・ペットボトルに使われているプラスチックの鑑定
【目次】
(1) 実験操作
@ ペットボトルをニッパーやペンチなどを使って、本体の部分、蓋の部分、飲み口の部分の3つに分解する。
A 分解したプラスチックを水に浮かべて、浮かぶかどうかを調べる。
B 分解したプラスチックを飽和食塩水(密度は約1.2 g/cm3)に浮かべて、浮かぶかどうかを調べる。
C 分解したプラスチックをガスバーナーで燃やしてみて、臭いや燃え方を調べる。
D 分解したプラスチックがバイルシュタイン反応を起こすかどうかを調べる。
(2) 理論
「プラスチック(plastic)」とは、熱や圧力を加えることにより成形加工のできる、高分子化合物のことです。この高分子化合物には、「天然高分子化合物(natural polymer)」と「合成高分子化合物(synthetic polymer)」がありますが、普通に「プラスチック」というときには、石油から生まれた「合成高分子化合物」のことを指します(合成高分子化合物を参照)。プラスチックには様々な種類がありますが、代表的なプラスチックは以下の表.1の通りで、それぞれ異なった性質を持っています。
表.1 代表的なプラスチックの性質
名称 |
密度(g/cm3) |
燃え方 |
バイルシュタイン反応 |
ポリピロピレン (PP) |
0.90〜0.91 |
よく燃える ロウソクのような臭いがする |
特に変化なし |
ポリエチレン (PE) |
0.92〜0.97 |
よく燃える 石油のような臭いがする |
特に変化なし |
ポリスチレン (PS) |
1.04〜1.06 |
よく燃える 多量のすすが出る |
特に変化なし |
ポリエチレンテレフタレート (PET) |
1.38〜1.39 |
比較的燃えやすい すすはあまり出ない |
特に変化なし |
ポリ塩化ビニル (PVC) |
1.35〜1.55 |
燃えにくい 炎から出すと、すぐに火が消える |
青緑色の炎が出る |
なお、「バイルシュタイン反応(Beilstein
reaction)」というのは、ロシアの化学者フリードリヒ・バイルシュタインが考案した、簡単なハロゲンの検出法です。銅線の端をバーナーでよく加熱し、表面に赤褐色の酸化銅(II) CuOの被膜が生じてから、微量の試料を付着させ、再び炎の中で加熱します。すると、試料に塩素Cl、臭素Br、ヨウ素Iが存在すれば、銅Cuの炎色反応(青緑色)が現れるのです。この反応は、酸化銅(II) CuOがハロゲン化合物と反応して、揮発性のハロゲン化銅を作るという性質を利用しています。ただし、この反応では、フッ化銅(II) CuF2が不揮発性なため、フッ素Fの検出はできません。
図.1 バイルシュタイン反応で塩素Clの検出ができる
(3) 結果
実験結果は、次の表.2のようになりました。
表.2 実験結果
ペットボトル |
水に浮かべる |
飽和食塩水に浮かべる |
燃やしてみる |
バイルシュタイン反応 |
本体の部分 |
沈む |
沈む |
比較的燃えた すすはあまり出ない |
陰性 |
蓋の部分 |
浮かぶ |
浮かぶ |
よく燃えた ロウソクの臭いがした |
陰性 |
飲み口の部分 |
沈む |
沈む |
比較的燃えた すすはあまり出ない |
陰性 |
これより、ペットボトルの本体の部分と飲み口の部分は「ポリエチレンテレフタラート(PET)」で、蓋の部分は「ポリプロピレン(PP)」であることが分かりました。本体の部分と飲み口の部分が同じポリエチレンテレフタラートであることは、意外のように思われますが、これは構造が違うからです。飲み口の部分は結晶構造が比較的多く、強度が高い「高密度ポリエチレンテレフタレート」でできています。それに対して、本体の部分は非結晶構造が多く、柔軟性や透明度が高い「低密度ポリエチレンテレフタレート」でできているのです。