・界面化学


(1)界面化学とは何か?

界面化学とは、2つの物質が接する境界に生じる現象を扱う学問分野のことです。研究領域がコロイド化学と近いため、学会や雑誌などでは、両者を合わせて扱われることが多いです。

コロイドは、その構造により、高分子コロイドや会合コロイド、分散コロイドに分類することができます。高分子コロイドは、その名の通り、高分子のコロイドのことです。また、会合コロイドは、界面活性剤のミセルが分散しているコロイド、分散コロイドは、不溶性の微粒子が分散しているコロイドのことです。特に、分散コロイドでは、分散質と分散媒が、それぞれ明確に分かれているので、系の中に相境界としての界面(interface)を含んでいます。また、分散媒が気相のときは、その界面を特に表面(surface)と呼んでいます。私たちは表面張力という言葉をよく使いますが、もっと広い意味では、表面張力ではなく界面張力という言葉を使います。

コロイドの性質を調べるときは、その粒子の界面を調べることが多いです。粒子の単位質量当たりの表面積を比表面積といい、微粒子系では、通常m2/gで表します。例として、密度ρ g/m3の物質1 gを、半径r mの微粒子N個に粉砕したとします。コロイドの大きさに粉砕しても、質量は保存されるので、このときの比表面積をS m2/gとすると、

 

a.png

.1  コロイド粒子の比表面積

 

a.png

 

これより、粒子の大きさと比表面積Sの間には、S=3/()という関係があることが分かります。この式が意味することは、例えば、ρ =3×106 g/m3とすると、r =10 nmのとき、比表面積はS =100 m2/gにもなります。たった1 gのコロイド粒子でも、その表面積は、一軒家の敷地面積ぐらいの広さがあるのです。このように、コロイド粒子には、半径と反比例して、比表面積が大きくなる性質があります。

 また、コロイドにおける表面の重要性を示す、もう1つの計算をしてみましょう。一辺Lの立方体粒子に、一辺l (L >l )の立方体分子が詰まっているという、単純な粒子モデルを考えます。構成分子の中で、表面に顔を出している分子の割合を幾何学的に計算すると、粒子中の分子の総数N(L/l )3個で、表面にある分子の総数n(L/l )2×6個となります。したがって、表面原子の割合f は、

 

a.png

.2  コロイド粒子の表面原子数の割合

 

 

これより、粒子の大きさと表面原子の割合f の間には、f =6l/Lという関係があることが分かります。例えば、立方体分子の大きさをl =4 nmとすると、L =10 nmのときにはf =0.24L =3 nmのときにはf =0.80となります。このようにコロイド粒子には、半径と反比例して、表面原子の割合が大きくなる性質もあります。コロイド粒子は比表面積が大きく、表面原子の割合も大きいので、コロイドの物性として、粒子表面の性質がよく現れるのです。

また、表面は分子的に見て、内部とは異なる状態にあります。すなわち、内部の分子では、全方位に分子間力が均等に作用していて、その物質としての凝集力は、均一に働いています。しかし、表面にある分子は、分子間力が均一に働かず、その分子間力の合力は、内部に向かう不均一の力となるのです。

 

a.png

.3  内部分子(i)と表面分子(s)に働く分子間力

 

この不均一な分子間力は、マクロには表面張力を発生させ、また隣接する相からの分子やイオンの吸着、固体面の液体によるぬれの原因となります。さらに、イオンの界面への吸着は、界面に電荷を生じさせます。これらの表面張力や吸着、ぬれ、界面電気は、表面積に比例する現象であるので、比表面積の大きいコロイドでは、顕著に現れてきます。そして、これらの現象が、コロイドの物性を大きく左右することになるのです。

例えば、鉄Feは釘のように大きいままだと燃えませんが、スチールウールはマッチで着火すると、花火のように燃えます。さらに、鉄Feをコロイドの大きさにすると、空気中に取り出しただけで、自然発火するようになります。身近でよく知られた鉄Feでも、コロイドの大きさでは、物性が全く違ってくるのです。

 

