・状態変化


(1)物質の状態

物質を構成する粒子は、絶えず熱運動(thermal motion)をしていて、放っておくと、互いにばらばらの状態になっていきます。例えば、水に赤インクを一滴落とすと、水中に赤インクが徐々に広がっていきます。このように、物質の構成粒子が自然に散らばっていく現象を、拡散(diffusion)といいます。拡散は、秩序から無秩序に向かう変化であり、このことを「乱雑さ(randomness)が増大する方向に進む」といいます。

一方で、粒子間には、ファンデルワールス力などの引力が働いていて、互いに集合しようとする傾向もあります。しかし、粒子の熱運動は、温度が高くなるほど大きくなりますが、粒子間に働く引力は、温度が高くなってもほとんど変化しません。そこで、一般的に温度を上げていくと、粒子の熱運動は激しくなるので、粒子が互いに集合しようとする力より、ばらばらの状態になろうとする力の方が強くなり、粒子の状態が変わってきます。すなわち、状態変化(physical change)というのは、「粒子の集合状態の変化」なのです。

物質は、一般的に温度や圧力を変化させていくと、固体(solid)・液体(liquid)・気体(gas)の三態間で状態変化をします。例えば、固体の氷を加熱すると、液体の水になり、さらに加熱すると、気体の水蒸気になります。固体・液体・気体というものは、歴史的には、巨視的な性質により区別されていました。すなわち、固体は一定の体積と形を持ち、液体は一定の体積と自由な形を持ち、気体は自由な体積と形を持ちます。しかし、現代の化学では、物質の状態は、粒子間の相互作用で区別されます。すなわち、固体では粒子間の相互配置が定まっており、液体では近接粒子は接触しているが、相互配置は定まっておらず、気体では粒子同士が離れていて、粒子間の相互作用は熱運動にほとんど影響を与えません。

 

.1  物質の三態

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気体は、固体や液体より粒子間の距離が大きく、粒子は、熱運動により空間を激しく動き回っています。したがって、気体は、体積や形が一定せず、固体や液体に比べて、密度が非常に小さいです。液体は、熱運動により粒子がその位置を自由に変えることができるので、流動性があり、自由な形を持ちます。しかし、粒子間の距離は近く、その間に働く引力も強いので、圧力が変わっても、液体はほぼ一定の体積を示します。液体の密度や粒子間の距離は、固体とほぼ同程度であり、粒子間距離では、約数%の違い(体積では約10%の違い)しかありません。固体は、粒子の熱運動よりも粒子間に働く引力の影響の方が大きいので、粒子は一定の位置に固定され、その位置を中心に振動しています。そのため、固体は一定の形を持ち、圧力が変わっても、一定の体積を示します。固体では、室温常圧の気体と比べ、粒子間距離は1/10程度、体積は1/1,000程度になっています。

固体には、食塩NaClのように粒子が規則的に配列している結晶(crystal)と、ガラスのように粒子配置が不規則なアモルファス(amorphous)があります。結晶には、明確な融点や凝固点がありますが、アモルファスには明確な融点や凝固点がなく、状態変化が連続的に起こります。そのため、ガラスには明確な融点や凝固点がなく、炎で熱すると、徐々に軟化し始めるため、適度に軟らかくなったときに、引き延ばしたり曲げたりして、ガラス細工をすることができます。なお、ガラスは「粘度が非常に高くなった液体」であると以前は考えられていましたが、現在では、ガラスは固体であると考えられています。

 

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.1  ガラス細工の様子(画像はこちらからお借りしました)

 

 物質の状態変化において、固体から液体への変化を融解(melting)、その逆を凝固(solidification)といいます。液体から気体への変化は蒸発(evaporation)、その逆は凝結(condensation)と呼ばれます。さらに、固体と気体の間の直接の変化は昇華(sublimation)と呼ばれます。

昇華に関しては、一般的に固体から気体への変化を指すことが多いです。中国語では、固体から気体への変化を「昇華」、気体から固体への変化を「凝華」と呼んで区別をしていますが、日本語や英語には両者を区別する用語はありません。また、昇華はヨウ素I2やナフタレンC10H8、二酸化炭素CO2などの無極性分子からなる物質によく見られる状態変化です。ナフタレンは防虫剤の成分であり、昇華によって、防虫効果を発揮します。

