・生活と高分子化合物


(1)繊維とは何か?

繊維(fiber)とは、動物の毛や皮革、植物などから得られる、自然に伸びた、または人工的に伸ばされた、細くしなやかで、凝集性のある紐状の素材のことです。主に衣料として用いられる繊維には、天然繊維(natural fiber)と化学繊維(chemical fiber)があります。

天然繊維には、植物繊維(vegetable fiber)や動物繊維(animal fiber)などがあります。また、化学繊維には、再生繊維(regenerated fiber)や半合成繊維(semisynthetic fiber)、合成繊維(synthetic fiber)などがあります。再生繊維は、天然高分子化合物を一度溶媒に溶解して、紡糸により繊維を再生したものです。また、半合成繊維は、天然繊維に置換基を結合させて、繊維状にしたものです。合成繊維は、合成高分子化合物を繊維状にしたものです。次の表.1に、繊維の分類とその例を示します。

 

.1  繊維の分類とその例

a.png

 

(2)植物繊維

植物繊維は、植物から取れる繊維であり、その主成分は、植物細胞壁の主成分であるセルロースです。セルロースは、分子中にヒドロキシ基を多数持つため、植物繊維は一般的に吸湿性に優れます。そのため、高温多湿の地域では、植物繊維は衣類の材料として好んで使われることが多いです。しかし、逆に動物繊維のような撥水効果はないため、寒冷な地域での風雨に晒されるような防寒着には不適です。また、植物繊維は酸には強いものの、塩基には弱く、点火すると速やかに燃えて、灰が残ります。さらに、シロアリをはじめとする昆虫の食害に遭う場合もあります。

 

(i)木綿

木綿は、ワタの種子の表皮細胞が成長して、繊維状になったもので、その主成分は、ほぼ純粋なセルロースです。繊維としては、伸びにくく丈夫であり、吸湿性や保温性があって、肌触りも良いです。この性質のため、現代では下着などの衣類によく使われますが、縮みやすく皺になりやすいという欠点もあります。

 

800px-CottonPlant.jpg

.1  収穫期のワタ(画像はこちらからお借りしました)

 

(ii)

麻は、生育が速い一年草であり、大麻あるいは大麻草とも呼ばれます。第二次世界大戦の終戦前までは、日本では、米と並んで作付け量を指定されて、盛んに栽培されていた主要農作物です。麻は、4か月で4 mの背丈になるほど成長が早く、茎などから繊維が得られ、実は食用となる他、油も取れるなど、利用価値が非常に高いです。大豆に匹敵する高い栄養価を持つ実を、食用として料理に使うことは違法ではありません。しかし、国内では許可なく育てることはできないため、食用の種子は、輸入に頼っているのが現状です。

このように麻の栽培が規制されている理由は、麻の葉や花穂には、テトラヒドロカンナビノール(THC)と呼ばれる化学物質が含まれているからです。これを摂取すると、陶酔感や多幸感を覚えたり、食欲や睡眠欲が増進したりするなどの向精神作用が現れます (薬物乱用の科学を参照)。日本においては、麻の陶酔作用は「麻酔い」として、農家から嫌われていたようです。

 

750px-Marijuana.jpg

.2  麻の葉(画像はこちらからお借りしました)

 

麻は、繊維としては強靭で硬いため、衣類や履物の他に、バッグやロープなどに使われます。麻で作られた衣類は、通気性に優れるので、日本を含め、暑い気候の地域で多く使用されています。木綿や絹などの布と比較して、麻の布には独特のざらざらとした触感や起伏があるため、その風合いを生かした夏服が人気となっています。

 

(3)動物繊維

動物繊維は、動物全般から得られる繊維であり、昆虫であるカイコから得られる絹や、哺乳類のヒツジから得られる羊毛まで、その種類は様々です。動物繊維の多くは、タンパク質が主な材料になるため、燃やすとコゲ臭いです。また、昆虫の中には、乾燥した動物性タンパク質を主食とするものが多く、それらの昆虫による食害を受けやすいです。

また、動物繊維は、その長所として、繊維が弾力に富み、空気を多く含んだ布地を作りやすいことがあげられます。これは、肌触りが良いだけでなく、断熱材として機能することから、暑さや寒さから身体を保護するために有効です。防寒着だけでなく、強い直射日光を遮断するためにも、動物繊維は有効です。また、哺乳類の毛は、適度に油分を含むために、撥水性に優れています。

 

