・イオン化エネルギーと電子親和力


(1)電子配置

 物質の根源は原子ですが、この原子は、中心にある正電荷を帯びた原子核と、その周囲にある負電荷を帯びた何個かの電子から構成されています。原子核の周囲を運動する電子は、電子殻(electron shell)と呼ばれる限られた空間に存在しており、原子核に近いほうから、K殻、L殻、M殻、N殻・・・・・・、と呼ばれています。

電子殻は、最大収容電子数が決まっており、内側からn番目の電子殻に収容できる最大電子数は、2n2 と表すことができます。ここで、nは主量子数(principal quantum number)と呼ばれる値であり、電子のだいたいのエネルギー準位を決める値です。これより、n=1K殻には2個の電子、n=2L殻には8個の電子、n=3M殻には18個の電子、n=4N殻には32個の電子が収容されることになります。

さらに、電子殻は1つ以上の電子軌道(electron orbital)より構成され、電子が2個収容されるs軌道、電子が6個収容されるp軌道、電子が10個収容されるd軌道、電子が14個収容されるf軌道があります。また、p軌道はさらにm=0, ±1に対応する3つの軌道から構成され、d軌道はm=0, ±1, ±2に対応する5つの軌道から、f軌道はm=0, ±1, ±2, ±3に対応する7つの軌道から構成されます。

ここで、mは磁気量子数(magnetic quantum number)と呼ばれる値であり、軌道の広がる向きを決める値です。つまり、それぞれの軌道には電子が2個ずつ収容され、s軌道には1×2=2個、p軌道には3×2=6個、d軌道には5×2=10個、f軌道には7×2=14個の電子が、最大で収容されることになるのです。次の表.1に、主な電子殻と電子軌道の関係を示します。

 

.1  主な電子殻と電子軌道の関係

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一般的に電子は、主量子数nの小さい電子殻から収容されることになっており、最も内側にあるK殻から、順番に電子が収容されていきます。したがって、どの電子殻までどのように電子が収容されていくのかは、元素の種類によって異なり、それぞれの原子の最も外側の電子殻の電子を、最外殻電子(peripheral electron)といいます。最外殻電子は、一般的にその原子の化学結合や物性に深く関係しており、価電子(valence electron)とも呼ばれています。なお、希ガス原子に関しては、最外殻電子が不活性なので、例外的に価電子は0とされています。次の表.2に、主な元素の電子配置(electron configuration)を示します。

 

.2  HからKrまでの電子配置

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 高校化学では、「電子は内側の電子殻からK殻、L殻、M殻・・・・・・の順に配置する」と習いますが、表.2からも分かるように、厳密にはそれは少し事実と異なります。電子がK殻から順に配置されていき、M殻の3p軌道が埋められたあと、次の電子はM殻の3d軌道には入らず、N殻の4s軌道に入るのです。これは、それぞれの電子軌道のエネルギー準位を考えることで解決することができます。多電子系において、各電子軌道のエネルギー準位は、おおよそ次のような順番になります。

 

(低エネルギー)1s<2s<2p<3s<3p<4s<3d<4p<5s<4d<5p<6s<4f・・・・・・(高エネルギー)

 

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.1  各電子軌道のエネルギー準位の関係

 

一般的に、電子はエネルギー準位の低い軌道から配置されていくと思ってもらって構いません。よって、3d軌道よりも4s軌道の方のエネルギー準位が低いため、3p軌道が埋められたあとは、次の電子は3d軌道よりも優先的に4s軌道に配置されていくのです。K殻、L殻、M殻・・・・・・、と電子殻が内側から外側に位置するようになるにつれて、エネルギー準位が高くなる事実に反し、このようにある電子軌道でエネルギー準位の逆転現象が起こる理由は、電子軌道の形に答えがあります。

 

