・ホメオパシーの科学


(1)山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故

「ホメオパシー」という聞き慣れない治療法の名がマスコミを賑わせたのは、20105月のことでした。きっかけとなったのは、200910月に山口県山口市で起きた、ビタミンK不投与による乳児死亡事件です。

20098月、山口市在住の女性が、助産師の指導の下、長女を自宅出産しました。しかし、同年10月、長女は生後2カ月で、硬膜下血腫が原因で死亡してしまったのです。硬膜下血腫が発生した原因は、ビタミンK欠乏症による脳内出血であると考えられています。ビタミンKは、血液が凝固する際に働く因子ですが、新生児ではまれに欠乏状態に陥ることがあり、硬膜下血腫などによって、約2,000人に1人の割合で死に至ることが知られています。このため現在では、すべての新生児にビタミンKを含んだシロップを与える予防法が確立しており、これによって、硬膜下血腫などによる新生児の死亡は、ほとんど未然に防げるようになりました。

 ところが、この一件では、「ホメオパシー医学協会」に所属する助産師が、ビタミンKの「オーラ」や「波動」を持ち、「ビタミンKと同じ効果がある」と称する「レメディ」(ホメオパシーにおける治療薬)を、ビタミンKの代わりに新生児に投与していました。しかも、本物のビタミンKを投与していないことを担当医師に気付かれないよう、母子手帳には「ビタミンK投与」と虚偽の記載をしていたのです。

 

.1  ホメオパシー療法は、一般的に「レメディ」という球形の錠剤を飲むことによって行われる

 

 しかし、実際には、レメディにビタミンKのような効果はなく、投与された新生児は、脳内出血を起こして死亡に至りました。脳内出血の標準的な予防法であるビタミンKのシロップを普通に投与していれば、確実に防げたに違いない事故であり、20105月、母親はこの助産師を相手取って、約5,600万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を起こしました。

 亡くなった新生児の母親が訴訟を起こしたことで、大手マスコミはこの事件を大きく取り上げました。この他にも、末期ガンの苦痛に苦しんでいるのに、ホメオパシーに頼ったために通常医療を拒否し、病院に担ぎ込まれたときには、すでに手遅れになっていたという事件もいくつか発生しています。現代医学や科学的な思考の否定を根底に持つホメオパシーの危険性を指摘する声は徐々に高まり、遂には日本学術会議の当時の会長である金澤一郎が、「効果があるとする過去の論文はすべて誤り」「治療としての有効性がないことは科学的に証明されている」などと、ホメオパシーの効果を全面否定する談話を発表。これが新聞の一面トップで扱われるほどの事態になりました。

 

(2)ホメオパシーの歴史

ホメオパシーは、18世紀頃にドイツの医師であるサミュエル・ハーネマンが創始した治療法の体系です。ハーネマンは、ドイツのライプチヒやオーストリアのウィーンで医学を学び、最終的にドイツのフリードリッヒ・アレクサンダー大学で優秀な成績を修め、1779年に医師としての資格を得てから、ドイツのマンスフェルトにあった鉱山地域の村で開業しました。

 ハーネマンは、夢を叶えて医者になったのですが、すぐに自分が学んできた医療に幻滅を感じ始めました。瀉血、嘔吐剤、発汗剤、下剤、ヒルに血液を吸わせる治療法、水銀やヒ素粉末薬の投与などは、どれも役立つというよりは、むしろ患者に害を与えるだけのように思えたのです。

17801850年頃の主流の医学では、「英雄的医療」と呼ばれる患者の身体を傷付けるタイプの医療が実施されていました。患者はそういった治療に耐えなければならず、すでに弱っている身体をさらに痛み付けられました。「英雄的医療」の呼称は、英雄的であるとされた医師たちの役割を表していますが、その治療を受けてなお生き延びた患者こそが、真の英雄だったと思います。この時代の医療水準は非常に低いもので、18世紀のある皮肉屋が、「人が死ぬと、どんな病気が原因で死んだのかと聞くことが多いが、正確にいえば、どんな医者が原因でその人は死んだのかと聞くべきだろう」といったのも無理もありませんでした。

