・理想気体の状態方程式を用いた分子量の測定
【目次】
@ 丸底フラスコの口にアルミ箔を取り付け、輪ゴムで縛り付ける。このとき、蒸気の通り道として、小さな穴をシャープペンシルなどを使って空けておく。
A アルミ箔を取り付けたフラスコ全体の質量 〔g〕を、電子天秤で0.01 gの値まで正確に量る。フラスコは転がりやすいので、バットなどの台に置いて量るとよい。
B アルミ箔を外し、四塩化炭素CCl4を駒込ピペットで約3 mL量り取り、フラスコの中に入れる。四塩化炭素CCl4を入れたら、再びアルミ箔を取り付ける。
C 支持環とクランプを取り付けたスタンドを用意し、支持環の上に金網を載せる。
D 1 Lビーカーに水を半分ほど入れ、金網の上に載せ、フラスコを水中に浸す。フラスコの底がビーカーの底から1 cmくらいになるように、クランプを上下させて高さを調整する。
E ビーカーの水の量が9分目くらいになるように、水を加えて量を調整する。このとき、ビーカーの水に沸騰石を数個入れておく。
F フラスコをクランプでしっかりと固定し、ガスバーナーに点火して、ビーカーの水を強火で加熱する。
G ビーカーの水が沸点に近付いてきたら、ガスバーナーの火を弱めて、フラスコ内の四塩化炭素CCl4の量をよく確認する。四塩化炭素CCl4は蒸発して、だんだん少なくなっていくので、液体がなくなったときに加熱をやめる。火を止めてから3分ほどそのまま放置し、このときのビーカーの水温t〔℃〕を測定する。
H 雑巾などで手を保護しながら、フラスコを注意深く取り出す。1 Lビーカーに冷水を満たし、フラスコを浸して急冷する。フラスコが室温程度まで冷えたら、雑巾で水をよく拭き取る。
I アルミ箔と輪ゴムを付けたまま、フラスコ全体の質量〔g〕を電子天秤で測定する。測定後にアルミ箔と輪ゴムをはずして、四塩化炭素CCl4を回収する。
J フラスコに水を一杯に満たし、その水を慎重にメスシリンダーに移して、フラスコ内で気体の占めていた容積v〔mL〕を測定する。
K アネロイド気圧計を使って、大気圧p〔hPa〕を測定する。
図.1 加熱に時間がかかるので、温水を用いると、時間の短縮になる。沸騰石は、途中で加熱を中止すると、効力を失うので注意する
(2) 理論
四塩化炭素CCl4(b.p.76.7℃)のように気化しやすい液体試料を、適当量だけ丸底フラスコに入れ、沸騰水中に保持します。すると、四塩化炭素CCl4は直ちに蒸発しますが、四塩化炭素CCl4(M=153.82)の蒸気の密度は、空気(M=28.97)よりも大きいので、はじめにフラスコ内を満たしていた空気は、徐々に下から押し上げられ、やがてフラスコ内からは、ほぼ完全に追い出されます。そして最後には、余分に入れた液体試料の蒸気も追い出され、ちょうど四塩化炭素CCl4の液体がなくなった時点で、フラスコ内を「四塩化炭素CCl4の蒸気だけ」が満たすことになります。そして、このときの蒸気の質量w、圧力P、体積V、絶対温度Tの値を求め、理想気体の状態方程式PV=nRTに代入すれば、四塩化炭素CCl4の分子量Mが分かるのです。なお、理想気体の状態方程式PV=nRTは、分子量Mを用いると、次のように変形できます。
理想気体の状態方程式PV=nRTは、気体にしか適用できない方程式なので、この方程式に代入する値は、四塩化炭素CCl4の「蒸気」が、フラスコ内を満たしているときの値でなければなりません。しかし、このときの質量w、圧力P、体積V、絶対温度Tの値を、直接実験で計測するのは、非常に困難です。そこで、このときの圧力Pは、フラスコの内外で、一応圧平衡が成り立っているとして、P = p (大気圧)とします。また、フラスコ内に温度計が入っている訳ではないので、フラスコ内の温度Tは分かりません。しかし、ここでもフラスコの内外で、温度平衡が成り立っているとして、T = t (水温)とすることにします。また、このときの体積Vも分かりません。しかし、ここでも温度によるフラスコの容積変化は無視できるとして、V = v (フラスコ内の水の体積)とすることにしましょう。