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.2  電子軌道の形

 

s軌道は、原子核を中心として球状に分布した軌道であり、1s<2s<3s・・・・・・と電子殻が大きくなるにつれて、s軌道も大きくなっていきます。また、p軌道は、x, y, z軸の三次元方向に伸びた亜鈴形の軌道であり、s軌道と同じように2p<3p<4p・・・・・・と電子殻と共に大きくなっていきます。d軌道やf軌道は、主に金属元素で重要になってくる軌道であり、非常に複雑な形をしています。

さて、このような電子軌道の形が、どのようにしてエネルギーに関わってくるのでしょうか?結論を述べる前に、電子と原子核の間に作用する力について触れておく必要があります。自由に動き回れる電子が、電子殻や電子軌道といった限られた空間に束縛されているのは、電子と原子核の間にクーロン力(coulomb force)と呼ばれる力が作用しているからです。クーロン力とは、荷電粒子間に働く静電気的な力のことです。

 

 

ここで、q1q2は荷電粒子の電荷量、rは粒子間の距離、kは比例定数です。Fq1q2>0ならば斥力であり、q1q2<0ならば引力を表します。電子は負の電荷を持ち、原子核は正の電荷を持つことから、原子核と電子の間では、引力が作用しているのです。これが、自由に運動する電子が、原子核の周りに束縛されている理由です。また、クーロン力は距離の2乗に反比例することから、原子核の近くにある電子ほど、強いクーロン力を受けていることになります。強い引力を受けている電子は、他の荷電粒子の相互作用を受けにくいので、原子核の近くにある電子ほど安定化します。よって、原子核に最も接近しているK殻の電子が最も安定であり、エネルギー準位も低くなるのです。

また、図.2の電子軌道の形を見ると、s軌道<p軌道<d軌道<f軌道と収容電子数が多くなるにつれて、軌道の大きさも大きくなり、電子は原子核から離れていくことが分かります。したがって、原子核付近の電子の存在確率は、s軌道>p軌道>d軌道>f軌道となり、エネルギー準位も、s軌道<p軌道<d軌道<f軌道となるのです。一般的にK<L<M殻・・・・・・とエネルギー準位が高くなるのは、間違いではありません。しかし、それは電子殻レベルで見た場合であり、電子軌道レベルまで見た場合は、電子殻のエネルギーの壁を超えて、4s<3dといったエネルギー準位の逆転現象が生じるのです。

また、周期表の第4周期に見られるように、電子殻のエネルギーの壁を超えて、3d軌道よりも4s軌道に優先的に電子が配置された場合、面白い現象が見られます。一般的に電子は、最外殻に配置されていくのですが、このような場合、電子は内殻に配置されていくことになるのです。表.2ScCuのように、内殻に優先的に電子が配置されていく元素を、遷移元素(transition elements)といいます。遷移元素は、d軌道やf軌道に電子が配置されていく元素で、そのすべてが金属元素です。遷移元素の最外殻電子数は、族番号によらず1または2であるため、同一周期の元素同士で、似たような性質を示します。

これに対して、s軌道やp軌道に電子が配置されていく元素を、典型元素(typical elements)といいます。典型元素は、最外殻に電子が配置されていき、族番号が1つ増えるにつれ、価電子が1つずつ増えていくため、族ごとに特有の性質を示します。

 ここで、遷移元素を見たとき、V(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p6, 3d3, 4s2)Cr(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p6, 3d5, 4s1)間、Ni(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p6, 3d8, 4s2)Cu(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p6, 3d10, 4s1)間で、原子番号が1つ増えるときに奇妙な現象が起こっていますね。内殻から電子が配置されてはいるものの、わざわざ3d軌道の電子数が、510になるように4s軌道から電子が移動しています。この理由は、d軌道の最大収容電子数が10個であり、d軌道の収容電子数が10個と5個になったとき、特別に元素の安定性が増すためです。d軌道の電子が10個で満たされたとき、その元素は、閉殻(closed shell)したといいます。3d軌道が10個の電子で満たされたとき、K殻からM殻まで、すべて電子が配置された構造になっていますね。また、d軌道の電子が5個で満たされたときの構造は、閉殻に対して、半閉殻(half closed shell)といいます。d軌道が半閉殻構造を取っているとき、5つの軌道に電子が1個ずつ収容されることになります。なぜそれぞれの軌道に電子が1個ずつ収容されるのかというと、もし1つの狭い軌道に電子が2個収容されるなら、電子同士のクーロン力による斥力が働いて反発し合い、エネルギー的に不安定になるからです。そのため、電子は軌道に収容されるとき、許される限りできるだけ多くの軌道に分布しようとします。閉殻構造と半閉殻構造は、電子間の反発が上手く避けられたバランスの良い電子配置であり、これらの電子配置を持つ原子は、特別な安定性を示すのです。

