・遺伝子の科学


【目次】

(1) 生物はなぜ進化するのか?

(2) ダーウィンの「自然選択説」の発見

(i) ラマルクの「用不用説」

(ii) ダーウィンの「自然選択説」

(3) エピジェネティクスとは何か?

(4)「遺伝」と「環境」の影響はどちらが強いのか?

(i)「共有環境」と「非共有環境」とは?

(ii)「遺伝」と「環境」の関係

(5) 子供にとってなぜ「非共有環境」が大切なのか?


(1) 生物はなぜ進化するのか?

 「ドラえもんが優れた技術で作られていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか。理由を答えなさい」――これは、2013年の麻布中学校の入試で出題された理科の問題です。受験情報サイトの「インターエデュ・ドットコム」がこの問題を掲載したところ、インターネット上で「珍しい問題」として、当時話題になりました。ドラえもんは歩行や会話もできますし、どら焼きを好んで食べるなど、生物らしい活動をしますが、生物学上は「生物」と認められないのです。それでは、生物学における「生物」とは、一体何なのでしょうか?「生物」としての条件として、次の3つが考えられています。

 

@ 細胞を持つ(自己と外界との境界がある)

A 自己複製や遺伝が可能(DNARNAによって繁殖する)

B 代謝する(体内の化学反応によってエネルギーを取り出す)

 

 ドラえもんは、私たちの知っているような「細胞」を単位構造にしていませんが、外界との境界はあるので、@の条件は満たしています(ドラえもんを単細胞生物と考えてもいい訳です)。しかし、自己複製をしたり、繁殖して子孫を残したりすることはできないので、Aの条件は満たしていません。また、Bの条件についても、どら焼きを食べてエネルギーを作り出しているかもしれませんが、どら焼きを分解して自分の体の一部を作ったりすることはできないので、Bの条件も完全には満たしていません。このような理由から、ドラえもんは「生物」とは認められないのです。それでは、これらの条件を備えることは、「生物」にとって一体どのような意味を持つのでしょうか?

私たちが「生きている」と認識するものは、すべて自己と外界との境界を持ち、外部からエネルギーを取り込んで代謝を行い、自分というシステムを維持するために自律的に活動しています。これは、すべての生物に備わった性質であり、人間は進化の過程で、そういうものを「生物だ」と認識するように進化してきたといえるかもしれません。なぜならば、そういうものを生物と思わないという感性は、危険性や食べられるかどうかなどの有用性の認識ができないということであり、生きていく上で大きな不利となるからです。

 場合によっては、私たちは「明らかに生物でないもの」を生物と感じることがあります。例えば、ソニーが作っている動物型のロボット「AIBO」やリアルでない人型ロボットを、まるで生きているようだと思ったりするのです。かえって人間に似ているリアルロボットの方に違和感を覚えるというのは、大変面白いところです。ちなみに、ロボットがどれだけ人間に類似しているかという精度を高めていくと、かなり高度なある一点から、好感とは正反対の違和感・恐怖感・薄気味悪さといった負の要素が急激に高まることが知られ、これを「不気味の谷現象」と呼んでいます。人間のロボットに対する感情反応は、ロボットがより人間らしく作られるようになるにつれ、より好感的で共感的になっていきますが、ある時点から突然強い嫌悪感に変わるのです。そして、ロボットの外観や動作が人間と見分けが付かないぐらいに類似すると、再びより強い好感に転じ、人間と同じような親近感を覚えるようになります。

 

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.1  不気味の谷は、好感的なCGのキャラクターを作るときの難しさの原因であると考えられた

 

 また、母トラと父ライオンの合いの子である「ライガー」や、母ウマと父ロバの合いの子である「ラバ」といった混血動物を、生きていないと思う人はいないでしょう。彼らは、外部から取り込んだエネルギーで自律的に活動するユニットだからです。しかし、ライガーやラバなどの合いの子は、繁殖して子孫を残すことができません。両親の染色体数が異なっているため、繁殖力を失っているのです。「繁殖して自分の子孫を残せるか」という意味で考えれば、混血動物は持続可能な生物とはいえないでしょう。それでは、「繁殖」とは、生物にとって一体どのような意味を持っているのでしょうか?