一般的に粒子間に働く引力が強い物質ほど、融解や蒸発が起こりにくく、融点や沸点は高くなります。したがって、一般的にイオン結晶や金属結晶は分子結晶よりも融点や沸点が高くなります。

 

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.2  物質の状態変化

 

融解や蒸発は、物質を構成する粒子が激しく熱運動し、そのエネルギーが結晶構造を壊し、粒子間の引力を上回ることで起こります。次の図.3は、1気圧下で水H2Oに一定量の熱を加え続けたときの、加熱時間と温度の関係をグラフにしたものです。加熱をすると、熱エネルギーを得て、物質の温度は上がっていきますが、状態変化の際には、その熱が融解熱や蒸発熱などの潜熱(latent heat)に使われることになるので、いくら熱を加えても、温度が一定になるのです(グラフで傾きが0になっているところ)。このことは、融解や蒸発に伴う潜熱が、吸熱反応であることを証明しています。

 

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.3  H2Oの加熱と温度変化

 

(2)二相間平衡

密閉した容器中に、適当な量の液体を入れて放置しておくと、液体の一部は蒸発して気体になります。気体の中には、凝縮して液体に戻るのも出てくるので、液体が十分に存在していれば、いずれは蒸発速度と凝縮速度がつり合い、見かけ上の変化がなくなります。この状態を気液平衡(vapor-liquid equilibrium)といい、このときの気体の圧力を、飽和蒸気圧または蒸気圧(vapor pressure)と呼びます。両者を別の意味で使い分けている人がよくいますが、飽和蒸気圧と蒸気圧は、本来同じ意味で使われる用語です。

 

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.4  蒸気圧は蒸発した気体が示す圧力である

 

 ここで、A()A()の気液平衡が存在するとき、この反応の平衡定数をKとすると、質量作用の法則(law of mass action)より、次式が成立します。

 

 

[A()][A()]は、各相でのAの物質量を各相の体積で割った値、すなわち各相でのAの濃度です。液体については、先にも説明したように、ある温度での体積が一定なので、密度もまた、ある温度では一定値になります。したがって、[A()]の値は、Aの質量をw gAの分子量をM、密度をd g/Lとすると、

 

 

つまり、温度Tが決まれば、[A()]は一定値を取るのです。さらに、ある温度では、Kは圧力によらず一定値を取るので、[A()]もまた、平衡では一定値しか取れないことも分かります。そして、この[A()]は、理想気体の状態方程式PV=nRTより、次のように表せます。

 

 

温度T は決まっているので、PAもまた、平衡では一定値しか取れないようになります。先にも説明したように、気体は、固体や液体に比べて圧縮が自由であり、一般的には、その濃度を大きく変化させることができます。しかし、ここで示したように、気液平衡では、気相の濃度[A()]はある温度では一定であり、その蒸気圧PAもまた、一定になるのです。したがって、気液平衡において、ある温度では、圧力や体積によらず、その蒸気圧は一定になることが分かります。

また、容器のような密閉系の中で、ある物質の気体と液体とが共存しているとき、一定時間が過ぎると、やがて気液平衡となるので、その気体の圧力(分圧)は蒸気圧に等しいと考えて問題ありません。つまり、一定時間が経過して液体が存在する密閉系では、その物質の気体の圧力は、必ず蒸気圧となるのです。

 

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物質は、すべて平衡状態を目指して変化していきます。密閉系で、ある物質の気体と液体とが共存しているとき、その物質の気体の圧力は、蒸気圧に等しいです。また、蒸気圧は、ある温度においては一定になるのだから、その物質が蒸気圧より大きい圧力を与えることは、考えられません。そこで、次のようにして、容器内の状態を判別できます。

 

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このように考えることで、容器内の状態を判別することができます。しかしながら、これは密閉系でしか適用できないことです。密閉系では、物質量が一定なので、理想気体の状態方程式PV=nRTを使うことができます。しかし、開放系では、気体粒子が拡散していくので、物質量が変化してしまい、状態方程式を使うことができないのです。したがって、開放系においては、次のように考えます。