 

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.3  d軌道の半閉殻と閉殻

 

(2)イオン化エネルギー

 気体状態の原子から電子を1個取り去って、1価の陽イオンにするのに必要な最小のエネルギーを、イオン化エネルギー(ionization energy)といいます。原子核に束縛されている電子を取り去るのにエネルギーを使うので、熱化学的には、イオン化エネルギーは吸熱反応になります。

 

)Naのイオン化エネルギー

Na() = Na+() + e- - 493 kJ

 

つまり、イオン化エネルギーが小さいほど、電子を放出しやすいということになるので、イオン化エネルギーが小さいほど、陽イオンになりやすく、イオン化エネルギーが大きいほど、陽イオンになりにくいということになります。そのため、イオン化エネルギーは、最外殻電子の安定性を示す指標となります。次の図.4に、主な原子のイオン化エネルギーと原子番号の関係を示します。

 

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.4  主な原子のイオン化エネルギーと原子番号の関係(1 eV=1.602×10-19 J)

 

原子のイオン化エネルギーは、ある程度周期的な変化を見せます。周期表の同じ族では、原子番号が大きいほど、イオン化エネルギーは小さくなり、周期表の同じ周期では、18族元素でイオン化エネルギーが極大を示し、1族元素でイオン化エネルギーが極小を示すのです。このイオン化エネルギーの周期的な変化は、電子配置を考えることで理解することができます。

 

(i)同一周期では、イオン化エネルギーは、原子番号と共に大きくなり、18族で極大を示す

 原子番号3Liから原子番号10Neまで、イオン化エネルギーは、原子番号と共に大きくなる傾向があります。この理由は、原子番号の増加と共に、原子核の陽子数が増え、最外殻電子を原子核に引き付けるクーロン力が強くなるからです。このように最外殻電子が感じる原子核の陽電荷のことを、有効核電荷(effective nuclear charge)といいます。

LiからNeまで、電子はL殻に順番に配置されていき、このときL殻より内側にあるK殻の電子は、原子核の陽電荷を打ち消す役(遮蔽効果)しています。LiからNeまで、K殻にある2個の電子が、それぞれの原子核の陽電荷を2だけ打ち消していると考えると、Liの有効核電荷は+1Beの有効核電荷は+2Bの有効核電荷は+3・・・・・・、というように、同一周期では、原子番号と共に有効核電荷が増大していきます。その結果、最外殻電子が受けるクーロン力も、有効核電荷と共に増大していくことになるのです。

 同一周期において、原子番号の増大と共に、クーロン力が大きくなるのは事実です。しかし、図.4を見てみると、B(1s2, 2s2, 2p1), O(1s2, 2s2, 2p4), Al(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p1), S(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p4)などで、イオン化エネルギーが小さくなる現象が生じています。これを見て、すぐに理由が分かった人は、電子配置をよく理解できていますね。

B(1s2, 2s2, 2p1)Al(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p1)では、1個の電子がp軌道に入ることになります。p軌道はs軌道に比べて不安定で、エネルギー準位が高く、電子の束縛が弱いのです。よって、BAlでは、p軌道の電子を放出しやすいことになり、わずかにイオン化エネルギーが小さくなるのです。

また、O(1s2, 2s2, 2p4)S(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p4)では、p軌道に電子が4個収容されています。p軌道は3つの軌道を持っているので、4個の電子を規則に従って順番に収容していくと、1つの軌道にだけ、電子が2個入ることになります。この状態は、電子のクーロン力による反発が大きくなり、不安定となるので、それ故に電子を放出しやすくなるのです。

