・カルボニル化合物(アルデヒドとケトン)


(1)アルデヒドとケトン

 分子内にカルボニル基(carbonyl group, -CO-)を持つ化合物を、カルボニル化合物といいます。カルボニル基は、有機化学における最も重要な官能基であり、カルボニル化合物は工業的にも、また生物学的過程においても、重要な役割を果たしているものが多いです。

カルボニル化合物のうち、カルボニル基に結合する置換基2個が、共に有機基であるものをケトン(ketone)といい、置換基の一方、または両方が水素原子で、アルデヒド基(aldehyde group, -CHO)を持つものをアルデヒド(aldehyde)といいます。

 

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.1  様々なアルデヒドとケトン

 

(i)アルデヒドの命名法

炭素数が4以下のアルデヒド(aldehyde)には、通常慣用名が用いられますが、それ以上の場合は、IUPAC命名法に従って、論理的に命名されます。

IUPAC命名法では、母体となるアルカン(alkane)の末尾の「eを除いた語幹に接尾語「alを付けて、「アルカナール」(alkanal)と命名します。この命名法の適用例を次の図.2に示します。なお、慣用名も(  )内に示しておきます。

 

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.2  アルデヒドにおけるICPACシステムの適用例

 

アルデヒドの慣用名は、今でもよく用いられているので、覚えておく必要があります。また、置換基のあるアルデヒドでは、次の図.3に示すように、アルデヒド基の炭素から出発して、炭素鎖に番号を付けていきます。位置番号を付けたり、接尾語を選ぶときには、アルデヒド基は二重結合やヒドロキシ基よりも優先します。

 

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.3  置換基のあるアルデヒドにおけるIUPAC命名法の適用例

 

環状アルデヒドには、「カルボアルデヒド」(carbaldehyde)という接尾語を用います。芳香族アルデヒドは、慣用名を持つことが多いです。次の図.4に、環状アルデヒドにおけるIUPAC命名法の適用例を示します。

 

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.4  環状アルデヒドにおけるIUPAC命名法の適用例

 

(ii)ケトンの命名法

ケトン(ketone)にも、多くの慣用名がありますが、現在ほとんど使われなくなっています。しかし、最も単純なケトンであるプロパノンCH3COCH3には、アセトンという慣用名が例外的に使用されています。

IUPAC命名法の規則は簡単で、母体となるアルカン(alkane)の末尾の「eを除いた語幹に接尾語「oneを付けて、アルカノン (alkanone)と命名します。

炭素鎖の番号の付け方は、カルボニル炭素にできるだけ小さい番号が付くようにします。また、カルボニル炭素に結合している有機基をアルファベット順に並べたあと、ケトンという単語を追加して命名する慣用名が用いられることも多いです。この命名法の適用例を次の図.5に示します。なお、慣用名も(  )内に示しておきます。

 

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.5  ケトンにおけるICPACシステムの適用例

 

(iii)アルデヒドとケトンの物理的性質

カルボニル基のC=O結合の極性は、カルボニル化合物の物理的な性質に大きな影響を及ぼしています。例えば、カルボニル化合物は、同程度の分子量を持つアルカンと比べて、高い沸点を持ちますが、対応するアルコールよりは、沸点が低いです。

 

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.6  有機化合物の沸点

 

有機化合物の沸点が、このような順になるのは、アルカンが一時的にしか分極できないのに対して、カルボニル化合物は永久分極しているC=O結合を持ち、より強く引き合って会合する性質があるからです。このようなカルボニル化合物で見られるファンデルワールス力は、特に双極子相互作用とも呼ばれ、無極性分子同士に作用するロンドン分散力より強いものの、アルコール同士に作用する水素結合ほど強くありません。したがって、カルボニル化合物は、双極子相互作用によりアルカンよりも強く引き合いますが、アルコールとは異なり、水素結合ができないので、沸点の順序は、アルカン<カルボニル化合物<アルコールとなるのです。

また、カルボニル基の極性は、アルデヒドやケトンの溶解性にも影響を与えます。例えば、低分子量で、炭化水素部分の割合が小さいカルボニル化合物は、水溶性です。アセトアルデヒドCH3CHOやアセトンCH3COCH3は、水とどのような割合でも混じり合います。この理由は、カルボニル化合物同士では、水素結合を形成できませんが、OHまたはNH結合を持つ他の化合物とは、水素結合を形成できるからです。カルボニル基のような親水基1個あたりに、3個の炭素までぐらいなら、水に溶ける力の方が強くなります。

