・結晶化学


(1)金属結晶

金属の陽イオンが規則正しく配列し、その間を自由電子が動き回りながら、これらがクーロン力で結びついている結晶を、「金属結晶」といいます。金属の自由電子は、結晶内を自由に動き回って、このことが結合の安定性をもたらしているのです。

一般的に金属は光沢を持ちますが、これは可視光が自由電子により、反射散乱されるためです。また、金属は優れた電気伝導性と熱伝導性を持ちますが、これも自由電子に起因する性質です。自由電子は、電荷や熱の優れた運び手となるのです。

さらに、金属は外部から力を加えても、変形するだけで割れないため、二次的に薄く箔状に広げられる性質(展性)や、一次的に細長く線状に引き延ばされる性質(延性)があります。これは、金属を叩くことによって結晶の層がずれて原子が移動しても、自由電子が接着剤のような役割をして、金属結合を保つためです。

 

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.1  金属結合による展性と延性

 

金属の融点は様々ですが、一般的に典型元素の金属単体の融点は比較的低く、遷移元素の金属単体の融点は高い傾向にあります。遷移金属の結晶における原子の大きさは、同周期のアルカリ金属やアルカリ土類金属に比べると小さく、遷移元素はd軌道やf軌道のように外部に広く分布する電子が金属結合に参加するため、金属結合が強固になって、融点が高くなるのです。なお、金属の中でも水銀Hg(m.p.-39)は、常温で液体であることが有名ですが、ガリウムGa(m.p.30)やセシウムCs(m.p.28)も、夏場の室温では融解して、液体になる金属です。

純物質の固体で、構成粒子が規則正しく配列しているものを「結晶(crystal)」といいます。また、結晶内の粒子の配列を示したものが「結晶格子(crystal lattice)」であり、粒子配置の繰り返しの最小の単位構成を「単位格子(unit lattice)」といいます。

結晶は、単位格子をいくらか繋げてマクロな状態にしたものです。したがって、単位格子の性質を知ることは大変重要であり、そこからマクロなレベルの結晶の性質を知ることができます。すなわち、単位格子での量の比と結晶のレベルでの量の比は、常に等しいので、単位格子と結晶のレベルを、量的に関係付けることができるのです。密度(g/cm3)や充填率(cm3/cm3)、組成比(/)などの値は、すべて単位格子では結晶のレベルと同じ値になります。

 

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.2  アルミニウムの単位格子と結晶

 

金属結晶は、金属結合によって安定化しているので、それぞれの原子は、できるだけ多くの原子と結合した方が、全体的に安定になりやすいです。したがって、金属結晶は、配位数の大きい密な構造になることが多く、ほとんどの金属単体は、「体心立方格子(body-centered cubic lattice)」、「面心立方格子(face-centered cubic lattice)」、「六方最密構造(close-packed hexagonal lattice)」のいずれかの結晶格子をとっています。それぞれの結晶格子の特徴は、次の表.1の通りです。

 

.1  主な結晶格子の特徴

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(i)格子定数aと原子半径rの関係

 結晶の単位格子の形と大きさを表すパラメーターを、「格子定数(lattice constant)」といいます。一般的には、単位格子の各綾の長さ(3つの結晶軸の各方向にそった繰り返しの周期)a, b, cと、それらが互いになす角α, β, γで表すことが多いです。しかし、高校化学で扱う金属の単位格子は、ほとんどが体心立方格子もしくは面心立方格子のような立方体形になるので、格子定数として、aの値だけを与えることも多いです。高校化学では、一般的に格子定数といったら、単位格子の一辺の長さのことだと思っても構いません。

格子定数aと原子半径rの間には、次の図.3のような関係が成り立ちます。体心立方格子では、すべての原子が密に充填されていて、中心の原子と各頂点の原子とが接しているとすると、という関係が成り立ちます。これより、格子定数から原子半径の値を求めることができるのです。一方で、面心立方格子では、すべての原子が密に充填されていて、各面の中心の原子と各頂点の原子とが接しているとすると、という関係が成り立ちます。

 

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.3 格子定数aと原子半径rの関係

 

(ii)配位数

 「配位数(coordination number)」とは、結晶中の1つの原子から見た、最近接粒子数のことです。例えば、体心立方格子では、中心の原子に対して8個の原子が接しているので、体心立方格子の配位数は8になります。一方で、面心立方格子では、中心の原子が存在しないので、最近接粒子数は何個なのか一見すると分かりません。しかし、次の図.4のように面心立方格子を2つ繋げて考えると、分かりやすいです。図.4のように考えると、中心の原子から見て12個の原子が接していることが分かります。つまり、面心立方格子の配位数は12なのです。また、六方最密構造についても、中心の原子が存在しないので、単位格子を2つ繋げて考えます。このように考えると、六方最密構造の配位数も12であることが分かります。