 

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(ii)同族では、イオン化エネルギーは、原子番号が大きくなるほど、小さくなる

 図.4の同族元素の関係を見たとき、イオン化エネルギーは、原子番号が大きくなるほど、小さくなることが分かります。例えば、He, Ne, Arを比べたとき、イオン化エネルギーは、He>Ne>Arと原子番号の大きいものほど、小さくなるのです。この理由は、原子番号の増加と共に電子殻が大きくなり、最外殻電子を原子核に引き付けるクーロン力が弱くなるからです。クーロン力は、距離の2乗に反比例するので、同族で電子殻を比べたとき、原子番号と共にK<L<M殻・・・・・・と電子殻が大きくなり、クーロン力は弱くなります。それ故に、原子番号が大きくなるほど、イオン化エネルギーは小さくなるのです。

 

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(3)電子親和力

 気体状態の原子が電子を1個受け取って、1価の陰イオンになるときに放出するエネルギーを、電子親和力(electron affinity)といいます。電子を受け取ったときにエネルギーを放出するので、熱化学的には、電子親和力は発熱反応になります。

 

)Clの電子親和力

Cl() + e- = Cl- () + 349 kJ

 

つまり、電子親和力が大きいほど、陰イオンになったとき安定化するので、電子親和力が大きいほど、電子を受け取って陰イオンになりやすく、電子親和力が小さいほど、陰イオンになりにくいということになります。

しかしながら、電気的に中性状態の原子に電子を与えて、果たして原子が安定になるのかという疑問も当然生じるはずです。電気的に中性である原子と電子の間には、本来何ら引力も斥力も働かないはずなのですから。ただし、電子が原子核に近づき最外殻付近まで来ると、原子は単純な球状の中性粒子とは見なせなくなります。ここまで近づくと、電子は最外殻電子から受ける斥力と、有効核電荷から受ける引力とが絡んだ合力を受けると考えられるからです。つまり、中性状態の原子でも、電子を引き付ける能力がわずかに存在するのです。

したがって、電子親和力が大きい原子とは、電子を受け取り、陰イオンになることによって、中性原子よりも安定化する原子であり、言い換えれば、電子を受け取ることによって、閉殻構造か半閉殻構造を獲得できる原子になります。次の図.5に、主な原子の電子親和力と原子番号の関係を示します。

 

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.5  主な原子の電子親和力と原子番号の関係(1 eV=1.602×10-19 J)

 

陰イオンになって安定化できるエネルギーが小さい分、電子親和力は、イオン化エネルギーに比べて小さくなります。また、電子親和力は、イオン化エネルギーとある程度似たような周期的変化を見せますが、両者の最大の違いは、電子親和力は17族元素で極大を示し、イオン化エネルギーは18族元素で極大を示すことです。この違いもまた、電子配置とクーロン力を考えることで、理解することができます。

 

(i)同一周期では、電子親和力は、原子番号と共に大きくなり、17族で極大を示す

 同一周期では、一般的に原子番号と共に原子核の有効核電荷が増大するので、18族元素では、最も強く最外殻電子を束縛することになります。しかし、電子親和力とは、電子を受け取って放出するエネルギーのことなので、18族元素が電子を受け取るには、電子殻を変える必要があります。例えば、Heが電子を受け取るとするなら、K殻はすでに一杯なので、次は外側のL殻に電子が収容されます。しかし、内側のK殻が原子核の陽電荷を打ち消しているとすると、この状態ではHeの有効核電荷は0で、HeL殻の電子を束縛するのには、不十分であるということになります。つまり、18族元素では、受け取る電子に引力が働かず、電子親和力は、電子を受け取ることによって、閉殻構造を獲得できる17族元素が極大になるのです。

