・電気化学(電池)


(1)電池とは何か?

 電池(battery or voltaic cell)とは、化学反応によって直流の電力を生み出す、電力機器のことです。電流は、電子e- のような荷電粒子が移動するときに伴う電荷の流れなので、電池には電子移動反応、すなわち酸化還元反応が密接に関わっています。

このように、酸化還元反応によってエネルギーを作り出すことができるのは、自発的に起こる酸化還元反応のほとんどが、発熱反応だからです。つまり、電池とは、自発的に起こる酸化還元反応に伴って放出されるエネルギーを、電気エネルギーとして取り出す装置のことなのです。

 

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.1  三洋電機が開発したニッケル・水素蓄電池

 

 電池において、電子が流れ出る極板を負極(anode)といい、電子が流れ込む極板を正極(cathode)といいます。

ただし、電流の流れと電子の流れは逆になるので、注意が必要になります。つまり、電流は正極から負極に向かって流れ、電子は負極から正極に向かって流れることになります。このようなややこしい定義になっている理由は、電子が発見される以前に、「電流は正極から負極に流れる」と定義されていたからです。そして、その後に電子の移動する方向は、負極から正極であることが確かめられたのですが、「電流は正極から負極に流れる」ということは、すでに慣例となっていたため、電流と電子の流れは、逆であると定義されたのです。

また、電池の両極間に生じる電位差は、電池の起電力(electromotive force)と呼ばれます。この起電力が大きいほど、電池の電流を流す力が大きくなります。そして、このように電池から電流を取り出すことを、放電といいます。

一方で、外部電源を用いて、放電と逆向きの電流を流すことによって、放電と逆の反応を起こし、起電力を回復させる操作を、充電といいます。

後に説明するボルタ電池やダニエル電池、マンガン乾電池のように、充電ができない電池を一次電池といい、鉛蓄電池のように、充電によって繰り返し使用できる電池を二次電池といいます。次の表.1に主な電池の分類を示します。

 

.1  主な電池の分類

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電池とは、酸化還元反応によって、電気エネルギーを取り出す装置のことです。つまり、自発的に起こる酸化還元反応は、すべて電池にすることができるのです。だから、電池というものは、事実上無限に作ることができます。したがって、電池を分析するときは、まずその電池で使われている、酸化剤と還元剤を確定することが重要になります。それさえ決まれば、各極の正負や各極で起こる反応もすぐに決めることができます。そしてその上で、その電池で特に工夫されていることに注意を払えば、電池の理解はほぼ完璧になります。

実用電池の多くは、次の図.2のような構造をしていて、負極では還元剤が作用し、正極では酸化剤が作用しています。また、負極で酸化される還元剤を負極活性物質といい、正極で還元される酸化剤を正極活性物質といいます。

 

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.2  電池の一般例

 

(2)ボルタ電池・・・(-)Zn | H2SO4 | Cu(+)

希硫酸に亜鉛版と銅板を浸して、導線でつないだ電池のことを、ボルタ電池(voltaic cell)といいます。これは、1799年にイタリアのボルタが発明した電池であり、ボルタ電池は現在の電池の原型ではありますが、電池としては不完全であり、放電を続けると徐々に起電力が低下していくので、実用的ではありません。

 

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.3  ボルタ電池

 

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ボルタ電池では、正極に銅板を使っていますが、これは何の化学反応も受けません。正極ではCu+2H+→Cu2++H2の反応が考えられますが、銅Cuは水素H2よりイオン化傾向が小さいので、この反応が自然に起こることはありえないのです。したがって、ボルタ電池では、銅板はただの電子導体として働いているにすぎません。

また、M1|H2SO4|M2のような装置が、電池になるかどうかは、金属M1, M2のイオン化傾向によります。もしもボルタ電池のように金属のイオン化傾向がM1>H2>M2ならば、負極では極板M1が酸化され、正極では水素イオンH+ が還元されることにより、M1H2のイオン化傾向の差に対応する起電力が得られます。

また、イオン化傾向がH2>M1,M2ならば、そもそも負極での酸化反応が起こらないので、電池になりません。

それでは、イオン化傾向がM1>M2>H2の場合はどうでしょうか?これは、負極での還元剤として、M1, M2のどちらも作用することが考えられます。しかし、還元剤としての強さはM1>M2であるので、負極ではM1→M1n++ne- の反応の方が起こりやすいのです。つまり、この場合も結局のところ、M1H2のイオン化傾向の差に対応する起電力が得られることになります。

