・第13族元素(ホウ素族元素)
(1)第13族元素
周期表において、第13族に属するホウ素B・アルミニウムAl・ガリウムGa・インジウムIn・タリウムTlなどの元素を、総称して「ホウ素族元素」といいます。ホウ素族元素の原子は、最外殻電子配置がns2npである元素(n=2,3,4・・・)です。3個の価電子を失って、希ガスと同じ電子配置を作って安定化するため、+3のイオン価を持つ陽イオンが広く知られています。
ただし、ホウ素族元素のうち、ホウ素Bのみが安定な陽イオンを形成せず、もっぱら共有結合化合物を形成します。これは、主にホウ素Bの原子半径およびイオン半径が、他のホウ素族元素と比べて、非常に小さいことに起因します。ホウ素Bの最外殻電子は、強く原子核に引き付けられており、ホウ素Bの関与する化学結合では、電子はホウ素Bにかなりの割合で引き寄せられ、化学結合は共有結合性をかなり帯びることになるのです。他のアルミニウムAlやガリウムGa、インジウムIn、タリウムTlなどは、金属としての性質を示し、岩石中に広く分布することから、これらの4元素は「土類金属」と呼ばれます。
表.1 第13族元素の主な性質
化学式 |
融点 (℃) |
密度 (g/cm3) |
共有結合半径 (nm) |
第一イオン化エネルギー (kJ/mol) |
B |
2,349 |
2.08 |
0.082 |
800.6 |
Al |
933 |
2.70 |
0.118 |
577.5 |
Ga |
303 |
5.91 |
0.126 |
578.8 |
In |
430 |
7.31 |
0.144 |
558.3 |
Tl |
577 |
11.85 |
0.148 |
589.4 |
(2)ホウ素
元素としての「ホウ素(boron)」は、金属元素と非金属元素の中間的な性質を示すことから、「半金属元素」と総称される元素の一種として位置付けられます。そのため、単体のホウ素Bは、半導体として働きます。銀Agや銅Cuなどと比べると、10〜12倍も電流が流れにくいのですが、金属とは逆に、温度が上がると電気伝導性が高くなります。ホウ素Bは、安定した共有結合を形成するという点では、同じ第13族元素であるアルミニウムAlやガリウムGaなどの金属元素よりも、むしろ炭素Cやケイ素Siと類似した性質を示します。
ホウ素Bの単体は、常温常圧で金属光沢を持った黒色の非金属固体です。ホウ素B同士の結合は共有結合性が強いため、自由電子として導電性に寄与できる電子が少なく、導電性はあまり大きくありません。
図.1 ホウ素の単体は化学的に不活性であり、耐酸性が強く、フッ化水素酸HFにも侵されない
ホウ素の化合物は、通常+3の酸化状態を取ります。これらには、酸化物や硫化物、窒化物及びハロゲン化物などが含まれます。ハロゲン化物には、三フッ化ホウ素BF3や三塩化ホウ素BCl3などの三ハロゲン化ホウ素があり、いずれもハロゲンが正三角形の頂点を占め、その中心にsp2混成したホウ素原子が存在します。それらの化合物は、ホウ素原子上に6個の電子しか持たないため、オクテット則を満たしておらず、ルイス酸として働き、ルイス塩基のような電子供与体と即座に反応します。例えば、三フッ化ホウ素BF3は、フッ化物イオンF- と反応して、テトラフルオロホウ酸イオンBF4- を与えます。
図.2 三フッ化ホウ素BF3では、ホウ素Bはsp2混成軌道を作っている
また、ホウ素Bと窒素Nを化合させると、周期表で両者の間に位置する炭素Cに似た結晶ができます。窒化ホウ素BNは、ダイヤモンドやカーボンナノチューブを含む炭素Cの同素体に似た構造を取ります。ダイヤモンド様の構造をした窒化ホウ素BNは、「立方体晶窒化ホウ素」と呼ばれます。立方体晶窒化ホウ素では、ホウ素原子と窒素原子は、ダイヤモンドの正四面体構造における炭素原子の位置に交互に存在しています。なぜこのような構造を取れるのでしょうか?
