・色の科学


(1)色とは何か?

私たちが物体を見ることができるのは、「光」があるからです。光のない暗闇では、私たちは物体を見ることができません。光は「電磁波」の一種であり、私たちが見ることのできる光は、個人差があるものの、およそ「380780 nmとごくわずかな範囲の波長に限られるのです。この380780 nmの波長の電磁波を、一般的に「可視光線」と呼びます。

もちろん、可視光線という区分は、飽くまで「人間」の視覚を主体とした分類であり、一部の「昆虫類」や「鳥類」などは、人間が見ることのできない光まで見ることができます。人間が肉眼で見ることのできない光には、「赤外線」や「紫外線」、「放射線」などがあります。次の表.1に主な電磁波の分類を示します。

 

.1  主な「電磁波」の分類

波長

電磁波

主な用途

10 km

長波

無線

100 m

短波

ラジオ

1 m

マイクロ波

電子レンジ

1 nm

遠赤外線

コタツ

4 μm

赤外線

リモコン

380780 nm

可視光線

蛍光灯

380 nm

紫外線

水道の殺菌

10 nm

X

レントゲン

10 pm

γ

γ線滅菌

 

「太陽」が放射する電磁波のうちでは、可視光線の成分が最も強く、さらに地球の大気は可視光線に対して透明なため、「太陽光」の成分は、ほぼ可視光線と見なすことができます。380780 nmの波長が目で見えるのは、恐らく地球上の生物が、太陽光の領域の電磁波を感じるように進化したためでしょう。

太陽光のような「白色光」をプリズムに通すと、白色光が分解されて、「赤色」から「紫色」まで色の付いた光が順番に並びます。日本では、これを「虹の7色」といったりしますが、専門的には、このようにいろいろな光に分解された光を、「スペクトル」と呼んでいます。次の図.1に可視光線のスペクトルを示します。

 

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.1  可視光線の「スペクトル」

 

このスペクトルの色の違いは、「光の波長」の違いに対応しており、一般的には、真空中で波長が620750 nmを「赤色」、590620 nmを「橙色」、570590 nmを「黄色」、495570 nmを「緑色」、450495 nmを「青色」、380450 nmを「紫色」と決めています。

光は真空中でも伝わることができる特別な波で、特定の色の光は、それぞれ特定の波長を持っています。そして、波の「波長」と「振動数」の積は、波の「速度」になりますが、光の場合、真空中では、波長と振動数の積は、必ず一定の値(3.0×108 m/s)になります。

 

 

ここで、cは光の速度(3.0×108 m/s)は振動数、は波長を表します。真空中では、光の速度は、色の違いによらず一定なので、光に限っては、波長と振動数が対応していることになります。つまり、光の色は、波長だけでなく、振動数の違いとも対応しているのです。一般的には、可視光線は波長が大きいほど赤色になり、波長が小さいほど紫色になります。また、可視光線は振動数が小さいほど赤色になり、振動数が大きいほど紫色になるともいうことができます。

 

(2)色と人間

 日本には、豊かな四季があったためか、日本人の情感が豊かなためか、恐らくはその両方が考えられますが、日本語は、「色の表現」が非常に豊かな言語です。例えば、赤い系統の色でも、(もも)撫子(なでしこ)(くれない)()臙脂(えんじ)(あかね)など、様々な色の表現があります。浅葱(あさぎ)萌黄(もえぎ)(うるみ)などのように、美しい響きを持った色もあります。さらに、海松(みる)麹塵(きくじん)(はした)空五倍子(うつぶし)などは、言葉だけでは、場合によっては漢字を読んでさえ、どんな色か想像もつかないものもあります。日本語には、色を表現する言葉が約500種類あるともいわれており、どれだけ日本人が、色の表現に趣向を凝らしてきたかがうかがえます。

 ちなみに、日本の伝統色には、「鼠色」や「茶色」、「藍色」などの地味な色が多いですが、これにも理由があります。江戸時代、「倹約令」で着物の材質や色が制限されていましたが、その中で着て良いとされる色が、「鼠色」・「茶色」・「藍色」の三色だったのです。江戸の町民たちは、その中でもお洒落を楽しむために、使って良いとされる三色が、さらに様々な色名に細分化していったと考えられています。ちなみに、灰色を「鼠色」と表現したのは、火事の多い江戸で、「灰」という言葉が嫌われていたからだといわれています。