(2)吸着

気体と固体、気体と液体、液体と固体、水と油のような液体と液体などが接しているとき、その間には界面ができます。この界面に原子や分子、イオンなどの微粒子がくると、この微粒子は、2つの相を構成する粒子と引き合います。しかし、たいていどちらか一方と引き合う力の方が強いので、その方へ引き付けられます。その力が非常に強いとき、微粒子は一方の相の表面にくっついて離れなくなります。このように、ある物体の界面における濃度が、周囲よりも増加する現象を、吸着(adsorption)といいます。

 

a.png

.4  固体表面への気体分子の吸着

 

吸着は、すべての界面で起こりうる一般現象です。吸着する微粒子を吸着質といい、それに対して吸着される物質を吸着媒といいます。吸着は、日常的にもよく利用されており、身近にある吸着媒は、活性炭やシリカゲルです。冷蔵庫の臭いを除く脱臭剤が市販されていますが、中を調べてみると、粒状の活性炭が入っているはずです。活性炭は臭い分子を吸着し、脱臭してくれるのです。また、缶や瓶の中のお菓子には、紙袋などに入れた乾燥剤が入っています。その中を調べてみると、白い粒が入っており、ときには青い粒で、少し赤みがかかっていることもあります。これはシリカゲルであり、シリカゲルは、水分子を吸着してくれるのです。青色や赤色になっているのは、シリカゲルに、塩化コバルト(II) CoCl2を配合しているからです。コバルト(II)イオンCo2+ は、無水CoCl2のときは青く、水H2Oを吸って6水和物CoCl26H2Oになると、赤くなる性質があり、シリカゲルの吸湿能を示す指示薬になっています。

 

CoCl2() + 6H2O → CoCl26H2O()

 

活性炭とシリカゲルに共通していることは、両者とも固体表面に微細な凹凸のある多孔質で、比表面積が非常に大きいということです。その値は、製造方法や保存方法の仕方などによって異なりますが、たった1 gの活性炭でも7001500 m2/g、シリカゲルでは500750 m2/gの値を取ります。吸着は固体表面で行われるので、比表面積が大きいほど、一定量の固体の吸着能は大きくなります。

また、活性炭とシリカゲルで異なるところは、吸着しやすい物質の違いです。活性炭は炭素からできているので、疎水性の有機化合物に対する親和性が大きく、有機化合物に対する吸着能が非常に大きいです。一方で、シリカゲルは化学式ではSiO2nH2O(0<n<1)で表されるので、化学結合に極性があり、結合に極性のある水分子をよく吸着してくれます。したがって、シリカゲルを脱臭剤として使用しても、有機化合物である臭い分子をあまり吸着してくれず、逆に活性炭を乾燥剤として使用しても、水分子をあまり吸着してくれません。吸着媒にも、適材適所があるのです。

 

(i)吸着の熱力学

微粒子の吸着が起きると、微粒子の運動は制限され、微粒子は吸着媒の表面に束縛されることになります。つまり、熱力学的には、吸着反応は、吸着質分子の運動の自由度が減少するので、エントロピーの変化はΔS <0の反応です。また、吸着が起こるということは、自由エネルギーの変化はΔG <0でなければならないので、ギブスの自由エネルギー式より、

 

無題.png

 

よって、エンタルピーの変化はΔH <0でなければ、ΔG <0が成立しません。ギブスの自由エネルギーの式における「-TΔS 」は正の値になるので、少なくともΔH <0でなければ、ΔG <0とならないのです。つまり、吸着反応は発熱反応になります。吸着反応は可逆反応でかつ発熱反応なので、ル・シャトリエの法則より、温度を上げていくと、吸着量は減少していきます。温度が低いほど、吸着しやすいのです。

また、発熱を伴う吸着によって、吸着質が安定化するには、吸着質と吸着媒との間に、何らかの相互作用が作用していなければなりません。それらの相互作用には、分子間力による物理吸着と、化学結合による化学吸着の2つがあります。物理吸着は吸着が弱いため、温度を上げたり希釈したりすると、容易に脱着が起こり、吸着反応は可逆的です。一方で、化学吸着したものは脱着しにくく、不可逆性が強いです。また、化学吸着は一種の化学反応であるので、吸着に際して活性化エネルギーを必要とし、吸着速度は遅くなります。次の表.1に、物理吸着と化学吸着の特性の比較を示します。

 

.1  物理吸着と化学吸着

無題.png

 