 

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.4  面心立方格子と六方最密構造の配位数

 

 ここで、面心立方格子と六方最密構造の違いについても確認しておきましょう。両者の配位数は共に12ですが、この数字が意味することは、両者の構造は数学的には似た構造であるということです。「そんな馬鹿なことはあるか、どう見ても違う構造ではないか」と思うかもしれませんが、面心立方格子を斜め45°の角度から見ると、次の図.5のように六方最密構造と同じような形になるのです。

両者の構造の違いは、構造の繰り返しのパターンにあります。すなわち、面心立方格子では構造の繰返しパターンが「ABCABC・・・」の3層周期であるのに対して、六方最密構造では構造の繰返しのパターンが「ABABAB・・・」の2層周期となっているのです。

 

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.5  面心立方格子と六方最密構造を真横から見た図

 

(iii)充填率

 結晶構造の体積のうち、どれだけの割合を原子が占めているのかを表す値を、「充填率(packing ratio)」といいます。一般的に配位数が多いほど、原子が密に充填されている構造なので、充填率は大きくなります。充填率は、次のようにして計算で求めることができます。

 

 

 これより、体心立方格子と面心立方格子の充填率を求めてみましょう。原子を変形しない完全な球体と仮定して、格子定数をa、原子半径をrとすると、それぞれの単位格子の充填率は、次のように計算できます。

 

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これより、体心立方格子の充填率は約68%であり、面心立方格子の充填率は約74%であることが分かります。面心立方格子は最も密な構造なので、この0.74が充填率の極大であることも分かります。ちなみに、六方最密構造の充填率も0.74です。

 

 

 大きな容器を一定サイズの小球で一杯にしたいとします。このときに球を無造作に投げ込んでいくと、充填率は約65%になることが、実験的に確かめられています。これよりも充填率を向上させるためには、球の隙間ができるだけ少なくなるようにして、球を敷き詰めていく必要があります。17世紀を代表する天文学者であり、数学者でもあったヨハネス・ケプラーは、1611年に「等しい大きさの球で空間を充填するとき、充填率は面心立方格子ならびに六方最密構造を超えることはない」という仮説を立てました。この問題は、彼の名前にちなんで、「ケプラー予想(Kepler conjecture)と呼ばれています。ケプラーは、数学者のトーマス・ハリオットと共に、「船倉に砲弾を効率的に詰め込む方法」を考えており、このケプラー予想に至ったのでした。わざわざ「ケプラー予想」などと大仰な名前が付いているのは、これがとんでもない超難問であったからです。こんな問題、簡単に証明できるだろうと手を出した数学者たちはことごとく失敗し、一見するとはるかに難しいように見える他の問題が解けたあとも、超難問として数学の世界に君臨し続けました。

 数学者のトーマス・ヘイルズは、1992年からコンピュータを駆使してこの問題に取り組み、1998年に300ページ以上にも及ぶ証明を発表しました。しかし、12人の数学者が4年をかけてチェックしても、まだ完全な決着には至らず、形式的な証明が終了したのは、ケプラー予想から400年以上もあとの2014年のことでした。

ケプラー予想は、長年数学者たちを悩ませてきましたが、現在ではほぼ正しいことが証明されています。このケプラー予想を用いれば、このような面白い思考実験ができます。

 

「教室の中にサッカーボールは最大で何個入るだろうか」

 

教室の体積は、縦25 m×横10 m×高さ4 m1000 m3とします。サッカーボールは完全な球体と仮定し、半径を0.1 mとすると、その体積は(4/3)×3.14×0.130.0042 m3となります。充填率は0.74とし、教室の中に入るサッカーボールの数を計算すると、

 

(1000 × 0.74) ÷ 0.0042 176190

 

これより、教室の中にサッカーボールは約18万個入るということが概算できます。このような実際に調査するのが困難なことを、いくつかの手がかりをもとに概算することを「フェルミ推定(Fermi estimate)」といいます。フェルミ推定は、コンサルティング会社や外資系企業などの面接試験で用いられることがある他、欧米では学校教育で、科学的な思考力を養成するために用いられることもあります。

 

