・酸化還元


(1)酸化と還元とは何か?

「酸化反応(oxidation)」は、最も身近な化学反応の1つです。例えば、紙や木が燃えるのは、有機化合物が酸素O2と反応して、二酸化炭素CO2や水H2Oなどに変化する酸化反応です。このときに発生するエネルギーは、熱や光のエネルギーとなって、外部に放出されます。また、金属製品が錆びる現象も、酸化反応の1つです。例えば、鉄Feは空気中で酸素O2や水H2Oと反応して、オキシ水酸化鉄(III)FeOOHなどの複雑な構造の化合物を作ります。

 

4Fe + 2H2O + 3O2 → 4FeOOH

 

また、「還元反応(reduction)」は、身近では、鉄Feや銅Cuなどのよく汎用される金属を製錬する場合に行われる化学反応です。地球上に存在する鉄Feや銅Cuなどの金属は、通常は鉱石中で酸化物あるいは硫化物などとして存在しており、このままでは利用することができません。そこで、金属を含む鉱石を溶鉱炉中で還元し、単体金属にするのです。

 

Fe2O3 + 3CO (加熱) 2Fe + 3CO2

Cu2S + O2 (加熱) 2Cu + SO2

 

 このように、酸化と還元は昔から身近で起こっていた反応であり、人類が初めて酸化と還元を定義したのは、18世紀のことでした。18世紀の後半には、石灰石CaCO3どに含まれる二酸化炭素CO2や、空気中に多量に含まれる窒素N2、水H2Oの素となる水素H2などの気体が次々と分離され、発見されていました。こうした中で、フランスの化学者であるアントワーヌ・ラボアジエは、目に見えない気体も含めて、化学反応を考えなくてはならないと考えました。そこで、ラボアジエは反応をすべて密閉容器の中で行い、反応前後での質量変化を正確に測定しました。すると何ということか、系の質量が反応の前後で変化することがなかったのです。「質量保存の法則(law of conservation of mass)」の発見の瞬間でした。ラボアジエは、この実験結果をもとに、「燃焼とは空気中に含まれる酸素が可燃性化合物と化合することである」と提唱したのです。そしてラボアジエは、このときに酸化と還元を次のように定義しました。

 

「酸化とは物質が酸素と化合する反応であり、還元とは酸化物から酸素が抜ける反応である」

 

(2)酸化と還元の定義

酸化と還元の定義については、ラボアジエの定義から始まり、歴史的に色々と変化をしてきました。現在では、次のように電子e- の享受によって定義されています。

 

.1  酸化と還元の定義

酸化(酸化される)反応

還元(還元される)反応

電子を失う反応

) A → A+ + e-

電子を得る反応

) A + e- → A-

 

つまり、「酸化還元反応(oxidation-reduction reaction)」において、電子e- を失う反応(電子e- が右辺に来る反応)が酸化反応で、電子e- を得る反応(電子e- が左辺に来る反応)が還元反応になるのです。よく酸化還元反応において、「酸素原子Oと化合する反応が酸化反応で、酸素原子Oを失う反応が還元反応である」などという、18世紀頃の古い定義が未だに説明されることがあります。しかし、それでは反応の説明に不十分です。例えば、酸素O2中で炭素Cが燃焼する反応は、炭素Cが酸素原子Oを受け取っているので、18世紀頃の定義によると酸化反応です。

 

C + O2  CO2

 

しかし、炭素Cを酸素O2中ではなく、塩素ガCl2中で燃焼させたらどうなるでしょうか。反応式は、次のように表せます。

 

C + 2Cl2  CCl4

 

もともと「酸化」とは、「燃焼する反応」と定義されていたのですから、この燃焼反応も、間違いなく酸化反応であるはずです。つまり、酸化反応とは、酸素原子O化合する反応だけとは限らないのです。これは、還元反応も然りであり、酸素原子Oを失う反応だけが、還元反応とは限りません。酸化還元を酸素原子Oの享受だけで考えてしまうと、酸素原子Oが関わっていない反応の酸化還元を定義できなくなってしまうのです。そこで登場したのが、電子e- の享受によって、酸化還元を定義するというものです。酸化還元反応を電子e- の享受によって考えると、全体の反応では、酸化反応によって失われた電子が、還元反応の電子に直接使われることになります。

