・第16族元素(酸素族元素)


(1)16族元素

 周期表において、第16族に属する酸素O, 硫黄S, セレンSe, テルルTe, ポロニウムPoなどの元素を、総称して酸素族元素といいます。酸素族元素の原子は、最外殻電子配置がns2np4である元素(n=2,3,4・・・)で、外部から電子を2個受け取って、希ガスと同じ電子配置を作って安定化するため、-2のイオン価を持つ陰イオンが広く知られています。

酸素族元素の単体のうち、酸素O2のみが常温で気体であり、他はすべて固体です。これらの単体は、いずれもハロゲンに次いで電気陰性度が高く、反応性の高い元素群であり、周期が増大するにつれて、金属性が増していきます。酸素OからセレンSeは、共有結合性の物質であり、テルルTeとポロニウムPoは半金属です。さらに、硫黄SやセレンSeでは、同じ元素の原子間で結合を作り、鎖状に長く連なって結合する性質が見られます。これをカテネーション(catenation)といいます。カテネーションは、炭素原子において最も顕著に見られる現象で、有機化合物の多様性の起源です。

 

(2)酸素

単体の酸素(oxygen)は、常温常圧では、無色無臭で助燃性を持つ気体として存在します。「酸の素」と書くのは、酸素を発見したラボアジエが、硫酸H2SO4や硝酸HNO3などの酸の多くに、酸素が含まれていることから、着想を得て命名したものです。単体は二原子分子O2からなり、水に溶けにくく、空気中に体積比で20.8%を占めます。酸素は、空気や海水、地殻中の岩石、有機化合物などの構成元素であり、地殻中では、最も質量の多い元素です。地球上の酸素O2の大部分は、藍藻類(シアノバクテリア)が最初に発生したときに誕生したものです。

液体及び固体の酸素O2は、淡い青色を呈します。この色の変化は、光を吸収するときに、分子2個ずつが協力すると現れるもので、液体や固体の中で、分子が互いに接近しているときにのみ見られる現象です。酸素O2はまた、常磁性を持つ珍しい例です。磁石を使えば、液体酸素を引き上げられることから、この性質ははっきり分かりますが、気体も磁性を持っています。この性質を応用すると、人工的な空気、例えば未熟児用の保育器内の酸素濃度を測ることもできます。つまり、気体の磁性を観測していれば、それが酸素分子O2の濃度を表していると考えられるからです。

酸素O2は、電気陰性度が大きいために反応性に富み、他のほとんどの元素と化合して、酸化物を生成します。工業的には、空気の分留で得られ、実験室では、塩素酸カリウムKClO3の熱分解や、触媒を用いた過酸化水素H2O2の分解、水H2Oの電気分解などで発生させ、水に溶けにくいので、水上置換法で捕集します。

 

2KClO3 (二酸化マンガン+加熱) 2KCl + 3O2

2H2O2 (二酸化マンガン) O2 + 2H2O

2H2O (電気分解) 2H2 + O2

 

酸素Oの同素体としては、オゾンO3が知られています。これは、酸素O2に紫外線を照射するか、乾燥させた酸素O2を無声放電することで得られます。オゾンO3は、淡青色を呈する気体であり、高濃度では猛毒です。オゾンO3は、生臭く独特の臭気を持ち、英語の「ozoneは、ギリシャ語の「におう」という意味の「ozeinに由来しています。地上から2030 km程度の成層圏には、オゾン濃度の高い層があり、この層は、宇宙からの紫外線を吸収して、生物への紫外線による悪影響を防ぐ役割を担っています。このような層を、オゾン層といいます。もしオゾン層を、地球表面の圧力である1気圧まで圧縮したとすると、約3 mmの厚さになるといいます。

オゾンO3は容易に分解してO2Oに変わり、分解した原子状のOは極めて反応性が高いので、オゾンO3は酸素O2に比べて、強い酸化力があります。例えば、オゾンO3をヨウ化カリウムKI水溶液に通じると、ヨウ素I2が遊離します。そのため、オゾンO3は、ヨウ化カリウムデンプン紙で検出することができます。