 

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.2  江戸の町民たちは、質素な衣類を身にまとい、貧しい生活をしていたと考えられている

 

 また、「国」や「文化」によっても、色の呼び方は様々です。「日本語」で俗にいう虹の7色は、「」・「藍」・「」・「」・「」・「」・「」ですが、「どの波長の光が何色に見える」などというものは、国や文化の違いによって異なってくるのです。例えば、日本で子供たちに虹の絵を描かせると、子供たちはきっと「7色」を使って虹を描き上げるでしょう。ところが、アメリカの子供たちは「6色」で虹を描くのです。もしアメリカの子供たちに虹を描かせたならば、アメリカの子供たちは、「藍色」の部分を「青色」か「紫色」で描くでしょうね。また、ニューギニアやコンゴなどの諸国では、色を表す言葉が、黒か白の「2色」、もしくは、それに赤を加えた「3色」しか存在しないといいます。例えば、狩猟採集民族である「ダニ族」の人々には、色を表す言葉2つしかなく、暗い色を「ミリ」、明るい色を「モラ」と呼びます。

もちろん、彼らも私たち日本人と同じように「色」を感じているはずですが、色を表す言葉自体が、私たちよりも少ないのです。この理由として、彼らが「文化的」に色を区別する必要がなかったことが考えられます。「黄色」や「橙色」などをまとめて「赤色」と呼んでいても、特に生活上の不都合がなかったのでしょう。このように、「虹の色」が何色に見えるかは、「科学の問題」ではなく、「文化の問題」です。つまり、「何色に見えるか」ではなく、「何色と見るか」ということです。

 

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.3  現在の日本では、「虹の色」の数は一般的に7色とされている

 

さらに、同じ国や文化で暮らしている人同士でも、色の見え方に「個人差」があるということに注意しなければなりません。例えば、「先天赤緑色覚異常」という病気があります。これは、「緑色」から「赤色」の波長の光を上手く区別できないという病気のことで、日本人では男性の5%が、女性の0.2%がこの病気であるといわれています。したがって、この病気の人にとっては、「黄色」と「橙色」などの色が似たような色に見え、それらの区別が困難になるのです。学校の黒板に赤いチョークで書かれた文字が見にくいといわれるのは、この病気が原因です。

 

.4  「先天赤緑色覚異常」の人は、上図の文字が非常に読みづらい

 

「色」というものは、光が水晶体を通って網膜に当たり、光の情報が「電気信号」に変換され、視神経を通って「脳」まで伝わることで認識されます。電気信号は、タイミングや回数などによって区別がされ、様々な色を見分けることができるのです。

しかしながら、どの人でもリンゴが「赤色」に見えるという保証はどこにもありません。リンゴが「赤色」に見えるのは、私たちが学習したからであって、ある人の脳では、リンゴが「青色」に見えているかもしれないのです。この問題を解決するために、リンゴは「夕焼けの色」であると定義しても無駄です。ある人の脳では、海が「赤色」に見え、夕焼けは「青色」に見えているかもしれないのです。たとえ会話が通じていたとしても、感じている色は各々で異なっているかもしれません。これは証明しようのないことなのです。

 

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.5  私たちの周りには、夕焼けが「青色」に見える人がいるかもしれない

 

人間が色をどのように認識して知覚しているかは、物理学や生理学、心理学などが複雑に絡み合った非常に難しい問題です。例えば、「光線に色はない」という言葉があります。これは、かの有名なアイザック・ニュートンが残した言葉であり、光に色があるのではなく、色は人間の脳が勝手に判別しているだけであるという意味です。例えば、私たちの脳は、「黄色光」を見たときは当然「黄色」として認識しますが、「赤色光+緑色光」を見たときにも同じように「黄色」として認識します。「黄色光」と「赤色光+緑色光」では、物理的には全く波長の異なる光なのですが、目で見て脳で認識する色としては、どちらも「黄色」になるのです。

 

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.6  私たちが「黄色光」を見るとき、その光が「黄色光」なのか「赤色光+緑色光」なのかを判別する術はない

 