化学吸着は、金属表面への水素H2や酸素O2への吸着で見られます。この場合、金属表面で分子から原子への解離が起こり、解離吸着した原子は、非常に反応しやすい状態になっています。エチレンC2H4の水素化において、ニッケルNiなどの金属が必要となるのは、このためです。この反応において、金属の吸着媒は、触媒として作用しているのです。

 

(ii)吸着等温線

 固体への気体分子の吸着量を求めるためには、吸着前の気体の圧力P0を測り、固体を入れて吸着させたあとの気体の圧力Pを測ります。P0-Pが、吸着による圧力の変化量なので、吸着した気体の物質量をnとすると、

 

(P0 - P )V = nRT

 

の関係が成り立ち、体積Vが分ければ、nが計算できます。

また、溶液から固体への吸着量を求めるには、気体の場合の圧力の代わりに、溶質の濃度を使います。吸着前の溶質濃度をC0とし、吸着後の溶質濃度をCとすれば、吸着した溶質の物質量nは、

 

(C0 - C )V = n

 

の関係が成り立ち、溶液の体積Vが分ければ、nが計算できます。これより、吸着量の測定から、グラフを作成することができるのです。

まず、一定温度で吸着質の圧力または濃度を変えて、吸着量を測定します。それから、吸着量と吸着後の圧力または濃度を、それぞれ縦軸と横軸に取り、グラフを書きます。このグラフを、吸着等温線(adsorption isotherm)といいます。作成した吸着等温線からは、色々な情報を読み取ることができます。

吸着等温線の形は、気体吸着と溶液吸着では、かなり違ってきます。よく見られる吸着等温線の型を、次の図.5に示しました。(a)はラングミュア(Langmuir)型といい、圧力あるいは濃度が増加しても、ある値以上では、吸着量は一定になってしまうことを示します。これは、気体吸着と溶液吸着の両者で見られる型です。(b)BET型といい、アメリカの研究者であるブルナウアーとエメット、テラーのイニシャルを取ったものです。この場合は、圧力が増加すると吸着量が一定になりそうになって、その後どんどんと増加していきます。これは、主に気体吸着で見られる型です。(c)はフレンドリッチ(Freundlich)型といい、濃度が増加するにつれて、吸着量が平方根関数的に増加していきます。これは、主に溶液吸着で見られる型です。

 

a.png

.5  主な吸着等温線の型

 

(iii)吸着等温式

 吸着等温線を、数式で表したものを吸着等温式といいます。図.5(a), (b)については理論式が、(c)については実験式が与えられています。

 

(iii-1)ラングミュアの吸着等温式

 吸着量をΓ (ガンマ)、平衡濃度をcとするとき、この式は、次のように表されます。ただし、a, Γmは定数です。

 

 

気体吸着では、平衡濃度cの代わりに、平衡圧pを使います。また、aは吸着熱に対応する量を表し、Γmは飽和吸着量を表しています。ラングミュアの式は、単分子層吸着する場合を想定しており、固体表面に吸着質分子がすべて吸着してしまうと、もうそれ以上は吸着する場所がなくて、吸着できなくなってしまうことを表します。それ故に、ラングミュア型の吸着等温線は、ある値以上では吸着量が一定になり、飽和してしまうのです。

 

(iii-2)BETの吸着等温式

 標準状態の吸着量をV、平衡圧をp、飽和蒸気圧をp0とするとき、この式は、次のように表されます。ただし、C, Vmは定数です。

 

 

BETの式は、多分子層吸着を想定しており、最初に単分子層ができ、その後、単分子層の上に、気体分子が何層にも吸着していくことを表しています。定数Vmは、最初の単分子層の完結する吸着量に相当します。また、定数Cは、ラングミュアの式の定数aに相当する量です。それ故に、BET型の吸着等温線は、最初はラングミュア型に近いグラフとなり、その後、吸着量が指数関数的に増加するグラフとなるのです。

 

(iii-3)フレンドリッチの吸着等温式

 吸着量をΓ、平衡濃度をcとするとき、この式は、次のように表されます。ただし、knは定数です。

 

 

この式は、経験的に導出された式で、定数の物理的意味は、はっきりしません。吸着媒が活性炭やシリカゲルのように、多孔質である場合に当てはまります。これらの吸着媒は、表面構造が複雑で、吸着する場所がたくさんあり、それぞれの場所でラングミュアの式が成立し、それらの和がフレンドリッチの式になると解釈できます。この式は、実験データを整理するのに便利です。