 

3O2 (放電) 2O3

O3 + 2KI + H2O → I2 + 2KOH + O2

 

酸素分子が励起状態にある場合、あるいは酸素原子が生成する場合には、酸素の反応性は極めて高くなります。このような状態の酸素を、活性酸素(active oxygen)といいます。例えば、金属亜鉛の存在下で、酸素分子が活性化される過程は、次のような酸素原子の生成に基づきます。

 

Zn + O2 → ZnO + O

 

このように発生した活性酸素は、様々な物質に対して、非特異的な化学反応をもたらすことが知られています。特に細胞内の抵酸化酵素で分解しきれなかった過剰な活性酸素は、細胞膜の脂質と反応し、それを変質させ、老化現象を引き起こすといわれています。活性酸素は、老化現象の重大な原因の1つなのです。さらに、活性酸素は細胞内のDNAと反応して、遺伝子発現機能を攪乱させ、発ガンを引き起こすともいわれています。活性酸素は、体内に取り込まれた酸素O2から発生する他、外的な要因で発生するものもあります。例えば、紫外線や放射線などの高エネルギーの電磁波が細胞に照射されると、細胞内に活性酸素が発生することが知られています。

一方で、活性酸素にはプラス面もあります。体内に病原菌やウイルス、カビなどが侵入したとき、活性酸素は免疫細胞などで積極的に作られ、病原菌などを殺す有用な役目を持っているのです。ガン治療としての放射線治療も、この働きを利用したものです。つまり、活性酸素は全くなくても良いというものではなく、マイナスとプラスの両面があるのです。

 

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.1  様々な活性酸素

 

酸化物は、ブレンステッド酸ないしブレンステッド塩基としての性質を示します。水H2Oと反応してオキソ酸となる酸化物や、塩基と反応して塩を生じる酸化物を、酸性酸化物といいます。二酸化炭素CO2や二酸化硫黄SO2など、非金属元素の多くの酸化物がこれに属します。それに対して、水H2Oと反応して塩基になる酸化物や、酸と反応して塩を生じる酸化物を、塩基性酸化物といいます。酸化カルシウムCaOや酸化銅(II) CuOなど、金属元素の多くの酸化物がこれに属します。また、酸とも塩基とも反応して塩を生じる酸化物を、両性酸化物といいます。酸化アルミニウムAl2O3や酸化亜鉛ZnOなどが、これに属します。

 

.1  酸化物の分類 (  は水に溶けにくい酸化物)

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自然界に多く存在している水H2Oは、常温常圧でわずかに青色を呈す透明な液体で、すべての生命に欠かすことのできない物質です。その大部分は、地球表面の71%を占める大洋にあって、平均深さ6 kmもあります。原始時代の若い地球の内部にあった熱で、雲母のような化合物でできた岩石が分解して、この水ができたと考えられています。つまり、地中で新しくできた水分子H2Oは、溶岩流とともに地表に出て水蒸気となり、それが雲を作って、地球が冷えたときに雨になりました。ですから、今の大洋は、かつては岩石だったと考えられます。

H2Oの最も奇妙な性質は、それが室温で液体であるということです。これは、驚くべきことです。というのは、アンモニアNH3やメタンCH4、水の一番近い親類である硫化水素H2Sのように、こんな小さな分子は、普通は気体であって当然と思われるからです。水H2Oが液体になっていられる理由は、水分子H2Oが、水素結合のネットワークによって、互いにつながっているからです。その連結の結果、水分子H2Oは気体として、自由気ままに運動するのではなく、液体として、ある程度まとまった集団を作ります。