要するに、ボルタ型電池は、どのような金属板を用いても、M1M2のイオン化傾向の差による起電力は得られず、得られるのはM1H2のイオン化傾向の差による起電力なのです。したがって、ボルタ電池では負極に亜鉛板を用いているので、亜鉛Znと水素H2のイオン化傾向の差に見合う起電力が得られると予想され、その理論起電力は、約0.8 Vになります。

ところが、実際のボルタ電池では、理論起電力よりも小さい0.4 V程度の起電力しか得られないのです。この理由は、銅板で2H++2e-→H2の反応を起こすのに、活性化エネルギーが必要であり、これを克服するためには余分な電圧が必要で、電池として使える電圧が少なくなるためです。この余分な電圧を、特に水素過電圧(hydrogen overvoltage)といいます。ボルタ電池では、触媒効果の高い白金Ptを銅Cuの代わりに使うと、実際に得られる起電力は0.8 V程度になります。

 

.2 主な金属の水素過電圧

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なお、ボルタ電池の起電力として、理論起電力である約0.8 Vではなく、1.1 Vと説明している文献が多く見られます。実際に実験をしてみても、放電の初期は起電力が1.1 Vとなるのです。これはなぜでしょうか?この理由は、ボルタ電池で使う銅板や亜鉛板の表面の一部は、空気中の酸素O2によって酸化されているため、放電の初期は、金属酸化物が水素イオンH+ で中和されて、銅(II)イオンCu2+ や亜鉛(II)イオンZn2+ が生じてくるからです。すなわち、放電の初期は、銅板表面に銅(II)イオンCu2+ が生じていて、水素イオンH+ の代わりに、銅(II)イオンCu2+ が酸化剤として作用することになるのです。つまり、放電の初期は、亜鉛Znと水素H2のイオン化傾向の差に見合う起電力ではなく、亜鉛Znと銅Cuのイオン化傾向の差に見合う起電力が、見かけ上の起電力になるため、起電力が1.1 Vと大きくなるのです。しかし、銅板表面の銅(II)イオンCu2+ はすぐに失われるため、やがて起電力は、亜鉛Znと水素H2のイオン化傾向の差に見合う0.8 Vとなります。

また、ボルタ電池でよくされる説明として、「ボルタ電池では、銅板に水素H2の泡ができると、水素H2が水素イオンH+ に戻ろうとして、逆起電力がかかり、また水素H2が水素イオンH+ の接近を妨げるので、減極剤として過酸化水素H2O2や二クロム酸カリウムK2Cr2O7などの酸化剤を加えると、泡が消えて起電力が回復する」というような、「水素H2の泡が、起電力を下げるすべての悪の根源である」と説明する文献がよくあります。しかし、これは次に示す2点で誤解があります。

 

(i)起電力が下がるのは、逆起電力が原因ではなく、水素過電圧が原因である

 逆起電力とは、水素H2が水素イオンH+ に戻ろうとする反応であり、逆の起電力が作用するということは、H2+Zn2+→2H++Znの反応が、電池全体で自然に起こるということになります。しかし、イオン化傾向はZn>H2であり、この反応は吸熱反応なので、この反応が自然に起こることは、絶対にありえないのです。

そもそも、銅板の代わりに白金板を使えば、たとえ水素H2の泡があっても、亜鉛Znと水素H2のイオン化傾向の差による起電力が得られるのだから、逆起電力による分極を起電力低下の理由にするのは、無理があるのです。ボルタ電池の起電力が、理論値よりも小さくなるのは、先にも説明した水素過電圧が原因です。

 

(ii)酸化剤を加えて起電力が回復するのは、酸化剤がH+ の代わりに反応するからである。

放電を続けると、水素H2が銅板の表面に付着するため、水素イオンH+ が銅板に近づくのが妨げられ、円滑な電子e- の受け渡しができなくなって、反応の遅れが生じるようになります。そのため、これが一種の内部抵抗になり、起電力が徐々に低下していくというのは、正しい説明です。ボルタ電池で、白金板を正極に用いた場合でも、発生する水素H2により、起電力は徐々に低下していきます。白金板を用いたボルタ電池が理論起電力を示すのは、飽くまでも水素H2の泡がない、放電の初期だけです。