私たちの脳は、ある光を受けたときに、光源の色や目の表面などでの反射、視細胞で光を受けたときの化学反応、視神経に伝わったときの感覚刺激値、脳の視覚野に伝わった色情報の脳内での分析、そして心理的環境要因などが絡み合って、初めてある種の「色」として認識します。そういう意味では、光は本来どの波長も「無色透明」であり、色というものは、飽くまで人間が勝手に定義付けた概念であり、非常に曖昧な感覚であるということが分かるでしょう。

1666年、ニュートンは、偶然にも窓の隙間から入り込む太陽光が7色に分かれているのを見て、それを「光のスペクトル(spectrum)」と名付けました。「spectrum」には「幻」という意味があり、この言葉は、あまりにも適切過ぎた言葉だったのかもしれません。

 

(3)色が見える原理

 普段の生活では、私たちは空の色や花の色などを特に区別せずに捉えていますが、「色が見える原理」から考えると、空の色と花の色の着色の仕方は大きく違ってきます。片や「自ら色の付いた光を発しているもの」で、片や「何らかの光を受けてその結果として色が付いて見えるもの」だからです。一般的に色が見える原理には、大きく分けて、次の図.7に示す4つが考えられます。

 

「色が見える原理」は、大きく分けて4つがある

 

(i)物体自体が光を出す場合

ロウソクの炎や懐中電灯の光、テレビ、街の灯り、青空や夕焼け、そして太陽や無数の星々のように、物体自体が光を出している物体の色を「光源色」といいます。これは、物体自体が光を出して、私たちの目に入ることによって色が見えることになります。光源色すなわち光の色は、基本的には光源から発する光の成分によって決まります。

 

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.8  ロウソクの炎は「光源色」である

 

(ii)物体が特定の光を吸収し、残りの光を反射または透過する場合

花の色や鳥の色、建物の色、果物の色、そして月や惑星のように、光に照らされた物体の色を「物体色」といいます。この物体色は、物体の表面で光源の光の一部が吸収され、残りが反射散乱されて生じます。リンゴが赤く見えるのは、リンゴ自体が赤く光っているのではなく、リンゴが可視光のうち、赤色以外の光を吸収し、残りの赤色の光を反射散乱しているからです。そのため、物体色すなわち物の色は、光源から発する光の成分と、物体表面での吸収や反射の性質の両方に影響されて決まることになります。なお、色フィルターやステンドガラス、ワインの色など、透明な物体を通過したときの色も、物体中を通過する際に光の一部が吸収されて生じる物体色です。

 

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.9  花の色は「物体色」である

 

(iii)光の屈折による場合

太陽光をプリズムに通すと、虹の7色に分解されますが、これは「光の屈折」が原因です。これは光が波であるために生じる光の基本的な性質であり、一般的に「光の分散」と呼ばれます。空気とプリズムのように、屈折率が異なる媒質に光が入射すると、光は屈折します。その際、光の波長によって屈折率が少しずつ異なるために、白色光はいろいろな色の光に分解されるのです。プリズムによる光の分解や虹の色は、光の分散が原因で生じています。波長の長い赤色の光は、屈折率が小さくあまり屈折しません。逆に波長の短い紫色の光は、屈折率が大きいために大きく屈折することになります。このようにして白色光が分散して私たちの目に届くとき、白色光が虹色のように見えるのです。

 

.10  プリズムによる「光の分散」

 

(iv)光の干渉による場合

 2つの波が重なると、波が強め合ったり弱め合ったりしますが、この現象を「波の干渉」といいます。光も波の一種なので、干渉を起こします。例えば、シャボン玉や水たまりの油膜の厚さは、光の波長程度しかないため、油膜の上面で反射した光と、下面で反射した光が干渉するのです。しかも、干渉したときに波長が違うと、ある波長の光は強め合うが、別の波長では弱め合うことになったりして、結果として色が付いて見えるのです。シャボン玉が虹色に見える理由は、シャボン玉の膜は均一ではなく、薄いところと厚いところがあるためです。薄いところでは、波長の短い青色の光が干渉して強め合うので青色に見え、厚いところでは、波長の長い赤色の光が干渉して強め合うので赤色に見えます。

 

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.11  シャボン玉による光の「干渉」

 