H2Oの奇妙さは、それが液体であることにとどまりません。大抵の物質は、固体の方が液体よりも密なものですが、0℃の氷は、0℃の水よりも密でないのです。そのため、氷は水に浮かんで氷山になったり、池の表面で氷になったりします。この表面の氷が、その下の水を熱的に遮断して、上を吹く冷たい風から守り、冬でも凍らないようにしています。水中生物はそのおかげで、屋根は凍っているのに、液体の中で生き延びることができます。この密度の気まぐれさも、水分子H2Oが、分子間で水素結合を形成して、固体状態では、正四面体状に連続する隙間の多い結晶構造を作るためです。海に浮かぶ氷山は、水素結合の強さの象徴です。実際にあのタイタニック号を破滅させたのは、水素結合でした。

H2Oはまた、優れた溶剤になります。水H2Oは、水素Hと酸素Oの電気陰性度の違いから、水素-酸素結合においては、酸素原子側が電気的に負、水素原子側が正となり、局所的に電気双極子を作っています。このため、水H2Oは極性の強い分子であり、食塩NaClなどのイオン結合性の物質を溶解させます。エタノールC2H5OHとの間では、水素結合を作れるので、エタノールC2H5OH容易に混合し、ワインやビールなどのお酒ができます。

 

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.2  氷の結晶構造(画像はこちらからお借りしました)

 

過酸化水素H2O2は、常温常圧では、無色の粘性のある液体です。水に溶けやすく、わずかにオゾンO3に似た臭いがします。高濃度の水溶液は、腐食性を持ち、皮膚を侵しますが、2.53.5%の過酸化水素H2O2は、医療用の外用消毒剤として利用され、オキシドールと呼ばれています。過酸化水素H2O2は、切れやすい酸素-酸素結合を持っているために、不安定で反応性に富みます。一般的に酸化剤として働きますが、過マンガン酸カリウムKMnO4などのような強力な酸化剤と出会うと、還元剤として働くこともあります。また、二酸化マンガンMnO2などの触媒を加えると、自己酸化還元反応を起こして分解します。

 

(酸化剤) H2O2 + 2H+ + 2e- → 2H2O

(還元剤) H2O2 → 2H+ + O2 + 2e-

(酸化剤・還元剤) 2H2O2 (二酸化マンガン) 2H2O + O2

 

分子の中心となる元素に何個かの酸素原子が結合し、さらにその酸素原子のいくつかに水素原子が結合した構造の酸を、オキソ酸(oxoacid)といいます。非金属元素の酸化物(酸性酸化物)と水H2Oの反応で生じる酸の多くは、オキソ酸です。オキソ酸としての酸の強さは、中心原子の種類や、それに結合する酸素原子の数によって決まる傾向があります。

中心原子に結合する酸素原子の数が同じである場合、中心原子の電気陰性度が大きいほど、強い酸になります。例えば、硫酸H2SO4とリン酸H3PO4の酸性度は、H2SO4>H3PO4となります。

また、中心原子が同じである場合、それに結合する酸素原子の数が多いほど、強い酸になります。例えば、過塩素酸HClO4, 塩素酸HClO3, 亜塩素酸HClO2, 次亜塩素酸HClOの酸性度は、HClO4>HClO3>HClO2>HClOとなります。

酸の強さは、共役塩基の安定性を考えることで理解することができ、一般的に共役塩基が安定化する構造であるほど、酸性度は強くなります。すなわち、中心原子の電気陰性度が大きく、それに結合する酸素原子の数が多いほど、共役塩基の負電荷が非局在化して、より安定化できるのです(酸と塩基(酸と塩基の強さ)を参照)

 

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.3  様々なオキソ酸

 

(3)硫黄

硫黄(sulfur)は、鉱石の成分元素として、地殻中に単体や硫化物、硫酸塩の形で含まれる他、海水中にも、硫酸イオンSO42- の形で存在しています。硫黄Sの単体は、酸素Oと同じ非金属であり、黄色のもろい固体として、火山地帯で産出します。温泉から出てきた硫黄Sの沈殿物は、「湯の花」と呼ばれて、温泉土産として有名です。