 

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.2  ライガーのメスはまれに繁殖力を持つが、生まれた子はオス・メスともに生殖機能がない

 

 現在知られているすべての生物は、「DNA(デオキシリボ核酸)」もしくは「RNA(リボ核酸)」という遺伝物質を使って、自分の遺伝情報を次の世代に伝えていきます。例えば、オスとメスがある有性生殖の生物は、卵子と精子を合体させることで、母親と父親の遺伝情報を子供に伝えます。新しい個体は、受け取った遺伝情報に基づいて自分の体を作り、代謝を行って、新たな生物としての活動を始めます。つまり、生物にとっての「繁殖」とは、「新たな個体を生み出すこと」であり、そのために遺伝情報を持つDNAを新たな個体に伝えることで、次の世代に「生命活動を伝えていく」という行為なのです。遺伝情報を伝えるということは、「生きていくための代謝活動の在り方」を伝えるということですから、生命にとって重要なものです。しかし、遺伝情報の伝達には、もっと大きな生物学上の意味があります。それは、「遺伝情報の伝達があるものだけでしか進化が起こらない」ということです。

 

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.3  DNAは二重らせん構造を持つ

 

 「進化」とは、時間とともに生物の性質が変わっていくことを指します。アニメ「ポケットモンスター」では、ピカチュウは成長とともに能力が変わっていきますが、アニメの中ではそれ自体を「進化」と呼んでいます。「ピチュウ→ピカチュウ→ライチュウ」という具合です。しかし、このような成長に伴う能力の変化を、生物学では「進化」と呼んでいません。生物学における「進化」とは、世代を超えて、今まで存在しなかった性質が現れることだからです。ピカチュウの「進化」は、毎世代繰り返される変化であり、生物学的には「変態」と呼ばれます。カエルがオタマジャクシからカエルになるのと同じです。しかし、生物の性質が遺伝情報によって決められており、その情報が世代間で伝わっていくときに少しずつ変化するならば、次の世代には今まで存在しなかった新たな性質が現れることになります。これが、生物学でいう「進化」です。

 

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. 4  オタマジャクシからカエルになるのは「進化」とは呼ばない

 

DNARNAという核酸では、4種類の塩基が並び方を変えることによって、様々な遺伝情報を保持しています。子供に遺伝情報を伝えるときは、元の塩基配列をコピーする形になりますが、その際にごく低い確率(100万回に1回程度の割合)でコピーミスが起こるので、子供に伝わる遺伝情報は元のものと全く同じにはなりません。アイスランドの生物学者であるカーリ・ステファンソンが行った大規模な研究結果によると、人は誰もが平均70個の新たな突然変異を持って生まれ、父親にも母親にもない新たな塩基配列が生じることが判明しています。したがって、DNARNAを使って繁殖している生物は、すべて「進化」することができる存在です。注意しなければならないのは、もしDNARNAのコピーが完全であり、子供に伝わる遺伝情報が何世代経っても同じものであるとしたら、進化は起こらないということです。DNARNAの塩基配列のコピーが不完全だからこそ、はじめて進化が可能になるのです。

 それでは、どうしてすべての生物は、不完全な遺伝情報の伝達を行うのでしょうか。ダーウィンの「自然選択説」では、遺伝する性質の間に変異があり、それに応じて個体の有利性が決まっているならば、生存に有利なタイプが世代を重ねるごとに頻度を増していき、最終的には有利なタイプだけになってしまうと予測します。生物のDNARNAは少しずつ変化するので、毎世代新たなタイプが集団中に出現します。大事なのは、その変化自体に決まった方向性はなく、有利なタイプと不利なタイプがランダムに発生しているということです。「ある条件で有利である」ということは、「別の条件では不利である」ということです。生存競争をする中で、生存に有利な性質を持つタイプと不利な性質を持つタイプが争えば、有利なタイプの方が生き残る確率が高くなるでしょう。そして、生き残った有利なタイプ同士が子供を作れば、有利なタイプの子供が生まれる確率が高くなります。このようにして、DNARNAを遺伝物質とする生物は、常にどんどん環境に適したものに進化していくのです。

