分であり、複数のエステルをブレンドして、香料として利用されているものが多いです。バナナの香りの主成分は酢酸ペンチルであり、リンゴの香りの主成分は酪酸メチルです。これらのエステルは、日本酒の中にも含まれ、日本酒のフルーティーな香りに関与するといわれています。

 

a.png

.2  様々なカルボン酸エステル

 

また、アミノ基(amino group, -NH2)を持つ化合物をアミン(amine)といい、アミンとカルボン酸の脱水縮合物をアミド(amide)といいます。例えば、酢酸CH3COOHとアニリンの反応生成物はアセトアニリドであり、アセトアニリドは、医薬品の合成原料として用いられます。次の図.3に、アセトアニリドの合成反応を示します。

 

a.png

.3  アセトアニリドの合成

 

(i)エステルの命名法

RCOOR'の構造を持つエステルは、RCOOHのカルボン酸の慣用名の後に、-R'の炭化水素基名を付けて命名します。次の図.4に、エステルにおけるICPACシステムの適用例を示します。酢酸エチルCH3COOC2H5とプロピオン酸メチルC2H5COOCH3は、メチルCH3とエチルC2H5を変換した一対の構造異性体ですが、名称が全く異なっていることに注意してください。

 

a.png

.4  エステルにおけるICPACシステムの適用例

 

先にも説明したように、エステルは一般的に良い香りのする物質であり、数多くの果実や、花の芳香の香気のもとになっています。例えば、酢酸エチルは天然にはパイナップルやイチゴなどに含まれ、果実のような甘い芳香がします。

しかしながら、天然物の香気成分は、極めて複雑なものが多いです。例えば、洋ナシの1種であるバートレットナシの揮発成分は、53種類以上ものエステルを含んでいることが確認されています。このように、エステルは純物質としてではなく、通常混合物として、香水や人工香料に用いられています。

 

(ii)アミドの命名法

 一般式RCONH2で表される第一級アミドは、酸RCOOHの名称の語尾「oic acidを「amideに置き換えて命名します。日本語では、同じ炭素数のアルカンの名称に「アミド」を付け加えて命名します。例として、次の図.5に、アミドにおけるICPACシステムの適用例を示します。なお、慣用名も(  )内に示しておきます。

 

a.png

.5  アミドにおけるIUPACシステムの適用例

 

(2)エステルの合成

(i)フィッシャーのエステル化反応

 カルボン酸とアルコールを、濃硫酸H2SO4などの酸触媒存在下で加熱すると、エステルを得ることができます。この反応は、可逆的な平衡反応ですが、濃硫酸H2SO4の脱水作用により、水H2OがオキソニウムイオンH3O+ に変換されるので、平衡をある程度右側に移動させることができます。

 

a.png

.6  フィッシャーのエステル化反応

 

この反応方法は、ドイツの有機化学者エミール・フィッシャーが開発したものであり、その名にちなんで、フィッシャーのエステル化反応(Fischer esterification)と呼ばれています。

この反応は、収率があまり良くないので、通常は収率を良くするために、アルコールかカルボン酸のいずれか値段の安い方を大過剰に用いたり、生成するエステルや水H2Oを蒸留などにより、反応系から取り除いたりします。このようにすることで、ル・シャトリエの法則より、平衡が右側に移動して、エステルを効率よく得ることができるのです(有機反応機構IV(カルボン酸とその誘導体の反応)を参照)

 

(ii)酸無水物とアルコールの反応

酸無水物は、アルコールと反応して、エステルを与えます。酸無水物は、カルボン酸よりもアルコールに対する反応性が高く、エステルを合成するときは、カルボン酸の代わりに酸無水物を用いることも多いです。例えば、無水酢酸はサリチル酸と反応して、アスピリン(アセチルサリチル酸)を与えます。この反応では、フェノール性のヒドロキシ基が、酢酸エステルに変換されます。このように、有機化合物中のヒドロキシ基の水素原子を、アセチル基に置換することをアセチル化(acetylation)といいます。酢酸CH3COOHの代わりに、無水酢酸(CH3CO)2Oを用いてアセチル化を行った場合は、水H2Oではなく酢酸CH3COOHが生じることに注意が必要です。

 

a.png

.7  無水酢酸(CH3CO)2Oを用いたアスピリンの合成

 

このアセチル化は、医薬品の改良などによく用いられる手法であり、分子中のヒドロキシ基を酢酸エステルにするだけで、薬の薬理活性が大きく変化することがあります。この例で代表的なものが、モルヒネを無水酢酸(CH3CO)2Oでアセチル化したヘロインであり、ヘロインはドラッグの中でも特に危険性が高く、「ドラッグの王様」と呼ばれています。