ハーネマンは、それまで受けてきた医学教育を無視し、当時は大変革命的であった養生法の指導を始めました。すなわち、新鮮な空気、個人衛生、運動、滋養食を勧めたのです。しかし、この養生法を勧めるだけでは暮らしていけず、ハーネマンは9カ国語に堪能な持ち前の語学能力を駆使して、主に作家および翻訳家として生計を立てていました。そしてあるとき、医学文献の翻訳をしていたハーネマンは、アンデスの高地に生えるキナの樹皮に含まれる苦味物質「キニーネ」が、マラリアの治療薬になるという論文に目を奪われました。

 

.2  キニーネは、キナの樹皮に含まれるアルカロイドである

 

 その文献には、「キニーネの苦味がマラリアに効くのだろう」と記されていましたが、ハーネマンは釈然としませんでした。苦味を持つ物質は、キニーネ以外にもたくさんあるからです。興味をそそられたハーネマンは、健康なときに自分で少量のキニーネを服用し、どのような効果があるか実験することにしました。すると、意外にも強い発熱が起こりました。キニーネの副作用により、脈拍が上昇し、手足の先が冷たくなり、動悸が始まったのです。これらの症状が、マラリアの症状とそっくりだったので、ハーネマンは、劇的な治療法を考案するに至りました。

すなわち、キニーネがマラリアを治癒した理由は、熱が熱を治療したからです。「毒を以て毒を制する」――つまり、「類は類を治す」という訳です。ハーネマンは、「ある病気と同じような症状を引き起こす成分を少量摂取すると、それによって身体の抵抗力が引き出され、病気が治癒する」と考えたのです。ハーネマンは、これを「類似の法則」と呼びました。

「ホメオパシー」(homeopathy)という言葉は、ギリシア語で「類似の」という意味の「homoios」と「苦痛」という意味の「pathos」に由来しています。現代でも、この考え方は「アルント・シュルツの法則」――大量の毒や大きな刺激は生命力を阻害するが、微量ならば生命力に刺激を与え、生命力を促進する――として受け継がれています。

 ハーネマンは、さらに研究を進め、様々な天然物質を健康な人々に投与し、その効果を系統立てて調べ始めました。こうして、数々の実験を行った結果、例えば、ナス科の植物ベラドンナ(オオハシリドコロ)は、健康な人の喉を収縮させるから、咽喉炎の治療に利用できるという結論を出しました。しかし、ベラドンナは猛毒成分を含む植物です。このままベラドンナを投与すると、患者に重篤な危険が及んでしまいます。

 

.3  ベラドンナの実は甘いといわれるが、猛毒を含んでいるため、絶対に食してはいけない

 

ところが、ハーネマンには、ある考えがありました。ハーネマンは、ホメオパシーの水薬は「超微量の法則」により作用するという理論を打ち立てました。すなわち、有効成分の量が少なくなればなる(ハーネマンの表現を借りれば「物質的でなくなる」)ほど、その物質が身体の「生命力」を刺激し、疾患を撃退するというのです。

物質を薄める希釈度は極限でした。ホメオパシーの水薬は、有効成分となる物質の抽出物を数十倍に希釈する作業を、何度も繰り返すことで作られます。すると、水溶液はどんどん薄くなり、最後には元の物質が全く残っていない状態になるのですが、ハーネマンは全く気にかけませんでした。ホメオパシーの水薬は、有効成分が含まれているから効果があるのではなく、元の物質がどれほど薄められても、水薬に元の物質の「オーラ」や「波動」が残っているから効果があるといいます。つまり、水は何度も繰り返し行われる希釈により、溶けていた物質を「記憶」しているのだそうです。

「記憶」させる手順は、慎重を期して行います。ただ水薬を薄めるだけではいけません。水薬を「活性化する」ためには、定められた回数だけ希釈し、革袋に入れて何度も叩き付けなければならないといいます。これは、水薬を馬車で運んだ際に、治療効果が高まったように見えたからです。こうして活性化した水薬を、砂糖玉に染み込ませてできたものが、「レメディ」です。通常のレメディは、質量で逆算すると、砂糖1 kg40万円ほどで売られていることになります。これほど高級なキャンディーは、他にはないでしょう。

 ハーネマンの教えは、瞬く間にヨーロッパ中に伝播し、アーユルヴェーダの伝統があるインドなどでも、広く受け入れられて行きます。当時の医療水準を考えると、安全なホメオパシーの登場は、患者にとって福音であったに違いありません。「英雄的治療」を受けることによって、かえって死期が早まってしまうことは、珍しくなかったでしょうから。現在でも、発祥の地であるドイツ、王室の支持があるイギリスなどでは、保険も適用されることになるなど、非常にポピュラーな代替医療としての地位を確立しています。