また、同一周期で、原子番号の増大と共に、電子親和力が大きくなるのは事実です。しかし、図.5を見てみると、18族元素を除いたBe(1s2, 2s2), N(1s2, 2s2, 2p3), Mg(1s2, 2s2, 2p6, 3s2), P(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p3)などで、電子親和力が小さくなる現象が生じています。この理由もまた、電子配置を考慮することで理解することができます。

Be(1s2, 2s2)Mg(1s2, 2s2, 2p6, 3s2)では、それぞれ2s3s軌道が電子で満たされており、この状態で電子を受け取ると、受け取った電子はp軌道に入ることになります。p軌道はs軌道に比べてエネルギー準位が高く不安定なので、BeMgでは、電子親和力が小さくなるのです。

また、N(1s2, 2s2, 2p3)P(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p3)では、電子配置が半閉殻構造で安定しており、電子を受け取ると、安定な半閉殻構造を壊すことになります。したがって、NPでは、電子を受け取ることが不利に働くので、電子親和力は小さくなります。

 

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(ii)同族では、電子親和力は、原子番号が大きくなるほど、小さくなる(ただし例外がある)

 同族では、一般的に原子番号が大きくなるほど、電子殻が大きくなり、電子を束縛するクーロン力が弱くなるので、電子親和力は小さくなる傾向にあります。しかし、これは周期表全体を見たときの傾向であり、第2周期と第3周期を比べたとき、電子親和力は第2周期<3周期となって、電子親和力の大きさが逆転することになります。この理由は、イオンの大きさを考えることで理解することができます。

一般的に原子の大きさは、同族元素では、原子番号が大きくなるほど大きくなりますね。例えば、第2周期と第3周期の17族元素の陰イオンの大きさを比べたとき、F- (0.12 nm)<Cl- (0.17 nm)ということになります。したがって、フッ化物イオンF- の場合、塩化物イオンCl- よりも、かなり小さな領域に電子が集中することになるので、クーロン力による電子の反発が生じて、不安定になるのです。この傾向は、他の元素にも見られ、第2周期と第3周期では、第3周期の元素の方の電子親和力が大きいです。

 

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(4)電気陰性度

 電気陰性度(electronegativity)とは、原子が結合状態で結合に関与している共有電子対を、自身の方向へどのくらいの強さで引き付けているのかを数値化したものです。電気陰性度の小さな原子ほど、電気的に陽性で、また電気陰性度の大きな原子ほど、電気的に陰性です。

これは、電子親和力と名前も定義も似ていますが、全くの別物です。電気陰性度は、自身の方向へ共有電子対を引き付ける強さを相対的に数値化したものであり、何の単位も存在しないのに対して、電子親和力は、電子を受け取ったときに放出するエネルギーのことで、「kJ/mol」というエネルギーの単位が存在するのです。一般的に電気陰性度は、アメリカの化学者であるポーリングが、原子間の結合エネルギーの大きさに基づいて算出した次のような値を用います。

 

.6  ポーリングの電気陰性度

 

電気陰性度はFが最大で、周期表の右上に行くほど、大きくなる傾向にあります。しかし、18族元素のHe, Ne, Arなどは、化学結合を作りにくいので、定義されていません。この中で、例外といえばHぐらいで、2.201族元素の割に比較的大きな電気陰性度を持ちます。高校レベルの化学では、水素のイオンは水素イオンH+ の陽イオンしかでてきませんが、大学レベルの化学では、水素化物イオンH- のように水素の陰イオンがでてきます。水素は、このように中間的な電気陰性度を持つために、陽イオンにも陰イオンにもなることができるのです。このように、電気陰性度とは全くの別物である電子親和力ですが、アメリカの化学者であるマリケンは、電気陰性度と電子親和力を以下のように定義しました。

 

マリケンの電気陰性度 = (イオン化エネルギー + 電子親和力) × 1/2

 