しかし、なぜ分子にアセチル基を導入しただけで、薬の薬理活性が大きく変化するのでしょうか?モルヒネやヘロインのような薬物は、脳に作用点を持つ薬物です。しかし、脳は血液脳関門と呼ばれる、自身を護る障壁のようなものを持っています。したがって、薬物は脳内に侵入しようと思っても、通常はこの血液脳関門に阻まれて跳ね返されてしまい、毒性を現すことはないのです。

しかし、中にはこの血液脳関門を突破してしまうような薬物も存在しています。このような物質は、一般的に低分子で脂溶性の物質が多いです。この理由は、脳の神経細胞が、油に溶けやすい脂溶性のリン脂質でできており、血液脳関門が、細胞の間隔が極めて狭いことによる物理的な障壁であるためです。

ヘロインは、親水性のヒドロキシ基が酢酸エステルとなっており、分子の脂溶性が極めて高くなっているため、モルヒネよりもはるかに強い毒性を現すのです。(薬物乱用の科学を参照)

 

a.png

.8  ヘロインはモルヒネよりもはるかに強い毒性を現す

 

(3)エステルの加水分解

(i)酸を用いた加水分解

 エステルに希硫酸H2SO4などを加えて長時間加熱すると、エステルの加水分解反応が進みます。これは、フィッシャーのエステル化反応が平衡反応であることを利用したものです。すなわち、これはフィッシャーのエステル化反応の逆反応です。

ただし、加水分解反応の速度も同様に遅いので、反応を有利に進めるためには、十分な量の水H2Oを加えてやる必要があります。

 

a.png

.9  酸触媒によるエステルの加水分解

 

 また、アミドを希塩酸HClとともに加水分解すると、すべて加水分解してしまいます。この理由は、アミドを加水分解して生じるアミンが、塩酸HClと中和して、塩となるからです。生成したアミンは、塩酸HClによって反応系から除かれるので、加水分解反応の平衡は、右に移動することになります。したがって、アミドを加水分解するときの塩酸HClは、触媒量ではなく、アミンを中和して平衡を右に移動させるために、化学量論量加える必要があります。例として、次の図.10にアセトアニリドの加水分解を示します。

 

a.png

.10  アセトアニリドの加水分解

 

(ii)塩基を用いた加水分解

 エステルに水酸化ナトリウムNaOH水溶液などの強塩基を加えて加熱すると、加水分解反応が進み、アルコールとカルボン酸の塩が生成します。塩基によるこのようなエステルの加水分解反応を、特にけん化(saponification)といいます。この名前の理由は、油脂を原料とするセッケンの製造において、同様の反応が用いられるからです。この反応は、一般式で次の図.11のように表されます。

 

a.png

.11  エステルのけん化

 

ここでは、生じたカルボン酸が塩基によって中和されるため、最終生成物はカルボン酸塩になります。

また、けん化は、酸を用いる加水分解と違って、可逆的ではありません。その理由は、最終生成物であるカルボン酸塩が、中和の分だけエネルギー的に安定になり、反応を前方向にしか進行させないからです。

けん化は、天然物から単離されたような未知のエステルの構造決定を行う際に、エステルをその構成成分のカルボン酸とアルコールに切断する手段として、特に有用です。

 

(4)油脂と洗剤

グリセリンC3H5(OH)3と高級脂肪酸RCOOHのトリエステルを、油脂(oil)といいます。油脂に水酸化ナトリウムNaOH水溶液を加えて熱すると、けん化が起きて、グリセリンと高級脂肪酸のナトリウム塩(セッケン)に加水分解されます。

 

a.png

.12  油脂のけん化

 

天然の油脂を構成する脂肪酸には、炭素原子数が1618の高級脂肪酸が多いです。例えば、オリーブ油を加水分解すると、オレイン酸C17H33COOH83%とリノール酸C17H31COOH7%得られ、パーム油を加水分解すると、パルミチン酸C15H31COOH43%とオレイン酸C17H33COOH43%、リノール酸C17H31COOH8%得られます。炭素数が偶数である高級脂肪酸が多い理由は、生体内の高級脂肪酸は、炭素数が2の酢酸CH3COOHの活性体であるアセチルCoAを原料にして、生合成されているからです。

