1円玉はなぜ水に浮かぶのか


【目次】

(1) 実験操作

(2) 理論


(1) 実験操作

@ シャーレをよく水で洗い、容積の半分程度の水を加える。

A ピンセットを用いて、1円玉を1枚だけ慎重に浮かべる。このときの一円玉を横から観察して、水面の様子を観察する。

B 続けて、1円玉をもう1枚浮かべる。

C 水に浮かべた1円玉をピンセットで慎重に動かし、1円玉の動き方を確認する。

D 駒込ピペットを用いて、1円玉の回りに洗剤溶液を少量垂らしてみる。

 

(2) 理論

水の密度は、4℃で最大値0.999972 g/cm3となり、限りなく1に近付きます。ところが、1円玉の主成分であるアルミニウムAlの密度は約2.7 g/cm3であり、単純に密度の違いのみで、物体の浮き沈みが決まるのではないということが分かります。水に1円玉が浮いているということは、1円玉が沈み込んで排除している水の体積分の質量に相当する、「浮力」を受けているということになります。水よりもずっと密度の大きいアルミニウムAlが浮いているということは、浮力とともに、鉛直上向きに「何らかの相当な力」がかかっていることが予想されます。実は、この浮力と共に重要な役割を果たしているのが、水の「表面張力」なのです(界面化学を参照)

 1円玉は、アルミニウムAlでできていますが、その表面は、空気中の酸素O2によって酸化されていて、酸化アルミニウムAl2O3の被膜が表面を覆っています。したがって、1円玉の表面は「親水性」で、本来はよくぬれる物体なのです。しかし、ほとんどの1円玉は、水をはじいて、あまりぬれません。これは、1円玉の表面に、皮脂などの油汚れが吸着し、表面が「疎水性」となっているからです。

疎水性の1円玉を水面に浮かべると、どのようなことが起こるでしょうか。1円玉は重力に引っ張られて、水の中に潜り込もうとしますが、水は疎水性の物体が内部に侵入してくると、内部が不安定になってしまうため、1円玉を外にはじき出そうとするはずです。この「はじき出そうとする力」こそが表面張力であり、水H2Oは、水銀Hgを除くすべての液体のうちで、表面張力が一番大きいです。

 

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.1  「表面張力」により、水面に浮かぶ一円玉

 

また、1円玉を水面に複数浮かべた場合、どのようなことが起こるでしょうか。なんと驚くべきことに、1円玉が勝手に凝集し始めるのです。これは、湖や池などに浮かんでいるゴミが、勝手に凝集するのと同じ原理です。水面に浮かんでいる1円玉は、その円周の長さの分だけ水をはじいているので、非常に不安定な状態となっています。しかし、水面に1円玉が複数存在している場合、1円玉同士で凝集すれば、互いに接触している部分だけ、不安定な部分が減少して、安定になります。そのため、凝集することが有利に働くのです。

 

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.2  水面に浮かぶ1円玉は、凝集することでエネルギー的に安定になる

 

さらに、水面に1円玉が浮いている状態で、回りに洗剤溶液を滴下すると、どのようなことが起こるでしょうか。洗剤の主成分は「界面活性剤」であり、界面活性剤は、分子内に親水基と疎水基の両方を持ち、表面または界面へと吸着しようとする「界面吸着能があります。そこで、界面活性剤は、一円玉の表面に対して、親水基を外側に向けた吸着をして、一円玉の表面は、ぬれの良い親水性になるのです。

ぬれが良いと、接触角はθ 90°となり、図.3のように、水の表面張力は下向きに働きます。図.1との違いが分かるでしょうか。表面張力の働く向きが、図.1逆になっていますね。これが、重力 と一緒になって、一円玉を沈めるのです。したがって、水面に1円玉が浮いている状態で、洗剤溶液を滴下すると、次々と1円玉が沈んでいきます。

 

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.3  「表面張力」により、水に沈む一円玉


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・参考文献

1) 北原文雄「コロイドの話」培風館(1984年発行)

2) 北原文雄「界面・コロイド化学の基礎」講談社(1994年発行)