(4)光の3原色

 「(red)」・「(green)」・「(blue)」を「光の3原色」といい、頭文字を取って、「RGBとも表します。光の3原色は、パソコンのモニタなどでおなじみのはずです。「」は波長700 nmの光、「」は波長546.1 nmの光、そして「」は波長435.8 nmの光に対応しています。「」と「」を混ぜると「」に、「」と「」で「シアン」に、「」と「」で「マゼンタ」になり、他のすべての色光も、3原色を適当な強さで混ぜ合わせることで作ることができます。色光の3原色を混ぜ合わせると明度が上がるので、それを「加法混色」といいます。そして、「」と「」と「」を等しい強さで混ぜると、「白色光」になります。また、「」と「シアン」、「」と「マゼンタ」、「」と「」を混ぜても、「白色」になります。つまり、私たちが普段見ている太陽光のような「白色光」は、いろいろな光が集まった結果、「白色」に見えているだけなのです。

 

.12  「光の3原色」を適当な強度で混ぜ合わせると、「白色光」となる

 

太陽光をプリズムでいろいろな光に分散すると、虹色に分かれることはよく知られています。しかし、逆に虹色の光を混ぜ合わせてやれば、太陽光のような白色光を人工的に作り出すこともできるはずです。ここで、ある「2色の光」を混合すると、「白色光」になる場合があります。これは、先に述べた「と「シアン、「と「マゼンタ、「と「のような関係です。このように混ぜ合わせると白色になる色同士を、互いに「補色」と呼びます。補色の関係は、次の図.13のように表すことができます。

 

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.13  補色」の関係

 

上の図.13において、向かい合った色同士が補色の関係になります。例えば、「」と「」は、補色の関係になっているはずです。逆に隣り合った色を「類似色」といい、「」と「赤橙」は類似色の関係です。この補色の関係は、「物体に色が付く原理」を考えていく上でとても重要になります。

青色」と「黄色」の光は補色の関係なので、混ぜ合わせると「白色光」になります。逆に「白色光」から「青色」の光だけを取り除くと、「黄色」の光になるのです。このように、「白色光」からある色の光を取り除き、残った色を「余色」といいます。つまり、「物体に色が付く原理」は、「その物体が何の光を吸収するのか」によって考えることができるのです。例えば、「緑色」の葉に「白色光」があたると、葉は「赤色」や「青紫色」の光を吸収して、残りの「緑色の光」を反射します。だから葉は「緑色」に見えるのです。このように特定の波長の光を吸収する物質を「色素」といい、植物のもつ「葉緑素(クロロフィル) 」などはその代表例です。

 

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.14  植物の葉は、「白色光」から「赤色」や「紫色」の光を吸収するため、「緑色」に見える

 

 この現象を証明する、簡単な実験があるので紹介しておきましょう。まず「無色」、「緑色」、「紫色」の透明な溶液を用意してください。「無色」の溶液に、「白色光」のライトを照らします。透過する光はどうなるでしょうか?

 

.15  「無色透明」な溶液に「白色光」を透過させる

 

もちろん、これは上の図.15に示すように、当然、透過する光は変化もなく、「白色光」のままです。しかし、「緑色」と「紫色」の溶液に「白色光」を照らすとどうなるでしょうか?

 

.16  緑色」と「紫色」の溶液に「白色光」を透過させる

 

透過光は、「白色光」から色が変わります。「緑色」の溶液を通過した光は「緑色」になり、「紫色」の溶液を通過した光は「紫色」になるのです。これは、「緑色の色素」は「紫色の光」を吸収し、「紫色の色素」は「緑色の光」を吸収する性質があるからです。透明な物体を「白色光」が通過する間に、「ある色の光」が吸収されるなどの方法で取り除かれると、透過光は「除かれた色の余色」に見えるのです。

また、「緑色」の溶液に「紫色」の光を照らし、「紫色」の溶液に「緑色」の光を照らすとどうなるでしょう?