 

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.1  酸化と還元の電子e- の移動

 

つまり、酸化還元反応において、電子e- の移動の立場からすれば、酸化と還元は同時に起こる反応なのです。よって、先の塩素ガスCl2中で炭素Cが燃焼する反応では、炭素Cから見れば、この反応は「炭素Cの酸化反応」ですが、塩素Cl2の立場から見れば、この反応は「塩素Cl2の還元反応」になるのです。このように考えることで、様々な反応を酸化還元反応として、広く扱えるようになりました。よく酸化還元反応を、酸素原子Oや水素原子Hの移動によって説明する人がいます。しかし、その考えだけでは、現代の化学に通用しません。酸化還元反応とは、電子e- の享受による「電子移動反応(electron transfer reaction)」なのです。

 

(3)酸化数

 酸化還元反応とは、電子移動反応のことです。ただし、現実には、そのe- の移動の成否の判定は、そう単純ではありません。例えば、次に示す水H2Oの生成反応は、水素H2の酸化反応になります。

 

2H2 + O2  2H2O

 

しかし、この反応は、電子移動反応の観点から見ると、電子が移動しているのかどうかが、定かではないのです。もし水素H2が酸化されたというのなら、水素H2は水素イオンH+ となって、電子e- を酸素O2に受け渡し、酸素O2は水素H2から電子e- を受け取って、酸化物イオンO2- になるはずです。けれども現実には、水H2Oはそのような水素イオンH+ と酸化物イオンO2 によるイオン性の化合物になって存在してはおらず、水H2Oは共有結合性の化合物として存在しています。

そこで、1938年にアメリカの化学者であるウェンデル・ラティマーは、酸化還元反応において、各成分原子の間で起こる電子e- の享受の様子を分かりやすく説明する理論として、「酸化数(oxidation number)」という概念を提唱しました。酸化数は、対象原子の電子密度が、単体であるときと比較して、どの程度であるかを知る目安の値のことです。例えば、酸化とは、原子が電子を失うことであるから、単体であったときより電子密度は低くなります。それに対して、還元とは、原子が電子を得ることであるから、単体であったときより電子密度は高くなります。つまり、ある原子が酸化状態にある場合、電子密度は低くなっているので、その原子は部分的に正電荷を帯びることになり、ある原子が還元状態にある場合、電子密度が高くなっているので、その原子は部分的に負電荷を帯びることになるのです。この過剰電荷のことを、酸化数と呼んでいるのです。ある原子が酸化状態にあるときは、酸化数は正の値を取り、逆に還元状態にあるときは、酸化数は負の値を取ります。酸化数は、一般的に以下のようにして求めます。

 

@ 単原子イオンの場合においては、そのイオン価がそのまま酸化数となる

A 単体の原子の酸化数は0とする

B 電気的に中性の化合物においては、構成物質の酸化数の総和は0である

C 共有結合でできた物質では、共有電子対を電気陰性度の大きい方の原子へすべて割り当てたときに残る電荷を酸化数とする

 

酸化数 = 中性原子における価電子の数 − 所有している電子の数

 

ここで例として、メタンCH4の炭素原子Cの酸化数を考えてみます。メタンCH4は、炭素原子Cを含んだ化合物の中で、炭素原子Cが最も還元された構造をしています。炭素原子C近傍の電子密度は最大となっており、その酸化数は-IVです。メタンCH4は酸化されていくに従って、次のように変化していきます。

 

メタンCH4  メタノールCH3OH  ホルムアルデヒドHCHO  ギ酸HCOOH  二酸化炭素CO2

 

メタンCH4の酸化反応に伴い、炭素原C近傍の電子密度は減少していきます。そして、炭素原子Cが最も酸化された構造である二酸化炭素CO2では、その酸化数は+IVとなります。つまり、酸化反応が起こると酸化数は増加し、還元反応が起こると酸化数は減少するのです。

 

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.2  炭素化合物の酸化数

 