 日本では、あまり知られてはいませんでしたが、2000年ぐらいから日本ホメオパシー医学協会(JPHMA)などのいくつか団体が設立され、ホメオパシーの療法者(ホメオパス)になるためのスクールも開設されています。ホメオパシーは「副作用のない自然な療法」として、現代医学に対して懐疑的で、自然派志向の女性の間で人気が高く、助産師などを介して、母親の間に伝播しています。助産師は、どういう訳かホメオパシーとの親和性が高いようで、2010年に日本助産師会が調査を行ったところ、約1割の助産所で、ビタミンKのレメディが投与されていたといいます。

 

(3)ホメオパシーの幻想

 ホメオパシーを医療現場で用いるということは、正統な医療を受ける機会が失われるということにもつながります。そのため、医学界はホメオパシーを快く受け入れることはできませんでした。それどころか、1846年に米国医師会(AMA)が結成されたのは、ホメオパシーに対する反発が主な理由でした。設立目的の1つは、ホメオパシーを排除することにありました。それほどまでに、アメリカではホメオパシーがはこびっていたのです。ときには、ホメオパシーに対する医師会の非難が過激な場合もありました。例えば、コネティカット州のある医師などは、たまたま妻がホメオパスであったがために、医師会の会員資格を失いました。

 それにも関わらず、ホメオパシーは消滅せず、今では再生を謳歌しています。科学的な現代医療に幻滅した人々が、ホメオパシーに助けを求めるからです。ホメオパスは、最低でも1時間は患者と面談を行い、丁寧に身体状況や家庭環境、過去の病歴などを聞き出した上で、患者に最適なレメディを処方します。「自分が大切に扱われている」と感じ、「自分のために選ばれた治療薬」がもらえるというだけで、ホメオパシーに依存してしまう人が出てくるはずです。「ホメオパスは病気ではなく患者を診る」というのは、言い得て妙です。特に欧米では、非科学的であることを知りつつも信じる人が多いため、排除することが困難な状況にあるといいます。

ホメオパシー支持者は、「ホメオパシーには効果が少しあるようだ」という科学誌に掲載された論文を、これが証拠だといわんばかりに嬉々として振りかざします。しかし、最もよく用いられるレメディでは、100倍希釈を30回、すなわち1060倍にも希釈していますから、現代科学の知識体系では、元の成分は事実上1分子たりとも残っていません。ホメオパシーのレメディは、ただの砂糖玉でしかないのです。有効成分が全く含まれていない薬に、一体どんな薬理作用があるというのでしょうか。当然ながら、存在しないものが人体に作用を及ぼすということはありえません。また、通常の科学的常識に反し、ホメオパシーの理論では、レメディは薄めれば薄めるほど効果が高まるとされており、100倍希釈を20万回繰り返したというレメディが、大変な高額で売られているという話も聞きます。ここまでくると、もはや水を水で薄めているに過ぎず、いくら振ろうが叩こうが、水はただの水以外のものにはなりえません。サイエンスライターのマーティン・ガードナーは、ホメオパシーのレメディを、「一滴の薬を太平洋に落とし、よくかき混ぜてから、海水をさじ一杯すくい取るようなものである」と例えています。

 レメディの原料も、驚くほど多種多様です。マリーゴールドやトリカブトなどの植物、石英や花崗岩などの鉱物、スズメバチやイカ墨など動物起源のもの、水銀や鉛などの重金属、さらにはガン細胞、結核菌、X線、月光、電磁波、コンピュータ、そしてなんと般若心経やベルリンの壁の破片から作られたレメディさえあるといいます。植物・鉱物・動物を原料にしているのはまだ理解できますが、病変組織や月光からもレメディが作られるというのは、驚きかもしれません。さらに、般若心経やベルリンの壁といったレメディになると、もはや眉唾物です。般若心経を一体どうやって水で薄めるのか知りませんが、ここまでくると、医学というより呪術に近いです。

 

.4  般若心経のレメディは、成仏していない霊の憑依や生霊から身を守ってくれるという

 