(iv)結晶の密度

 密度は、単位体積当たりの質量で表されるので、結晶の絶対量に無関係な値です。そして、結晶は単位格子の繰り返しであるから、結晶の密度は、単位格子の密度に等しいです。よって、次のような関係が成り立ちます。

 

 

一般的に密度d g/cm3は次のようにして求めることが多いです。アボガドロ定数をNA、体積をa3 cm3、原子量をMとすると、

 

 

(2)イオン結晶

多数の陽イオンと陰イオンが、クーロン力によるイオン結合により、立体的に規則正しく配列した結晶を、「イオン結晶」といいます。イオン結合は、金属結合に匹敵するぐらい強い結合なので、一般的にイオン結晶は、融点が高く、硬い性質を持つ場合が多いです。しかし、一方でイオン結晶は、一定の面で綺麗に割れやすい性質も持ちます。この性質を「へき開性(cleavage)」といいます。これは、イオン結晶に外力が加わって、原子の層がずれると、同符号のイオンが並んで、互いに反発し合うためです。

また、通常イオン結晶は、固体では電気を導かず絶縁体ですが、融解した液体やその水溶液はイオンが移動できるので、電気伝導性があります。イオン結晶は、基本的には常温で固体と考えていいですが、常温で液体のものもあり、これを「イオン液体(ionic liquid)」といいます。イオン液体は、水でも油でもない「第3の液体」として注目されています。

イオン結晶の結合エネルギーの指標の1つに、「格子エネルギー(lattice energy)」というものがあります。格子エネルギーとは、固体結晶の状態にある陽イオンと陰イオンを、完全に切り離してばらばらの気体状態にするのに必要なエネルギーのことです。Am+ Bn- のイオン結晶をAaBbとすると、格子エネルギーQ kJ/molは、次のように表せます。

 

AaBb(結晶) + Q kJ aAm+(気体) + bBn-(気体)

 

この格子エネルギーが大きいほど、結晶はエネルギー的に安定であり、融解や沸騰を起こしにくくなります。格子エネルギーは、構成イオンの半径が小さく、イオンの価数が大きいほど、大きくなります。これは、イオン半径が小さく、イオンの価数が大きいほど、イオン間に働くクーロン力が大きくなるためです。粒子間の相互作用が強いほど、物質の融点や沸点は大きくなるのです。

 

.2  主なイオン結晶の融点と沸点

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イオン結晶の結合力は、主にイオン間のクーロン力によるため、各イオンは、できるだけ多くの異符号のイオンで囲まれた方が安定になります。陽イオンの周りの陰イオンの数を「配位数」といい、配位数は、イオン半径比r+/r- によって支配されます。構成イオンは、ナトリウムイオンNa+ やカルシウムイオンCa2+、塩化物イオンCl- のような単原子イオンのみである場合も、その一部または全部が炭酸イオンCO32- やアンモニウムイオンNH4+ のような錯基である場合もあります。代表的なイオン結晶として、岩塩型と塩化セシウム型の結晶格子の特徴を、次の表.3に示します。

 

.3  岩塩型と塩化セシウム型の結晶格子の特徴

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2つの結晶格子を比較したとき、各イオンの配位数については、塩化セシウム型の方が大きいため、塩化セシウム型の方がより安定になります。しかし、充填率については、岩塩型の方が大きいため、岩塩型の方がより安定になります。イオン結晶の構造を決める要因としては、どちらの寄与が大きいのでしょうか?少し考えてみましょう。

一般的にイオン結晶では、互いに接する反対符号のイオンの数(配位数)が多いほど安定です。つまり、充填率よりも配位数の寄与が大きいのです。しかし、配位数の大きい結晶構造を取ったとき、一般的に陽イオンよりも陰イオンの方が大きいため、陽イオンの半径が小さい場合、陰イオン同士が接触することが考えられます。同種のイオンは、互いに接したり重なったりすると不安定になります。そこで、あるイオン結晶がどちらの結晶構造になるのかは、イオン半径比r+/r-を考えることで分かります。

 

 

まず、岩塩型について考えてみましょう。このまま陽イオン(.3の緑球)だけが小さくなったとします。球はできるだけ密に詰まるようになるので、陰イオン(.3の青球)同士も接近し、遂には陰イオン同士も接してしまった状態となります。このときは、陰イオンの間に陽イオンが入り込んだような構造で、これ以上は陽イオンが小さくなっても、陽イオンと陰イオンの互いの中心間距離は変わらないため、陽イオンが小さくなっても、構造が不安定になるだけです。この陽イオンと陰イオン同士が密着した状態のイオン半径比r+/r-を、特に「限界半径比(critical radius ratio)」といいます。岩塩型の限界半径比は、