生物の進化に目的地はありません。生物は目の前の環境に、ただ自動的に適応するだけなのです。そのため、遺伝物質のコピーミスが全く起こらない、あるいは繁殖をせず不死であるといった「進化しない生物」が仮にいたとしても、それは刻々と変化する環境に適応できず、生き延びることはできません。生物はあえてミスを犯すシステムを採用することで、自らの存続性を確保する道を選んだのです。ともあれ、繁殖とは世代をつなぐ行為であり、繁殖があるが故に生物は進化することが可能になります。これまでに述べたことをまとめると、進化が起こる条件は3つあります。

 

@ 世代間で情報が伝わること(遺伝)

A 伝わる情報が完全に同じものにならないこと(変異)

B 変異体の間に増殖率に関する差があること(選択)

 

 このうち、@とAがあれば進化は起こり、Bの条件が揃えば環境に対する適応が起こります。この3つが揃えば、生物でなくとも進化は起こります。例えば、「伝言ゲーム」という遊びがありますが、それは口伝えにある文章を伝える(遺伝)、その途中でミスが生じる(変異)があるので、これはまさに「言葉の進化」といえます。また、作法が伝承される「茶の湯の進化」を解析した研究や、一字一字書き写されていた昔の「写本の進化」を再現した研究などもあります。進化とは、生物に特異的な現象ではありません。生物というものが、上記3つの条件を兼ね揃えたものであるからこそ、「適応進化」を起こすというだけの話です。

 

(2) ダーウィンの「自然選択説」の発見

 地球上には様々な生物がいますが、いずれの生物も棲んでいるその環境に適した性質を備えていることは、大昔から知られていました。しかし、なぜそのようになるのかは、上手く説明できませんでした。昔は科学的な考えなどほとんどなかったので、生物の適応は「神の偉大さ」を表すものとして解釈されていたのです。旧約聖書の「創世記」には、「神は天地創造の6日目に各種の生物や家畜などを作り、次いで人間を作った」と書かれてあります。19世紀までは、「生物は大昔から現在の形のままで暮らしており、時間とともに変化するという考えは神を冒涜するもの」と捉えられていました。

19世紀までの生物学は、まだ実質的に「博物学」でした。簡単にいうと、様々な生物を世界中から「集めて」「分類して」「並べる」訳です。大航海時代を経て、それこそ世界中から数知れない珍しい生物が一堂に集められました。それをコレクターよろしく集めて並べると、「あること」に気付きました。それは、種と種の間に「連続的な形の変化」が見えることです。そもそも生物を分類できるのは、種と種の間に似た部分と違う部分があるからです。「似ている/違う」という視点で比べつつ、上手に標本を並べると、どうも種と種の間にある形の違いが、少しずつ変化しているように見えます。例えば、鳥類と爬虫類とを並べてみます。鳥類の前肢の部分は翼ですから、爬虫類の前肢とは外見こそ全く異なりますが、中身を比べるとそうでもありません。対応する骨や筋肉が同じようにあるのです。全身の形は違っていても、部分で似ているものを並べていくと、「もしかして生物には共通の祖先がいて、そこから変化して枝分かれしたのではないか?」と思える訳です。

 

.5  爬虫類(左)と鳥類(右)の骨格標本

 

(i) ラマルクの「用不用説」

 「生物は時間とともに姿を変えていく能力が、その中に備わっている」ということを初めて発表したのは、フランスの博物学者であるジャン=バティスト・ラマルクでした。ラマルクは無脊椎動物の専門家でしたが、無脊椎動物の分類をしているうちに、「なぜ似たような生物の種類が多いのか?」「なぜ大昔にいた生物が今はいないのか?」という疑問を持ちました。そして、ラマルクのたどり着いた答えが、「大昔にいた生物種が今の色々な種へと進化したから、大昔の生物は今はいないし、生物に多様性もあるのではないか」というものです。ラマルクの仮説は、1809年に出版された「動物哲学」にまとめられています。

 

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.6  ラマルクは初めて進化論を唱えたことで知られる

 

それでは、どうやって種は進化したのでしょうか?ラマルクの立てた仮説が、「用不用説」と「獲得形質の遺伝」というものでした。動物がその生活の中でよく使う器官は、次第に発達していきます。一方で、初めから存在する器官であっても、その生活の中で使わなければ、次第に衰えて機能を失います。そこで、ラマルクはこのようにして生涯の中で後天的に身に付けた形質(獲得形質)、子孫にも伝わっていくのではないかと考えました。