酸化数は、図.2のように構造式を書き、「(」で線引きをし、「酸化数=中性原子における価電子の数-所有している電子の数」より、過剰電荷を求めるというのが基本的な方法です。しかし、構造式をいちいち書くというのは面倒であるし、構造の分からない化合物では、手も足も出なくなってしまいます。そのため、もう少し簡便な方法を考える必要があります。そこで、酸化数の求め方においては、以下の規則を定め、代数計算によって酸化数を求めることが多いです。

 

規則

@ 中性化合物の酸化数の総和は0とする

H2ONH3では、各原子の酸化数の総和は0とする

A 多原子イオンを構成する原子の酸化数の総和は、そのイオンの価数に等しい

MnO4 - では、各原子の酸化数の総和は−1とする

B 化合物中の水素原子の酸化数は+I、酸素原子の酸化数は−IIとする

酸化数はH=IO=IIとする(ただし、例外あり)

C 1族元素の酸化数は+I2族元素の酸化数は+IIとする

Na=+IK=IMg=IICa=+IIBa=IIとする

 

このような規則に従って代数計算をすると、いちいち構造式を書かなくても、容易に酸化数を求めることができます。このように酸化数を求めることができるのは、ほとんどの化合物において、構成元素の中で酸素原子Oは最も高い電気陰性度を持ち、水素原子Hを含む1族や2族の元素(NaKMgCaBa)は最も低い電気陰性度を持つからです。つまり、酸素原子Oは最も還元された構造を取り、水素原子Hは最も酸化された構造を取ると、あらかじめ決めてしまうのです

しかし、すべての元素の中で酸素原子Oは最大の電気陰性度を持つ訳ではないし、すべての元素の中で水素原子Hは最小の電気陰性度を持つ訳でもないので、少なからず例外も存在します。例えば、過酸化水素H2O2や水素化ナトリウムNaHなどの化合物においては、この規則が当てはまりません。

 

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.3  過酸化水素H2O2と水素化ナトリウムNaHの酸化数

 

過酸化水素H2O2の場合は、酸素原子同士の-O-O-の結合があり、そこで共有電子対の電子を2等分するため、酸素Oの酸化数がIとなります。また、水素化ナトリウムNaHの場合は、ナトリウムNaの方が水Hよりも電気陰性度が小さいため、ナトリウNaの酸化数が+Iとなり、水素Hの酸化数が−Iとなるのです。

さらに、フッ素Fのような酸素Oよりも電気陰性度の大きい原子が、酸素原子Oに結合している場合も注意が必要です。例えば、二フッ化酸素OF2は、水H2Oの水素原子Hがフッ素原子Fに置換した構造をしています。この化合物においては、最大の電気陰性度を持つフッ素Fに共有電子対が占領されることになるので、フッ素Fの酸化数が−I、酸素Oの酸化数が+IIとなります。

 

(4)酸化剤と還元剤

酸化と還元は同時に起こる反応ですが、見方によっては、色々な捉え方があります。例えば、次に示す反応で、Aでは酸化反応が、Bでは還元反応がそれぞれ起こっています。

 

A + B  A+ + B-

 (酸化反応) A  A+ + e-

(還元反応) B + e-  B-

 

つまり、全体の反応では、Aが電子e- Bに直接受け渡すという、電子移動反応(酸化還元反応)が起こっているのです。ここで、普通「酸化反応」だとか「還元反応」だとかいうとき、それは「酸化される反応」と「還元される反応」であって、自らの原子または分子に視点を置いたものです。しかし、このように全体の反応を眺めてやると、あることに気が付きます。それは、自らが酸化されるときは相手を還元し、自らが還元されるときは相手を酸化するということです。このように、視点を相手の物質に定めたとき、相手から電子を奪い相手を酸化する物質を「酸化剤(oxidant)」といい、相手に電子を与え相手を還元する物質を「還元剤(reductant)」といいます。酸化剤自身は還元反応が起こるので、酸化数は減少する一方で、還元剤自身は酸化反応が起こるので、酸化数は増加します。

 

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.4  還元剤と酸化剤

 

ここで、代表的な還元剤と酸化剤を、次の表.2に示します。この表に示す物質ぐらいは、最低限覚えておきましょう。

 

.2  代表的な還元剤と酸化剤

 