そのため、多くの文献では、「水素H2の掃除機として、過酸化水素H2O2や二クロム酸カリウムK2Cr2O7などの酸化剤を加えると、起電力が回復する」というような説明がよくされます。起電力が回復するというのなら、ボルタ電池で起こっている酸化還元反応は、Zn+2H+→Zn2++H2であるので、回復しても0.8 V程度にしか戻らないはずです。しかし、実際に実験をしてみると、起電力は2 V程度まで上がってしまうのです。

ここで注意すべきは、起電力は元に戻るだけでなく、それ以上になるということです。この理由は、水素イオンH+ よりも遥かに強い酸化力を持った、過酸化水素H2O2や二クロム酸カリウムK2Cr2O7が酸化剤、亜鉛Znを還元剤とする、新たな電池が出来上がったからです。

 

(-)Zn | H+, H2O2 | Cu(+)

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銅板に付着する水素H2が、邪魔者だというのは事実ではあります。しかし、酸化剤を加えて水素H2が消えたから、起電力が回復したと単純に考えるのは、正確ではありません。これは、減極剤だと思って加えた酸化剤が、正極で水素イオンH+ の代わりに反応しているだけであり、そういう意味での減極剤というものは、そもそも存在しないのです。

 

(3)ダニエル電池・・・(-)Zn | ZnSO4 || CuSO4 | Cu(+)

 1836年にイギリスのダニエルは、亜鉛板を浸した硫酸亜鉛ZnSO4水溶液と、銅板を浸した硫酸銅CuSO4水溶液を素焼き板で仕切り、両極の金属板を導線でつなぐと、電流が流れることを発見しました。この電池のことを、ダニエル電池(Daniel cell)といいます。

ボルタ電池は、ダニエル電池と構造は似ていますが、正極側で水素H2が発生して、それが一種の内部抵抗になり、また水素過電圧のために、起電力が低下するという欠点がありました。このように、ボルタ電池は課題が山積みで、とても実用に堪えうるものではありませんでした。

しかし、ダニエル電池は、「イオン化傾向の差を電気エネルギーとして取り出す」というボルタ電池の基本方針を引き継ぎ、ボルタ電池を改良して作られました。

 

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ダニエル電池

 

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ダニエル電池の特徴は、正極室と負極室とが、隔壁によって分けられていることです。この隔壁には、素焼き板の他に、セロハンなどの半透膜やイオン交換膜、塩化カリウムKClなどの水溶液を寒天で固めた塩橋などが利用できます。これらの隔壁は、拡散による両極液の混合を防ぎつつも、イオンを通過させたりすることで、負極室と正極室の電気的接続を保つ働きをしているのです。

なお、ダニエル電池では、正極側では銅(II)イオンCu2+ が消費され、負極側では亜鉛(II)イオンZn2+ が生産されることから、硫酸亜鉛ZnSO4水溶液の濃度を小さく、かつ硫酸銅CuSO4水溶液の濃度を大きくすると、電池が長持ちします。

 また、このようなM1|M1n+||M2n+|M2で表される装置は、必ず電池となります。このときの金属のイオン化傾向をM1>M2とすると、負極では極板M1が酸化され、正極ではM2n+ が還元されることにより、M1M2のイオン化傾向の差に見合う起電力が取り出せるのです。

ちなみに、ダニエル電池では、亜鉛Znと銅Cuのイオン化傾向の差に見合う起電力が得られ、その理論起電力は1.1 Vになります。まとめると、ダニエル型電池については、一般的に以下のようなことが言えます。

 

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(4)マンガン乾電池・・・(-)Zn | NH4Cl,ZnCl2 | MnO2(+)

 ボルタ電池やダニエル電池は持ち運びが不自由であり、汎用性が高くありませんでした。そこで、電池の電解質をペースト状にし、水分をできるだけ抑えて、手軽に使えるように工夫された電池が、乾電池(battery)です。乾電池には、マンガン乾電池やアルカリマンガン乾電池、ニッケルマンガン乾電池などがあり、ここでは代表的なマンガン乾電池を説明します。

 

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.5  マンガン乾電池(画像はこちらからお借りしました)

 