工業的には、硫黄Sの単体は、主に石油精製工程の脱硫により得ています。硫黄Sの単体には、斜方硫黄や単斜硫黄、ゴム状硫黄などの同素体があり、室温では、黄色塊状の斜方硫黄が最も安定です。斜方硫黄を120℃に加熱して融解させた後、空気中で放冷すると黄色針状の単斜硫黄が得られ、250℃に加熱した液体硫黄を冷水に注いで、急冷すると弾性のあるゴム状硫黄が得られます。ただし、単斜硫黄もゴム状硫黄も、室温で長時間放置しておくと、より安定な斜方硫黄になります。次の表.2のように、斜方硫黄と単斜硫黄は、王冠状の環状分子S8からなり、水には溶けませんが、二硫化炭素CS2にはよく溶け、ベンゼン及びトルエンにも少量溶けます。ゴム状硫黄は、多数の硫黄原子が次々に結合した長い鎖状分子Sxからなり、二硫化炭素CS2には溶けにくいです。

ちなみに、ゴム状硫黄の色は長らく「褐色」であるとされてきましたが、2009年に山形県の17歳の少年が、実験によってこれが誤りであることを指摘し、教科書が書き換えられるという一件がありました。純度99%の斜方硫黄をもとにゴム状硫黄を作ってみたところ、教科書通り褐色のものが得られました。しかし、純度99.5%の斜方硫黄から同様にゴム状硫黄を作ってみたところ、教科書とは異なる黄色のものが得られたというのです。

それまでは、大学入試でも「褐色」が正解とされており、当たり前のように信じられていました。しかしながら、科学に「絶対」はなく、科学的であるということは、すなわち反証可能性があるということです。当たり前のように信じられていることの中にも、誤りに気付いていないだけで、本当は間違っていることがあるかもしれないのです。この一件は、少年の科学的な洞察力が呼んだ、見事な発見であったといえそうです。

 

.2  硫黄Sの同素体(画像はこちらからお借りしました)

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硫黄Sの単体は、基本的には、どれも組成式のSで表します。硫黄Sは、酸素O2と同様に反応性が高く、多くの金属及び非金属と直接化合して、硫化物を作ります。特に銀Agや銅Cuとは、接触により室温でも反応して、黒色の硫化銀(I) Ag2S及び硫化銅(II) CuSを生成します。また、硫黄Sのどの同素体も、空気中で燃焼させれば、青い炎出して二酸化硫黄SO2になります。

 

Fe + S (加熱) FeS
S + O
2 (加熱) SO2

 

硫化水素H2Sは、火山ガスや温泉(硫黄泉)に含まれ、タンパク質の腐敗によっても発生する無色の気体です。温泉地で出会う「イオウ臭」といわれているものは、正確には硫化水素H2Sの臭いなのです。水によく溶けて弱酸性を示し、腐乱臭があり、目や皮膚を刺激する有毒な気体です。人為的な発生源には、石油化学工業があり、また下水処理場やゴミ処理場などにおいても、硫黄Sが嫌気性細菌によって還元されて、硫化水素H2Sが発生します。おならの臭い成分としても、若干含まれています。実験室では、硫化鉄(II) FeSに希硫酸H2SO4を作用させて発生させ、水に溶けやすいので、下方置換で捕集します。

 

FeS + H2SO4 → FeSO4 + H2S

 

 以前、家庭用温泉入浴剤に塩酸HClを含むトイレ洗剤を加えて、硫化水素H2Sを発生させ、それを自殺に利用するという事件が多く発生したことがありました。インターネット上で「簡単に美しく死ねる」といった主旨の書き込みがあったことから、急増したらしいです。1%硫化水素H2Sを含む空気を数回吸えば、命に関わります。この煽りで、創業100年を迎えていた老舗の製造会社が、主力商品の温泉入浴剤を生産中止にしました。

 実際に自殺死体を見た人によると、「極めて強い苦悶の表情を浮かべ、皮膚は緑色に変化していた」といいます。決して安易に、美しく死ねる方法ではありません。しかも、たとえ命が助かったとしても、深刻な脳障害が後遺症として残ることになります。硫化水素H2Sは、かなり恐ろしい毒ガスなのです。