ラマルクの考えた「進化論」を、モグラとキリンで説明してみます。「モグラは光の届かない地面の中で生きているから、次第に目が弱くなって、地面を掘る腕力が強くなった」とラマルクは説明します。同じように、「キリンは高い枝にある木の葉を食べようとして、いつも首を伸ばして生きているから、次第に首が長くなって強くなった」と説明するのです。そして、そのような形質を身に付けた動物が子供を生めば、生まれた子供にはその形質がわずかに伝わるはずです。多くの動物は、一定の環境下で何千年にも渡って世代を繰り返しているので、世代ごとの蓄積は少しであっても、それが続くことで、次第に大きな変化となると考えた訳です。つまり、「使わないと退化し、使うと発達する」という「用不用説」と、「親から子に後天的に獲得した形質が受け継がれる」という「獲得形質の遺伝」のサイクルで、世代を重ねるごとに形質が発達してくると考えたのです。

 

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.7  ラマルクによれば、キリンの先祖は高所の木の葉を食べるために首を伸ばす努力をした結果、現代のように長い首を持つようになった

 

しかし、ラマルクの考えた「進化論」は、今では間違いだと考えられています。ラマルクの誤謬は、「個体レベルの変化」を進化と混同したことです。もちろん、これは現代だからいえることです。当時は「遺伝子」という概念がなく、どのように子供に形質が伝わっていくのかということもよく分かっていなかったので、無理もないことです。もしラマルクの仮説が正しいとするなら、「親が子供を生む前に頑張って勉強をすると、生まれてくる子供は親が勉強した分だけ頭が良くなる」ということになりますが、それがありえないということは分かるでしょう。個体が後天的に獲得した形質は、遺伝子とは無関係なので、その子孫に遺伝するということはありえないのです(ただし、近年では「エピジェネティクス」と呼ばれる、DNAの塩基配列の変化を伴わない後天的な遺伝子制御の変化があることが分かってきました)。

ラマルクの主張した「獲得形質の遺伝」については、現在では広く反駁を受けています。特に有名なのは、ドイツの動物学者であるアウグスト・ワイスマンが、マウスを使って行った実験です。ワイスマンは、マウスの尾を切り取ってそれを育てて子を産ませ、その子マウスも尾を切って育て、それを22世代に渡って繰り返しました。その結果分かったことは、「マウスの尾の長さに変化は現れない」ということです。ユダヤ人やその他の宗教的集団でも、伝統的に何百世代にも渡って割礼を行っていましたが、彼らの子孫の包皮が少なくなったという例は、ほとんど報告されていません。ラマルクは、負傷や切除を獲得形質に含めない旨の説明をしていましたが、生物側でその区別がどうやってつくのかは説明できません。ラマルクは最初の進化論者だったのですが、ラマルクの説は科学的説明としては問題も多く、その後、そのままの形でこれを主張する科学者はいませんでした。

 

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.8  マウスの尾を切断しても、子マウスの尾は短くならない

 

(ii) ダーウィンの「自然選択説」

 ここで、「進化論」で有名なイギリスの地質学者チャールズ・ダーウィンの登場です。ダーウィンは、進化論の提唱の功績から、今日では「生物学者」と一般的に見なされる傾向にありますが、自身は存命中に「地質学者」を名乗っており、現代の学会でも地質学者であるという認識が確立しています。ダーウィンは、陶器メーカーで有名な大富豪ウェッジウッド家の一族で、父のロバート・ダーウィンは医者だったので、非常に裕福な環境で育てられました。子供のころから博物学的趣味を好み、8歳のときには植物・貝殻・鉱物の収集を行っていました。16歳のときに父の医業を助けるために親元を離れ、1825年にエディンバラ大学の医学部に入学したのですが、血を見ることが苦手で、麻酔がまだ導入されていない時代の外科手術に馴染めずにいました。また、昆虫採集などを通じて、自然界の多様性に魅せられていたことから、医者になることに興味を失い、学位を取らずに大学を去ることになります。次に牧師になるため、1827年にケンブリッジ大学に入学するのですが、ここでも神学そっちのけで、博物学や昆虫採集に傾倒してしまいました。1831年にケンブリッジ大学を中の上の成績で卒業しましたが、ダーウィンは後の回想録で、「学問的にはケンブリッジ大学で得るものは何もなかった」と述べています。