還元剤(reductant)

還元剤(oxidant)

金属(KCaNa・・・)

水素H2

炭素C

ハロゲン(F2Cl2Br2I2)

酸素O2

オゾンO3

一酸化炭素CO

グルコースC6H12O6

シュウ酸H2C2O4

硫化水素H2S

二酸化硫黄SO2

シュウ酸イオンC2O42-

ヨウ化物I-

(II)イオンFe2+

チオ硫酸イオンS2O32-

酸化マンガン(IV) MnO2

硝酸HNO3

熱濃硫酸H2SO4

過酸化水素H2O2

過マンガン酸イオンMnO4-

二クロム酸イオンCr2O72-

 

また、表.2に示す還元剤および酸化剤で、注意すべき反応がいくつかあります。次の(i)(iv)を参照してください。

 

(i)マンガンMnの化合物について

過マンガン酸イオンMnO4- は、液性によって酸化力の強さが変わってきます。液性が酸性の条件では、過マンガン酸イオンMnO4- は強力な酸化剤として作用して、反応後はマンガン(II)イオンMn2+ となります。しかし、液性が中性塩基性の条件では、過マンガン酸イオンMnO4- は十分な酸化力を発揮できずに、反応は二酸化マンガンMnO2で止まってしまいます。

 

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.5  液性によるマンガンMnの化合物の酸化力の変化

 

(酸性溶液中では)MnO4- + 8H+ + 5e-  Mn2+ + 4H2O

(中性塩基性溶液中では)MnO4- + 2H2O + 3e-  MnO2 + 4OH-

 

(ii)クロムCrの化合物について

二クロム酸イオンCr2O72- は、液性が酸性条件では、強力な酸化剤として働きます。しかし、液性が塩基性条件になると、クロム酸イオンCrO42- になり、強い酸化作用を示さなくなります。

 

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.6  液性によるクロムCrの化合物の酸化力の変化

 

なお、水溶液では、二クロム酸イオンCr2O72- とクロム酸イオンCrO42- は化学平衡の関係にあり、液性の酸性度が高いときは、赤橙色の二クロム酸イオンCr2O72- が優勢になり、液性の酸性度が低くなると、黄色のクロム酸イオンCrO42- が優勢になります。また、二クロム酸イオンCr2O72- とクロム酸イオンCrO42- は、共にCrの酸化数がVIなので、この化学平衡は酸化還元反応ではありません。

 

2CrO42- + 2H3O+  Cr2O72- + 3H2O

 

(酸性溶液中では) 2CrO42- + 2H+  Cr2O72- + H2O

(塩基性溶液中では) Cr2O72- + 2OH-  2CrO42- + H2O

 

(iii)二酸化硫黄SO2について

 二酸化硫黄SO2は、通常は還元剤として働きます。しかし、硫化水素H2Sなどの二酸化硫黄SO2よりも強い還元力を持つ物質と反応するときは、酸化剤として働きます。

 

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.7  酸化剤としても働く二酸化硫黄SO2

 

) SO2 + 2H2S  3S + 2H2O

 

(iv)過酸化水素H2O2について

 過酸化水素H2O2は、通常は酸化剤として働きます。しかし、過マンガン酸イオンMnO4- や二クロム酸イオンCr2O72- などの過酸化水素H2O2よりも強い酸化力を持つ物質と反応するときは、還元剤として働きます。

 

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.8  還元剤としても働く過酸化水素H2O2

 

) 5H2O2 + 2MnO4- + 6H+  5O2 + 2Mn2+ + 8H2O

 

(5)酸化還元反応の反応式の作り方

酸化還元反応は、電子移動反応です。しかし、ABA+ B- のような化学反応式では、一見すると電子e- の移動の様子がよく分かりません。そこで、酸化剤と還元剤の電子e- の享受の様子を、Be- B- AA+e- のように別々に表した式を、「半反応式(half reaction formula)」といいます。この式を見れば、1 molの酸化剤または還元剤が享受する電子e- の物質量が、すぐに分かるのです。一般的に半反応式は、以下のようにして作成します。

 