 

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また、塩化セシウム型の場合も、このまま陽イオン(.3の緑球)だけが小さくなっていくと、遂には陰イオン(.3の青球)同士が接した状態となり、これ以上は陽イオンが小さくなっても、イオン間の中心距離に変わりがなくなります。すなわち、これ以上イオン同士は近づくことはできないのです。このときの限界半径比は、

 

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 イオン結晶は、基本的には配位数の大きい塩化セシウム型になろうとします。しかし、陽イオンが小さくて陰イオン同士が接触するような場合では、イオン結晶は充填率の高い岩塩型になろうとするのです。

つまり、r+/r-0.73の陽イオンが比較的大きいイオン結晶の場合には塩化セシウム型となり、0.73r+/r-0.41の陽イオンが比較的小さいイオン結晶の場合には岩塩型となるのです。ただし、塩化カリウムKClのような例外(r+/r-=0.901だが岩塩型)もあります。これは、イオン結晶の結晶構造が、常に陽イオンと陰イオンの大きさだけで決まるとは限らないことを示しています。

 

(3)分子結晶

多数の分子が分子間力によって集合し、規則正しく配列してできた結晶を、「分子結晶」といいます。分子結晶は、分子間の相互作用が弱いため、一般的に融点が低く、軟らかいです。分子間力には、ファンデルワールス力や水素結合などがあり、分子結晶を結合力の違いから、ファンデルワールス結晶や、水素結合結晶とさらに分類する場合もあります。

「ファンデルワールス結晶」には、ドライアイスCO2やナフタレンC10H8、ヨウ素I2などがあり、これらは一般的に融点が低く、軟らかく、昇華性を持ったりする場合が多いです。昇華性を持つものが多い理由は、わずかに温度が上がっただけでも、分子の熱運動がファンデルワールス力を上回り、分子が容易に結晶から飛び出すようになるからです。また、ファンデルワールス結晶は、電気的に中性な分子からできており、固体でも液体でも電気を通しません。

 

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.6  ヨウ素I2の結晶

 

代表的な「水素結合結晶」には、水H2Oがあり、氷は水分子が分子間水素結合で、1つの水分子の周りに4つの水分子が配置されるように正四面体構造の結晶を作っています。このため、氷は充填率が32%とかなり隙間の多い構造なっており、氷は液体の水よりも、密度が小さいのです。固体の方が、液体よりも密度が小さいことは、水の特徴的な性質の1つです

固体の状態より液体の状態の方が密度の大きい物質を、「異常液体(abnormal liquid)」といいます。これには、水の他にケイ素SiやゲルマニウムGeなどがあります。いずれも、固体状態のときは隙間の多い結晶構造になっています。

 

.7  氷の結晶構造

 

また、水H2Oの密度は、温度によって若干変化します。氷から水へ変化する際、0℃より温度を上げていくと、分子間の水素結合が切れて、氷の構造が崩れ、体積が減少する現象が起こります。また、温度を上げていくと、分子の熱運動が激しくなり、水分子の占める空間が増加する現象も起こるのです。温度が04℃では、前者の効果が大きくて体積が減少し、温度が4℃以上では、後者の効果が大きくて体積は次第に増加するのです。この2つの相反する効果の兼ね合いで、水は4℃付近で最も体積が小さくなります。つまり、水の密度は4℃で最大となるのです。このときの水の密度は0.999972 g/cm3で、4℃以外の温度では、いずれもこの値よりも小さくなります。

 

.8  水の密度と温度の関係

 

この特異な性質は、身近でも実感することができます。例えば、冬に厚い氷で覆われた湖の底では、密度が最大となる4℃前後の水が存在し、そこで魚などの水生生物が生息しています。水面に氷の層ができれば、氷の層が断熱材の働きをして、外気が身を切るような寒い夜でも、水が底まで凍ってしまうのを防いでくれます。もし普通の物質のように、温度が下がるにつれて体積が小さくなるとしたら、それは悲劇です。冷たい液体は底にたまり、底から凍っていくことでしょう。断熱材の働きをするものがないので、やがて湖は上から下まで、がちがちに凍ってしまいます。これでは、水中の生物は生きられないでしょう。ちなみに、ジュエリーブランドの「4℃」もこれに由来し、4℃という水温のように、潤いをもたらす商品を提供したいという思いが込められているそうです。