 

(3)表面張力

表面張力(surface tension)とは、「表面を引っ張る力」と書くように、表面を引っ張って、表面積をできるだけ小さくしようという液体の力のことです。表面張力は界面張力(interfacial tension)の一種であり、正確な定義をいうならば、液体表面分子の持つ、内部に比べて過剰な単位面積あたりの自由エネルギーとなります。液体の表面積をできるだけ小さくしようという傾向があるのは、自由エネルギーは小さいほうがより安定であり、過剰のエネルギーを持つ表面分子が、内部に向かって引っ張られるからです。次の図.6に、表面張力が発生するメカニズムを示します。

 

a.png

.6  表面張力発生のメカニズム

 

液体の分子間には、分子間力が作用しており、それぞれは、互いに引き合って凝集しようとします。内部の分子は、色々な方向から分子間力を受けて安定化しているのに対して、表面にある分子は、内部の分子に触れていない部分だけ、他の分子による分子間力を受けません。その結果、表面分子は過剰な自由エネルギーを持つことになり、液体は表面積が最も小さい球形になろうとするのです。無重力下で水滴は綺麗な球形になることが知られていますが、これは、水H2Oの表面張力が影響しています。

また、表面張力γによる自由エネルギーの変化量をdG、表面積の変化量をdSとすると、表面張力による仕事量が、自由エネルギーの変化量に相当するので、次のような式が成り立ちます。

 

dG = γ × dS

 

また、これを積分すると、次のような式になります。この式より、表面張力γは、「比表面自由エネルギー」であるということが分かります。すなわち、表面張力の単位は、SI単位系では「J/m2」と表せるのです。

 

dG = γ × ∫dS

G = γ × S

γ = G/S

 

表面張力の単位はJ/m2ですが、表面という2次元の面を考え、表面張力を「その面内に作用する単位長さ当たりの力(N/m)」と見なしても問題ありません。ただ、表面張力の単位は、習慣的にSI単位系ではなく、CGS単位系を用いて表すことが多く、一般的にはCGS単位系で「dyn/cm」と表現します。ちなみに、1 dyn1 gの物質に1 cm/s2の加速度を与える力のことで、1 dyn=10-5 Nです。次の表.2に、液体の表面張力のデータを示します。表には、比較のために蒸発熱のデータも併記しました。両者とも、分子間力に対応した物性ですが、前者は自由エネルギー、後者はエンタルピーと関係しています。

 

.2  純粋液体の表面張力と蒸発熱

無題.png

 

H2Oは、水銀Hgを除くすべての液体のうちで、表面張力が一番大きいです。この理由は、水分子は、分子間でファンデルワールス力よりもはるかに強い水素結合をしているからです。水銀Hgの表面張力が大きいのは、金属結合によります。また、表面張力は、温度が上昇すると低下します。これは、温度が上がることで、分子の熱運動が活発になり、分子間力による相互作用の影響が小さくなるからです。分子間に相互作用する分子間力が大きいほど、液体の表面張力は大きくなるのです。

 

(i)曲面の表面張力

次の図.7のような液中の球状気泡を、半径drだけ膨張させたときの仕事を考えます。このときの圧力の増加分をΔP、体積の変化量をdVとすると、膨張の仕事は、ΔP ×dVとなります。また、表面張力をγ、表面積の変化量をdSとすると、表面拡張の仕事は、γ ×dSとなります。

さらに、V =(4πr3)/3, S =4πr2なので、それぞれを半径rについて微分すると、dV =4πr2 dr, dS =8πr drとなります。よって、エネルギーの総和が等しいことより、ΔP ×dV =γ ×dSの関係が成り立つので、これをΔPについて式変形すると、

 

a.png

.7  表面拡張仕事のモデル図

 

ΔP × dV = γ × dS

ΔP × 4πr2 dr = γ × 8πr dr

 

ΔP = 2γ /r (Young-Laplaceの式)

 

このときのΔPは、「気泡の膨張に使われた」として計算しましたが、仮に、「膨張の仕事に使わず、その仕事分を内部に保持して、過剰なエネルギーを生じている」と考えると、ΔPは、外圧と内圧の圧力差であると見ることもできます。つまり、外圧をPg、液体内部の圧力をPlとすると、Pl >Pgなので、ΔP = Pl - Pgとなります。