@ 酸化剤・還元剤が、反応後に何に変化するか書き出す

A 両辺の酸素原子Oの数をH2Oで合わせる

B 両辺の水素原子Hの数をH+ で合わせる

C 両辺の電荷のバランスを考えてe- を加える

 

例えば、過マンガン酸イオンMnO4- の酸性水溶液中における半反応式は、次のようにして作成できます。

 

@ MnO4- → Mn2+

A MnO4- → Mn2+ + 4H2O

B MnO4- + 8H+ → Mn2+ + 4H2O

C MnO4- + 8H+ + 5e- → Mn2+ + 4H2O

 

半反応式を作るにあたって、Cの段階では、両辺の電荷のバランスを考えて、電子e- を加えるのが間違いもなく正確です。しかし、式の作成に慣れてきたなら、酸化数の変化と享受する電子数とが対応していることも踏まえて半反応式を作ると、より酸化還元反応の理解が深まるでしょう。例えば、過マンガン酸イオンMnO4- が酸化剤として働くとき、マンガンMnの酸化数はVIIからIIに変化しますが、この変化に合わせて、1 molの過マンガン酸イオンMnO4- 5 molの電子e- を受け取ります。酸化還元反応では、電子e- の移動が必ず伴うので、このように酸化数の変化と享受する電子数は等しくなります。

なお、半反応式は、酸化剤と還元剤が反応後にどのような物質になるのかが分かっていないと、一から作ることができません。そこで、次の表.3に主な還元剤と酸化剤の反応前と反応後の変化を示します。これを覚えておけば、半反応式は簡単に作ることができます。

 

.3  主な還元剤と酸化剤の反応前と反応後の変化

主な還元剤の反応前と反応後の変化

主な酸化剤の反応前と反応後の変化

金属単体

シュウ酸

硫化水素

二酸化硫黄

ヨウ化物イオン

(II)イオン

チオ硫酸イオン

 M → Mn+

H2C2O4 → CO2

H2S → S

SO2 → SO42-

2I- → I2

Fe2+ → Fe3+

2S2O32- → S4O62-

酸素

ハロゲン

オゾン

酸化マンガン(IV)

濃硝酸

希硝酸

熱濃硫酸

過酸化水素

過マンガン酸イオン

過マンガン酸イオン

二クロム酸イオン

O2 → 2H2O

X2 → 2X-

O3 → O2 + H2O(酸性水溶液で)

MnO2 → Mn2+(酸性水溶液で)

HNO3 → NO2

HNO3 → NO

H2SO4 → SO2

H2O2 → H2O(酸性水溶液で)

MnO4- → Mn2+(酸性水溶液で)

MnO4- → MnO2(中性〜塩基性水溶液で)

Cr2O72- → 2Cr3+(酸性水溶液で)

 

しかし、半反応式がいくら書けても、化学反応式を書けなければ、酸化還元反応を完璧に学んだことにはなりません。そこで、酸化還元反応の化学反応式は、酸化剤と還元剤の半反応式をもとにして、次のように作成します。

 

@ 酸化剤がe- を受け取る半反応式と還元剤がe- を与える半反応式をそれぞれ書く

A「還元剤の与えるe- mol=酸化剤の受け取るe- mol」より、e- の係数を両辺で等しくして、2つの半反応式を足してe- を消去する(イオン反応式の完成)

B 反応物の各イオンの対イオンを両辺に加えて式を整理する(化学反応式の完成)

 

例として、硫H2SO4加えて酸性にした過マンガン酸カリウムKMnO4水溶液に、過酸化水素H2O2を加えたときに起こる反応の化学反応式を作ります。この反応では、過マンガン酸イオンMnO4- が酸化剤、過酸化水素H2O2が還元剤として反応します。半反応式は、次の通りです。

 

MnO4- + 8H+ + 5e-  Mn2+ + 4H2O ・・・(i)

H2O2  O2 + 2H+ + 2e- ・・・(ii)

 

電子e- の係数を揃えて消去するため(i)×2(ii)×5のように計算して式を整理すると、酸化還元反応のイオン反応式が得られます。

 

2MnO4- + 16H+ + 5H2O2  2Mn2+ + 8H2O + 5O2 + 10H+

2MnO4- + 6H+ + 5H2O2  2Mn2+ + 5O2 + 8H2O ・・・イオン反応式の完成

 