 

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.9  氷上の穴釣りでワカサギを獲ることができる

 

なお、氷には温度や圧力によって多くの結晶構造があります。普通に見られる氷は、「氷I」といわれるものです。高圧下の氷が普通の氷と違うことを示したのは、米国ハーバード大学の物理学者パーシー・ブリッジマンです。彼は高圧の研究で、1946年にノーベル物理学賞を受賞しています。ブリッジマンは高圧発生装置を工夫して、世界で初めて水H2Oを室温のまま1万気圧以上まで圧縮して、高圧氷を作ることに成功しました。1万気圧付近でできる氷は、「氷VI」といわれるものです。さらに圧縮して2万気圧付近でできる氷が、「氷VII」といわれるものです。これらの高圧氷は、密度が1 g/ cm3より大きい氷、つまり「水に沈む氷」になります。現在では、水にH2O加える圧力や温度を変化させると、実に多様な種類の氷を作れることが分かっています。2009年には、超高圧で数百度の温度の「氷XV」が作られています。

 

(4)共有結合の結晶

多数の原子が共有結合で連続的に繋がり、原子が規則正しく配列した結晶を、「共有結合結晶」といいます。代表的な例としては、ダイヤモンドや黒鉛、ケイ素Si、二酸化ケイ素SiO2、炭化ケイ素SiCなどがあり、これらは硬度が大きく、融点も高いのが特徴です。また、価電子がすべて共有結合に使われているため、電気を通しません(黒鉛は例外)さらに共有結合は、イオン結合や金属結合と異なり、結合に方向性があるため、できた結晶の配位数が小さく、構造はあまり密ではありません。

ここでは、代表的なダイヤモンドの構造について説明しましょう。ダイヤモンドは、炭素Cの単体であり、1個の炭素原子の周りを、4個の炭素原子が正四面体を形作って共有結合で結びつき、巨大分子を形成しています。ダイヤモンドの結晶では、単位格子が三次元的に繰り返し配列していて、ダイヤモンドの単位格子は、次の図.10で示すような立方体です。

 

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.10  ダイヤモンドの結晶格子

 

 ダイヤモンドの格子定数をa cm、炭素原子間の距離をr cmとしたとき、ダイヤモンドの充填率と密度d g/cm3を求めてみましょう。まずは充填率について、炭素原子の半径R cmを求めるためには、格子定数aと原子間距離rの関係を明らかにしなければなりません。

.10の立方体の対角線に注目してください。対角線の長さを原子間距離rで表すと、対角線の長さは4rとなるのです。ここで、対角線を斜辺とする直角三角形を考えて、格子定数aとの関係を調べると

 

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これでやっと原子半径Rが求まります。炭素原子が互いに接していて、密に詰まっているとすると、原子半径Rr/2なので、となります。

.10の結晶格子には、炭素原子が8個詰まっているので、ダイヤモンドの充填率は、

 

 

計算結果より、ダイヤモンドの充填率は、約34%と隙間の多い構造であることが分かります。

また、ダイヤモンドの密度d g/cm3は、アボガドロ定数をNA、体積をa3 cm3、原子量を12とすると、

 

 

これに実際の格子定数a =3.57×10-8 cmを代入すると、ダイヤモンドの密度は3.51 g/cm3になります。入試などでは単位がcmではなくnmで与えられることが多いので、計算する際は単位によく注意してください。

また、共有結合は非常に強いので、ダイヤモンドは非常に硬いです。ただし、ここでいう「硬さ」というものは、「あるもので引っ掻いたときの傷の付きにくさ」であり、「叩いて壊れるかどうか」の堅牢さではありません。よく「ダイヤモンドは砕けない」という文句を見かけますが、それは厳密には誤りです。ダイヤモンドの割れや欠けに対する靭性は、水晶と同じ7.5であり、ルビーやサファイアの8よりも低いです。ダイヤモンドは、緩やかに加重されていく圧力に対しては高い強度を示すものの、瞬時に与えられる力に対してはそれほど強くなく、ハンマーなどで上から強く叩けば、粉々に割れてしまうこともあります。

 

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.11  ダイヤモンドはハンマーで叩けば砕けてしまう

 