 

a.png

.8  球状気泡の圧力差

 

よって、図.8のモデルにも、同様にΔP = 2γ /rという関係が成り立つのです。このヤング・ラプラスの式(Young-Laplace formula)は、球状の界面間に生じている圧力差を求めるのに、よく用いられる式です。この式が表していることは、球体の大きさに反比例して、内部に加わる圧力が大きくなるということです。つまり、小さい球体ほど、内部には大きな圧力が生じているのです。風船を膨らませるときに、半径が小さい最初はなかなか風船が膨らまなくて大変ですが、ある程度風船が膨らんで半径が大きくなると、簡単に膨らませられるようになるのはそのためです。

この結果を示すシャボン玉の実験があるので、紹介しておきます。次の図.9のように、大きなシャボン玉と小さなシャボン玉を連結します。ここで、コックを開くと、これらのシャボン玉はどうなるでしょうか?

 

a.png

.9  シャボン玉の実験

 

大きなシャボン玉には、たくさんの空気が充填されているので、圧力はP2 >P1のような気がして、大きなシャボン玉から、小さなシャボン玉へ空気が流れるような気がします。しかし、結果は逆で、小さなシャボン玉から、大きなシャボン玉へ空気の流れが生じるのです。これは、ヤング・ラプラスの式より、半径の小さい球体の方に、より大きな圧力差ΔPが生じているからです。つまり、現実には圧力はP1 >P2であり、小さいシャボン玉から大きいシャボン玉への空気の流れが生じて、小さいシャボン玉は消滅してしまいます。

 

(ii)溶液の表面張力

これまでは、純液体の表面張力を考えてきましたが、溶液の表面張力も、同様にして定義することができます。ここでは、溶媒として最もよく用いられ、表面張力が特に大きい水H2Oを対象とします。

水溶液の表面張力では、水溶液の表面に、溶質の吸着が起こることに注意しなければなりません。次の図.10に、様々な水溶液の表面張力を示しました。これは、溶質の種類により、表面張力の濃度変化を2大別することができます。すなわち、濃度が増すと、水溶液の表面張力が減少する場合と、表面張力が増加する場合の2つです。前者は、有機化合物の場合に、後者は、無機塩の場合に現れます。前者のように、濃度増加によって表面張力が低下する現象を、界面活性といいます。また、後者のように、表面張力が増加する現象を、界面不活性といいます。また、曲線(a)のように、表面張力の低下が顕著で、γ-c曲線に折れ曲がりが生じるような溶質を、特に界面活性剤といいます。界面活性剤は、分子中に親水基と疎水基を含んでおり、疎水基を気相に向けて、表面に吸着する性質があります。

 

a.png

.10  水溶液の表面張力の溶質濃度依存性

 

界面活性のある物質については、いずれも分子の中に、疎水基と親水基を持っています。したがって、これらの物質は、表面に吸着する性質を持ち、溶質濃度の増加に伴って、気相に触れる表面の水分子数が減少し、表面にある水分子の安定化が起こって、表面張力が大きく低下するのです。ただし、(a)(b)のグラフは、かなり特徴が違います。これは、(a)の界面活性剤は、親水基が電解質で、完全な電荷を持っているのに対し、(b)の極性有機化合物は、親水基が分極した共有結合で、部分電荷しか持っていないためです。したがって、表面吸着能は、親水性の高い官能基を持つ界面活性剤の方が圧倒的に強く、そのため少量でも、大きく表面張力を低下させることができるのです。また、(a)の界面活性剤は、グラフに屈曲点がありますが、これは、表面吸着が満員になったということを表しています。この屈曲点のことを、臨界ミセル濃度(critical micelle concentrationcmc)といいます。これ以上の濃度では、界面活性剤は吸着をせずに、ミセルを作り始めます。