それでは、四塩化炭素CCl4の「蒸気」の質量wは、いくらになるでしょうか。実は、フラスコ内を満たした「蒸気」の質量を求める方法は、少し厄介なのです。最初に量った空のフラスコの質量は、フラスコ内にある「空気」を含めた質量です。したがって、フラスコ内が完全に四塩化炭素CCl4の「蒸気」で満たされた状態(空気が完全に追い出されている)の質量
との差を計算しても、四塩化炭素CCl4の「蒸気」の質量wを求めることはできません。容器を満たしていた「空気」の質量分だけ、値が小さくなってしまうのです。
したがって、フラスコ内を満たした四塩化炭素CCl4の「蒸気」の正確な質量wを量るためには、冷却して「蒸気」を完全に凝縮させ、フラスコの中に空気を戻してやる必要があります。具体的には、フラスコを水浴から取り出し、室温まで冷却して「蒸気」を凝縮させたあと、フラスコの外側の水をよく拭いてから量った質量と、最初のフラスコの質量
との差が、フラスコ内を満たした四塩化炭素CCl4の「蒸気」の質量wにほぼ等しくなります。
ちなみに、この方法で分子量が求められるのは、液体の沸点が水浴の温度よりも低く、蒸気の密度が空気よりも大きい物質のみです。これは、理想気体の状態方程式を用いるために、水浴の温度で気化させる必要があること、気化したときに容器内の空気を追い出す必要があることから、説明することができます。
図.2 実験の原理
(3) 結果
実験の結果より、、
、p =1027.1 hPa、v =444.6 mL、t =87.9℃となりました。気体定数R=8.31×103 L・Pa/(mol・K)を用いて、四塩化炭素CCl4の分子量Mを計算すると、次のようになります。
理論値はM=153.82であり、実験値は、理論値よりも少し小さい値になってしまいました。この理由としては、冷却して四塩化炭素CCl4を凝縮させたあとの質量を量るときに、四塩化炭素CCl4の蒸気圧を考えていないことがあげられます。四塩化炭素CCl4の蒸気圧は、25℃で1.93×104 Paです。冷却して蒸気を完全に凝縮させた状態は、完全な密閉系ではありませんが、ほとんど密閉された状態とみなせるから、四塩化炭素CCl4は気液平衡の状態であり、このときの四塩化炭素CCl4の分圧の値は、25℃における四塩化炭素CCl4の蒸気圧の値1.93×104 Paに等しいとみなすことができるのです。
したがって、実際には、四塩化炭素CCl4の蒸気を冷却して凝縮したとき、空気は1.0271×105 —1.93×104=8.34×104 Pa分しかフラスコ内に入ってこないのです。最初の空のフラスコには、1.0271×105 Paの空気が入っていました。つまり、四塩化炭素CCl4の蒸気圧1.93×104 Paに相当する分の空気がフラスコ内から排除され、排除された空気分だけ四塩化炭素CCl4の質量wは軽くなるので、正確には、その1.93×104 Pa分の空気の質量をに加える必要があるのです。
ところで、空気の密度を1.00 g/Lとすると、1.0271×105 Paなら体積444.6 mLの空気の質量は、1.00×0.4446=0.4446 gとなります。よって、排除分の空気の質量、すなわち1.93×104 Paの空気の質量は、次のようになります。
この値をもとにして、四塩化炭素CCl4の分子量Mを正確に計算すると、次のように、理論値と非常に近い値になります。
・参考文献
1) 卜部吉庸「化学の新研究」三省堂(2013年発行)
2) 石川正明「新理系の化学問題100選」駿台文庫(2012年発行)