 1831年、イギリス海軍は、南アメリカ海岸・フォークランド諸島・ガラパゴス諸島の地図を作成するため、測量船ビーグル号を派遣しました。地図は、いざ戦争となったときの備えを固めるために必要でした。ビーグル号の船長はアマチュア科学者で、途中で出くわすかもしれない様々な生物を調査するために、探検隊に博物学者を加えることに決めました。そして、博物学者ジョン・スティーブンス・ヘンズローの紹介で、ケンブリッジ大学を卒業した22歳のダーウィンがビーグル号に乗り込むことになります。しかし、船には専任の博物学者が他にいたので、当初のダーウィンの肩書は「ロバート・フィッツロイ艦長の会話相手のための客人」でした。ただし、専任の博物学者が途中で下船したので、非公式ながら後任の専任博物学者になっています。ダーウィンを乗せたビーグル号は、出航から4年後の1835年、東太平洋上の赤道下にあるガラパゴス諸島に到着しました。そこでダーウィンが見たものは、島々に棲む様々な生物でした。

 

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.9  ガラパゴス諸島は、エクアドル本土より西約900 kmにある島々である

 

 ガラパゴス諸島は、大陸から遠く離れた島々でしたが、そこに棲むフィンチという小鳥や巨大なゾウガメは、島ごとに微妙に形が違っており、しかもその棲む環境に適した形をしていたのです。例えば、固い木の実が主食となる島では、フィンチのくちばしはペンチのように分厚く、食物であるサボテンの下部が固くなっている島では、ゾウガメは首が上に伸ばせるように甲羅の前部がえぐれていました。もちろん、これも「神の御心」だとする考えも可能でしたが、ダーウィンはこれらの動物を見て、別のアイデアを思い付きました。絶海の孤島で、しかも地質学的には新しい火山諸島であるガラパゴスに、これだけの種が最初から存在したとは考えにくい。また、南米に近縁な種が生息することから、ガラパゴス諸島の北東にかつて存在し、すでに海没した島々を伝って、200300万年前に祖先種の一群が渡来し、それぞれの島でその環境に合うように適応的に進化したのだろう」と。

 

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.10  オオガラパゴスフィンチ(左)とピンタゾウガメ(右)

 

さらにダーウィンは、当時の上流階級で流行っていたハトの品種改良などの知識から、様々な特徴を持った個体の中から、ある特徴を持った生物を選んで交配を繰り返すことで、その特徴をはっきり持つ品種を作り出すことができると知りました。人為的に品種が作られるということは、裏を返せば、生物には元々「変わる力」があるということです。品種改良では、生物を選んで交配させるのは人間です。しかし、厳しい自然環境が、生物にランダムに起こる変異を選別するならば、生物は自然に進化するのではないでしょうか?

ある生物が生きている環境では、ある個体は常に他の個体と生存を賭けて競争しています。例えば、足が速いなどの生存に有利な性質を持つ個体は、そうでない個体よりも高い確率で生き残ることができ、子供を多く残すでしょう。そして、その子供はやはり足が速いという性質を備えているだろうから、その種類全体は、世代交代が進むごとにだんだんと足が速い個体ばかりになります。このようにして、環境に適した性質を持つ個体は、自然に常に選ばれており、生物は世代交代を経るごとに環境に適した性質を持つように変化していくに違いない――これが生存競争に基づく「自然選択説」の発見でした。間違えやすいのですが、「自然選択」を発見したのはダーウィンではないということです。ダーウィンが発見したのは、「自然選択」ではなく「自然選択によって生物が進化すること」です。

ダーウィンはとても慎重な人だったので、自然選択説を発表する前に多くの生物を観察して、自分の考えでその進化が説明できるかどうかを慎重に検討しました。結局、ダーウィンが自然選択説を発表したのは晩年になってからで、航海を終えてから20年近くが経過していました。ダーウィンの自然選択説は、1859年に出版された有名な「種の起源」にまとめられています。この本の正式な名前は、「自然選択、すなわち生存競争において適者が存続することによる種の起源」というものです。ダーウィンの「種の起源」は、初版1,250部はその日のうちに売り切れ、増刷に増刷を重ねました。

