・ゲルマニウムの科学


【目次】

(1)「ゲルマニウムブーム」の再来

(2) 「ゲルマニウムブーム」はいつ終わるのか


(1)「ゲルマニウムブーム」の再来

 誰が最初に言い出したのか分かりませんが、日本では、未だに「ゲルマニウムが健康を増進する」として、ゲルマニウムを使った様々な健康器具類が販売されています。ゲルマニウムは「鉛」に近い化学的性質を持ち、基本的に化合物はすべて「有毒」です。ゲルマニウムが人体への「健康効果」を持つ科学的根拠は確認されておらず、これら健康器具類の購入者および使用者は、ゲルマニウムによる健康への効果を、期待するべきではないとされています。具体的に「貧血に効果がある」、「金属ゲルマニウムを身に付けることで疲れが取れる」、「新陳代謝を活発にする」、「ガンに効く」などといった効能がうたわれることがありますが、ゲルマニウムにこのような効能・効果があることは、医学的に証明されていないだけでなく、医薬品でも医療機器でもないゲルマニウムに、このような効能・効果があると表示することは、「医薬品医療機器等法(旧薬事法)」に抵触する恐れがあることが、国民生活センターによって指摘されています。ゲルマニウムによる治療・予防・改善効果をうたうことができる医薬品及び医療機器は、現在日本においては認められておらず、中には販売していた業者が逮捕されたケースもあります。

 

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.1  「ゲルマニウム」の結晶は、「半導体」に用いられる

 

 さらに、国民生活センターが、健康に良いとして販売されている「ゲルマニウムブレスレッド」12銘柄を対象に調査を実施したところ、ベルト部分にゲルマニウムが含まれていたものは一切なく、そのうち7銘柄は、黒色あるいは金属の粒部分にゲルマニウムが「微量」含まれていただけであったといいます。また、ゲルマニウムによる健康増進効果を示す学術論文は見当たらず、販売業者にアンケートを行ったものの、信頼できる根拠を示せた会社はなかったとの結果が発表されています。ここまでくると、ゲルマニウムに「健康効果」があるかどうかという問題ではなく、もはや「詐欺」に近い商法であるといえます。ガンが治るとまで主張したゲルマニウム製品もありますが、やはりこれも限りなく怪しく、医薬品医療機器等法(旧薬事法)に抵触する可能性が高いものです。

 

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.2  「体内の酸素を豊富にし、細胞を若返らせる」というゲルマニウム製ブレスレッド

 

 「ゲルマニウムブーム」は、もともと1970年代に、「ゲルマニウムがガンや糖尿病などの現代病に効く」という触れ込みで登場したものでした。さらに、これがイギリスにも飛び火し、「エイズに効く」などという売り文句で、販売拡大していきました。しかし、1979年になって、ゲルマニウム含有サプリメントが原因となった「急性腎不全」が確認されました。その後、確認されているだけで、国内で11人が死亡、45人が重軽度の中毒症状を患ったと報告されています(このデータは、1992年時点のものなので、現在はもう少し増えていると思われます)。こうした状況を受け、行政もようやく重い腰を上げ、1980年代に業者に対して指導がなされ、一段落したかに思われました。

しかし、2004年辺りからの健康ブームに便乗して、また「ゲルマニウムブーム」が再来したのです。199810月には、厚生労働省が各都道府県に対して、ゲルマニウム含有食品についての注意喚起を行っていたにもかかわらず、未だにインターネットでは、ゲルマニウム含有サプリメントが堂々と販売されています。

 

(2) 「ゲルマニウムブーム」はいつ終わるのか

 ヒトの体にゲルマニウムが必要なのかどうかは、まだ証明されていません。また、「摂取不足」によりどんな影響が出るかなどの報告も、現時点では見当たらず、「食事摂取基準」も定められていません。私たちは、普段の生活の中で、わずかなゲルマニウムを摂取していますが、そのほとんどは「食品由来」です。食品から摂取された「無機ゲルマニウム」は、体内で吸収されやすく、全身に広く分布し、「脾臓」に最も高濃度に存在します。無機ゲルマニウムには、生死に関わるような「副作用」があり、1970年代後半からの「ゲルマニウムブーム」にて、当初から無機ゲルマニウムの飲用は、不可逆的な「腎障害」を引き起こすとの研究結果が、すでに報告されていました。過去の「ゲルマニウム中毒」の例を紹介しましょう。例えば、1991年の中毒事件は、次のようなものです。

 

「ある母親が、ゲルマニウム含有サプリメントを生後10カ月の自分の子供に与えたところ、3歳頃から歩行不安定になり、転びやすく、怪我をよくするようになった。母親は、発達が良くないからだと思い込み、ゲルマニウムをさらに増やし与えると、良くなるどころか、食欲不振や四肢の衰え、痺れが続き、さらに言語発生も不明瞭になり、遂には食べ物を飲み込むこともできなくなった。子供は嘔吐を繰り返すようになり、入院した。しかし、その時点ですでに手遅れであり、処置の甲斐なく、入院後17日で死亡した。」

 