また、硫化水素H2Sは、多くの重金属イオンと反応し、特有の色を持つ硫化物の沈殿を生じます。例えば、マンガン(II)イオンMn2+ , ニッケル(II)イオンNi2+, (II)イオンCu2+, 亜鉛(II)イオンZn2+, カドミウム(II)イオンCd2+, (II)イオンPb2+ などの金属イオンを含む中性水溶液に硫化水素H2Sを通じると、これらの硫化物が沈殿します。

ただし、水溶液が酸性であれば、溶解度の大きいマンガン(II)イオンMn2+ , ニッケル(II)イオンNi2+, 亜鉛(II)イオンZn2+ が溶け出してきます。これは、酸性が強くなる([H+]が大きくなる)と、次の平衡から分かるように、水溶液中の硫化物イオンS2- の濃度が減少して、沈殿を形成しにくくなるからです(無機化学(沈殿生成反応)を参照)

 

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また、硫化水素H2Sは、還元剤としても働き、二酸化硫黄SO2やヨウ素I2を還元します。例えば、硫化水素H2Sを溶かした水溶液に、二酸化硫黄SO2を通じると、コロイド粒子状の硫黄Sが析出して、溶液が白濁するので、これによって硫化水素H2Sや二酸化硫黄SO2の検出ができます。

 

SO2 + 2H2S → 2H2O + 3S

I2 + H2S → 2HI + S

 

 二酸化硫黄SO2は、刺激臭を有する無色の気体で、亜硫酸ガスとも呼ばれています。自動車の排気ガスなどで、大量に排出されている物質であり、酸性雨やぜん息の原因となり、環境破壊や自動車公害を引き起こしています。二酸化硫黄SO2は、火山活動や工業活動により生産されます。石炭や石油は、多量の硫黄化合物を含んでおり、この硫黄化合物が燃焼することで発生します。実験室では、銅Cuに濃硫酸H2SO4を加えて加熱するか、亜硫酸ナトリウムNa2SO3に希硫酸H2SO4を加えると発生し、水に溶けやすいので、下方置換で捕集します。

 

Cu + 2H2SO4 (加熱) CuSO4 + SO2 + 2H2O

Na2SO3 + H2SO4 → Na2SO4 + SO2 + H2O

 

二酸化硫黄SO2は人間にとって害しかない物質のように思えますが、大気中に二酸化硫黄SO2をばら撒いて、逆に地球温暖化を防止しようという研究があります。

1991年にフィリピンのピナトゥボ山が9時間に渡る大噴火を起こしました。噴火は非常に大きく、ここ100年ほどの間に起きた最も強力な噴火でした。噴火が終わるまでに約2,000tの二酸化硫黄SO2が放出され、二酸化硫黄SO2は対流圏を突き抜けて成層圏まで達しました。この噴火によって多くの死者が出ましたが、思わぬことが起こりました。二酸化硫黄SO2が成層圏の水蒸気を吸収して、「二酸化硫黄SO2の雲」を作って日光を遮り、2年に渡って地球の平均気温を0.5℃も下げたのです。たった1度の噴火で、100年かけて積み上がった地球の温暖化が、一時的ではあるにしろ押し戻されてしまったのです。こうしたピナトゥボ級の大噴火が数年に1度のペースで発生すれば、「21世紀の間に起きると予想されている人為的な地球温暖化の大部分が相殺されるだろう」という研究者までいます。

研究によると、成層圏で二酸化硫黄SO21年で10tばら撒けば、地球温暖化を効果的に抑制できるといいます。10tというと大層な量のように思えますが、この量は現在の地球上における二酸化硫黄SO2排出量のたった0.05%です。大事なのは、二酸化硫黄SO2を成層圏でばら撒くことです。対流圏では、二酸化硫黄SO21週間ぐらいしか留まらずに酸性雨などの原因となりますが、成層圏では、1年以上も留まって温暖化を抑制するのです。