 

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.11  ダーウィンは晩年まで研究を続け、進化論だけでなく自然科学の幅広い分野に影響を与えた

 

もっとも、これは自然選択説がすぐに受け入れられたからではありません。ダーウィンは、自然選択について世界中の科学者と意見を交わしましたが、多くの科学者は「道徳的・倫理的に受け入れることはできない」と言って、ダーウィンを落胆させました。「昆虫記」で知られるジャン・アンリ・ファーブルも反対者の1人で、ダーウィンとは手紙で意見の交換をし合いましたが、意見の合致には至りませんでした。ダーウィンの時代のイギリスでは、多くの人々はキリスト教を信仰していましたが、当時のキリスト教では、「種は神様によって作られたものであり、変化することはない」と教えられていたからです。

「種の起源」の中で、ダーウィンは「ヒトの進化」については触れていませんが、種が進化するという主張は、当然「ヒトも進化によって生まれた」ということを意味する訳です。「ダーウィンが、ヒトはチンパンジーから進化したと主張している」と当時の雑誌の風刺漫画でからかわれたこともありました。しかし、ダーウィン自身は、ヒトがチンパンジーから進化したとは述べていません。ダーウィンの主張は飽くまでも、「ヒトとチンパンジーは同じ祖先から進化した」ということです。ヒトとチンパンジーが共通祖先から分岐したのが600万年ほど前ですが、そこから現在まで、チンパンジーも同じように進化を続けてきたのです。これからチンパンジーがヒトに進化することはありませんし、ヒトがチンパンジーに変化することもありません。ダーウィンの「種の起源」は、非専門家向けに読みやすく書かれていたので、多くの言語に翻訳され、一般民衆の幅広い関心を集めました。また、当時の生物学の根本をなす「宗教的信念」を否定したため、様々な分野の研究者の関心を引き付け、主要な科学のテキストとして用いられるようにもなりました。

 

ダーウィンによる進化論とその後の進化論|株式会社バイオーム

.12  1871年にイギリスの雑誌に載ったダーウィンをからかった風刺漫画

 

ダーウィンの自然選択説は、とてもシンプルな仮説です。「同じ生物種内で生存競争が起きたとき、生存と繁殖に有利な個体はその性質を多くの子孫に伝え、不利な性質を持った個体の子孫は少なくなる」というだけのことです。生物は自然選択によって自動的に、目の前の環境に適応するように進化します。例えば、気候が暑くなったり寒くなったりを繰り返すとしましょう。その場合、生物は暑さへの適応と寒さへの適応を、何度でも繰り返すことでしょう。論理的に矛盾はないので、あとは「実際の生物が本当にそのように進化しているかどうか」だけが問題でした。これを調べるのはなかなか難しかったのですが、20世紀になって、はっきりした証拠がいくつか出てきました。

証拠の1つは、ガラパゴス諸島のフィンチについて行われた研究です。島ごとに毎年種子の固さとフィンチのくちばしの厚さを調べた結果、環境の変化により種子の平均的な固さが変化すると、次の年のフィンチのくちばしは、それに適応的な形で変化するということが分かりました。その原因が、「種子の固さに適さない鳥が死にやすいから」ということも分かっています。まさに、「自然環境が変化し、それに適したものだけが生き残ることによって、適応進化が起こる」ことが示されたのです。その後も、いくつかの生物で環境に合わせた進化が起こっていることが示され、今では自然選択の存在を疑う人は、少なくとも進化生物学者の中にはほとんどいなくなりました。

生物がこの世に誕生してから、38億年だといわれています。地球には、素晴らしい生物があふれています。小さな細菌から高さ100 mを超す巨木、豊かな生態系を育む土壌を作る微生物、大海原を泳ぐクジラ、空を飛ぶ鳥、そして素晴らしい知能を持つ私たち。生物は、遺伝と変異を持つシステムとして生まれ、環境の中で生きてきたものです。そうであるならば、今存在する生物はすべて38億年の間、変化する環境に対して適応を続けてきたということになります。どれか1つの生物が優れていることはありません。皆同じように進化したのであり、進化の仕方がそれぞれ違っているだけなのですから。

 

(3) エピジェネティクスとは何か?