 

(i)開放系では、液体がいくら蒸発しても、分圧は蒸気圧以下の値しか取りえない

コップに水を入れて、ふたをせずに放置しておくと、時間が経てば、すべて蒸発して気体となってしまいます。この理由は、蒸発した気体分子が、空気中に拡散していき、いくら水が蒸発しても、気液平衡にならないからです。そこで、液体の表面では、叶わぬ気液平衡を目指して、蒸発がどんどん進みます。開放系に濡れた洗濯物を干して、かすことができるのは、空気中の水蒸気の圧力が、蒸気圧に達していないからなのです。

ちなみに、空気中の水蒸気の圧力が、蒸気圧と等しいときは、空気中の湿度が100%のときです。このときは、気液平衡が成立しているので、濡れた洗濯物は決して乾きません。また、蒸発した水蒸気の示す圧力は、その温度の蒸気圧よりは大きくならないので、地表近くの空気が上昇して温度が下がると、水が凝縮してきます。霧や雲は、このようにして生じているのです。

 

(ii)開放系では、蒸気圧と外圧が等しくなると、沸騰が起こる

沸騰(boiling)とは何かと問うと、「沸騰は液体が気体になる現象である」と答える人がよくいます。しかし、これは違います。沸騰とは、液体内部からも蒸発が起こる現象のことをいうのです。液体が沸騰する温度を沸点といいますが、液体は沸点より小さい温度でも、気液平衡を目指して蒸発するので、沸点以下でも蒸発は起こります。そもそも沸点でしか液体が蒸発しないのだったら、室温で洗濯物が乾くことなど、ありえないのです。

また、蒸気圧は、物質の種類と温度によってのみ決まります。温度と蒸気圧の関係を示したグラフを蒸気圧曲線(vapor pressure curve)といい、蒸気圧は、温度の上昇とともに大きくなります。つまり、温度が上がると、気液平衡において気体の割合が増え、蒸発しやすくなるのです。一般的に分子間力の大きい物質ほど、分子が強く引き合い蒸発しにくくなるので、蒸気圧は小さくなります。分子量の割に水H2Oの蒸気圧が小さいのは、水H2Oは分子間で4本の水素結合をして、互いに強く引き合っているからです。

 

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蒸気圧曲線

 

液面より下の液体内部に、比較的運動エネルギーの大きな分子がいくつか集まり、周りの分子を押しのけて、微小気泡が作られたとします。この気泡には、内側からは蒸気圧が、外側からは大気圧がかかっています。もし蒸気圧よりも外圧(大気圧)の方が大きければ、生じた気泡は直ちに押しつぶされ、すぐに消滅してしまいます。しかし、液体の温度を上げていくと、蒸気圧は大きくなり、やがて外圧と等しくなります。そして、この蒸気圧が外圧より大であれば、液体が気体になる妨げがなくなり、液体内部の微小気泡界面で蒸発が進み、熱が供給される限り、気泡は成長することになります。バーナーなどで直接熱されている底面付近では、過熱状態になって運動エネルギーの大きな分子が発生しやすく、微小気泡が作られやすくなります。こうして、液体内部で、微小気泡内部に向けた蒸発が起こり、成長した気泡が浮力で浮き上がって、沸騰という現象が見られるようになるのです。

 

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.6  液体中の微小気泡

 

日常の中で水を加熱した場合は、二酸化炭素CO2や酸素O2などのもともと溶存していた空気成分が、加熱によって過飽和状態(温度が上がると水に溶ける気体の量が少なくなる)になり、溶けきれなくなった空気成分が、水中で微小気泡を作ります。この微小気泡が核となり、微小気泡が成長することによって、沸騰が起こるのです。