マリケンは、着目した原子のイオン化エネルギーが大きいほど、自分の電子を引き付ける力が強く、また電子親和力が大きいほど、相手の電子を引き付ける力が強いと考えたのです。この式によって導かれたマリケンの電気陰性度は、ポーリングの求めた値と強い相関関係にあります。しかし、このマリケンの方法では、すべての原子の電気陰性度を正確に求められないという欠点があり、一般的にマリケンの電気陰性度は用いられません。けれどもこの式は、電気陰性度がイオン化エネルギーや電子親和力と、強い関係にあることを示しました。

 

(5)核力

 自由に動き回れる電子が、電子殻や電子軌道といった限られた空間に存在できるのは、クーロン力のおかげでした。原子は荷電粒子の集まりなので、原子はクーロン力がなければ、安定して存在できません。しかし、ここで1つの疑問が生じます。クーロン力が原子を作っている力なのだとしたら、どうして原子核といった非常に狭い領域に、陽子のような陽電荷を持った粒子同士が集合し、安定して存在できるのでしょうか?普通に考えれば、陽子同士のクーロン力による斥力で、原子核はバラバラになって崩壊してしまうはずです。現実に原子核が安定して存在する理由は、原子核の中で、「核力」(nuclear force)という非常に強い引力が作用しているからです。

核力に触れる前に、そもそもクーロン力や重力のように、距離の離れた粒子間で働く力の原理が、何なのかを整理しておきましょう。粒子間に働く力は、2個の粒子が「別の粒子」をキャッチボールすることにより発生します。例えば、クーロン力の場合は、電荷を持つ2個の粒子が、光子をキャッチボールすることにより発生します。重力の場合は、2個の粒子が、重力子をキャッチボールすることにより発生するのです。このように粒子間で力を媒介する粒子を、「ゲージ粒子」といいます。なお、重力子は理論だけで、まだ発見はされていません。原子核を強い引力により安定化させている核力も、ゲージ粒子を交換することによって働いていると考えられます。核力を媒介するゲージ粒子を「パイ中間子」といい、この理論は「中間子理論」と呼ばれています。

核力は、陽子と中性子が子核内で「パイ中間子」を光速に近い速さでキャッチボールすることで働いているのです。この説は、陽子が「パイ中間子」を放出し、中性子がこれを受け取ると、陽子は中性子に、中性子は陽子へと変化します。このように、「パイ中間子」によって陽子の正電荷が絶えず運び続けられ、その結果として、陽子と中性子の間には強い核力が働くことになるのです。「パイ中間子」の存在を予言したのは、日本の物理学者である湯川秀樹であり、1935年のことでした。当時は日中戦争の最中であり、日本人の科学者は、海外からは中々評価さにくい状況にありました。しかし、12年後の1947年、イギリスの物理学者であるセシル・パウエルが、宇宙線の中から「パイ中間子」を発見し、これによって湯川の「中間子理論」の正しさが証明されました。これにより、湯川は日本人として初めて、1949年にノーベル章を受賞しました。

ちなみに、この発見には、面白いエピソードがあります。実は、湯川は当時不眠症に悩まされていました。眠れない夜、天井の木の板の年輪模様を眺めていて、この中間子理論がひらめいたそうです。年輪の真ん中にグリグリとした模様が2つあって、それをひょうたん型の年輪が取り囲んでいるのが原子核に見えたのだと、後に湯川は語っています。中間子理論自体は、数式で表されるものですが、年輪の模様というイメージから生まれたというのは、実に興味深いことです。

 

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.7  パイ中間子」を予言した湯川秀樹(画像はこちらからお借りしました)

 

クーロン力をも凌駕する核力とは、いったいどのくらいの強さなのでしょうか?クーロン力の強さを1とすると、核力の強さは、なんと106 にもなります。ちなみに、クーロン力の強さを1とすると、重力の強さは10-36 程度です。これほどの強い力が、原子核を安定に存在させているのです。


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・参考文献

1) 卜部吉庸「化学の新研究」三省堂(2013年発行)

2) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)

3) H.ハート/L.E.クレーン/D.J.ハート 共著「ハート基礎有機化学」培風館(1986年発行)

4) 平尾一之/田中勝久/中平敦「無機化学」東京化学同人(2013年発行)