熱化学(旧課程) 新課程版は


【目次】

(1) 温度と熱量

(2) 熱化学方程式

(3) 反応熱の求め方

(i) ヘスの法則

(ii) 反応熱の導出

(ii-1) 消去法

(ii-2) エネルギー図法

(4) 与えられた反応熱の利用方法

(i) 生成熱の利用

(ii) 燃焼熱の利用

(iii) 結合エネルギーの利用

(5) ヘスの法則の応用


(1) 温度と熱量

物質の温かさや冷たさは、「温度(temperature)」という尺度で表されます。温度が異なる2つの物質が接触するとき、高温の物質から低温の物質へ移動するエネルギーを「熱(heat)」といい、その量を「熱量(heat capacity)」といいます。そして、高温の物質が失った熱量と低温の物質が得た熱量は、常に等しくなります。

物質1 gの温度を1 K上げるのに必要な熱量を「比熱(specific heat)」といい、単位は「J/(gK)」で表します。比熱の値は、物質によって異なり、水の比熱は4.18 J/(gK)です。例えば、比熱cJ/(gK)で、質量mgの物質の温度がΔTK上昇したとき、その物質が吸収した熱量QJは、次式で表されます。

 

 

同じ質量mg2つの物質が、それぞれ同じ熱量QJを吸収または放出したとき、比熱cJ/(gK)が大きい物質ほど、温度変化ΔTKは小さくなります。すなわち、比熱が大きい物質ほど、温まりにくく、冷めにくくなります。次の表.1に、様々な物質の比熱を示します。表.1からは、水H2Oの比熱が、非常に大きいことが分かります。ヒトの身体は60%以上が水H2Oでできていますが、水H2Oの比熱が大きいために、外部の気温が変化しても、体温をある程度一定に保つことができるのです。

 

.1  様々な物質の比熱(25)

物質

比熱〔J/(gK)

モル比熱〔J/(molK)

4.18

75

1.94

35

アルミニウム

0.90

24

0.45

25

0.38

24

0.24

25

 

(2) 熱化学方程式

物質は、結合や状態に基づいた、それぞれ固有のエネルギーを持っています。そのため、化学変化によって物質が変化すると、物質の保有するエネルギーも変化し、外界との間で、エネルギーの出入りが起こります。このように反応に伴って出入りするエネルギーを、「反応熱(heat of reaction)」といいます。また、次のように、化学反応式の右辺と左辺を等号で結び、右辺に反応熱を書き加えたものを、「熱化学方程式(thermochemical equation)」といいます。

 

C2H4() + 3O2() = 2CO2() + 2H2O() + 1,412 kJ

 

熱化学方程式における化学式は、物質の種類を表すとともに、各物質1 molの保有するポテンシャルエネルギー値を意味します。また、化学式の係数は、物質のモル数を表しています。さらに、固体・液体・気体などの物質の状態によって、保有するポテンシャルエネルギーの値が異なるために、原則として化学式のあとに物質の状態を書き添えます。物質の状態は、「気体(gas)」は()または(g)、「液体(liquid)」は()または(l)、「固体(solid)」は()または(s)のように書きます。ただし、その状態が明らかな場合には、状態の表示を省略することもできます。また、同素体が存在する炭素Cなどの場合には、(黒鉛)(ダイヤモンド)などの状態を書き添えるようにします。

熱化学方程式は、反応物と生成物のエネルギー関係を示した方程式です。反応熱の符号は、発熱ではプラス、吸熱ではマイナスになります。一般的に、物質のポテンシャルエネルギーが大きいほど、反応性が高く不安定な状態になるので、自身のポテンシャルエネルギーを熱エネルギーとして放出して、生成物のポテンシャルエネルギーが低くなる「発熱反応(exothermic reaction)」の方が、生成物のポテンシャルエネルギーが高くなる「吸熱反応(endothermic reaction)」よりも自然に起こりやすいです。

しかし、吸熱反応でも、反応熱の絶対値が小さい場合には、自然に反応が進行することがあります。これは、物質の変化には、エネルギー的な要因の他に、「散らばり具合(乱雑さ)の小さい状態から大きい状態へ向かって変化する」というもう1つの原則があるためです。物質の構成粒子は熱運動をしているため、温度が高くなるほど、乱雑さの影響は大きくなります(反応速度と化学平衡を参照)

