・酢酸ナトリウムの再結晶


【目次】

(1) 実験操作

(2) 理論


(1) 実験操作

@ 酢酸ナトリウム三水和物CH3COONa3H2O10 g量り取り、試験管の中に入れる。

A メスシリンダーで水4.0 mLを量り取り、@の試験管の中に入れる

B 500 mLビーカーに水を入れ、約80の温度で試験管を温め、結晶を完全に溶かす。

C 溶けた酢酸ナトリウム水溶液をシャーレにすべて流し込み、室温まで放冷する。

D 溶液が冷めたら、シャーレの真ん中に酢酸ナトリウムの結晶(小片)を少量落とす。

E Dのシャーレの底を触って、温度の変化を確かめる。

 

(2) 理論

 固体の溶解度は、一般に温度が高いほど大きくなるので、高温で多量の溶質を含む溶液を冷却していけば、飽和溶液になる温度で、溶けきれなくなった溶質の結晶化が始まるはずです。しかし、溶質の種類や冷却の方法によっては、溶解度では飽和に達しているはずなのに、結晶が析出してこないときがあります。これは、溶解成分から結晶の核となる相を生成させるのに、一定のエネルギーを要するからです。このように、溶解度以上の溶質が溶けている状態を「過飽和(supersaturation)」といい、このような溶液を「過飽和溶液(supersaturation solution)」といいます。

この実験で用いられる酢酸ナトリウム三水和物CH3COONa3H2Oは、58℃で脱水して無水塩になります。このとき放出した結晶水に、無水の酢酸ナトリウムCH3COONaがすべて溶解できるので、58℃を酢酸ナトリウムCH3COONaの融点としています。酢酸ナトリウムCH3COONaは安定した過飽和状態を維持できる物質で、飽和状態に達してから、温度が大幅に低下して「過冷却状態(supercooling)」になっても、結晶の析出が起こりにくいのです。しかし、過飽和溶液に「振動」を加えたり、酢酸ナトリウムの「結晶核」を投入するなどの刺激を与えると、一気に結晶の析出が始まります。

 

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非常に高い精度で生成された説明

.1  過飽和溶液に少量の「結晶核」を投入すると、劇的な結晶化が始まる

 

 このような劇的な結晶析出には、大量の熱の放出が伴います。融液は急激に安定な結晶に戻り、凝固点の58℃まで温度が上昇します。この現象を応用して、2008年頃から、「エコカイロ」という再利用可能なカイロが販売されるようになりました。エコカイロは、酢酸ナトリウムを温水に溶かし、ゆっくりと室温まで冷却して、「過飽和状態」にしたものを利用します。構造は極めてシンプルで、ビニールの内部には、酢酸ナトリウムの過飽和溶液と薄い金属片が入っているだけです。内封の金属片を折り曲げるなどして「物理的刺激」を与えると、酢酸ナトリウムの結晶化が一気に始まって、発熱するのです。エコカイロは、使い終わったものを湯浴などで加熱して液体に戻し、再びゆっくりと室温まで冷却することで、何度でも再使用することができます。しかし、最大の欠点は発熱の持続時間であり、このカイロは30分程度しかもちません。

 

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高い精度で生成された説明

.2  「エコカイロ」は30分ほど暖を取ることができる


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・参考文献

1) 東京理科大学サイエンス夢工房「楽しむ化学実験」朝倉書店(2003年発行)