・液体窒素の性質
【目次】
(1) 実験操作
[演示実験1:花を冷却]
@ 乾いた雑巾の上に500 mLビーカーを置き、ゆっくりと液体窒素を注ぐ。
A 花弁全体を液体窒素に15秒間程度浸したあとに引き上げる。
B 液体窒素が残らないようによく振ったあと、花弁を軽く握る。
[演示実験2:コピー用紙を冷却]
C 四つ折りにしたコピー用紙を@の液体窒素に10秒間程度浸したあとに引き上げる。
D 液体窒素が残らないようによく振ったあと、コピー用紙を広げて軽く握る。
E 別のコピー用紙を四つ折りにしたあと、水道水でよく濡らす。
F 濡らしたコピー用紙を@の液体窒素に10秒間程度浸したあとに引き上げる。
G 液体窒素が残らないようによく振ったあと、コピー用紙を広げて軽く握る。
[演示実験3:風船を冷却]
H 膨らませた風船を@の液体窒素に浸す。
I 風船を引き上げて様子を観察する。
J 透明なポリ袋に空気を入れ、同様に液体窒素で冷却する。
[演示実験4:消しゴムを冷却]
K 消しゴムを@の液体窒素に1分間浸す。
L 冷やした消しゴムを机の上に置き、500 mLビーカーを被せて観察する。
[演示実験5:マイスナー効果]
M 塩化ビニル製ピンセットで磁石をつかみ、超伝導物質が磁石に感じないことを確かめる。
N 断熱トレイの中心の高台(発泡ポリウレタン)が半分以上浸る程度まで液体窒素を注ぐ。
O 超伝導物質を断熱トレイの液体窒素に浸し、20秒程度待つ。
P 超伝導物質を高台に載せ、塩化ビニル製ピンセットで磁石(サマリウムコバルト磁石・ネオジム磁石)を超伝導物質の中央に置く。磁石はマイスナー効果(反磁性)により浮かび上がる。
※ 実験終了後、超伝導物質表面に付着した水分を除去してよく乾燥させること。結晶構造が変わり、超伝導の性質が失われる原因となる。
[実験1:ライデンフロスト効果の体験]
Q 液体窒素を少量100 mLビーカーに取る。
R Qのビーカーを傾け、液体窒素を机の上に少しだけこぼす。
S 手にQの液体窒素を少しだけかける(衣服に液体窒素がかからないように注意すること)。
[実験2:液体窒素で冷却したマシュマロを食べる]
㉑ マシュマロに竹串を刺し、Qの液体窒素に5秒間程度浸したあとに引き上げる。
㉒ 液体窒素が残らないようによく振ったあと、マシュマロを食べる。
(2) 理論
液化した窒素N2は、液体空気の分留により、工業的に大量に製造されています。ちなみに分留とは、2種類以上の液体の混合物から、各成分物質の沸点の差を利用して、各成分物質を分離・回収する操作のことです。液体窒素は-196℃で沸騰し、-210℃で固化する大変冷たい液体で、1877年に初めて作られました。液体窒素は-196℃を保つ冷却材として、卵子や精子などの生物試料の凍結保存に利用されます。
図.1
液体窒素の温度は-196℃の低温である
演示実験1では、花を-196℃の液体窒素に浸して凍結させます。このとき、花はバラなどの花弁が肉厚なものが実験に適しています。凍結した花弁を軽く握ると、花弁はバラバラに砕け散ります。演示実験2では、四つ折りにしたコピー用紙を液体窒素に浸します。しかし、乾燥したコピー用紙は水分がないので凍りません。水道水で濡らしたコピー用紙を液体窒素に浸した場合は、水分が凍結して氷になるので、コピー用紙を広げて軽く握ると、ボロボロとコピー用紙が砕け散ります。
演示実験3では、膨らませた風船を液体窒素に浸します。気体は温度が下がると体積が小さくなる性質があるので、液体窒素に浸した風船はしぼんでいきます。しかし、風船を引き上げて常温に戻すと、凝縮した空気が再び蒸発して気体となるので、風船は元通りになります。
図.2
「シャルルの法則」より、気体の体積は温度が下がると小さくなる
演示実験4では、消しゴムを液体窒素で冷却します。冷却した消しゴムを常温に戻し、しばらく観察すると破裂します。消しゴムに含まれるポリ塩化ビニルの熱伝導率はかなり低く、液体窒素で冷却すると、ゴムの外側は冷える一方、内側からは熱が移動しないのでそれほど冷えません。ゴムは温度が下がると硬くなって収縮しますが、内側は常温なので収縮する力に対して反発します。硬くなった外側は、その反発した力に耐えることができずに爆発するという訳です。
演示実験5では、「マイスナー効果(Meissner effect)」を観察します。磁石のまわりには磁界がありますが、そこに超伝導物質を近付けるとファラデーの「電磁誘導の法則」により、超伝導物質の表面に電流が流れます。電流の流れる方向は、「レンツの法則」により外の磁界を打ち消す方向です。超伝導物質は抵抗が0のため、そこに流れる電流は永久に流れます。そのため、この電流によって起きる磁界は、外からの磁界が超伝導物質の中に入るのを阻害するように働きます。このような性質を「反磁性(diamagnetism)」といいます。超伝導物質は電磁石になり、磁石の極性と同じ極性で、鏡のように向き合い反発し合います。したがって、磁石を浮かび上げることになり、逆に大きな磁石の上で超伝導物質を浮かばせることもできます。
図.3
「マイスナー効果」により浮遊する磁石
実験1では、液体窒素を手にかける体験をします。液体窒素の沸点は-196℃で、かなりの低温なので、手にかかるとすぐに凍傷になる気がします。しかし、実際には液体窒素に数秒触れただけでは、ほとんど冷たさすら感じません。この現象は、1756年に初めてこれを研究したヨハン・ゴットロープ・ライデンフロストの名にちなんで、「ライデンフロスト効果(Leidenfrost
effect)」と呼ばれています。
ライデンフロスト効果は、身近なところでも観察することができます。例えば、高温に熱したフライパンに水滴を垂らすと、水滴は瞬時に蒸発することはなく、水滴はフライパンの上をコロコロと転がるように横滑りします。これは、液体がその沸点よりもはるかに高温に熱された固体に触れると、蒸気気体の被膜が液体と固体の間に生じて、液体が固体に直接接することを妨げ、熱伝導を遅らせるためです。そして、実はこれと同じような現象が、液体窒素と手の間にも起こっているのです。液体窒素の沸点(-196℃)に比べると、手の温度(約36℃)ははるかに高温です。液体窒素に手を突っ込んだ瞬間、生じた気体窒素の被膜が皮膚表面に生じて熱伝導を遅らせるため、凍傷には至らないのです。ただし、ライデンフロスト効果は熱伝導を遅らせるだけなので、手を突っ込むのは1〜2秒に留めておいた方がいいと思います。
図.4 液体窒素に手を突っ込んでも凍傷を起こさない
実験2では、液体窒素で冷却したマシュマロを試食します。冷やされたマシュマロはアイスクリームのような食味で、口から白煙を噴き出しながら食べることができます。マシュマロは分散質が気体の固体コロイドで、内部に空気を多く含んでいて熱伝導率が低いです。そのため、マシュマロの表面は凍り付いても内部は常温のままなので、凍傷を起こさず安全に食べることができます。ただし、マシュマロ以外の食品を凍らせて食べるのは危険です。口の中の水分が凍って、凍傷を起こす危険性があるからです。
図.5
液体窒素で冷却したマシュマロ