水溶液にイオンが存在していても、水溶液全体としては中性が保たれているので、各イオンにペアとなる対イオンを足して、化学反応式を作成します。注目するのは、イオン反応式の左辺にある反応物のイオンです。この酸化還元反応の左辺の2MnO4- 6H+ の対イオンは、それぞれ2K+ 3SO42- です。水素イオンH+ の対イオンが少し難しいですが、硫H2SO4加えて酸性条件にしていることを思い出してください。そして、両辺に2K+ 3SO42- を加えると、両辺のイオンが消えて、酸化還元反応の化学反応式が得られます。

 

2KMnO4 + 5H2O2 + 3H2SO4  K2SO4 + 2MnSO4 + 5O2 + 8H2O ・・・化学反応式の完成

 

(6)酸化還元滴定

酸化還元反応を起こしやすい物質の濃度は、酸化還元反応を利用して、求めることができます。すなわち、酸化還元反応では、還元剤が与える電子e- の物質量と酸化剤が受け取る電子e- の物質量が等しいことより、「酸化還元滴定(oxidation-reduction titration)」によって、濃度を決定することができるのです。

 

還元剤が与えるe- mol = 酸化剤が受け取るe- mol

 

実験では、中和滴定など他の滴定と同様に、ホールピペットやビュレットなどのガラス器具を使って実験します。しかし、中和滴定とは異なり、反応の完了点を知るための指示薬があまりないので、反応試薬は限られています。

 

(i)過マンガン酸カリウムKMnO4水溶液による滴定

 濃度未知の還元剤をホールピペットで正確に取り、十分量の希硫酸H2SO4を入れたコニカルビーカーへ移します。そこへ、濃度既知の過マンガン酸カリウムKMnO4水溶液をビュレットで滴定すると、酸化還元反応が起こり、酸化剤の過マンガン酸カリウムKMnO4は、次のように変化します。

 

MnO4-(赤紫色) + 8H+ + 5e-  Mn2+(ほぼ無色) + 4H2O

 

反応が起こっている間は、過マンガン酸イオンMnO4- はすぐに還元されて、マンガン(II)イオンMn2+ になります。そのため、ビュレットから滴下する過マンガン酸カリウムKMnO4水溶液の赤紫色は、すぐに消失します。しかし、すべての還元剤が過マンガン酸イオンMnO4- によって酸化されてしまうと、過マンガン酸イオンMnO4- は還元されなくなり、赤紫色が消えなくなります。つまり、過マンガン酸カリウムKMnO4水溶液による滴定は、滴下した過マンガン酸イオンMnO4- の赤紫色が消えなくなったときが終点です。

なお、この滴定で、十分量の希硫酸H2SO4を加える理由は、酸性条件下でないと、過マンガン酸イオンMnO4- がマンガン(II)イオンMn2+ にならないからです。ただし、注意として、塩酸HClや希硝酸HNO3で酸性にしてはいけません。例えば、塩酸HClで酸性にした場合は、次のように、塩化物イオンCl- が過マンガン酸イオンMnO4- によって酸化されます。

 

2Cl-  Cl2 + 2e-

 

この反応は、塩素ガスを発生させることができる反応なので、ある意味で有用ではあります。しかし、酸化還元滴定においては、酸化剤の滴定量が変化してしまう邪魔な反応です。また、希硝酸HNO3は、過マンガン酸イオンMnO4- に酸化されることはありませんが、硝酸イオンNO3- 自身が、次のように酸化剤として作用します。

 

NO3- + 3e- + 4H+  NO + 2H2O

 

いずれにしても、過マンガン酸イオンMnO4- の滴定量が変化してしまうため、塩酸HClや硝酸HNO3では酸性にしないのです。ちなみに、実験室で塩素ガスを発生させるときは、過マンガン酸イオンMnO4- を使わずに、酸化力を一段階落とした二酸化マンガンMnO2を作用させます。

 

MnO2 + 4HCl  MnCl2 + Cl2 + 2H2O

 