(i)羊毛

羊毛の主成分は、タンパク質の一種であるケラチンです。ケラチンは、硫黄Sを含むα -アミノ酸のシステインを含むため、燃やすと特有の刺激臭がします。繊維は長さ数cmの短繊維で、断面はほぼ円形です。表皮は鱗状で、クチクラ(キューティクル)と呼ばれます。羊毛は、根本から先端まで緩やかな波状に折れ曲がっており、糸を紡ぐとき、繊維同士が絡み合いやすいです。また、熱湯や塩基性溶液に晒されたあと、光に当たると、少しずつ黄色に変色します。

 

Wool_www_usda_gov.jpg

.3  刈り取られた羊毛(画像はこちらからお借りしました)

 

(ii)

絹は、カイコガの繭から取り出される動物繊維です。繭の糸は、長さ1,0001,500 mの長繊維で、フィブロンという繊維状タンパク質2本の外側を、セリシンというタンパク質が覆っています。繭から取り出した生糸は、硬くつやが少ないですが、セリシンを溶かして除くと、フィブロンだけからなる絹繊維が得られます。この絹繊維を何本もより合わせたものが、生糸です。特有の光沢や、絹鳴りなどの絹糸の特徴は、フィブロンの断面が不規則な三角形をしているために生じます。絹鳴りは、凹凸のないナイロン繊維ではしません。また、フィブロンを構成するアミノ酸は、グリシンやアラニン、セリンなどです。絹も光により、少しずつ黄色くなります。

ちなみに、カイコは家畜化された昆虫で野生には生息せず、野生回帰能力を完全に失った唯一の家畜化動物として知られます。餌が無くなっても逃げ出さず、人間による管理なしでは生存することができません。カイコを野生のクワの木に止まらせても、ほぼ一昼夜のうちに捕食されるか、地面に落ち、全滅してしまうといいます。カイコは腹脚の把握力が弱いため、樹木に自力で付着し続けることができず、風が吹いたりすると容易に落下してしまうのです。

 

800px-Silk_raw_01.jpg

.4  絹糸は特有の光沢を持つ(画像はこちらからお借りしました)

 

(4)化学繊維

化学繊維は、化学的プロセスにより製造される繊維の総称で、人造繊維とも呼ばれます。化学繊維が広く普及するようになったのは、アメリカのデュポン社のカロザースによって開発されたナイロンからです。これは、絹への憧れから絹糸の代用を目指して作られ、スットキングにおける需要を完全に塗り替えました。これを機に、高分子有機化合物における合成繊維は、様々なものが作られるようになったのです。

 

(i)レーヨン

植物のセルロースを化学的に取り出し、繊維にしたものをレーヨンといいます。レーヨンは、絹に似せて作られた再生繊維であり、昔は人造絹糸(人絹)とも呼ばれていました。レーヨンの原料には、主に木材パルプが用いられます。それまでは、有効活用が難しかったために破棄していた木材パルプを、化学的に処理して繊維にしようと試みた訳です。まず、セルロースを濃い水酸化ナトリウムNaOH水溶液に浸して、アルカリセルロースとし、これを二硫化炭素CS2と反応させます。その後、薄い水酸化ナトリウムNaOH水溶液に溶かすと、赤橙色コロイド溶液のビスコースが得られます。ビスコースを細孔から希硫酸H2SO4中に押し出し、セルロースを再生させると、ビスコースレーヨンが得られます。また、これを薄膜状に再生させるとセロハンが得られ、テープや包装材料などに利用されます。

 

a.png

.5  ビスコースレーヨンの製法

 

 銅アンモニレーヨンと呼ばれるレーヨンもあります。これは、キュプラあるいは銅シルクとも呼ばれ、一般的なビスコースレーヨンに比べて、耐久性や耐摩耗性などに優れます。銅アンモニアレーヨンの生産には、銅アンモニア溶液(シュバイツァー溶液)を用います。この溶液は、水酸化銅(II) Cu(OH)2に濃アンモニア水を加え、水酸化ナトリウムNaOHを加えることで作られます。この溶液では、テトラアンミン銅(II)イオン[Cu(NH3)4]2+ が生じており、セルロースを溶解させることができます。このセルロースを溶解させた銅アンモニア溶液を、細孔から希硫酸H2SO4中に押し出すことでセルロースが再生し、銅アンモニアレーヨンが得られます。

 

(ii)アセテート

半合成繊維の主なものに、アセテート(アセテート繊維)があります。これは、木材パルプを原料にして、置換基としてアセチル基を結合させた繊維です。セルロースに無水酢酸(CH3CO)2Oと少量の濃硫酸H2SO4を作用させると、セルロースのヒドロキシ基がアセチル化されて、トリアセチルセルロースが生成します。

 