それぞれの原子が共有結合を4本作るとき、ホウ素原子は電子対が1対足らず、窒素原子は電子対が1対余ります。このため、ホウ素原子と窒素原子の間には配位結合が形成され、この結合は形成方法が異なるだけで、性質は共有結合と同等です。その結果として、ホウ素原子も窒素原子も共有結合を4本ずつ持つことになり、ダイヤモンド様の構造を取ることができるのです。立方体晶窒化ホウ素の結晶は、ダイヤモンドに近い硬度を持ち、ダイヤモンドよりずっと安価で、優れた耐熱性があります。そのため、立方体晶窒化ホウ素は、鋼鉄製品の研磨剤として、広く産業用に使用されています。
図.3 「立方体晶窒化ホウ素」は、硬化鋼を切削する工作機械の刃に使われる
(3)アルミニウム
「アルミニウム(alminium)」は、地殻中に酸素Oとケイ素Siに次いで多く存在する元素で、金属元素では最も多く存在しています。原子は、価電子を3個持ち、3価の陽イオンになりやすいです。元素としてのアルミニウムAlは、両性として作用することが大きな特徴です。例えば、白色ゲル状の水酸化アルミニウムAl(OH)3が沈殿しているpH=6付近の水溶液に、酸を加えると沈殿は溶解し、塩基を加えても沈殿は溶解します。このような水酸化物は、「両性水酸化物」と呼ばれ、そのイオンは「両性イオン」と呼ばれます。
Al(OH)3 + 3H+ → Al3+(無色) + 3H2O
Al(OH)3 + OH- → [Al(OH)4]- (無色)
アルミニウムAlは、冷水や熱水とは反応しません。しかし、高温水蒸気とは反応して、水素H2を発生します。反応で生成した水酸化アルミニウムAl(OH)3は、高温では不安定なので、直ちに脱水して酸化アルミニウムAl2O3の形となります。酸化アルミニウムAl2O3は、「アルミナ」とも呼ばれます。また、アルミニウムAlは「両性金属」なので、酸にも塩基にも溶解します。
2Al + 3H2O → Al2O3(白) + 3H2
2Al + 6HCl → 2AlCl3(無色) + 3H2
2Al + 2NaOH + 6H2O → 2Na[Al(OH)4](無色) + 3H2
アルミニウムAlの単体は、銀白色の金属であり、常温常圧で優れた熱伝導性と電気伝導性を持ちます。さらに、軽量で加工性が良く、機械的特性や化学的耐久性などに優れているため、容器や建材、家庭用品、自動車や航空機の部品など、幅広く利用されています。19世紀では、アルミニウムAlを大規模に製錬する技術がなかったため、アルミニウムAlは金Auよりも高価でしたが、今では庶民的な金属です。1885年のパリ万国博覧会では、アルミニウムAlの延べ棒は、「粘土からの銀」と銘打たれ、宝石を散りばめた王冠と並べて展示されていました。これを見たナポレオン3世は、軽い素材であるアルミニウムAlが軍事に役立つのではないかと考え、パリ郊外にアルミニウムAl製造する工場を建設させます。ここで製造されたアルミニウムAlで、ナポレオン3世は自分の衣服のボタン、扇、皇太子のための玩具などを製造させました。ナポレオン3世は、最高の賓客をアルミニウムAlの食器で饗応し、それに次ぐ身分の者には、金Auや銀Agの食器でもてなしたといいます。
図.4 ナポレオン3世はアルミニウムAlの持つ可能性に魅了され、アルミニウム製品を愛好していたという
意外に思うかもしれませんが、アルミニウムAlは、熱力学的には鉄Feよりも酸化されやすい金属です。しかし、空気中では、表面にできた薄い酸化アルミニウムAl2O3の被膜により、内部が保護されるようになるため、内部は鉄Feよりもずっと侵されにくくなります。鉄Feは、赤褐色の酸化被膜が表面に生じて、それがボロボロと剥がれ落ちるため、内部の鉄Feがまたすぐに酸化されます。
アルミニウムAlに濃硝酸HNO3を反応させると、表面に酸化アルミニウムAl2O3の緻密な酸化被膜を生じて、反応の進行を停止させます。このような状態を、「不動態(passivity)」といいます。アルミニウムAlを陽極として、電気分解により人工的に不動態にしたものは、「アルマイト」と呼ばれます。アルマイトを利用した家庭用製品には、弁当箱や鍋、やかん、灰皿などがあります。アルマイトは、建材や電車、航空機の内装品などにも幅広く利用されています。
図.5 不動態である「アルマイト」は非常に硬質であり、酸や塩基に対しても耐久性がある
アルミニウムAlの有名な合金としては、「ジュラルミン」があります。ジュラルミンは、アルミニウムAlに銅CuやマグネシウムMgを混ぜた合金のことです。軽量ながら高い強度を示すことから、航空機の材料などに用いられます。ただし、ジュラルミンは金属疲労に弱く、腐食もしやすいという欠点も持つため、航空機などでは、十分な点検体制を取ることが求められています。また、鉄道車両でも、新幹線をはじめとして特急型電車や通勤型電車などで、アルミ車体の採用例も多いです。アルミニウムAlの用途は非常に幅広いですが、大抵はこのようなアルミニウム合金としての利用であり、1円玉のようなほぼ100%アルミニウムAlのものは、むしろ稀な存在といえます。