構成脂肪酸に飽和脂肪酸の割合が比較的多い油脂は、室温で固体のものが多く、不飽和脂肪酸の割合が比較的多い油脂は、室温で液体のものが多いです。この理由は、炭素鎖の不飽和度が増すほど、構造の不規則性が増し、分子全体が結晶のようにきちんと配列することができなくなるからです。飽和脂肪酸の割合が比較的多い油脂では、炭素鎖の単結合の回転があるために、分子が規則正しく配列することができ、空間を充填しているので、融点が高くなります。バターやラードなどの動物性油脂は、飽和脂肪酸が多くて固体のものが多く、オリーブ油やパーム油などの植物性油脂は、不飽和脂肪酸が多くて液体のものが多いです。一般的には、室温で固体の油脂を脂肪(fat)、液体の油脂を脂肪油(fatty oil)といいます。

また、不飽和脂肪酸を高い比率で含有する植物油は乾性油(drying oil)といって、空気中に曝されると乾いて固形になります。亜麻仁油などは、その性質を利用して、油絵の材料や塗料などに利用されます。これは、二重結合が空気中のO2によって酸化され、互いに重合して分子量の大きな網目状の高分子を作り、塗られた物体の表面に被膜を作るからです。

 

(i)植物性油脂の水素添加

多くの植物性油脂は、構成脂肪酸における不飽和脂肪酸の割合が比較的多いため、室温で液体のものが多いです。そこで、液体の植物性油脂を固体に変換するために、ニッケルNiを触媒として、すべての二重結合、またはその一部を、接触的に水素添加する方法が用いられます。この過程は硬化(hardening)と呼ばれ、このようにして生じた油脂を、硬化油(hardened oil)といいます。例えば、マーガリンはサラダ油や大豆油、ピーナツ油、コーン油などの植物性油脂を、ちょうどバター程度の固さになるまで水素添加したものに、牛乳や着色剤を加えて練り、バターのような香りと外観を持たせた商品です。

自然界では、シス型の折れ曲がった構造を持つ不飽和脂肪酸が多いです。しかし、これに水素添加すると、飽和脂肪酸になり切れなかった一部の不飽和脂肪酸のシス型結合が、トランス型結合に変化し、直線状の構造を持つようになります。このような不飽和脂肪酸を、トランス脂肪酸といいます。トランス脂肪酸は、マーガリンに含まれる脂肪酸の数%、一部の製品では十数%にも達するといわれています。

そして、このトランス脂肪酸を摂り過ぎると、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が増え、心筋梗塞や狭心症のリスクを高めるということが指摘されているのです。このため、2003年にWHO(世界保健機関)では、「集団におけるトランス脂肪酸の平均摂取量は、最大でも総エネルギー摂取量の1%未満」に抑えるように各国に勧告を出しました。しかし、日本人が1日に摂取するトランス脂肪酸の平均は、全カロリー中0.3%であり、これはWHO勧告にある1%未満をクリアしています。日本では、一部の人たちが反対運動をしていますが、日本におけるトランス脂肪酸の摂取量は少なく、健康への影響は小さいと思われます。

また、トランス脂肪酸のことを「自然界には存在しない危険な油」と記述する本などがよくありますが、実際には、自然界にも少なからぬ量のトランス脂肪酸が存在しています。例えば、ウシやヒツジなどの反芻動物の脂には、5%程度のトランス脂肪酸が含まれています。これは、彼らの胃に棲んでいる細菌が、植物成分を代謝してできるものです。また、空気による油の酸化、加熱調理の際などにも、シス型からトランス型への変化が起こります。このため、マーガリンなどの製品をすべて避けたとしても、トランス脂肪酸の摂取は0にはできない――それどころか、天然の油脂からの摂取の方が、むしろ多いという推計もあるぐらいなのです。トランス脂肪酸に関してWHOの発表した見解が「1%以下にするよう勧告」であり、「0%にするよう規制」ではないのは、これが完全排除できないリスクであることを、彼らがよく理解しているからだと思います。

 

margarin03.jpg

.13  マーガリンは代表的な硬化油である(画像はこちらからお借りしました)

 

(ii)油脂のけん化とヨウ素価

油脂1 molのけん化に必要な水酸化ナトリウムNaOH3 molなので、一定質量の油脂のけん化に必要な塩基が多いことは、油脂の分子量が小さいことを意味します。

例えば、油脂1 gを完全にけん化するのに必要な水酸化カリウムKOHの質量を、mg単位で表したときの数値を、けん化価(saponification)といいます。油脂1 molをけん化するのに3 molの水酸化カリウムKOHが必要であるので、油脂の平均分子量をM、けん化価をSとすると、次式が成立します。(式量KOH=56)

 

(1/M ) × 3 = (S × 10-3)/56

S = (1.68 × 105)/M

 