[C6H7O2(OH)3]n + 3n(CH3CO)2O → [C6H7O2(OCOCH3)3]n + 3nCH3COOH

 

トリアセチルセルロースは、溶媒に溶けにくいのですが、エステル結合の一部を穏やかに加水分解して、ジアセチルセルロース[C6H7O2(OH)(OCOCH3)2]nにすると、アセトンに溶けるようになります。このアセトン溶液を細孔から噴射して、熱風を用いて乾燥させることで、アセテートが得られます。アセテートは、より合わせて糸にすることで、適度な吸湿性と美しい光沢を持つようになります。また、軟らかい素材感が得られることから、衣類の素材としてもしばしば利用されます。

 

(5)衣料

繊維は、細長い鎖状高分子であり、一般的には液体にしてから、小さな細孔より押し出して、延ばしながら固めて作ります。これを紡糸といいますが、この過程で、分子が平行に並んだ密な部分と、分子が乱れている疎の部分が交互にできます。密な部分が多い繊維は、力学的に強く、融点が高く、薬品に強くなります。一方で、疎な部分が多い繊維は、伸びやすく、吸湿しやすく、染まりやすくなります。この繊維をより合わせて糸にし、その糸を織ったり編んだりして作るのが布です。

布は、繊維の種類や、布の構造を変えることにより、色々な性能が得られます。例えば、フィット性の良い布を作るには、よく伸び縮みする繊維を使い、編構造にすれば良いです。また、汗をよく吸う布を作るには、濡れやすい親水性の繊維を使い、布の隙間を増やせば良いです。ただし、親水性の繊維は、水を取り込みやすいので、どうしても乾きが遅くなってしまいます。そのため、濡れにくい疎水性の繊維を使い、糸や布の構造を工夫して大量の隙間を作ると、「よく汗を吸ってすぐ乾く」優れた布を作ることができます。次の表.2に、主な繊維の種類と特徴を示します。

 

.2  主な繊維の性質と特徴

a.png

 

(6)高分子化合物の利用

高分子化合物は、構造材料として用いられるだけでなく、種々の官能基を付け加えることにより、特別な機能を持った機能性高分子としても利用されています。

 

(i)イオン交換樹脂

 溶液中にあるイオンを、別の種類のイオンと取り換える働きを持つ樹脂を、イオン交換樹脂(ion-exchange resin)といいます。最も一般的なイオン交換樹脂の構造は、スチレンやp-ジビニルベンゼンの共重合からなる母体を持つものであり、そのベンゼン環の水素原子を、酸性や塩基性の基で置換した構造をしています。

イオン交換樹脂の分子中に、スルホ基などの酸性基を多く含むものは、これらの基の電離により、水素イオンH+ を生じます。この樹脂に電解質水溶液を通すと、酸性基の水素イオンH+ と、電解質の陽イオンが交換されます。このような樹脂を、陽イオン交換樹脂(cation-exchenge resin)といいます。

 

a.png

.6  陽イオン交換樹脂の仕組み

 

また、イオン交換樹脂の分子中に、アルキルアンモニウム基の水酸化物などの塩基性基を多く含むものは、これに電解質水溶液を通すと、塩基性基の水酸化物イオンOH- と、電解質の陰イオンが交換されます。このような樹脂を、陰イオン交換樹脂(anion-exchange resin)といいます。

 

a.png

.7  陰イオン交換樹脂の仕組み

 

イオン交換樹脂は、カラムに詰めて、その中に処理液を流す形で使用されます。塩の水溶液を、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の両方に通すと、塩の陽イオンや陰イオンは、それぞれイオン交換樹脂により捕えられ、水素イオンH+ と水酸化物イオンOH- に交換されます。生じた水素イオンH+ と水酸化物イオンOH- は、両方の樹脂を通ると水H2Oになるので、純水を得ることができます。イオン交換樹脂で、陽イオンや陰イオンを除いた水を、イオン交換水(ion-exchanged water)といいます。イオン交換水は、化学実験や研究所、工場などで使われています。陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂は、使用後、それぞれに希塩酸HClや薄い水酸化ナトリウムNaOH水溶液で処理することで、元のイオン交換樹脂に再生されます。

 

(ii)導電性高分子

導電性は、自由電子を持つ金属固有の性質であり、自由電子を持たない有機材料である高分子は、導電性をほとんど示さないとかつては考えられていました。しかし、1970年代に当時東京工業大学の白川英樹らが、良質なポリアセチレンフィルムを合成し、そこから導電性高分子(conductive polymer)に関する研究が、飛躍的に発展していきました。