また、熱を吸収する吸熱反応というのは、少しイメージがしにくいかもしれません。代表的な吸熱反応としては、水H2Oが蒸発する反応がそれです。水H2O()を蒸発させるには、当然水H2O()に熱を加えなければならないので、このときに必要な熱を左辺に書き加えます。H2Oを蒸発させる場合には、1 mol当たりで40.8 kJの熱が必要になります。

 

H2O() + 40.8 kJ = H2O()

 

そして、この熱を右辺に移項してやると、水H2Oの蒸発を表す熱化学方程式が完成します。熱化学方程式は、きちんと吸熱を示していますね。状態変化についての常識的判断に狂いがなければ、正しい式を書くことができるはずです。

 

H2O() = H2O()   40.8 kJ

 

反応熱は、着目する物質の化学変化の名称によって、「生成熱(heat of formation)」や「燃焼熱(heat of combustion)」、「溶解熱(heat of dissolution)」、「中和熱(heat of neutralization)」、「水和熱(heat of hydration)」などがあります。また、状態変化の際に出入りする熱や結合エネルギー、イオン化エネルギー、電子親和力などのエネルギーも、同様に熱化学方程式で表すことができます。次の表.2に化学反応に伴う熱をまとめます。なお、反応熱は一般的に右辺に書き、発熱の場合は正の値、吸熱の場合は負の値で表すことになっています。

 

.2  化学反応に伴う熱

生成熱

化合物1 molがその成分元素の単体から生成するときの反応熱

生成する化合物の係数を1にする

発熱の場合と吸熱の場合がある

exNH3の生成熱 46 kJ/mol

燃焼熱

物質1 molが完全燃焼するときの反応熱

燃焼する可燃物の係数を1にする

すべて発熱反応である

exCOの燃焼熱 283 kJ/mol

溶解熱

物質1 molが多量の水に溶解するときの反応熱

溶質の係数を1にする

発熱の場合と吸熱の場合がある(固体では吸熱が多い)

exNaCl()の溶解熱 −4.2 kJ/mol

NaCl() + aq = NaClaq  4.2 kJ

中和熱

中和反応で1 molの水が生じるときの反応熱

H2O()の係数を1にする

すべて発熱反応である

ex)薄い強酸と薄い強塩基の中和熱56.5 kJ/mol

  H+aq + OHaq = H2O() + 56.5 kJ

水和熱

気体状のイオン1 molが多量の水で水和されるときの反応熱

気体状のイオンの係数を1にする

すべて発熱反応である

exNa+()の水和熱 403 kJ/mol

Na+() + aq = Na+aq + 403 kJ

 

なお、燃焼熱を考える場合、完全燃焼というのは、炭素Cは二酸化炭素CO2、水素Hは水H2O、窒素Nは窒素N2、硫黄Sは二酸化硫黄SO2に変化する場合を指します。水素Hが完全燃焼して水H2Oが生成する場合では、普通は液体となるときの値で示します。

また、生成熱を考えるとき、成分元素の単体に同素体がある場合には、安定な方(ポテンシャルエネルギーの低い方)を選びます。具体的には、炭素Cなら黒鉛、硫黄Sなら斜方硫黄、リンPなら赤リンの方が安定です。

 

.3  状態変化に伴う熱

蒸発熱

物質1 molが蒸発するときの転移熱

すべて吸熱反応である

exH2O()の蒸発熱 44 kJ/mol

  H2O() = H2O()   44 kJ

凝縮熱

物質1 molが凝縮するときの転移熱

すべて発熱反応である

exH2O()の凝縮熱 44 kJ/mol

H2O() = H2O()   44 kJ

融解熱

物質1 molが融解するときの転移熱

すべて吸熱反応である

exH2O()の融解熱 6.0 kJ/mol

  H2O() = H2O()   6.0 kJ

凝固熱

物質1 molが凝固するときの転移熱

すべて発熱反応である

exH2O()の凝固熱 6.0 kJ/mol

H2O() = H2O()   6.0 kJ

昇華熱

物質1 molが昇華するときの転移熱

発熱の場合と吸熱の場合がある

exH2O()の昇華熱 50 kJ/mol

H2O() = H2O()   50 kJ

 