このようにする理由は、強力な酸化力を持つ過マンガン酸イオンMnO4- では、反応速度が速すぎて反応が暴走してしまう可能性があるからです。塩素ガスは有毒ガスであるため、発生させる際は、反応をコントロールできる試薬を選択しなければなりません。二酸化マンガンMnO2の場合は、酸化力がわずかにCl2MnO2であるため、塩素ガスを発生させるためには、加熱をする必要があります。これは言い換えれば、加熱を止めれば、塩素ガスの発生を直ちに止めることができるということです。したがって、実験室で塩素ガスを発生させるときは、たとえ反応速度が遅くとも、酸化力の弱い二酸化マンガンMnO2を使用するのです。

 

(ii)ヨウ素I2滴定

 「ヨウ素滴定(iodimetry titration)」とは、ヨウ素I2の入ったコニカルビーカーに還元剤をビュレットから滴下し、ヨウ素I2の物質量を定量的に求める実験です。この実験では、ヨウ素I2は酸化剤として作用し、還元剤としては、チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3水溶液がよく用いられます。

 

I2 + 2S2O32-  S4O62- + 2I-

 

この滴定の終点直前に、指示薬としてデンプンを加えると、未反応のヨウ素I2がヨウ素デンプン反応を起こして、青紫色に呈色します。そして、ヨウ素I2がすべて消費されると、青紫色が無色になり、そこが終点となるのです。なお、あまり早い段階でデンプンを加えないのは、ヨウ素デンプン複合体に対するチオ硫酸イオンS2O32- の還元反応の反応速度が小さいからです。ヨウ素滴定では、様々な方法がありますが、大きく分類すると、ヨウ素滴定は次の2種類になります。

 

(i)酸化剤の物質量を求める場合

ヨウ素滴定では、酸化剤の物質量を求めることができます。「ヨウ素I2自身が酸化剤なのにどうやって?」と思うかもしれませんが、工夫をして2段階の反応を起こすことで、酸化剤の物質量を間接的に求めることができるのです。ただし、これには条件があって、酸化剤の酸化力が、ヨウ素I2よりも強い場合に限られます。すなわち、ヨウ化物イオンI- を酸化できる酸化剤でなければ、ヨウ素滴定ができません。高校の化学でよく問題にされるのは、塩素Cl2の定量です。まず、十分量のヨウ化物イオンI- を含む水溶液に、塩素ガスを吸収させます。すると、ヨウ化物イオンI- が塩素Cl2により酸化されて、塩素Cl2の物質量と同じだけのヨウ素I2が生成します。

 

Cl2 + 2I-  2Cl- + I2

 

ここで生成したヨウ素I2に、ビュレットを用いて、チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3水溶液を滴下していきます。そして、この滴定で反応したチオ硫酸ナトリウムNa2S2O3の物質量を求めれば、生成したヨウ素I2の物質量が分かります。つまり、「生成したヨウ素I2mol=反応させた塩素Cl2molなので、結果として、ヨウ素滴定で酸化剤の物質量が分かるのです。

 

I2 + 2S2O32-  S4O62- + 2I-

 

(ii)還元剤の物質量を求める場合

 ヨウ素滴定で酸化剤の物質量を求めるときは、一度酸化剤の物質量をヨウ素I2の物質量に変換するという、回りくどい方法を取りました。しかし、還元剤の物質量を求めるときは単純です。例として、硫化水素H2Sの物質量を定量する場合を考えましょう。まず、十分量のヨウ素I2を含む水溶液に、硫化水素H2Sを吸収させ、完全に反応させます。すると、硫化水素H2Sがヨウ素I2によって酸化され、硫化水素H2Sの物質量分だけ、ヨウ素I2の物質量が消費されます。

 

I2 + H2S  S + 2HI

 

ここで、未反応のヨウ素I2に、ビュレットを用いてチオ硫酸ナトリウムNa2S2O3水溶液を滴下していけば、未反応のヨウ素I2の物質量が分かるのです。つまり、全体の反応では、「ヨウ素I2mol=硫化水素H2Smol + 1/2 チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3molということになります。

 

I2 + 2S2O32-  S4O62- + 2I-


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・参考文献

1) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)

2) 卜部吉庸「化学の新研究」三省堂(2013年発行)