ポリアセチレンフィルムの合成は、まさにセレンディピティでした。韓国から来ていた留学生が、文献の「m」の文字に気付かず、触媒の濃度を1,000倍にしてしまったことで、偶然にもこれがポリアセチレンフィルムの発見に繋がったのです。それまでは、不溶・不融の粉末状のポリアセチレンしか得られていませんでした。

白川らは、ペンシルバニア大学との共同研究の中で、ポリアセチレンフィルムにヨウ素などを数%添加する(これをドーピングという)ことによって、電気伝導度が飛躍的に向上することを見出しました。発見時には、「流れる電流は微量だ」と予測して、微量な電流が計測できる非常に高価な電流計を購入して使っていたのですが、予想以上の電流が流れてしまったために、爆発音と共に白煙を上げて電流計が壊れてしまったといいます。白川の共同研究者の第一声は、実験をしていた助手に対して、「何て事をしてくれたんだ!!」という、電流計が壊れたことに対する罵声だったといいます。

現在では、ドーピングの技術の向上により、金属に匹敵する導電性を有するプラスチックが開発され、ATMなどの透明タッチパネルや、電解コンデンサや電子機器のバックアップ用電池、携帯電話やノート型パソコンに使用されているリチウムイオン電池の電極などに応用されています。

導電性高分子は、共役した二重結合を多数持っており、これが導電性を示すと考えられています。この白川らの業績は、2000年のノーベル化学賞受賞につながりました。

 

a.png

.8  導電性高分子であるポリアセチレン

 

(iii)生分解性高分子

植物の葉や動物の死体が、自然界でやがて消滅してしまうのは、最終的には微生物の働きによるものです。この現象を、私たちは「腐る」と称しています。しかし、実際には、微生物がこれらのものを栄養として摂取して、分解している生命の営みです。生体内や自然環境中で微生物により分解され、最終的に水H2Oと二酸化炭素CO2に完全に分解される高分子化合物を、生分解性高分子(biodegradable)といいます。

生分解性の合成高分子化合物には、ポリ乳酸やポリグリコール酸などがあります。生分解性高分子には、デンプンを原料とするものが多いです。ポリ乳酸で作られた手術糸は、体内で一定期間が経過すると、分解・吸収され、抜糸の必要がありません。生分解性高分子は、包装やBB弾といった、使い捨てにされることを前提にして作られたものに適しています。

 

100116-0119.jpg

.9  生分解性高分子からできたBB

 

(iv)イオン交換膜

イオン交換膜(ion-exchange membrane)は、イオン交換樹脂を膜状にしたもので、異符号のイオンの通過を阻止し、同符号のイオンのみを通過させる性質を持ちます。イオン交換膜には、陽イオンだけを通過させる陽イオン交換膜と、陰イオンだけを通過させる陰イオン交換膜があります。異符号のイオンが通過できない理由は、膜に固定されているイオン基との、クーロン力による反発があるためです。イオン交換膜は、イオン交換樹脂と違ってイオンの交換が目的ではないため、イオン交換樹脂のように再生処理を必要とせず、長時間連続使用できる性質を持ちます。用途が似ている半透膜との違いは、イオン交換膜はイオンを通過させますが、水分子はほとんど通過させない点にあります。

 

(v)吸水性高分子

短時間で自重の数百倍から数千倍までの水H2Oを、吸水・保持して膨らむ高分子化合物を、吸水性高分子(water-absorbing polymer)といいます。その構造は、ポリアクリル酸ナトリウムのような水溶性の高分子化合物を、適当な箇所で互いに結合させ、三次元網目構造としたものです。ポリアクリル酸ナトリウムを顆粒状にしたものが、紙おむつや生理用品などに多く使用されています。また、ポリアクリル酸ナトリウムのジェルは熱を遮断するので、火だるまのスタントなどにも使われています。

 

a.png

.10  吸水性高分子であるポリアクリル酸ナトリウム

 

 一方で、納豆のネバネバの主成分は、グルタミン酸が多数(最低でも5,000個以上)ペプチド結合した、ポリグルタミン酸です。この納豆のポリグルタミン酸に放射線(コバルト60, γ)を照射すると、納豆樹脂と称されるものができます。納豆樹脂は、1 gでなんと5 L(自重の約5,000)もの水H2Oを蓄えることができるといいます。このような納豆樹脂の性質は、例えば、乾燥地帯の給水にも適するのではないかと考えられています。


戻る

 

・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学基礎」啓林館(2012年発行)

2) 芝原寛泰/後藤景子 共著「身の回りから見た化学の基礎」化学同人(2010年発行)

3) 船山信次「こわくない有機化合物超入門」技術評論社(2014年発行)