.4  その他の反応に伴う熱

結合エネルギー

気体分子内2原子間の結合1 molを切って、バラバラの原子にするのに必要な吸熱量

exO2の結合エネルギー 498 kJ/mol

  O2() = 2O() − 498 kJ

イオン化エネルギー

気体状原子1 molから電子1 mol取って、一価の陽イオンにするのに必要な吸熱量

exNaのイオン化エネルギー 493 kJ/mol

  Na() = Na+() + e − 493 kJ

電子親和力

気体状原子1 molが電子1 mol受け取って、一価の陰イオンになるときに放出される熱量

exClの電子親和力 349 kJ/mol

  Cl() + e = Cl() + 349 kJ

 

(3) 反応熱の求め方

(i) ヘスの法則

化学反応で出入りするエネルギーは、反応物と生成物のポテンシャルエネルギーの差で表されます。例えば、B→Cの反応を、2つの異なった経路(B→CまたはB→A→C)で行った場合を考えてみます。しかしながら、どちらの反応も最初Bと最後Cのポテンシャルエネルギーが同じであり、かつどんな化学変化においても全エネルギーは保存されるので、最終的なエネルギーの出入りは同じになるはずです。そして、化学反応で出入りするエネルギーのほとんどは、熱という形態を取るために、化学変化に伴う熱の収支は、どのような反応経路を取っても同じになるのです。これを発見者であるロシアの化学者ジェルマン・アンリ・ヘスの名を取って、「ヘスの法則(Hess’ law)」といいます。

ヘスの法則は、いわば熱力学第一法則(エネルギー保存の法則)の化学的な言い換えです。しかし、熱力学第一法則の提唱以前に発見された法則なので、今でもその名を残しています。また、次の図.1のように、縦軸に物質の保有するポテンシャルエネルギーを取り、反応物や生成物などのエネルギー関係を表した図を、「エネルギー図(energy diagram)」といいます。エネルギー図において、矢印は反応の向きを表しています。また、高エネルギー状態から低エネルギー状態へ向かう反応は発熱反応、低エネルギー状態から高エネルギー状態へ向かう反応は吸熱反応です。

 

a.png

.1  ヘスの法則とエネルギー図

 

(ii) 反応熱の導出

ヘスの法則を用いることで、熱化学方程式は、数学で学ぶ方程式と同様の扱いができます。これによって、直接測定することが困難な反応熱でも、間接的に計算で求められるようになるのです。反応熱の導出方法を示す前に、熱化学方程式の基本について、再確認しておきましょう。例として、次の熱化学方程式について考えてみます。

 

aA + bB = cC + dD + Q kJ

 

@ 化学式は、物質1 molの保有するポテンシャルエネルギー値である。係数は物質のモル数を表し、通常の化学反応式と異なり、熱化学方程式では分数係数であっても許される。

A aAbBは反応物のポテンシャルエネルギーを、cCdDは生成物のポテンシャルエネルギーを表す。つまり、反応熱Qは、そのポテンシャルエネルギーの差である。

B 物質の量が2倍になれば、ポテンシャルエネルギーも2倍になるから、反応熱Q2倍になる。そこで、熱化学方程式を2倍したり、1/2倍したりしてもよい。

 

これより、次の例題を解いてみましょう。炭素Cと酸素O2から、一酸化炭素COが生じる反応を考えてみます。炭Cを燃焼させた場合、一酸化炭素COと同時に二酸化炭素CO2を生じることが多く、一酸化炭素COの生成熱を実験的に求めることは困難です。しかし、黒鉛Cと一酸化炭素COの燃焼熱は、それぞれ実験で正確に求められるので、一酸化炭素COの生成熱は、次のように計算することができます。なお、反応熱の求め方には、様々な方法がありますが、ここでは一般的な方法だけ示します。

 

例題

C(黒鉛)CO()の燃焼熱は、それぞれ394 kJ/mol283 kJ/molである。これらの値を用いて、CO()の生成熱〔kJ/mol〕を求めよ。

 