これより、けん化価の大きな油脂は、平均分子量が小さく、低級脂肪酸を多く含むということが分かります。それに対して、けん化価の小さな油脂は、平均分子量が大きく、高級脂肪酸を多く含みます。

また、油脂中の炭素-炭素二重結合1個には、ヨウ素分子1個が付加するので、一定質量の油脂に付加するヨウ素I2の質量は、油脂にどの程度不飽和結合が含まれているかを知る目安となります。

油脂100 g中の二重結合に付加するヨウ素I2の質量を、g単位で表したときの数値を、ヨウ素価(iodine value)といいます。油脂の平均分子量をM、油脂1分子中に含まれる二重結合の数をn、ヨウ素価をiとすると、次式が成立します。(分子量I2=254)

 

(100/M ) × n = i /254

i = (2.54 × 104 × n )/M

 

これより、ヨウ素価の大きい油脂は、その油脂の中に存在する不飽和結合が多いということが分かります。すなわち、この油脂を構成する脂肪酸には、不飽和脂肪酸が多く含まれているのです。

ヨウ素価の大きい油脂は、空気中に放置されると、不飽和結合が酸化されて、徐々に固化します。

 

(iii)セッケンの製造とその働き

 油脂に水酸化ナトリウムNaOH水溶液などの強塩基を加えて加熱すると、加水分解反応が進み、グリセリンと高級脂肪酸塩が生成します。例として、次の図.14にトリステアリンのけん化を示します。

 

a.png

.14  トリステアリンのけん化

 

この高級脂肪酸のアルカリ塩は、セッケン(soap)と呼ばれます。山羊などの動物性油脂を、木灰(アルカリ性物質)と煮て、セッケンを作る技術は、最も古い化学製品製造法の1つでした。セッケンは、古代ケルト人やローマ人によって、2,300年以上も昔から製造されていたといわれています。

よく米のとぎ汁を洗剤代わりに使っている人がいますが、これは生活の知恵です。米のとぎ汁には、炭酸カリウムK2CO3などの塩基が含まれているため、植物性油脂や動物性油脂をけん化して、セッケンにしているのです。

現在では、世界のセッケン年産量は、600tをはるかに超えています。セッケンは疎水性(hydrophobicity)の炭化水素基Rと親水性(hydrophilicity)の原子団COONaからなり、水溶液中では、その一部が加水分解して、弱塩基性を示します。例として、セッケンではありませんが、次の図.15に酢酸ナトリウムCH3COONaの加水分解を示します。

 

無題.png

.15  酢酸ナトリウムCH3COONaの加水分解

 

セッケンは、カルシウムCaやマグネシウムMg、鉄Feなどのイオンが水中に含まれると、これらと反応して、水に不溶の塩を作ります。したがって、これらのイオンを多く含む硬水や海水では、沈殿が生じてしまい、セッケンの泡立ちが悪くなります。この反応は、浴室の鏡やタイルを汚す原因であり、衣類や毛髪の表面に薄膜となって付着すると、色調をぼかす原因にもなります。

 

2RCOONa + Ca2+ → (RCOO)2Ca↓ + 2Na+

 

また、水溶液中のセッケン濃度を上げていくと、ある濃度以上では、セッケンの脂肪酸イオン約4060個が集合し、疎水性部分を内側、親水性部分を外側にした、コロイド粒子を作ります。このコロイド粒子をセッケンのミセル(micelle)といい、親水性の分子末端はミセル表面に並んで水接しているため、セッケンでは、ミセル表面は負に帯電しています。したがって、ミセル全体を1つの粒子として見れば、ミセル表面は親水基によって親水性なので、セッケンのミセルは水に溶けるようになるのです。

 

a.png

.16  セッケンのミセル

 

油脂や灯油をセッケン水に入れて振ると、微細な小滴となり、溶液中に分散します。これは、セッケン分子が疎水性の炭化水素基部分を油に向けて、その小滴を取り囲むようにして安定化するからです。このような現象を乳化(emulsify)といい、乳化によってできた分散液を、エマルション(emulsion)といいます。また、安定なエマルションを作るために用いるセッケンのような物質を、乳化剤(emulsifier)といいます(コロイド化学を参照)


戻る

 

・参考文献

1) H.ハート/L.E.クレーン/D.J.ハート 共著「ハート基礎有機化学」培風館(1986年発)

2) メートランド・ジョーンズ「ジョーンズ有機化学()」東京化学同人(2000年発行)

3) 山崎幹夫「新化学読本-化ける、変わるを学ぶ」白日社(2005年発行)

4) 佐藤健太郎『「ゼロリスク社会」の罠』光文社(2012年発行)