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マンガン乾電池では、持ち運びができるように、電解質液にデンプンなどを加え、溶液をペースト状にして、外部に漏れにくくしています。そのために、負極で生じる亜鉛(II)イオンZn2+ は、負極から拡散しにくく、これが反応を遅らせて、起電力を下げる原因となってしまいます。そこで、アンモニアNH3を加えて、錯イオンとして除くのですが、アンモニアNH3のままでは、状態が気体で利用することができないので、塩である塩化アンモニウムNH4Clを代わりに加えます。

 

Zn2+ + 4NH4+ → [Zn(NH3)4]2+ + 4H+

 

こうして生じた水素イオンH+ は、電気伝導性が、亜鉛(II)イオンZn2+ と比べて非常に大きいので、電解質液で電気を運ぶのに、大きな貢献をします。また、水素イオンH+ は、正極で二酸化マンガンMnO2が酸化剤として作用するときの手助けもします。ちなみに、正極では、二酸化マンガンMnO2が還元される反応が起こりますが、反応生成物は、オキシ水酸化マンガン(III) MnO(OH)とマンガン(II)イオンMn2+ の混合物となります。

 

MnO2 + H+ + e-MnO(OH)

MnO(OH) + 3H+ +e- → Mn2+ +2H2O

 

(5)鉛蓄電池・・・(-)Pb | H2SO4 | PbO2(+)

 鉛蓄電池(lead storage battery)とは、1859年にフランスのプランテが発明した電池のことです。鉛蓄電池の起電力は約2.0 Vであり、鉛蓄電池は現代でも、自動車のバッテリーや非常用電源などに用いられています。このような古典的な電池が、現代においても未だに使用されている理由は、鉛蓄電池が充電で繰り返し使用できる、二次電池だからです。

 

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.6  鉛蓄電池

 

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Pbと酸化鉛(IV) PbO2は、どちらも鉛の元素を含んでいますが、どちらが負極でどちらが正極なのか、混乱しやすいところです。しかし、電池においては、負極で酸化反応が起こり、正極で還元反応が起こることを踏まえておけば、簡単に判断することができます。

その酸化数は、鉛Pbでは最低の0であり、酸化鉛(IV) PbO2では最高の+IVです。それ故に、高温で鉛Pbと酸化鉛(IV) PbO2を反応させると、鉛Pbでは酸化数が0→+IIとなり、酸化鉛(IV) PbO2では酸化数が+IV→+IIへと変化して、反応は均一化する方向へ進みます。したがって、鉛蓄電池においては、負極で鉛Pbが酸化され、正極で酸化鉛(IV) PbO2が還元される反応が起こるということが分かります。

酸化還元反応が進行すると、各極で生成した鉛(II)イオンPb2+ はすぐに硫酸イオンSO42- と反応して、不溶性の硫酸鉛(II) PbSO4になります。しかし、極板表面は、複雑に入り組んだ加工が施してあるため、これは溶液中で沈殿とならずに、極板に付着します。

そのため、放電した電池に逆の電圧をかけ、電流を逆向きに流すと、各極では逆反応が起こり、放電する前のもとの状態に戻ります。この操作を、特に充電(charge)といいます。このように、鉛蓄電池は充電で繰り返し使えるという特徴を持っているのです。また、鉛蓄電池は放電をすると、負極から正極へと電子が移動して、次のような反応が、全体で進行します。

 

Pb + PbO2 + 2H2SO4 → 2PbSO4 + 2H2O

 

上式から分かるように、この反応は2 molの電子e- が移動すると起こる反応です。つまり、鉛蓄電池は2 molの電子e- の放電につき、両電極ではPb+PbO2→2PbSO4の反応より質量が増加し、電解液では2H2SO4→2H2Oの反応より希硫酸H2SO4の濃度が減少するのです。

 

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希硫酸の濃度変化については、例えば、25wt%(100 g)の鉛蓄電池の電解液は、0.1 molの電子e- を放電すると、溶質H2SO4が減り、溶媒H2Oが増える結果、電解液の硫酸H2SO4濃度が減少します。

 

 

(6)水素・酸素型燃料電池

 水素や天然ガスなどの燃料を外部から供給し、その燃焼による熱エネルギーを電気エネルギーとして取り出す電池のことを、燃料電池(fuel cell)といいます。中でも水素・酸素型燃料電池は、よく話題にされる代表的な燃料電池です。