 

.1  主なアルデヒドやケトンの物理的性質

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(2)アルデヒド基の検出反応

アルデヒドは、塩基性条件で極めて酸化されやすいです。これは言い換えれば、アルデヒドは、塩基性条件で強い還元力を持つということです。アルデヒドを塩基性条件で酸化すると、同じ炭素原子数のカルボン酸イオンになります。塩基性条件では、生成するカルボン酸は、直ちに中和されてカルボン酸塩となり、平衡の反応系から除かれるので、酸化反応が進みやすくなると考えられます。

 

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.7  アルデヒドの酸化反応

 

この性質を利用した有名な検出反応として、フェーリング液を還元する反応(フェーリング反応)と、トレンス試薬を還元する反応(銀鏡反応)があります。フェーリング液を還元する反応では、銅(II)イオンCu2+ が還元されて、酸化銅(I) Cu2Oとなり、トレンス試薬を還元する反応では、銀(I)イオンAg+ が還元されて、銀Agとなります。このような反応を示す物質は、還元性が強い物質とはいえ、アルデヒド基を含んでいるのが通常です。したがって、フェーリング反応、または銀鏡反応に陽性な物質は、一般的にアルデヒド基を分子内に含むと推測できるのです。

 

(i)フェーリング反応

フェーリング液にアルデヒドを加えて熱すると、銅(II)イオンCu2+ が還元されて、赤褐色の酸化銅(I) Cu2Oが沈殿します。このとき、アルデヒドは酸化されて、カルボン酸イオンになっており、溶液中に溶解しています。

 

RCHO + 2Cu2+ + 5OH- → RCOO- + Cu2O↓(赤褐) + 3H2O

 

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.8  赤褐色の酸化銅(I) Cu2O(画像はこちらからお借りしました)

 

フェーリング液とは、硫酸銅(II) CuSO4や水酸化ナトリウムNaOH、酒石酸塩の混合物です。ここで、酸化剤は銅(II)イオンCu2+ であり、酒石酸イオンは塩基性条件下で、銅(II)イオンCu2+ が水酸化銅(II) Cu(OH)2となって沈殿しないようにするために加えられています。酒石酸イオンは、銅(II)イオンCu2+ と深青色の錯イオンを形成し、銅(II)イオンCu2+ 濃度を低く保ちながらも、溶液中のアルデヒドによって、還元されやすくなるように工夫されています。酒石酸イオンのような共存イオンによる妨害を除去する目的で加えられる物質を、一般的にマスキング剤(masking agent)といいます。次にフェーリング反応の酸化反応と還元反応を示します。

 

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(ii)銀鏡反応

アンモニア性硝酸銀水溶液(トレンス試薬)にアルデヒドを少量加えて、60℃に保つと、還元された銀Agの微粒子が析出し、ガラス器壁の表面などに付着して、銀鏡が生じます。このとき、アルデヒドはトレンス試薬によって酸化されて、カルボン酸イオンになっており、溶液中に溶解しています。

 

RCHO + H2O + 2[Ag(NH3)2]+ → 2Ag↓() + RCOO- + NH3 + 3NH4+

 

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.9  左は銀鏡反応陽性であり、右は銀鏡反応陰性(画像はこちらからお借りしました)

 

トレンス試薬とは、硝酸銀(I) AgNO3水溶液にアンモニア水を十分に加えて、ジアンミン銀(I)イオン[Ag(NH3)2]+ にしたものです。銀鏡反応は、フェーリング反応よりも鋭敏であり、この反応は、工業的にも銀メッキの手法として利用されています。次に銀鏡反応の酸化反応と還元反応を示します。

 

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(3)ヨードホルム反応

 塩基性条件で、アセトンCH3COCH3とヨウ素I2を反応させると、特異臭を持つヨードホルムCHI3の黄色結晶が生じます。この反応をヨードホルム反応(iodoform reaction)といい、アセチル基(acetyl group, CH3CO-)を持つ化合物の検出反応になっています。

 

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.10  ヨードホルム反応

 