ホメオパシーを擁護するような論文を掲載した出版社には、何か偏見があるとしか思えません。「ホメオパシーには少し効果があった」という論文だけでは、ホメオパシーの有効性が証明されたことにはならないのです。ホメオパシーのレメディは、ただの砂糖玉に過ぎず、何回も実験を繰り返せば、遅かれ早かれ、平均化の法則により、いつかは肯定的な結果が出る場合があるのは当然だからです。そして、そこで実験を終了し、肯定的な結果だけを発表すれば、「この薬には効果がある」という幻想を作り出すことができます。統計的に明らかに優位な有効性が見られない以上、ホメオパシーの有効性は幻想に過ぎないのです。

 20058月、史上最大規模のホメオパシー調査が、イギリスの権威ある医学雑誌「ランセット」に掲載されました。あらゆるホメオパシーの臨床試験を総合的に再評価し、分析し直した結果、ホメオパシーは統計的に「わずかに」有効であるということが示されました。ホメオパシーの支持者は、この調査を喜ばしく思っているかもしれません。しかし、この調査は、必ずしもホメオパシーの科学的な有効性を示すものではありません。そもそも、この調査そのものが、ホメオパスによって行われていたからです。「実験者効果」――実験者が意図せずに、被験者の行動に及ぼす実験統制外の影響のこと――というものがあるように、一般的に実験者は、確証バイアスにより、実験結果が有利になるように解釈する傾向があります。

 ホメオパスは、様々な病気の症状に対して、「これにはあれが効く」というような逸話だけを裏付けに、独自のレメディの購買を続けています。ネットを少し検索すれば、「レメディで病気が治った」という体験談には、いくつも行き当たります。それでも残念ながら、「レメディを飲んだら魔法のように頭痛が治った」というような話は、ホメオパシーの有効性を示すものにはなりえません。身体の不調というものは、決まった期間に決まった経過を取り、薬を使わなくともだいたいが自然に治癒するという事実を、彼らはまるで理解していないのです。つまり、レメディを飲もうが飲むまいが、私たちの身体は、たいていの不調を自然治癒させてしまう機能を持っています。そこで、レメディを飲んだ後にたまたま不調が治ると、まるで「ホメオパシーのおかげで不調が治った」と錯覚してしまうのです。

 このように「Aという行為をしたらBという現象が起きた」という事実を捉えて、「Aという行為が原因でBという現象が起きた」と考えるのは、必ずしも正しいとは限りません。「先後関係」を「因果関係」と取り違えているのです。先後関係とは、「Aという行為をしたらBという現象が起きた」という関係のことです。一方で、因果関係とは、「Aという行為が原因でBという現象が起きた」という関係のことです。このような因果関係のミスリーディングを「前後即因果の誤謬」といいます。例えば、ほぼすべての暴力的犯罪は、犯人が食事をしてから1日以内に起きているでしょう。しかし、だからといって、「食事が暴力的犯罪の原因である」という人はいません。よく考えてみればすぐに分かることなのですが、「レメディで病気が治った」という驚きの前には、そうした冷静な判断は吹き飛んでしまうようです。

 ホメオパシーは、「風邪薬」のレメディさえ売り出しています。さすがにこのレメディには、私も呆れ果てています。風邪の原因の90%近くはウイルスの感染だといわれており、ライノウイルスやアデノウイルスなど、細かく分類していくと、その数は800種類以上に達することが分かっています。となると、「抗ウイルス剤」が風邪の特効薬になりますが、風邪の原因となるありとあらゆるウイルスに効果がある薬など、この世に存在しません。市販されている風邪薬も、原因となるウイルスを退治するようなものではなく、病気の症状を緩和する対症薬なのです。風邪を治すというレメディは、カモの肝臓を凍結乾燥したものを基本にしているようですが、たった1羽のカモで丸1年間、世界中の人間の需要に応じることのできる濃度まで希釈されているのです。イソップ寓話「ガチョウと黄金の卵」に出てくるような金の卵を産むガチョウなどいるはずもありませんが、どうやら2,000万ドルの肝臓を持つカモは現実に存在するらしいです。

 

.5  カモの肝臓から風邪に効くレメディが作られている

 

(4)ホメオパシーはなぜ効くのか?