このような物質の「硬さ」を評価する指標には、提唱者の名前を取った「モース硬度(Mohs hardness)というものがよく使用されます。これは、ある物質Aで物質Bを擦ったときに、物質Bに傷が付いたかどうかによって、硬度を判定します。もし物質Bに傷が付いたら、物質Aは物質Bよりも硬いことになります。例えば、ダイヤモンドはモース硬度10で、天然にある地球上の鉱物の中では、最高クラスの硬度です。ちなみに、人間の爪のモース硬度は約2.5で、10円玉の硬度は約3.5、ガラスの硬度は約5、ヤスリの硬度は約7.5です。ダイヤモンドはその硬さから、宝石以外にも、工業的に研磨や切削など、様々な用途で使われています。

 

.4  モース硬度

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現代の機械工具を作る超高度鋼は非常に硬く、これを設計図通りの精度に形作るためには、高精度の切削機が必要になります。この切削機に用いられるのが、地球上最高の硬度を誇るダイヤモンドです。ダイヤモンドなくして、現代の精密機械工作品は存在しません。また、ダイヤモンドはトンネル掘りのような、大規模土木工事にも欠かせません。巨大なトンネル掘削機のドリルに埋め込まれているのは、無数のダイヤモンドです。このダイヤモンドのお陰で、掘削機は硬い岩石や鉱石でも何でも削り、砕いて掘削することができるのです。青函トンネルができたのも、ドーバー海峡トンネルができたのも、すべてダイヤモンドのお陰です。

ちなみに、ダイヤモンドは屈折率が高いことでも知られ、内部での全反射が起こりやすいです。ダイヤモンドのカットとしてよく用いられる「ブリリアント・カット」は、光を当ててその反射を見るとき、最も美しく輝いて見えるように、ダイヤモンドの光学的特性を数学的に考慮して、理論的に見出された形状なのです。白く強いきらめきや虹色の輝きは、すべてこの特別なカットがもたらすものです。ブリリアント・カットは、数学者でもあったベルギーの宝石職人、マルセル・トルコウスキーによって1919年に開発され、標準的なものは58の面を持ちます。上部から進入した光が、すべて内部で全反射して上部から放たれ、ダイヤモンドの輝きを際立たせるような設計になっています。ブリリアント・カットは、屈折率の高いダイヤモンドに最も適した形状であり、他の宝石にはほとんど適用されることはありません。

 

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.12  ダイヤモンドのカットは、ダイヤモンドが最も美しく見えるように計算されている

 

黒鉛(graphite)も炭素Cの単体であり、1個の炭素原子は、3個の炭素原子と共有結合で結びつき、正六角形の網目(ハニカム構造)配列した、平面上の巨大分子を形成しています。層中の炭素原子間の結合は共有結合ですが、重なり合った層間を結びつけているのはファンデルワールス力であり、この力が弱いため、黒鉛は軟らかく、薄片に剥がれやすいです。また、黒鉛は4個の価電子の内の1個の価電子が、平面上を自由電子のように動くことができるので、電気伝導性が大きいという特徴も示します。

 

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.13  ダイヤモンドと黒鉛の結晶構造

 

(5)結晶構造のまとめ

次の表.5に結晶構造のまとめをします。金属結晶やイオン結晶、分子結晶、共有結合結晶の特徴をよく抑えておいてください。

共有結合やイオン結合や金属結合は、分子間力に比べてかなり結合力が強いです。したがって、粒子が共有結合やイオン結合で結合している結晶は、一般的に融点や沸点が高いものが多いです(常温で固体のものが多い)。金属結合で結合している金属では、遷移元素の単体は融点や沸点の高いものが多いですが、典型元素の単体は比較的低いものが多いです。

ファンデルワールス力のみで結合している結晶は、分子間の結合力が弱く、融点や沸点が低いものが多いです(常温で固体もしくは気体のものが多い)。また、このような分子結晶には、二酸化炭素CO2のように常圧では液体にならず、昇華するものがあります。これは、わずかに温度が上がっただけでも、分子の熱運動のエネルギーがファンデルワールス力を上回り、分子が容易に結晶から飛び出すようになるからです。

 

.5  結晶構造のまとめ

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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学」啓林館(2012年発行)

2) 卜部吉庸「化学の新研究」三省堂(2013年発行)

3) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)

4) 斉藤勝裕「最強の「毒物」はどれだ?」技術評論社(2014年発行)

5) 左巻健男「面白くて眠れなくなる化学」PHP研究所(2012年発行)

6) 齋藤勝裕「へんな金属すごい金属」技術評論社(2009年発行)

7) 佐藤健太郎「化学で「透明人間」になれますか?」光文社新書(2014年発行)