ただし、アセチル基に結合しているR基は、炭素原子か水素原子でなければならず、酢酸CH3COOHやアセトアミドCH3CONH2は、ヨードホルム反応陰性です。この理由は、酢酸CH3COOHでは、塩基性条件で中和反応が進行して、共鳴混成体の酢酸イオンCH3COO- となり、アセトアミドCH3CONH2では、アミド結合が共鳴した共鳴混成体となっており、いずれも「アセチル基のある構造」の寄与が他よりも小さくなっているからです。

 

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.11  ヨードホルム反応陰性の物質

 

また、酸化されてアセチル基になる構造を持つアルコールも、ヨードホルム反応陽性です。ヨードホルム反応では、ヨウ素I2が酸化剤の役割をします。このようなアルコールには、エタノールC2H5OH2-ブタノールCH3CH(OH)CH2CH3があります。これらのアルコールは、酸化された構造では、分子内にアセチル基の構造を持つので、結局のところ、同じ結果を与えるのです。

 

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.12  ヨードホルム反応陽性の物質

 

 つまり、アセチル基(CH3CO-)もしくは1-ヒドロキシエチル基(CH3CH(OH)-)に結合している原子が炭素原子もしくは水素原子なら、ヨードホルム反応に対して陽性であると考えれば良いのです。また、大学入試では、ときどきヨードホルム反応の反応式を示せという問題が出題されます。ヨードホルム反応の反応式は、一般的に次のように表せます。

 

CH3COR + 3I2 + 4NaOH → CHI3 + RCOONa + 3H2O + 3NaI

 

(4)アルデヒドの利用と合成

(i)ホルムアルデヒドHCHO

 ホルムアルデヒドHCHOは最も簡単なアルデヒドであり、メタノールCH3OHの酸化で工業的に大量に製造されています。ホルムアルデヒドHCHOの世界中の年間生産量は、360tにも達しています。

 

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.13  工業的なホルムアルデヒドHCHOの合成反応

 

ホルムアルデヒドHCHOは、刺激臭・催涙性のある気体(m.p.-92, b.p.-19)であり、重合しやすいため、そのままの状態では保存できません。したがって、ホルムアルデヒドHCHOは、一般的にホルマリン(formalin)と呼ばれる37%水溶液として供給されています。ホルマリンは、生物試料の保存用に使われる他、10%に薄めても殺菌力があり、羊毛や獣毛の処理のときに、殺菌剤としても使われます。

ちなみに、病気には臭いがあることが分かっており、医療従事者からは様々な報告が上がっています。例えば、ガンは「ホルマリン固定された肉の臭い」、リュウマチは「独特の酸っぱい臭い」、糖尿病は「腐ったリンゴの臭い」、重度の鬱病は「埃っぽい臭い」、貧血は「アンモニア臭」がするといいます。「小便臭い小娘」という言い回しがありますが、思春期の女の子は生理が安定せずに貧血になることが多いため、あながち先人の知見は間違いではなかったということになります。

また、九州大学の廣津崇亮らの研究グループは、「ガンの臭い」に注目し、C・エレガンスという線虫によって、ガンの有無を高い精度で検診する方法を研究しています。廣津は線虫の嗅覚を長年研究しており、線虫がガンの臭いに対して、正の走性があることを発見したのです。線虫は、体長わずか1 mmほどの生物ながら、イヌの1.5倍の嗅覚受容体を持ちます。線虫には、好きな臭いに寄って行き、嫌いな臭いから逃げるという走性行動があり、反応を容易に調べられるのです。検診の方法は極めてシンプルで、シャーレに患者の尿を1滴垂らし、線虫がどのように反応するかを観察するだけです。尿を垂らしてから数十分経って、線虫が尿に集まっていれば「ガンの疑いが高い」、線虫が遠ざかれば「ガンの疑いが低い」というようになります。この検診では、ガンの種類までは特定できないものの、コストはわずか数百円程度であり、95.8%という極めて高い感度で診断できるといいます。この診断システムは、早期発見の難しい膵臓ガンを含む様々なガンを発見できるため、ガン診断にかかる時間やコストを大幅に削減できると考えられています。

また、ホルムアルデヒドHCHOは、木材の煙の中にもあって、食品をスモークして保存するとき、細菌除去の主役を演じる物質です。これらの作用の仕方として考えられるのは、タンパク質に必ずある-NH--NH2基とたちまち反応を起こし、隣り合ったタンパク質の分子鎖をつなぎ合わせ、その物質を硬くして、タンパク質の分子を不活性化することでしょう。煙が目に染みるには、この反応が起こるからです。これと同様な型の反応は、合成樹脂や接着剤の生産にも使われています(合成高分子化合物を参照)

