硫黄の同素体


【目次】

(1) 実験操作

(2) 理論


(1) 実験操作

 [実験1:斜方硫黄の作成]

@ 硫黄粉末0.2 gを試験管に取り、二硫化炭素を約2 mLを加える。

A 試験管を手のひらに叩きつけるようにしてよく振り混ぜ、数分間放置する。

B 上澄み液を駒込ピペットで1 mLほど取り、慎重にシャーレに移す。シャーレを密閉しないようにして蓋を少しずらしてかぶせ、ドラフト内で二硫化炭素をゆっくり蒸発させ(ゆっくり蒸発させるほど結晶は大きく成長しやすい)

C 二硫化炭素が蒸発すると、斜方硫黄の結晶が生じる。

 

[実験2:単斜硫黄の作成]

@ 乾いた試験管に硫黄粉末2.0 gを取る。

A 四つ折りにした紙をろうとに詰め、ろうと台にセットする。

B 試験管ばさみで試験管を持ち、試験管を振りながら、上の方から均一に弱火で加熱する。このとき、硫黄を加熱し過ぎて硫黄が赤褐色にならないように注意する。

C 硫黄粉末がすべて融けて、黄色で透明な流動性のある液体となったところで、ろうとの中に素早く硫黄を流し込む。

D 硫黄が冷えて、表面に薄い膜ができたところで、素早く紙を取り出し拡げる。このとき、紙を拡げるタイミングが遅くなると、固まってしまい内部の観察ができなくなるので注意する。

E そのまま放冷し、十分に冷えると、単斜硫黄の結晶が生じる。

ろ過ではないので、ろうとの下にビーカーを置く必要はない。

 

[実験3:ゴム状硫黄の作成]

@ 200 mLビーカーに水を半分ほど入れる。

A 実験2で使用した試験管に硫黄粉末4.0 gを取る。

B 試験管ばさみで試験管を持ち、振りながら強火で加熱する。加熱を続けていくと、黄色で流動性のある状態から、赤褐色で粘性のある状態に変わるが、さらに加熱を続けると、再び褐色で流動性のある状態になる。

C 硫黄が沸騰したところで、@のビーカーの中に素早く硫黄を流し込む。

D 生じたゴム状硫黄を水から取り出す。

硫黄は加熱すると発火することがあるが、試験管の口を濡れ雑巾で覆えば、鎮火できる。

 

(2) 理論

硫黄Sの単体には、「斜方硫黄」・「単斜硫黄」・「ゴム状硫黄」などの同素体があります。室温では、黄色塊状の斜方硫黄が熱力学的に最も安定で、天然に産出される硫黄Sはすべて斜方硫黄です。斜方硫黄を120℃に加熱して融解させたあと、空気中で放冷すると、黄色針状の単斜硫黄が得られます。さらに、250℃に加熱した液体硫黄を冷水に注いで急冷すると、弾性のあるゴム状硫黄が得られます。

 

.1  硫黄Sの同素体の関係

 

ただし、単斜硫黄もゴム状硫黄も、室温で長時間放置しておくと、およそ数日後には安定な斜方硫黄に変化します。次の図.2のように、斜方硫黄と単斜硫黄は、王冠状の環状分子S8からなり、水には溶けません。しかし、二硫化炭素CS2にはよく溶け、ベンゼンおよびトルエンにも少量溶けます。ゴム状硫黄は、多数の硫黄原子が次々に結合した長い鎖状分子Sx(xの値は数十万に及ぶこともある)からなり、二硫化炭素CS2には溶けにくいです。

 

.2  硫黄Sの同素体(*条件によって、黄色〜褐色になる)

 

ちなみに、ゴム状硫黄の色は、教科書でも長らく「褐色」であるとされてきましたが、2009年に山形県鶴岡工業専門学校の17歳の少年が、実験によってこれが誤りであることを指摘し、教科書が書き換えられるという一件がありました。純度99%の斜方硫黄をもとにゴム状硫黄を作ってみたところ、教科書通り褐色のものが得られました。しかし、純度99.5%の斜方硫黄から同様にゴム状硫黄を作ってみたところ、教科書とは異なる「黄色」のものが得られたというのです。

それまでは、大学入試でも「褐色」が正解とされており、当たり前のように信じられていました。しかしながら、科学に「絶対」はなく、科学的であるということは、すなわち反証可能性があるということです。当たり前のように信じられていることの中にも、誤りに気付いていないだけで、本当は間違っていることがあるかもしれません。この一件は、少年の科学的な洞察力が呼んだ、見事な発見であったといえます。

 

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高い精度で生成された説明

.3  黄色のゴム状硫黄()と不純物のために褐色になったゴム状硫黄()


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