 「ゲルマニウム中毒」は、急性的には35250 mg、慢性的には15300 g2カ月から36カ月以内に摂取すると、主に「死に至る中毒」になることが分かっています。ゲルマニウムを代謝できるのは11 mg程度で、それ以上では蓄積が始まり、じわじわと体を蝕んでいきます。初期症状では、全身倦怠感や吐き気、食欲不振、四肢の痺れなどが現れ、ただ単に「疲労が溜まっているのか」と勘違いすることも多いです。仮に血液検査などを行っても、腎臓に関係する数値(血清クレアチン値、尿素窒素値、尿酸値など)に全面的な異常値が出ますが、血尿や乏尿などの自覚症状がほとんどないことから、一時的なものとして見過ごされやすいです。その後、ほぼ全患者で、貧血(正球性正色素性貧血)が起きます。筋力低下が起こる頃には、血中クレアチンキナーゼの値が異常になります。そして、歩行困難やふらつき、発汗異常、勃起不全などが起こります。これが続くと、さらに広範囲な神経障害へとつながっていきます。そして末期では、障害は脳へと及び、動眼神経や三叉神経、舌下神経にも症状が現れ、言語発生不能に陥ります。

 このように、ゲルマニウムは長期間かけて体に異常を起こすせいで、「ゲルマニウム含有サプリメント」が原因だと思われず、かなりの被害を出しています。潜在的な被害者はもっといるでしょうが、商品自体が決して安いものではなかったので、長期服用に至らず、目立った症状が出ずに助かった人も多かったかもしれません。

 

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.3  未だにゲルマニウムのサプリメントが、インターネットで販売されている

 

現在では、「有機ゲルマニウム」というのも出ていて、「無機ゲルマニウムには毒性があるが、有機ゲルマニウムは安全である」と説明しているホームページもあります。しかし、たとえ有機ゲルマニウムであろうとも、経口摂取による健康障害や死亡例が報告されているため、絶対的な安全性は確立されていません。また、「有機ゲルマニウムは体内の酸素循環の活性化に寄与し、それによって生命活動が活発になり、万病を癒す」と説明しているホームページもありますが、有機ゲルマニウムの摂取によって、体内の酸素循環が活性化されるという科学的研究報告はほとんどなく、それらは独自に構築した理論に過ぎません。一部の健康食品には、毒性のある無機ゲルマニウム化合物が残存しているケースも報告されており、積極的に摂るべき理由は何もありません。

最近では、「ゲルマニウム温浴」というものも流行していますが、こちらの効果にも疑問符が付きます。有機ゲルマニウムを溶かしたお湯に手足を浸すことで、ゲルマニウムが血液内に浸透し、これが発汗を促すなど新陳代謝を活発にするそうです。しかし、有機ゲルマニウムは構造的に見て、皮膚から浸透する可能性は低いと思われます。また、「ゲルマニウムは半導体であるためにここから電子が飛び出し、体の電位バランスを整える」といった説明もありますが、有機ゲルマニウムは半導体としての性質を持ちません。「塩酸」と「食塩」が全く別物であるように、同じ元素を含んでいても、化合物によって性質はまるで異なるのです。言われているような効果が有機ゲルマニウムにあるとは考えにくく、単に手足を温めることで、血行が良くなっているだけと思われます。

 

.4  ゲルマニウム温浴の効果には、科学的根拠が全くない

 

有機ゲルマニウムの中で、唯一「医薬品」として認められているものに、ウイルス性のB型慢性肝炎の治療薬として使われる「プロパゲルマニウム」がありますが、前述のような健康障害や死亡などの危険性があり、消化器系の各種症状(腹痛や下痢など)、鬱、月経異常、脱毛などの「副作用」があるといいます。ある有機ゲルマニウム製剤の経口投与により、ガンに効果があったという研究もありますが、こちらも不明瞭の域を脱しているとはいえず、臨床試験に携わった多くの研究者たちによって、その危険性を提示されています。現在、プロパゲルマニウム以外の有機ゲルマニウムについては、その有効性の科学的根拠は、ほとんど見付かっていません。

 

.5  「プロパゲルマニウム」は、B型慢性肝炎の補完代替治療として用いられる

 

国立健康・栄養研究所は、「ゲルマニウムのサプリメントとしての経口摂取は恐らく危険と思われ、末梢神経や尿路系の障害を起こし、重篤な場合には死に至ることがある」として、注意を呼びかけています。専門家の間では、ゲルマニウム含有サプリメントに医学的な「有効性」がほとんどないことは、すでに周知されています。しかし、世間一般では、まだこのことがあまり知られていません。「ゲルマニウムブーム」は、一体いつ終わるのでしょうか。


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・参考文献

1) 薬理凶室「アリエナイ理科ノ教科書VC」三才ブックス(2009年発行)

2) 鈴木勉「毒と薬【すべての毒は「薬」になる!?】」新星出版社(2015年発行)

3) 船山信次「毒の科学-毒と人間のかかわり-」ナツメ社(2013年発行)

4) 左巻健男「エセ科学を見抜くセンス」新日本出版社(2015年発行)

5) 山崎幹夫「面白いほどよくわかる 毒と薬」日本文社(2004年発行)