界面不活性な物質については、電解質である無機塩があります。無機塩は、水中では電離してイオンとなり溶けていますが、これらのイオンは、周囲を水分子に取り囲まれ、水和されることで安定化しています。したがって、これらのイオンが表面に出てくることは、水和してくれる水分子が減少することに繋がり、不安定に作用してしまうのです。また、これと同じことが水分子にもいえ、水分子は分子間で水素結合をするよりも、より強力なクーロン力を持つイオンと相互作用している方が安定です。つまり、無機塩のイオンは、界面活性のある物質と異なり、表面には吸着しません。その結果、表面が純粋に近い状態であるのに対して、内部は水分子がイオンと相互作用して安定化しているので、表面と内部のエネルギー差はかえって大きくなり、表面張力が増加してしまうのです。

 

(4)ぬれ

ぬれ(wetting)は、「綺麗なガラスはよくぬれる」などと日常的によく使う言葉ですが、界面化学でも、非常に重要な界面現象の1つです。吸着は、固体表面と分子、イオンとの相互作用でしたが、ぬれは、固体表面と液体との相互作用です。ぬれは、「固体-気体界面が、固体-液体界面で置き換わること」と定義されます。この定義により、ぬれは、大きく分類して次の3型になります。

 

a.png

.11  ぬれの3

 

ぬれが起きる際、界面が置き換わるので、熱力学的には、自由エネルギー変化が生じます。界面張力は、界面をできるだけ小さくしようとする力ですが、別の定義では、単位面積あたりの自由エネルギーであったことを思い出してください。つまり、界面の自由エネルギー変化ΔGを単位面積で考えれば、自由エネルギーの代わりに界面張力γを使って、ぬれを考えることができるのです。

 

(i)付着ぬれ

付着ぬれの自由エネルギー変化を考えると、次の図.12のように、固体-気体界面および液体-気体界面の2つが、固体-液体界面に置き換わっているので、固体-気体界面に働く界面張力をγSG、液体-気体界面に働く界面張力をγLG、固体-液体界面に働く界面張力をγSLとすると、次のようになります。ここで、S, L, Gは、それぞれ固体(solid)、液体(liquid)、気体(gas)を表します。

 

a.png

.12  付着ぬれ

 

ΔG = γSL - (γSG + γLG)

 

(ii)浸透ぬれ

同様にして、浸透ぬれの自由エネルギー変化を考えると、次の図.13のように、固体-気体界面が、固体-液体界面に置き換わっているので、次のようになります。

 

a.png

.13  浸透ぬれ

 

ΔG = γSL - γSG

 

(iii)拡張ぬれ

同様にして、拡張ぬれの自由エネルギー変化を考えると、次の図.14のように、固体-気体界面が、固体-液体界面および液体-気体界面の2つに置き換わっているので、次のようになります。ただし、固体をぬらす液体は、十分に薄い膜であると考えます。

 

a.png

.14 拡張ぬれ

 

ΔG = (γSL + γLG) - γSG

 

(iv)ぬれの熱力学

固体の関係する界面張力は、一般に測定できません。しかし、次の接触角と界面張力との関係を表すヤングの式(young formula)を使うことで、表すことができます。固体と液体、気体が平衡にあるとき接触角をθとすると、液滴のふちにおける3つの界面張力が釣り合っていることから、

 

a.png

.15  ヤングの式

 

γSG = γSL + γLGcosθ

γSG - γSL = γLGcosθ (Youngの式)

 

これより、ヤングの式の関係を、付着ぬれと浸透ぬれ、拡張ぬれのそれぞれの式に代入すると、ΔGは、γLGθだけの式となります。また、γLGθは、測定可能であるから、3つのぬれが起きるか否かの、熱力学的な判断が可能となるのです。

 

(iv-1)付着ぬれの熱力学

(i)付着ぬれについて、ヤングの式γSG - γSL = γLGcosθより、

 

無題.png

 

よって、ΔG <0となれば、ぬれが起きるので、上式より、θ <180°の範囲で、付着ぬれが起きるということが分ります。固体表面のぬれやすさは、接触角によって定量的に測ることができ、θが小さいほど、ぬれが良いとされます。また、固体表面の上に完全な球の水滴が載っているようなθ  =180°では、付着ぬれは起こりません。

 

(iv-2)浸透ぬれの熱力学

(ii)浸透ぬれについては、ヤングの式γSG - γSL = γLGcosθより、

 

無題.png

 

