・ミラクルフルーツで味覚実験


【目次】

(1) 実験操作

(2) 理論


(1) 実験操作

@ ミラクルフルーツを食べる前に、用意した食べ物(甘味・塩味・苦味・酸味)を味見する。

A ミラクルフルーツの果肉を舌にこすりつける様にして食べる。このとき、舌の両端や裏側にも、満遍なくこすりつけること。

B 用意した食べ物を食べ、味の変化を記録する。

C 用意した食べ物を乳鉢ですり潰し、純水を少量加える。

D Cの溶液BTB溶液を1滴加えて、色の変化を確かめる。

 

(2) 理論

「ミラクルフルーツ」とは、西アフリカ原産の「Richardella dulcifia」というアカテツ科の灌木の果実のことです。果実は、次の図.1のように赤くて長さは23 cm位で、蚕の繭のような形をしているのが特徴です。「ミラクルフルーツ」という名なので、一体どんな味がするのかと思いますが、果実自体には、ほとんど甘味がありません。しかし、ミラクルフルーツを23分ほど舐めたあと、酸っぱいものを食べると、「酸味」をあまり感じず、不思議と「甘味」が感じられます。例えば、ミラクルフルーツを食べてレモンを味わうと、甘いオレンジのような味になります。西アフリカの現地人は、昔から酸っぱいものを食べたり飲んだりする前に、この実を口にして、酸っぱい飲食物を甘い味に変えていたということです。

今回の実験では、生のミラクルフルーツを入手することはできなかったので、株式会社シェケーナが販売しているミラクルフルーツのタブレット(10粒で1,680)を、Amazonで購入して使用しました。

 

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高い精度で生成された説明

.1  「ミラクルフルーツ」を利用して商品化すれば、肥満や生活習慣病に悩む人々の体質改善に役立つかもしれない

 

用意した食べ物を乳鉢ですり潰し、純水を加えて溶液とし、そこにBTB溶液を加えます。BTB溶液の色の変化より、その食べ物がどんな性質を持っているのかが分かります。つまり、BTB溶液の色の変化から、「酸性」・「中性」・「塩基性」と「味覚」が、どのような関係にあるかを調べることができるのです。BTB溶液を加えると、「酸味」のある食べ物は「酸性」を示し、それ以外の味覚の食べ物は、「中性」もしくは「塩基性」を示すことが多いということが分かります。しかし、実際の食べ物は、単一の味覚だけでなく、複数の味覚を有することが多いです。そのため、BTB溶液だけでは、「酸性」・「中性」・「塩基性」と「味覚」の関係を、完全に明らかにするには不十分です。

ミラクルフルーツに含まれる「ミラクリン(miraculin)」というタンパク質は、その活性中心がヒトの「甘味受容体」に結合すると、酸性条件下で味細胞膜の構造を変化させます。すると、ミラクリンの活性中心が甘味受容体と結合できるようになり、酸性条件下であっても、強い「甘味」を誘導するようになるのです。研究によると、ミラクリンはわずか100 µgという微量で、「酸味」を12時間も「甘味」に変えるといいます。ミラクリンは、「酸味」だけを「甘味」に変化させるので、味覚の変化がある食べ物は、「酸味」を有する食べ物ということになります。そして、ミラクリンは酸性条件下でのみ甘味受容体に作用するので、ミラクリンを用いた実験からも、「酸性」と「酸味」に強い関係があることが分かります。

 事実として、「酸味」は、水素イオンH+ が味蕾細胞にあるイオンチャネルを通過することによって感じるということが分かっています。したがって、「酸味」は、食材の発酵や腐敗によって生じた酢酸、あるいは果物などに含まれるクエン酸などの、酸性を示す化合物で感じます。他には、乳酸やコハク酸、フマル酸、アスコルビン酸(ビタミンC)、リン酸などが「酸味」を呈し、食品添加物(酸味料)として応用されています。なお、学校の化学で習う塩酸や硫酸などの酸も、毒性はありますが、味わえばきちんと「酸味」を感じるはずです(おいしさの科学を参照)

 

ボトル, 室内, テーブル, 食べ物 が含まれている画像

非常に高い精度で生成された説明

.2  お酢の「酸味」は、酢酸分子が電離することによって生じる水素イオンH+ が引き起こす味覚

 

 ちなみに、2013年に愛知県蒲郡市の市立中学校に勤務する男性教諭が、理科の実験に失敗した罰として、2人の生徒に薄めた塩酸15 mLを飲ませるという事件が発生しています。飲んだ生徒のうち、1人は口に入れてすぐに吐き出したようですが、もう1人はすべて飲んだということです。塩酸を飲んだ生徒は、学校の調査に対して、「レモン水のように感じた」と話していたそうです。この事件からも、酸性の溶液は「酸味」を有するということが分かります。しかし、塩酸や硫酸などの酸は、飲用する目的では製造されていないため、間違っても飲用することのないように注意してください。


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・参考文献

1) 沢悟/栗原良枝 共著「味覚と高分子 甘味タンパク質および甘味誘導タンパク質の構造と機能」高分子456月号(1996年発行)