しかしながら、同じように水を加熱した場合でも、一度煮沸するなどして溶存気体を除いた水を再加熱する場合や、電子レンジを用いるなどして短時間で温度を上げる場合には、液体内部に微小気泡が発生せず、沸点になっても、沸騰せずに過熱状態となることがあります。この状態は大変危険であり、物理的な衝撃や、異物が液体に加えられるやいなや、爆発的な沸騰を起こすのです。この現象を突沸(explosive boil)といい、突沸が起こると、蒸発熱が多量に奪われて温度が下がり、しばらくは静かな状態が続きますが、加熱を続けていくと再び突沸が起こるという繰り返しになります。突沸は、高温の液を周りに飛び散らせる危険性があるので、注意しなければならない現象です。学生実験などでは、突沸を防ぐために、液体を攪拌したり、沸騰石を入れたりします。

沸騰石は、多孔質(多数の細かい穴を持つ)石であり、液体に加えると、ここに閉じ込められた気泡が、沸騰の核となって突沸を防ぎます。沸騰石が手元にない場合は、細かく砕いた植木鉢でも、代用することができます。使用済みの沸騰石には、空気ではなく液体が含まれているので、ほとんど役に立ちませんが、よく乾燥させると、再び使用することができるようになります。

一般的には、外圧を1気圧=760 mmHg=1.013×105 Paにしたときに沸騰する温度を、その物質の沸点(boiling point)といいますが、外圧が変わると、沸騰する温度が変化することに注意しましょう。例えば、富士山山頂では大気圧は630 hPaとなり、水H2Oは約87℃で沸騰します。富士山山頂でカップラーメンを食べる人がいますが、この温度では、あまりおいしいカップラーメンにはなりません。また、エベレストでは大気圧は300 hPaとなり、水H2Oは約70℃で沸騰するようになります。

 

(3)状態図

 ある圧力Pと温度T のもとで、その物質の状態を示した図を、状態図(phase diagram)といいます。次の図.7のように、状態図は縦軸に圧力、横軸に温度をとって示します。問題で圧力と温度さえ与えられていれば、状態図を見て、その物質の状態が何なのか一目で分かるのです。

 

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.7  状態図(画像はこちらからお借りしました)

 

状態図において、気相と固相の境界である曲線OBを昇華圧曲線(sublimation curve)、気相と液相の境界である曲線OAを蒸気圧曲線、液相と固相の境界である曲線OCを融解曲線(melting curve)といいます。この曲線上の条件では、2つの状態の間で平衡が成り立っており、曲線上は2つの状態が安定して共存できる温度と圧力を示しています。蒸気圧曲線の高温高圧側の終点は臨界点(critical point)と呼ばれ、それ以上の温度と圧力においては、超臨界流体(supercritical fluid)という状態になります。

超臨界流体は、物質的には気体の振る舞いをするものの、高い密度のために、液体の性質も併せ持つ物質の状態です。日常的には、超臨界流体の二酸化炭素CO2は、デカフェコーヒー製造の際に、カフェインを抽出して除くために用いられます。また、超臨界流体の水H2Oは、極めて高い酸化力を持ち、酸化しにくいといわれる白金Ptや金Auまで酸化してしまいます。

さらに、3つの曲線が交わる点は、三重点(triple point)と呼ばれます。三重点では、固相・液相・気相の三相が共存し、その物質固有のある一点の温度と圧力でしか存在できません。

また、水の状態図では、固体と液体の共存を示す固液平衡の融解曲線が、やや左上がりになっています。これは、水ならではの性質であり、固体の氷より、液体の水の方の密度が大きいことに由来しています。つまり、同温で圧力を上げていくと、水の場合は、固体から液体に状態変化するということを表しています。氷は、圧力を上げると水に溶けるので、アイススケートやスキーなどの、氷上を滑る競技ができるのです。これらの競技では、氷が刃などの圧力で融解し、氷上に薄い水膜ができることで摩擦力が小さくなり、結果として、氷の上を滑れるようになります。

ちなみに、フィギュアスケートとスピードスケートでは、氷の温度が違います。フィギュアスケートでは、ジャンプをするときに、氷に力を加えて刃を引っ掛けて飛ぶ必要があるため、氷の温度は-3℃とやや軟らかめにされています。それに対して、スピードスケートでは、氷との摩擦が少ない方が速く滑れるので、氷の温度は-5℃とやや硬めにされているのです。

 

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.8  アイススケート


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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学」啓林館(2012年発行)

2) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)

3) 卜部吉庸「化学の新研究」三省堂(2013年発行)