 遺伝形質の発現は、これまではDNAに記録されている遺伝情報が現れた結果とされてきました。つまり、「遺伝形質の変化」とは、「遺伝情報の変化」のことであり、その記録媒体である「DNAの塩基配列の変化」が原因と考えられていました。しかしながら、先天的には同じ遺伝情報、つまり同じDNAの塩基配列であっても、細胞レベルあるいは個体レベルの形質が異なる例もいくつか知られていました。例えば、一卵性双生児やクローン動物、挿し木や地下茎などの栄養生殖で増殖した植物は、遺伝情報が全く同一にもかかわらず、個体間に違いが見られることがあります。このような例は、環境と遺伝の相互作用によって主に説明がなされていましたが、細胞がどのように環境の違いを認識し記憶するのか、個体レベルでどのように差が生じるのかは、遺伝子機能の面からは明らかにされない部分がありました。

 

ジャガイモ 早めの収穫 | ジャガイモ栽培.com

.13  ジャガイモは地下茎で増える野菜である

 

 そして1942年、イギリスの生物学者であるコンラッド・H・ウォディントンは、環境と遺伝の相互作用を説明するために「エピジェネティクス(epigenetics)」という用語を作成しました。エピジェネティクスは、「エピ(ギリシア語:επί えた)」と「ジェネティクス(英語:genetics遺伝学)」との合成語と見ることができます。その後、エピジェネティクスは、「DNAの塩基配列の変化を伴わない後天的な遺伝子制御の変化」を主な対象とした研究となり、獲得形質が個体の世代を超えて受け継がれる「エピジェネティック遺伝」の例も見出され、人口に膾炙するようになりました。現在では、DNAの塩基配列の変化とは独立した、食生活やストレスなどの環境要因によって変化する後天的な遺伝子変化のことを「エピジェネティクス」と呼んでいます。

 

CH Waddington

.14  コンラッド・H・ウォディントンは、システム生物学やエピジェネティクスの基礎を築いた生物学者である

 

 エピジェネティクスは、「DNAのメチル化」および「ヒストンのアセチル化」などによって引き起こされることが分かっています。最も研究されているのは「DNAのメチル化」です。DNAが持つ4種類の塩基(アデニン・チミン・グアニン・シトシン)のうち、メチル化が起きるのはシトシンです。シトシンがメチル化されると、シトシンにメチル基(-CH3)が結合してメチルシトシンになります。このメチルシトシンが5番目の塩基となって、情報を伝えるのです。このDNAのメチル化の一部は、精子や卵子などの生殖細胞でも起こるので、次の世代にも伝わる遺伝情報を変化させます。例えば、セイヨウタンポポを低栄養状態にすると、DNAのメチル化状態が変化します。すると、次の世代のセイヨウタンポポのDNAは、たとえ低栄養状態にしなくても、前の世代と同じようなメチル化状態になることが報告されています。情報量としてはDNAの塩基配列が一番多いのですが、エピジェネティクスも遺伝情報を担っているのです。しかも、エピジェネティクスは環境によって変化させることができます。

 

.15  シトシンとメチルシトシンの構造式

 

 なぜ生物には、エピジェネティクスというDNAの塩基配列とは独立した遺伝情報を伝える仕組みがあるのでしょうか?それは、刻一刻と変化する周りの環境に対して、適応性をより高めるためだと思われます。例えば、祖父の代に当たるマウスにカロリー過多のエサを与えて育てると、体脂肪率が1.2倍の肥満体マウスになります。次に、その子供にはカロリーの少ない通常のエサを与えます。それにも関わらず、子供の体脂肪率は1.7倍にまで増加しました。さらに孫の代も、通常のエサを与えているにも関わらず、体脂肪率は1.2倍まで増加したのです。最近の研究によると、太った男性では、食欲を増したり脂肪を溜めたりする遺伝子の変化が、精子のDNAの中で起こっていることが分かりました。人類の祖先は長い間、いつ飢餓に襲われるか分からない状態にいて、食べられるときにできるだけ食べておいた方が、生き残りに有利でした。そのため、周りの環境に食料がどのくらいあるのかという情報を、次の世代に伝える仕組みが備わっているものと考えられます。「今は食料が豊富な千載一遇のチャンスだから、たくさん食べてエネルギーを体脂肪として蓄えておき、その後の飢餓に備えなさい」と、情報をエピジェネティクスによって子孫に引き継ぐのです。