図.6 航空機の材料には、「ジュラルミン」が使用される
金属のアルミニウムAlは、酸素O2との親和性が非常に大きく、アルミニウムAlを強熱すると、多量の熱や強い光を伴って燃焼し、酸化アルミニウムAl2O3の白色粉末になります。そこで、鉄FeやクロムCr、マンガンMn、コバルトCoなどの酸化物に、アルミニウムAlの粉末を混合して、熱源を供給します。すると、アルミニウムAlは金属酸化物を還元する一方、自らは酸化アルミニウムAl2O3に酸化されます。そして、アルミニウムAlに還元されて生成した金属は、発生する熱により融解して、冷却後には、塊状で取り出すことができます。このようにして金属を得る方法を、「テルミット法(thermite process)」といいます。
4Al + 3O2 → 2Al2O3(白)
2Al + Fe2O3 → 2Fe + Al2O3
(2Al + Fe2O3 = 2Fe + Al2O3 + 853 kJ)
アルミニウムAlの単体は、工業的には、天然に存在する「ボーキサイト」から得られます。このボーキサイトには、約40〜70%の酸化アルミニウムAl2O3が含まれているのですが、酸化鉄(III) Fe2O3や二酸化ケイ素SiO2などの不純物も含まれているので、まずはこれからアルミニウム成分を取り出さなくてはなりません。それには、アルミニウムAlが、水酸化ナトリウムNaOH水溶液に溶けるという性質が使われます。一方で、鉄成分やケイ酸成分は、水酸化ナトリウムNaOH水溶液には不溶なので、沈殿として除かれます。
Al2O3 + 3H2O + 2NaOH → 2Na[Al(OH)4](無色)
そして、この水溶液に二酸化炭素CO2を加え、pHを小さくしていくと、再びアルミニウム成分が、水酸化アルミニウムAl(OH)3として沈殿してきます。
[Al(OH)4]- → OH- + Al(OH)3↓(白)
この水酸化アルミニウムAl(OH)3の沈殿を焼成すると、脱水して水H2Oが抜けて、純粋な酸化アルミニウムAl2O3となります。この酸化アルミニウムAl2O3を溶解塩電解することで、純粋なアルミニウムAlが得られるのです。
2Al(OH)3 → Al2O3(白) + H2O
ところが、この酸化アルミニウムAl2O3の融点は約2,000℃と高温であり、このままでは融解が困難です。そこで、約1,000℃の融点を持つ氷晶石Na3AlF6をまず融解し、液化した氷晶石Na3AlF6を溶媒にします。液体の氷晶石Na3AlF6に酸化アルミニウムAl2O3を少しずつ混合して溶かし、凝固点降下により、約950℃で融解するようにしていきます。このようにすることで、より低い温度で電気分解をすることができるのです。
ちなみに、氷晶石Na3AlF6は、1799年にグリーンランドで初めて発見されました。最初は「融けない氷」と考えられ、外観が氷にそっくりであったことから、この名前が付けられました。世界的にも、氷晶石Na3AlF6がまとまって産出するのはグリーンランドだけであり、グリーンランドは氷晶石Na3AlF6の輸出により、莫大な富を得ました。
図.7 氷晶石Na3AlF6は、発見当初は「融けない氷」と考えられ、外観が氷にそっくりであったことから、この名前が付けられた
なお、酸化アルミニウムAl2O3を電解するときの電極には、炭素棒を使用します。陽極では、炭素棒が反応して、一酸化炭素COや二酸化炭素CO2が発生します。800℃以上の高温では、一酸化炭素COの方が生成しやすいです。陽極の炭素棒は次第に消耗するので、絶えず補給する必要があります。この精製方法は、アメリカのチャールズ・マーティン・ホールとフランスのポール・エルーが、ほぼ同時期にそれぞれ独自に開発した方法であり、一般的に「ホール・エルー法(Hall-Heroult process)」と呼ばれます。ホール・エルー法の問題点は、融解および電気分解で、大量の電気を消費することです。この原因は、アルミニウムイオンAl3+ のイオン価が比較的大きく、原子量が小さいことによります。このため、アルミニウムAlを還元して得るためには、大量の電気が必要となり、またイオン化傾向が大きいことで、分解電圧も高くなってしまうのです。そのため、アルミニウムAlは、「電気の缶詰」と呼ばれることもあります。それ故、アルミニウムAlのリサイクルは重要であり、リサイクルによって必要なエネルギーは、ホール・エルー法の約3%になるという計算があります。
(陰極) Al3+ + 3e- → Al