 

17  「緑色」と「紫色」の溶液に、「紫色光」と「緑色光」を透過せる

 

答えは、上の図.17で示すように、「透過光がなくなる」です。「緑色」と「紫色」は、互いに補色の関係です。「緑色の色素」は「紫色の光」を吸収し、「紫色の色素」は「緑色の光」を吸収するので、透過光は溶液に吸収されてなくなってしまうのです。

 

(5)空の色

 空が「青色」なのはなぜでしょうか?太陽が青く光っているからでしょうか?太陽光には、青色を含めて様々な色の光が含まれていますが、太陽光は、一般的に無色の白色光であるはずです。空が青色に見える理由は、「光の散乱」が関係しています。大気中に入射してきた太陽光は、大気を通過するときに、空気分子のような光の波長よりもはるかに小さな粒子に当たって散乱します。このような微小な粒子による散乱では、散乱される度合いは、波長によって異なることが知られています。そして、そのような散乱を調べたイギリスのレイリー卿にちなんで、微粒子による散乱は、「レイリー散乱」と呼ばれています。

レイリー散乱の理論によれば、「光の散乱量」は、「光の波長」の4乗に反比例します。すなわち、赤い光の波長は、青い光の波長の2倍程度あるため、青い光は、赤い光よりも約16倍も強く散乱されることになるのです。このレイリー散乱の結果、太陽光のうち、青い光が強く散乱されることになり、空が青く見えるのです。大気があるからこそ、散乱が起こって空は青く見えるので、空気の薄い高山や上空に行くほど、光の散乱はだんだん弱くなり、空の色は次第に黒くなっていきます。例えば、標高8,611 mの「K2」山頂では、実際に空が黒く見えます。

 

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.18  標高8,611mの「K2山頂では、空が黒く見える(画像はこちらからお借りしました)

 

 また、晴れた日に、見通しの良い場所で夕暮れを迎えると、西の空が茜色に染まる一方で、頭上にはまだ青空が広がっていて、茜色から空色まで、とても綺麗なグラデーションで彩られた空を見ることができます。このように晴れた日の空が青く、また朝焼けや夕焼けが赤いのは、それぞれ別の理由がある訳ではなく、同じ「散乱現象」によって説明できるのです。

 

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.19  夕焼けのグラデーション

 

明け方や夕方と昼間の違いは、太陽の「高度」にあります。明け方や夕方には、太陽の高度が低く、地平線付近なので、昼間に比べて、太陽の光が大気を通過する距離が長くなります。太陽光が大気中の長い距離を通過してくる間に、青い光は散乱されてあちこちに飛び散ってしまい、目に届く前にほとんど失われてしまうのです。一方で、青い光に比べてあまり散乱されずに残っている赤い光は、そのまま私たちの目に届くことになります。このため、明け方や夕方の空は赤く見えるのです。

また、しばしば朝焼けより夕焼けの方が赤く見えることがあります。この理由は、車や工場など昼間の人間の様々な活動によって、空気中にチリやゴミが出て、夕方の方が多くの散乱が起こるためです。

 

.20  青空と夕焼けの色の仕組み(画像はこちらからお借りしました)

 

このように、地球の空気の分量は、青空や夕焼けを作るのに丁度いい分量だといえます。仮に空気の量が多すぎる場合、昼間でも太陽光が散乱され過ぎて空が赤くなるかもしれないし、逆に空気の量が少なすぎる場合、夕方になって、ようやく空が青くなるかもしれません。

 

(6)雲の色

 暑い夏の日、山の向こうにむくむくと湧きあがってきた積乱雲は、真っ白に輝いています。しかし、その雲が近くにやってきて、激し夕立を降らそうとする頃には、空は薄黒い雲に覆われています。雲の色は、一体何によって決まっているのでしょうか?

雲は、空気中の水蒸気が、水滴や氷の結晶となって現れたものの集まりです。水滴などの雲粒は、空気の分子と比べて非常に大きいため、雲粒に当たって散乱される太陽光は、波長の違いの影響をあまり受けません。水滴や氷晶のように、粒子のサイズが光の波長よりも十分に大きければ、あらゆる波長の光を満遍なく散らすので、散乱光に色は付かないのです。このような、光の波長と同程度の粒子による散乱は、「ミー散乱」と呼ばれています。

その結果、太陽からの白色光が雲に散乱されても色が付かず、水滴や氷晶を含む雲は、白っぽく見えるのです。また、このときの散乱は、光の入射方向の前方に強く起こり、側方及び後方へはあまり散乱しないため、積乱雲のように厚い雲は、強い光を受けて、まぶしいくらいに白く輝いて見えます。

 

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.21  光を散乱して、白く輝く積乱雲

 