(ii-1) 消去法

消去法は、一般的な導出方法の1つです。ヘスの法則より、反応物生成物の反応熱を求めるのに、どのような反応経路を取っても良かったことを思い出してください。まずは、求めたい反応熱をQ kJ/molと置いて、与えられた反応熱を書き出します。

 

 無題.png

 

これより、求めたい熱化学方程式は、(1)(2)-(3)なので、生成熱Q111 kJ/molということが分かります。

 

(ii-2) エネルギー図法

エネルギー図法は、複雑な反応熱を求めるのに適した導出方法です。一般的には、エネルギー図の上部にくる物質ほど、ポテンシャルエネルギーが大きいので、反応性が高く不安定です。また、物質がバラバラの状態であるほど、粒子の熱運動は激しくなるので、ポテンシャルエネルギーは大きくなります。それ故に、一般的に単体や原子はポテンシャルエネルギーが最も大きく、燃焼生成物はポテンシャルエネルギーが最も小さいです。そこで、エネルギー図を作成するときには、単体や原子を最も高エネルギー(一番上)に書き、燃焼生成物は最も低エネルギー(一番下)に書くことにします。しかし、問題になっている化学反応が、発熱反応なのか吸熱反応なのかが分かっていないと、エネルギー図を完成させることができません。そこで、問題になっている化学反応を「発熱反応」と仮定し、エネルギー図に書き加えるのです。そして、求めた反応熱Qが正の値なら、仮定通りの発熱反応として扱い、求めた反応熱Qが負の値なら、仮定とは異なる吸熱反応として扱います。

 

反応物Aが生成物Bになるとき

  A → B

@ 求める反応熱Q kJを発熱と仮定する

A 単体や原子を一番上に書く

B 完全燃焼生成物は一番下に書く

C エネルギー差より反応熱を求める

 

.2 エネルギー図法

 

 さて、エネルギー図法を用いて、一酸化炭素COの生成熱を求めてみましょう。まず、一酸化炭素COの生成熱を発熱反応と仮定します。そして、黒鉛Cと一酸化炭素COの燃焼熱が問題文で与えられているので、完全燃焼生成物である二酸化炭素CO2を一番下に書きます。

 

a.png

.3  エネルギー図法で一酸化炭素COの生成熱を求める

 

.3のエネルギー図より、Q394-283なので、生成熱Q111 kJ/molということが分かります。

 

(4) 与えられた反応熱の利用方法

反応熱は、(3)で示した方法で求めるのが一般的です。しかしながら、実はもっと簡単に反応熱を求める方法があります。ただし、この方法は、生成熱または燃焼熱、結合エネルギーのいずれかが、反応系のすべての物質について分かっていないと使えません。また、この方法は、反応熱を機械的に求めるものなので、初学者がこの方法に頼り過ぎると、熱化学の正しい理解が成されないという恐れもあります。この方法は、消去法やエネルギー図法を習得した上で、使うことをお勧めします。

 

(i) 生成熱の利用

反応熱は、化学変化に関与する物質の生成熱から、ヘスの法則を利用して求められます。例えば、熱化学方程式aXbYcZQ kJについて、X, Y, Zの生成熱が各々x, y, z kJ/molで与えられるとき、反応系のポテンシャルエネルギーは、次のエネルギー図で示される関係があります。生成熱は、ある化合物をその成分元素の単体から作るときの反応熱なので、単体をエネルギー図の一番上に書きます。

 

a.png

.4  生成熱の利用

 

エネルギー図より、Qcz-(axby)となります。ここで、czは生成物Zの生成熱の総和、axbyは反応物XおよびYの生成熱の総和を表しています。つまり、反応系の生成熱が与えられているときは、次式のように生成物と反応物のそれぞれの生成熱の差から、反応熱Qが求められます。

 

aX + bY = cZ + Q kJ において

反応熱Q kJ (成物Zの生成熱の総和) - (応物XおよびYの生成熱の総和)

 

(ii) 燃焼熱の利用

反応熱は、化学変化に関与する物質の燃焼熱から、ヘスの法則を利用して求められます。例えば、熱化学方程式aXbYcZQ kJについて、X, Y, Zの燃焼熱が各々x, y, z kJ/molで与えられるとき、反応系のポテンシャルエネルギーは、次のエネルギー図で示される関係があります。燃焼熱は、ある物質を完全燃焼させたときの反応熱なので、燃焼生成物をエネルギー図の一番下に書きます。

