・中和滴定でリン酸(食品添加物)中のリン酸濃度を求める
【目次】
(1) 実験操作
@ 50 mLビーカーに10倍希釈したリン酸(食品添加物)を15 mLほど加える。
A 乾いたホールピペットを用いて、@のリン酸10 mLを正確に取り、100 mLメスフラスコに入れる。ピペットの先端の残滴は、玉の部分を手のひらで温めてすべて出し切る。
B メスフラスコの標線の手前まで純水を加え、蓋をしてよく混合する。その後、駒込ピペットで純水を少しずつ慎重に加え、メニスカスの下面を標線に合わせる。
C ビュレットの活栓が閉じていることを確認し、50 mLビーカーに取った0.100 mol/L水酸化ナトリウム水溶液をビュレットに入れる。水酸化ナトリウム水溶液の液量は、ビュレットの目盛りの0〜5 mLの範囲になるようにし、液面を0 mLよりも上側にしないこと。
D ビュレットの下に水酸化ナトリウム水溶液の入った50 mLビーカーを置き、活栓を開いて、ビュレットに入った水酸化ナトリウム水溶液を少量だけ出す。この操作により、ビュレットの先端にたまっていた気泡を追い出すことができ、ビュレットの先端まで溶液が満たされる。
E ビュレットを側面から見て、このときの水酸化ナトリウムの液量V1を記録しておく。
F 別の乾いたホールピペットを用いて、Bで調製したリン酸を正確に10 mL取り、コニカルビーカーに入れる。そこに、フェノールフタレイン溶液を1滴だけ入れる。
G ビュレットの下にFのコニカルビーカーを置き、活栓をゆっくり開いて、水酸化ナトリウム水溶液を20 mLほど滴下する。このときのビュレット内の水酸化ナトリウムの液量V2を記録しておく。
H 活栓を閉じた状態で、再びビュレットに水酸化ナトリウムを入れる。液量が目盛りの0〜5 mLの範囲になるようにし、このときの水酸化ナトリウムの液量V3を記録しておく。
I 活栓をゆっくり開いて、ビュレットから水酸化ナトリウム水溶液を1滴ずつ落とす。コニカルビーカーを振り混ぜながら滴下し、ビーカー内の水溶液の色が赤変して、その色が消えなくなるまで滴下していく。このときのビュレット内の水酸化ナトリウムの液量V4を記録しておく。
J 以降、C〜Iの操作を繰り返す。コニカルビーカーを再び使用する際は、まずは水道水で洗い、純水で軽くすすいだ後に使用すること。
(2) 理論
一般に中和反応では、「酸から生じ得るH+の物質量=塩基から生じ得るOH−の物質量」が成立します。例えば、ある濃度の希硫酸10 mLを過不足なく中和するために、0.20
mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を8.6 mL滴下したとします。この希硫酸の濃度 は、次のように求めることができます。
このようにすると、濃度未知の水溶液の濃度を求めることができます。今回の実験では、濃度未知の酸にはリン酸H3PO4を、濃度既知の塩基には水酸化ナトリウムNaOHを使用しました。水酸化ナトリウムNaOHは、空気中の二酸化炭素CO2と反応して濃度が変化するため、実験の直前に調製をするようにします。リン酸H3PO4と水酸化ナトリウムNaOHは、次のように中和反応します。
H3PO4 + 3NaOH → Na3PO4 + 3H2O
リン酸H3PO4は三価の酸なので、水酸化ナトリウムNaOHと中和すると、上記の中反応が進行しそうです。この反応は、次の三段階の中和反応に分けることができます。
H3PO4 + NaOH → NaH2PO4 + H2O ・・・(I)
NaH2PO4 + NaOH → Na2HPO4 + H2O ・・・(II)
Na2HPO4 + NaOH → Na3PO4 + H2O ・・・(III)
(I)式の反応の終了を示したのが第一中和点で、リン酸H3PO4が一価の酸として中和されたことを示します。このときの溶液のpHは、生じたリン酸二水素ナトリウムNaH2PO4の加水分解により約4.5を示すので、指示薬としてメチルオレンジ(変色域3.1〜4.4)を用いれば、第一中和点の終点を知ることができます。
さらに水酸化ナトリウムNaOH水溶液を加えていき、(II)式の反応の終了を示したのが第二中和点です。第二中和点では、リン酸H3PO4は二価の酸として中和されることになります。このときの溶液のpHは、生じたリン酸水素ナトリウムNa2HPO4の加水分解により約9.5を示すので、指示薬としてフェノールフタレイン(変色域8.2〜9.8)を用いれば知ることができます。
しかし、(III)式の終了を示す第三中和点は、かなり強い塩基性の領域(リン酸ナトリウムNa3PO4の加水分解によりpHは約12.7)にあり、加えた水酸化ナトリウムNaOH水溶液とほぼpHが等しいので、pHジャンプは起こらず、指示薬を使って知ることはできません。
図.1 0.100
mol/Lのリン酸H3PO4(10
mL)を0.100 mol/Lの水酸化ナトリウムNaOHで滴定したときの滴定曲線
今回の実験では、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を用いたので、リン酸H3PO4は二価の酸として振る舞い、次のような反応が起こって終点に達します。水酸化ナトリウム水溶液は0.100 mol/Lに調製したものを用いて、中和滴定により、市販のリン酸(食品添加物)に含まれるリン酸H3PO4の濃度を求めました。
H3PO4 + 2NaOH → Na2HPO4 + 2H2O
(3) 結果
実験結果は、次の表.1のようになりました。ビュレットの目盛りは、小数点第2位(最小目盛りの1/10)まで読むようにします。
表.1 中和点までに要した0.100 mol/L水酸化ナトリウム水溶液の滴定量
|
1回目 |
2回目 |
3回目 |
滴定前の液量 V1 mL |
1.41
mL |
2.63
mL |
1.73
mL |
滴定後の液量 V2 mL |
24.18
mL |
24.48
mL |
24.22
mL |
滴定量@ V2−V1 mL |
22.77
mL |
21.85
mL |
22.49
mL |
滴定前の液量 V3 mL |
3.21
mL |
0.90
mL |
2.45
mL |
滴定後の液量 V4 mL |
10.45
mL |
8.35
mL |
9.61
mL |
滴定量A V4−V3 mL |
7.24
mL |
7.45
mL |
7.16
mL |
滴定量の合計 滴定量@+A |
30.01
mL |
29.30
mL |
29.65
mL |
滴定量の平均値
|
29.65
mL |
滴定量の平均値を用いて、リン酸(食品添加物)中に含まれるリン酸H3PO4の質量%濃度を求めます。実験より、薄めたリン酸(食品添加物)10 mLを中和するのに、0.100
mol/L水酸化ナトリウム水溶液が29.65 mL必要だったので、薄めたリン酸H3PO4の濃度は、次のように求めることができます。
このリン酸H3PO4は、メスフラスコを用いて100倍に希釈したものです。これより、もとの市販のリン酸(食品添加物)1.0 L中に含まれるリン酸H3PO4 (M=98)の質量を求めると、次のようになります。
市販のリン酸(食品添加物)の密度を1.70 g/cm3として、リン酸(食品添加物)中のリン酸H3PO4の質量%濃度を求めると、次のようになります。
よって、市販のリン酸(食品添加物)中のリン酸H3PO4の質量%濃度は、およそ85%と求められます。
・参考文献
1) 卜部吉庸「化学の新研究」三省堂(2013年発行)