新築の住居では、倦怠感や眩暈、頭痛、喉の痛みなどを伴うシックハウス症候群が起こることがあります。これは、接着剤や塗料などに含まれるホルムアルデヒドHCHOが原因であるとされています。

 

(ii)アセトアルデヒドCH3CHO

アセトアルデヒドCH3CHOは、特有の刺激臭・催涙性のある液体(m.p.-124, b.p.20)であり、重合しやすく、水や有機溶媒によく溶けます。エタノールC2H5OHを二クロム酸カリウムK2Cr2O7の硫酸酸性溶液で酸化するか、エタノールC2H5OHの蒸気を空気中で熱した銅Cuに触れさせると生じます。

体内では、アルコールデヒドロゲナーゼという主に肝臓にある酵素によって、エタノールC2H5OHから生産されます。身体の大きな人は、肝臓も大きいので、エタノールC2H5OHの代謝も、循環系から除去されるのも、速いのが普通です。アセトアルデヒドは、悪酔いや二日酔いの原因物質であり、日本人の約44%は、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性が弱いか欠けているため、お酒を飲むと顔が赤くなってしまいます。

また、アルコールデヒドロゲナーゼが作用するときは、エタノールC2H5OHと他のアルコールとの間で、競合が起こります。ワインやウィスキーには、種々のアルコールが含まれているため、エタノールC2H5OHと水H2O以外にはほとんど何も入っていないウォッカよりも、代謝が遅くなります。

 

3C2H5OH + K2Cr2O7 + 4H2SO4 → 3CH3CHO + Cr2(SO4)3 + K2SO4 + 7H2O

 

2Cu + O2 → 2CuO

C2H5OH + CuO → CH3CHO + H2O + Cu

 

また、工業的には、パラジウム-銅触媒を用いて、エチレンC2H4を選択的に直接酸化するワッカー酸化(Wacker oxidation)により、製造しています。

 

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.14  工業的なアセトアルデヒドCH3CHOの合成反応

 

工業的に製造されたアセトアルデヒドCH3CHOの約半分は、酢酸CH3COOHに酸化され、残りは防腐剤や還元剤などとして使用されています。

 

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.15  アセトアルデヒドCH3CHOの酸化による酢酸CH3COOHの合成反応

 

(5)ケトンの利用と合成

アセトンCH3COCH3は、最も簡単なケトンであり、無色の液体(m.p.-95, b.p.56)で、水とは任意の割合でよく混じり合います。また、有機化合物をよく溶かすので、有機溶媒としての用途もあります。

実験室的には、アセトンCH3COCH3は、酢酸カルシウム(CH3COO)2Caを乾留することで合成できます。ちなみに、乾留とは、空気を断った状態で熱して、熱分解をすることです。

 

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.16  酢酸カルシウム(CH3COO)2Caの乾留によるアセトンCH3COCH3の合成反応

 

工業的には、アセトンCH3COCH3は、クメン法(cumene process)でフェノールと同時に合成されます。他には、2-プロパノールCH3CH(OH)CH3の酸化でも得られます。

 

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.17  様々なアセトンCH3COCH3の合成反応

 

工業的に製造されたアセトンCH3COCH3の約30%は、直接使用されます。それは、アセトンCH3COCH3が完全に水と混じり合うだけでなく、多くの有機化合物(樹脂や塗料、染料、マニキュアなど)に対する、優れた溶媒であるからです。残りは、エポキシ樹脂の合成原料であるビスフェノールAなど、他の化学薬品の製造に用いられています。

 

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.18  ビスフェノールAの合成


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・参考文献

1) H.ハート/L.E.クレーン/D.J.ハート 共著「ハート基礎有機化学」培風館(1986年発行)

2) メートランド・ジョーンズ「ジョーンズ有機化学()」東京化学同人(2000年発行)

3) Peter W. Atkins/千原秀昭・稲葉章訳「分子と人間」東京化学同人(1993年発行)

4) 薬理凶室「悪魔が教える 願いが叶う毒と薬」三才ブックス(2016年発行)