このような地球工学の考えはシミュレーションが大変難しく、何が起こるかほとんど予測できないという面があります。しかし、「二酸化硫黄SO2が地球の平均気温を下げた」という事実は確かなため、「二酸化硫黄SO2の雲」は案外有力な方法なのかもしれません。技術的な問題は山積みですが、火力発電所の煙突を成層圏まで延長してばら撒くという、二酸化硫黄SO2の排出量を増やさない方法も考えられており、注目が集まっています。

また、二酸化硫黄SO2は水H2Oと反応して亜硫酸H2SO3となり、水溶液中で弱酸性を示します。ただし、亜硫酸分子は、不安定なため単離することはできず、実際には水溶液中で、二酸化硫黄SO2をいくつかの水分子が取り囲み、次のような平衡により、弱い酸性を示すと考えられています。二酸化硫黄SO2は、酸性雨に含まれる物質の1つです。

 

SO2 + 2H2O H3O+ + HSO3-

HSO3- + H2O H3O+ + SO32-

 

二酸化硫黄SO2の硫黄原子は、+4の酸化数を有するので、酸化剤にも還元剤にもなりえます。しかし、単体の硫黄Sになるより、硫酸イオンSO42- に変化する反応の方が起こりやすいです。つまり、二酸化硫黄SO2は、酸化剤よりも還元剤として働くときの方が多いです。二酸化硫黄SO2は、水H2Oの存在下で還元的な脱色作用を示すため、紙や衣類などの漂白剤として用いられます。また、ブドウの果汁を酢に変えるイースト菌や雑菌の成長を抑えたり、酸化を防いだりする目的で、ワインの製造にも使われています。白ワインの場合は、淡黄色の色素の酸化が防止できるように、赤ワインよりも多く使われています。ただし、二酸化硫黄SO2は、硫化水素H2Sなどのような還元性の強い物質に対しては、酸化剤として働きます。

 

(還元剤) SO2 + 2H2O → SO42- + 4H+ + 2e-

(酸化剤) SO2 + 4H+ + 4e- → S + 2H2O

 

 三酸化硫黄SO3は、刺激臭を有する無色の液体で、無水硫酸とも呼ばれます。水H2Oと反応すると、硫酸H2SO4になるため、工業的に大量生産されています。三酸化硫黄SO3は、二酸化硫黄SO2と同様に、酸性雨の原因物質の1つです。なお、三酸化硫黄SO3を濃硫酸H2SO4に溶かしたものは、発煙硫酸(fuming sulfuric acidH2SO4nSO3)と呼ばれ、三酸化硫黄SO3の蒸気のために、湿った空気中で白煙を発生します。

 

SO3 + H2O → H2SO4

H2SO4 + nSO3 H2SO4nSO3

 

硫酸H2SO4は、実験室レベルでも工業的にも、重要な化合物の1つです。通常、「硫酸」という名称は、硫酸H2SO4の水溶液を指す場合が多いですが、硫酸H2SO4そのものを指す場合にも用いられます。純粋な硫酸H2SO4は無色の液体で、分子間に水素結合が形成されるために、粘性が高いです。工業的には、五酸化二バナジウムV2O5を主成分とした触媒を用いて、400600℃で二酸化硫黄SO2を空気酸化し、生じた三酸化硫黄SO3を水H2Oと反応させて作ります。このような硫酸H2SO4の工業的製法を、接触法(contact process)といいます(無機工業化学を参照)

 

2SO2 + O2 (五酸化二バナジウム) 2SO3

SO3 + H2O → H2SO4

 

硫酸製造で必要な二酸化硫黄SO2は、石油精製の際に得られる硫黄Sを燃焼させて作ります。また、三酸化硫黄SO3を直接水に吸収させようとすると、大きな水和熱と溶解熱のために、水H2Oが蒸発して霧状になってしまうため、実際には、濃硫酸H2SO4に多量の三酸化硫黄SO3を吸収させて、発煙硫酸H2SO4nSO3とし、これを希硫酸H2SO4と混合することで、濃硫酸H2SO4を生産しています。