 それでは、雲が黒く見えるときは、どのように説明できるでしょうか?これには2つの理由が考えられます。第一には、夕方などで雲に入る光が少なくなり、光がミー散乱するうちに、目に届く光が少なくなることです。第二には、雨の日などで雲に含まれる水滴や氷晶の量が多くなり、雲が厚くなって、下の方まで光が届かなくなることです。いずれにしても、雲が黒く見える原因は、「光量」に関係しています。私たちの目に届く光が少なくなると、雲は薄黒く見えるのです。昼間は白く輝いている積乱雲でも、太陽が隠れている夜に見れば、色は黒くなります。

ちなみに、NASAの火星無人探査機「キュリオシティー」が、火星で撮影した日没の写真によると、火星の夕焼けは、青色であることが分かっています。火星では、酸化鉄などの空気の分子に比べるとずっと大きな微粒子が大気中に漂っており、レイリー散乱ではなく、ミー散乱が起こると考えられているからです。このとき、ミー散乱によって、どの波長の光も均等に散乱されるのですが、火星の微粒子は、波長の長い赤色の光をよく散乱するようで、地球の夕焼けとは逆に、波長の短い青色の光が地表に届くという訳です。

 

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.22  NASAの火星無人探査機「キュリオシティー」が捉えた、火星の青い夕焼け(画像はこちらからお借りしました)

 

(7)水の色

 1961年、ボストーク1号で、世界初の有人宇宙飛行を成功させたソ連のユーリイ・ガガーリンは、宇宙から地球を俯瞰して、「地球は青いヴェールをまとった花嫁のようだった」と言い残しています。余談ですが、日本で有名な「地球は青かった」というガガーリンの言葉は、実は誤った引用であるというのが通説です。

さて、ガガーリンの言葉にあるように、地球の色は青色です。これは、地表の71%が海であることに起因しています。海は、濃度3%前後の塩などが溶け込んだ水であり、海の主成分は、水であると見なすことができます。つまり、水は青い色をしているのです。しかしながら、海が青いのは見て分かりますが、グラスに注いだ水は無色透明です。これはなぜでしょうか?

まず、海水に限らず、水の中を可視光線が通過すると、水分子によって、光は吸収されます。液体の水分子には、2個のヒドロキシ基があり、その変角運動と伸縮運動により、可視光領域の長波長の光が吸収されるのです。グラスの水が無色透明なのは、単純に水の量が少ないからです。水分子による光の吸収はごく僅かなので、海のように水が大量にある状況(水の層が5 m以上)でなければ、十分な光の吸収が起こらないのです。

可視光が水中を何mも進むと、光の吸収が起こります。この吸収の割合は、波長の長いものほど大きく、可視光でも最も波長の長い赤色光は、水深7 mほどで、海面に降り注ぐ光量の99%が吸収されてしまいます。白色光のうち、赤色から黄色の光が強く吸収されてしまうので、海は余色の青色に見えるのです。

 

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.23  赤色の光が吸収されて、海は青色に見える

 

 一方で、陸地から海を見ると、海が緑色っぽく見えることもあります。この理由は、海水中での吸収や散乱には、水分子だけでなく、浮遊している粒子や溶存している物質も、大きく影響を与えるからです。例えば、海水にクロロフィルを持つ「植物プランクトン」を多く含むと、プランクトンが吸収しない緑色が強く影響し、緑がかった海水の色となります。栄養塩類に富んでいる海は、プランクトンが多いため、海水の色は緑っぽくなるのです。

魚の餌となるプランクトンが多い海は、良好な漁場となります。逆に、貧栄養の南方から流れてくる海流は、「黒潮」と呼ばれます。これは、名前の通り、黒っぽい色をしています。黒潮は、プランクトンが少ないために透明度が高く、最も吸収されにくい藍色の光が散乱光として満ちているため、黒潮は黒く見えるのです。

 

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.24  「黒潮」は、名前の通り黒っぽい色をしている


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・参考文献

1) 福江純/粟野諭美/田島由起子 共著「カラー図解でわかる光と色のしくみ」ソフトバンククリエイティブ (2008年発行)

2) レト.U.シュナイダー「狂気の科学-真面目な科学者たちの奇態な実験-東京化学同人(2015年発行)