 

a.png

.5  燃焼熱の利用

 

エネルギー図より、Q(axby)-czとなります。ここで、czは生成物Zの燃焼熱の総和、axbyは反応物XおよびYの燃焼熱の総和を表しています。つまり、反応系の燃焼熱が与えられているときは、次式のように生成物と反応物のそれぞれの燃焼熱の差から、反応熱Qが求められます。

 

aX + bY = cZ + Q kJ において

反応熱Q kJ (反応物XおよびYの燃焼熱の総和) - (生成物Zの燃焼熱の総和)

 

(iii) 結合エネルギーの利用

化学反応は、一般的にエネルギーの出入りを伴います。その理由は、化学反応が起こるとき、反応物中の化学結合が切れて、粒子の組み換えが起こり、新たな化学結合が生じて、生成物ができるからです。したがって、反応物と生成物のそれぞれの化学結合のエネルギー差の分だけ、エネルギーが出入りするはずです。分子内の共有結合を切断するために必要なエネルギーを「結合エネルギー(bond energy)」といい、気体分子内の1 mol当たりの値で示します。例えば、1 mol水素分子H22 molの水素原子Hに分解するためには、H-Hの結合エネルギー436 kJ/molに相当するエネルギーを加える必要があります。

 

H2() = 2H()   436 kJ

 

そして、逆に2 molの水素原子H1 mol水素分子H2になるときには、H-Hの結合エネルギーに相当するエネルギーが発生します。

 

2H() = H2() + 436 kJ

 

したがって、反応物と生成物のそれぞれの化学結合のエネルギー差から、ヘスの法則を利用して反応熱が求まります。例えば、熱化学方程式A2()B2()2AB()Q kJについて、A-A, B-B, A-Bの結合エネルギーが、各々x, y, z kJ/molで与えられるとき、反応系のポテンシャルエネルギーは、次のエネルギー図で示される関係があります。結合エネルギーは、ある気体分子の共有結合を切断して、バラバラの原子にするときに必要な反応熱なので、原子をエネルギー図の一番上に書きます。

 

a.png

.6  結合エネルギーの利用

 

エネルギー図より、Q2z-(xy)となります。ここで、2zは生成物ABの結合エネルギーの総和、xyは反応物A2およびB2の結合エネルギーの総和を表しています。つまり、反応系の結合エネルギーが与えられているときは、次式のように生成物と反応物のそれぞれの化学結合のエネルギーの差から、反応熱Qが求められます。

 

A2() + B2() = 2AB() + Q kJ において

反応熱Q kJ (成物AB結合エネルギーの総和) - (応物A2およびB2結合エネルギーの総和)

 

(5) ヘスの法則の応用

固体結晶の状態にある陽イオンと陰イオンを完全に切り離して、ばらばらの気体状態にするのに必要なエネルギーのことを、「格子エネルギー(lattice energy)」といいます。例えば、塩化ナトリウムNaClの結晶の格子エネルギーQkJ/molは、次式のように表されます。

 

NaCl() = Na+ () + Cl- () Q kJ

 

格子エネルギーQは、直接測定することが困難です。そこで、ヘスの法則を用いて、計算により間接的に求めます。大学入試では、次の図.6のようなエネルギー図を書いて、格子エネルギーを求めさせる問題がしばしば出題されます。このエネルギー図を用いて、NaCl()の結晶1 molを気体状態のナトリウムイオンNa+ ()と塩化物イオンCl- ()に引き離すのに必要な格子エネルギーQを求めてみましょう。

 

.7  ボルン・ハーバーサイクルにより、格子エネルギーQを求めることができる

 

 

.7のように、ヘスの法則を応用して、実験値に基づきイオン結晶の格子エネルギーQを求める循環過程のことを、「ボルン・ハーバーサイクル(Born-Haber cycle)」といいます。なお、格子エネルギーは吸熱反応なので、注意しましょう。これより、格子エネルギーQは、次のように間接的に求めることができます。

 

 


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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学」啓林館(2012年発行)

2) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)

3) 卜部吉庸「化学の新研究」三省堂(2013年発行)