濃硫酸H2SO4は、吸湿性が非常に強く、乾燥剤になります。また、濃硫酸H2SO4は、有機化合物中の水素原子と酸素原子を21の比で、つまり水分子H2Oとして取り去る脱水作用を持ちます。さらに、濃硫酸H2SO4は不揮発性であり、揮発性の酸の塩に加えて加熱すると、揮発性の酸が遊離します。加熱した濃硫酸H2SO4は、酸化作用が強く、イオン化傾向の小さい銅Cuや銀Agなども酸化して、二酸化硫黄SO2を発生させます。

2015年には、群馬県高崎市で買い物をしていた23歳の女性に、濃硫酸H2SO4を無職の男がかけるという事件が起こりました。濃硫酸H2SO4は強酸で脱水作用があるため、皮膚にかかると火傷する危険性があります。

 

.3  濃硫酸H2SO4の性質

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濃硫酸H2SO4を水に溶かすと、多量の熱を発生して、希硫酸H2SO4となります。このとき、必ず撹拌しながら、多量の水に少しずつ濃硫酸H2SO4を加えていかなければなりません。もし濃硫酸H2SO4に水を加えてしまった場合、比重の小さい水が、濃硫酸H2SO4の上で沸騰して、周囲に熱い硫酸H2SO4の液を飛び散らせることになります。

希硫酸H2SO4では、系のほとんどが水分子なので、硫酸分子は、ほとんど完全に電離して強酸性を示します。希硫酸H2SO4は、水素H2よりイオン化傾向の小さい金属を溶かし、水素H2を発生させます。また、希硫酸H2SO4を、亜硫酸塩や亜硫酸水素塩、炭酸塩、酢酸塩などの弱酸の塩に加えると、弱酸が遊離します。

 

Na2CO3 + H2SO4 → Na2SO4 + H2O + CO2

2CH3COONa + H2SO4 → Na2SO4 + 2CH3COOH

 

 チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3は、硫酸ナトリウムNa2SO4の酸素原子の1つが硫黄原子に置き換わった構造を持つ化合物で、水溶液はハロゲン化銀の結晶を溶解する性質を利用して、写真の定着剤として使用されます。生成物は、銀イオン錯塩であるジチオスルファト銀(I)酸ナトリウムNa3[Ag(S2O3)2]です。

 

2Na2S2O3 + AgX → Na3[Ag(S2O3)2] + NaX

 

また、チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3には、還元作用があり、ヨウ素I2との反応は、ヨウ素滴定の基礎になります。ヨウ素I2の入ったコニカルビーカーに、チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3水溶液をビュレットから滴下し、ヨウ素I2の物質量を定量的に求めることで、間接的にその他の酸化剤や還元剤の物質量を求めることができるのです。例えば、酸化剤の物質量は、ヨウ化物イオンI- を酸化剤に作用させ、生じたヨウ素I2の物質量を滴定で求めることにより、酸化剤の物質量が分かります。また、還元剤の物質量は、物質量既知のヨウ素I2に還元剤を作用させ、残ったヨウ素I2の物質量を滴定で求めることにより、還元剤の物質量が分かります(酸化還元を参照)

 

I2 + 2Na2S2O3 → Na2S4O6 + 2NaI


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・参考文献

1) 齊藤烈/藤嶋昭/山本隆一/19名「化学」啓林館(2012年発行)

2) セオドア・グレイ「世界で一番美しい元素図巻」創元社(2011年発行)

3) 平尾一之/田中勝久/中平敦「無機化学」東京化学同人(2013年発行)

4) Peter W. Atkins/千原秀昭・稲葉章訳「分子と人間」東京化学同人(1993年発行)

5) 左巻健男「エセ科学を見抜くセンス」新日本出版社(2015年発行)

6) 左巻健男「面白くて眠れなくなる元素」PHP研究所 (2016年発行)

7) スティーヴン・D・レヴィット著/スティーヴン・J・ダブナー著/望月衛訳「超ヤバい経済学」東洋経済新報社(2010年発行)