燃料電池の特徴は、酸化剤と還元剤が気体なので、外部から供給し続ければ半永久的に発電ができること、また火力発電(発電効率約40~45%)と異なり、エネルギー変換効率が高い(発電効率約80%)こと、クリーンなエネルギー源であることなどがあげられます。

燃料電池は、有効な電極触媒が安くできないため、まだ広く普及はしていませんが、将来的には実用化が期待できる電池です。最近では、ノートパソコンや携帯電話用の小型のものや、自動車用などの様々な種類の燃料電池が開発されています。

水素・酸素型燃料電池は、電解質に酸またはアルカリの水溶液を用いた場合の2種類があり、以下にそれぞれの特徴を示します。

 

(i)KOH型・・・(-)PtH2 | KOH | O2Pt(+)

 KOH型の水素・酸素型燃料電池は、電解液には30~45wt%水酸化カリウムKOH水溶液を用い、電極には正負のどちらにも、白金触媒を含む多孔質の金属膜を使います。この燃料電池では、負極板に水素ガス、正極板に酸素ガスを吹き付けて、酸化還元反応を起こします

KOH型の起電力は約1.2 Vで、KOH型の別名「アポロ型」は、NASAによる人類初の月への有人宇宙飛行計画(アポロ計画)で、有人宇宙船の電源として用いられ、このとき生成した水H2Oが、乗組員の飲料水に用いられたことから名付けられました。

 

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.7  KOH型の水素・酸素燃料電池

 

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水素・酸素型燃料電池では、水素ガスが還元剤として、酸素ガスが酸化剤として作用します。負極に水素ガスを吹き付けると、一部は酸化されて水素イオンH+ となり、これが電解液に溶け込みます。このときに電解液の水酸化物イオンOH- と中和反応し、水H2Oが生成するのです。

 

H2 → 2H+ +2e-

2H+ + 2OH- → 2H2O

 

一方で、正極では酸素ガスが吹き付けられており、一部は還元されて酸化物イオンO2- となり、これが電解液に溶け込みます。このときに電解液の水H2Oと反応し、電解液に水酸化物イオンOH- を供給する役割を果たすのです。

 

O2 + 4e- → 2O2-

2O2- + 2H2O → 4OH-

 

なお、KOH型では、空気中の二酸化炭素CO2によって、電解液が汚染される可能性があります。したがって、KOH型を空気中で運用するときは、空気と触れないような工夫をして、用いる必要があります。

 

2KOH + CO2 → K2CO3 + H2O

 

(ii)H3PO4型・・・(-)PtH2 | H3PO4 | O2Pt(+)

 H3PO4型の水素・酸素型燃料電池は、電解液に95wt%濃リン酸H3PO4水溶液を用いた燃料電池です。H3PO4型の起電力は約1.2 Vで、KOH型と違って、空気中で汚染される心配がないというメリットがあります。

また、H3PO4型の燃料電池は、病院やホテルなどで発電機として実用化されています。運転温度は約200℃であり、排熱は給湯や冷暖房に利用されます。このように排熱などを利用して、エネルギーを有効に活用する仕組みを、コジェネレーションシステム(cogeneration system)といいます。

 

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.8  H3PO4型の水素・酸素燃料電池

 

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H3PO4型の反応は、KOH型とほとんど同じですが、イオンが電解液に溶け込んでからの反応が少し違います。負極に水素ガスを吹き付けると、一部は酸化されて水素イオンH+ となり、これが電解液に溶け込みます。

 

H2 → 2H+ + 2e-

 

一方で、正極では酸素ガスが吹き付けられており、一部は還元されて酸化物イオンO2- となり、これが電解液に溶け込みます。このときに電解液の水素イオンH+ と中和反応し、水H2Oが生成するのです。

 

O2 + 4e- → 2O2-

2O2- + 4H+ → 2H2O

 

KOH型とH3PO4型のいずれにしても、まとめると全体で2H2+O2→2H2Oの反応が、4 molの電子e- の移動で起こったことになります。各極の半反応式は、KOH型では電解液中に水酸化物イオンOH- があること、H3PO4型では電解液中に水素イオンH+ があることを踏まえておけば、簡単に式を作ることができると思います。


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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学」啓林館(2012年発行)

2) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)