(陽極) O2- + C → CO + 2e- または 2O2- + C → CO2 + 4e-
図.8 「ホール・エルー法」により、アルミニウムAlの単体を得る
実は、このホールとエルーには、奇妙な境遇があります。彼らは、共同研究でこの製法を発見した訳ではありません。互いに遠く離れた国に生まれ、面識もなかったのですが、いずれも1863年に生まれ、1886年に23歳で、ほぼ同じアルミニウムAlの精錬法を見出しているのです、しかも、ともに1914年に亡くなっているというのだから驚きです。このように、科学の世界においては、同じような発見が、全く違う場所で、ほぼ同時になされるという偶然がよく起こります。アルミニウムAlに関する知識の蓄積、発電所の整備と普及による豊富な電力供給といった条件が揃ったことが、その背景にあるのでしょう。
図.9 アメリカの化学者チャールズ・マーティン・ホール(左)とフランスの化学者ポール・エルー(右)
「ルビー」や「サファイア」は、それぞれ酸化クロム(III) Cr2O3や酸化チタンTiO2などの不純物を微量に含む、酸化アルミニウムAl2O3の結晶です。これらのモース硬度は9で、ダイヤモンド(モース硬度10)に次ぐ硬さを持ちます。これらは、高い硬度を生かして研磨剤として用いられたり、美しい宝石として用いられたりします。酸化アルミニウムAl2O3は両性酸化物なので、酸にも塩基にも反応します。しかし、ルビーやサファイアのように綺麗な結晶になっている酸化アルミニウムAl2O3は、アルマイトと同様、酸にも塩基にも反応しにくいです。
図.10 「ルビー」(左)と「サファイア」(右)は、酸化アルミニウムAl2O3を主成分とする宝石である
硫酸アルミニウムカリウム12水和物AlK(SO4)2・12H2Oは、一般的に「ミョウバン」と呼ばれます。ミョウバンAlK(SO4)2・12H2Oは、硫酸アルミニウムAl2(SO4)3と硫酸カリウムK2SO4の混合水溶液を、ゆっくり冷やすことで得られる無色透明の正八面体結晶です。これを水に溶かすと、アルミニウムイオンAl3+とカリウムイオンK+、硫酸イオンSO42- の各イオンに電離します。また、その水溶液は、アルミニウムイオンAl3+ が水H2Oと反応して、ヒドロキシアルミニウムイオン[Al(OH)]2+ を作り、プロトンH+ を生じるために、弱酸性を示します。
AlK(SO4)2・12H2O → Al3+ + K+ + 2SO42- + 12H2O
Al3+ + H2O ⇄ [Al(OH)]2+ + H+
ミョウバンAlK(SO4)2・12H2Oのように、複数の塩が結合した化合物で、水に溶けると個々の成分イオンに電離するものを、「複塩(double salt)」といいます。また、ミョウバンAlK(SO4)2・12H2Oは、加熱すると無水物AlK(SO4)2になり、これを「焼きミョウバン」といいます。ミョウバンAlK(SO4)2・12H2Oには、染色剤や沈殿剤などの用途があり、古代ローマ時代から使われてきました。温度変化により、溶解度が大きく変わる性質があり、溶解度曲線や単結晶生成の化学実験によく使用されます。
図.11 「ミョウバン」の正八面体結晶
なお、アルミニウムAlは、アジサイの花の色にも影響を与えます。アジサイは、花色が七変化するといわれ、「七変化」の別名があります。「七変化」を辞書で引くと、「アジサイの別名」という記載があるほど、アジサイの花色は変わりやすいのです。アジサイに含まるアントシアニンは、アルミニウムイオンAl3+ があると、錯体を形成して青色を呈し、アルミニウムイオンAl3+ がないときは、赤色を呈します。アルミニウムAlは、酸性土壌でよく溶け、アルカリ土壌ではあまり溶けません。つまり、酸性の土壌では青色になり、中性〜弱塩基性の土壌では赤色になるのです。アジサイを青色にしたい場合は、土壌に酸性の肥料とミョウバンAlK(SO4)2・12H2Oを与えます。花1 g当たりに含まれるアルミニウムAlの量が、およそ40 µg以上になると、青色になるという研究結果があります。ちなみに、白色系のアジサイは色素を持たない品種なので、土壌のpHにはあまり影響されません。
図.12 青色のアジサイは、酸性の土壌で咲きやすい
・参考文献
1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/他19名「化学」啓林館(2012年発行)
2) セオドア・グレイ「世界で一番美しい元素図巻」創元社(2011年発行)
3) 平尾一之/田中勝久/中平敦「無機化学」東京化学同人(2013年発行)
4) 左巻健男「面白くて眠れなくなる元素」PHP研究所 (2016年発行)
5) 吉村忠与志「知るほどハマル!化学の不思議」技術評論社(2007年発行)