 ホメオパシーが効いたように見える原因として、「プラセボ効果」というものがあります。人間とは不思議なもので、「これはよく効く薬だ」と信じて飲むと、たとえそれが偽物の薬(プラセボ)でも、実際に病気に効いてしまうことがあるのです。偽薬でなく、医者の「必ず治る」という言葉や、偽の手術、儀式などによる治療効果も、「プラセボ効果」と呼ぶことがあります。「痛いの痛いの飛んで行け」といったおまじないも、広義に「プラセボ効果」に含めることができるでしょう。

詳細なメカニズムは不明ですが、プラセボは多くの疾患に効果を示します。「体中に悪性腫瘍のできた患者に新薬を投与してみたところ、10日ほどでガンが溶けるように消えてしまったが、新薬に効果がないという報道を患者が効いた途端、ガンがぶり返して2日後に亡くなった」という話さえ伝わっています。さすがにこの話は少々眉唾ですが、プラセボ効果は単なる思い込みといったことではなく、例えば、鎮痛薬や抗精神病薬などで顕著に表れるようです。経験的にも、気の持ちようや状況によって、痛みを軽く感じることはありますから、これは納得できる気がします。

ホメオパシーは、200年の歴史と有名人の信奉者を抱え、自然への回帰と薬漬けの現代医療に対する批判という、実に精緻で壮大な体系を組み上げており、プラセボ効果を発揮させるための、非常によくできた土台があるといえるでしょう。ホメオパシーの理論も、信奉者を獲得するためには、なかなかよくできているといえます。例えば、レメディを与えると、一時的に症状が悪化することがあります。しかし、これは毒素が体内から出ていく際に起こる「好転反応」と呼ばれるものであり、ホメオパシーでは、むしろ好まれる現象です。また、ホメオパスは、患者の病状を詳しく観察し、状態を見ながらレメディの種類を変えていきます。結局、レメディを与えて、病状がたまたま治れば「ホメオパシーが効いた」ということになるし、もし効かなければレメディを変え、病状が悪化すれば「好転反応だ」と説明します。そうこうしている内に、たいていの病気は自然に治ってしまいますから、最悪の事態にならない限り、どう転んでもホメオパシーの手柄になってしまうという訳です。

 ホメオパシーのレメディは、成分的にはただの砂糖玉に過ぎません。ホメオパシーを対象にした最近の研究結果では、「ホメオパシーにはプラセボを超える効果がない」ということがはっきりと示されています。医師がホメオパシーを医療現場で使わないのは、それが科学的でないからではなく、全く効かないから使わないのです。しかし、レメディがただの砂糖玉である以上、副作用のリスクが全くない訳ですから、上手く使えば、通常医療の役に立つのではないかという意見もあります。ただ、副作用がないということは、薬としての主作用もないということです。薬としての効き目がほとんどないとはっきり分かっているものを高額な値段で売りつけるのは、患者に対する欺瞞ではないかと私は思います。日本ホメオパシー医学協会は、レメディを医薬品ではなく食品であると主張していますが、レメディをあたかも医薬品であるかのような表現で販売した場合は、法的な面からも、医薬品医療機器等法 (旧薬事法)に抵触する可能性があります。

ここ数十年ほどの間に、医師と患者が情報を共有し、十分なインフォームド・コンセントに基づいて、医療サービスをするようになっています。それに伴い、医師たちは、成功する可能性が最も高い治療法を用いるために、科学的根拠に基づく医療(evidence-based medicineEBM)の立場を取ることになりました。プラセボ効果だけしかないホメオパシーに多少なりとも頼ることは、患者からより適切な医療を遠ざけることにもつながり、現代の医療の流れに反するものです。医者を始めとして、医療従事者が、科学的に全否定されているホメオパシーのレメディを医療現場で用いることは、大きな間違いだと思います。

 

.6  ホメオパシーのレメディは実質ただの砂糖玉である


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・参考文献

1) トレヴァー・ノートン「世にも奇妙な人体実験の歴史」文藝春秋(2012年発行)

2) 左巻健男「エセ科学を見抜くセンス」新日本出版社(2015年発行)

3) ジョーシュワルツ「シュワルツ博士の化学はこんなに面白い」主婦の友社(2002年発行)

4) 枝川義邦「身近なクスリの効くしくみ」技術評論社(2010年発行)

5) 佐藤健太郎『「ゼロリスク社会」の罠』光文社(2012年発行)