よって、ΔG <0となれば、ぬれが起きるので、上式より、θ <90°の範囲で、浸透ぬれが起きるということが分ります。浸透ぬれは、毛細管現象(capillary action)とも呼ばれており、細い管状物体を水H2Oに付けると、浸透ぬれが起きて、水H2Oが管の中を上昇してきます。この水H2Oは、浸透ぬれによる安定化の寄与と、上昇する水H2Oの重力による不安定化の寄与とが、釣り合う位置まで上昇します。

よくメスシリンダーの目盛りを読むときは、メニスカスの下側を読むようにいわれます。これは、毛細管現象が起きて、液のふちがせり上がることで起こっている現象です。また、θ 90°の範囲では、浸透ぬれが起きないので、このときに細い管状物体を導入すると、逆に液体は下降します。このような現象は、水銀Hgに細いガラス管を導入したり、水H2Oに細いプラスチック管を導入したりしたときなどに見られます。

 

(iv-3)拡張ぬれの熱力学

(iii)拡張ぬれについては、ヤングの式γSG - γSL = γLGcosθより、

 

無題.png

 

よって、ΔG <0となれば、ぬれが起きますが、これを満たすθは、存在しません。液を固体に垂らせば、自然にどこまでも広がっていくというような拡張ぬれは、現実には起こり得ないのです。

また、θ =90°は、ぬれの1つの臨界点であり、「θ <90°をぬれが良い」「θ >90°をぬれが悪い」ということがあります。ぬれは、液体の界面張力が小さく、固体の界面張力が大きいほど良くなります。物体をぬらしたいときは、液体の界面張力を小さくする界面活性剤を使用すれば、ぬれやすくなります。洗濯をするときに洗剤を加えるのは、ミセルを作って油汚れを落とすということもありますが、液体の界面張力を小さくして、服の繊維をぬれやすくするという理由もあるのです。

 

(v)ぬれと一円玉

一円玉は、その成分がアルミニウムAl 100%でできており、アルミニウムAlの密度は2.7 g/cm3で、水H2O (1.0 g/cm3)よりも重いです。しかし、私たちは、一円玉を水面に浮かべることができます。なぜ一円玉は水H2Oに浮かぶのでしょうか?この現象を、「水の表面張力で一円玉が浮く」と説明している文献が非常に多いですが、これは、厳密には少し間違っています。一円玉が水H2Oに浮くのは、一円玉に対する水H2Oのぬれが悪いからです。

 

a.png

.16  水面に浮かぶ一円玉

 

ぬれが悪いと、接触角はθ >90°となり、図.16のように、水H2Oの表面張力γは、上向きに働きます。これが重力mgの寄与に打ち勝つため、一円玉は水H2Oに浮くのです。また、一円玉は、アルミニウムAlでできていますが、その表面は、空気中の酸素O2によって酸化されていて、酸化アルミニウムAl2O3の被膜が表面を覆っています。したがって、一円玉はもともと親水性で、よくぬれるはずなのです。しかし、ほとんどの一円玉は、水H2Oをはじいて、あまりぬれません。これは、一円玉に皮脂などの油汚れが吸着し、表面が疎水性になっているからだと考えられます。つまり、図.16のように、水面に浮かぶのは、油で汚れた一円玉だけです。実験などをするときは、注意してください。

今度は逆に、一円玉のぬれが良い場合を考えてみましょう。汚れを取り除いた綺麗な一円玉を用意してもいいのですが、もう私たちは、一円玉のぬれを良くする別の方法を知っています。洗剤などの界面活性剤を、水H2Oに溶かしてみましょう。界面活性剤は、一円玉の表面に対して、親水基を外側に向けた吸着をして、一円玉の表面はぬれの良い親水性になります。

 

a.png

.17  水に沈む一円玉

 

ぬれが良いと、接触角はθ <90°となり、図.17のように、水H2Oの表面張力γは、下向きに働きます。これが、重力mgと一緒になって、一円玉を沈めるのです。したがって、「水の表面張力で一円玉が浮く」というのは、一見すると正しいように思えますが、一円玉のぬれ次第では、図.17のように沈むこともあるので、厳密には間違っているのです。正確には、「汚れた一円玉はぬれが悪く、表面張力が上向きに働くため浮く」というべきです。


戻る

 

・参考文献

1) 北原文雄「コロイドの話」培風館(1984年発行)

2) 北原文雄「界面・コロイド化学の基礎」講談社(1994年発行)