 さらに、エピジェネティクスに関する最新研究として、「恐怖の経験が遺伝する」という驚きの報告があります。この研究では、まず祖父の世代に当たるマウスに、ある特定の匂いを嗅がせた直後に電気刺激を与え、匂いと恐怖の経験をレスポンデント条件付けしました。つまり、特定の匂いを嗅いだだけで恐怖の経験が想起されるように学習させた訳です。すると、祖父のマウスはあらかじめ危険を察知するため、その特定の匂いを感知する「嗅覚に関わる遺伝子」にエピジェネティックな変化が生じました。そして、それが子供や孫の世代にまで引き継がれて、同じ匂いを少し嗅いだだけでも、身をすくめて怖がるようになったというのです。これも、「危険についての情報」を次の世代に伝えることで、生存に有利になるということなのではないかと考えられています。今までに確かめられた事実からすると、食事や運動などの経験の一部が、エピジェネティクスによって子供に受け継がれると考えられています。

 

エピジェネティクス epigenetics | Chem-Station (ケムステ)

.16  エピジェネティクスが存在することにより、生物は環境に適応する能力が高まる

 

 このようなエピジェネティクスによる遺伝は、親が生きている間に獲得した形質が子に伝わったのだから、「獲得形質の遺伝」と見ることができます。獲得形質の遺伝は、フランスの博物学者であるジャン=バティスト・ラマルクなどが主張していましたが、一般には間違いとされてきました。しかし、ある生物におけるエピジェネティックな変化が遺伝することがあることから、「ネオ・ラマルキズム」というラマルクの説に近い立場を取る学説が認められるようになりました。しかし、だからといってラマルクの説が正しいということにはなりません。

 なぜなら、ラマルクの主張した「用不用的」な獲得形質の遺伝が存在する証拠は、現在のところ発見されていないからです。ラマルクは、生物の進化はその生物の求める方向へ進むものと考え、生物の「主体的な進化」を認めていました。しかし、現在までに発見されている獲得形質の遺伝は、すべて環境の変化がきっかけとなり、DNAのメチル化などのエピジェネティクスが起こったことが原因です。エピジェネティックな変化は、遺伝子の突然変異を原因とするものではありませんが、エピジェネティクスの機構そのものは遺伝子の制御のもとにあります。つまり、エピジェネティクスの過程に生物の意思や主体性が発揮されることはありえないのです。エピジェネティクスの解明は、現代の進化論の進展になることはあっても、根本からの転覆とはなりえないでしょう。

 

(4)「遺伝」と「環境」の影響はどちらが強いのか?

生まれてすぐに里子に出された「一卵性双生児」が、39年ぶりに再会しました。1979年の米オハイオ州での出来事です。養親はルイス家とシュプリンガー家で、偶然2人とも同じ「ジェイムズ」という名前を付けられました。それまで一度も会ったことがなかったのに、ジェイムズ・ルイスとジェイムズ・シュプリンガーの間には、様々な類似点がありました。2人ともやや高血圧気味で、半日も続く酷い偏頭痛に悩まされていました。学校の成績はそれほど良くなく、1人は高校1年のときに一度落第、もう1人も落第すれすれの成績を取り続けていました。しかし、類似点はそれだけではありませんでした。この再開を報じた地元紙によれば、2人とも車は「シボレー」を運転し、ヘビースモーカーで銘柄は「セーラム」。改造カーレースが好きで、野球は嫌い。そればかりか、2人とも離婚歴があり、最初の妻の名はどちらも「リンダ」で、2度目の妻はどちらも「ベティ」。一方は長男を「ジェイムズ・アラン(Alan)」、他方は「ジェイムズ・アラン(Allan)」と名付けました。さらに、飼い犬の名前はどちらも「トイ」でした。――これは流石に話ができ過ぎていますが、別々の環境で育てられた一卵性双生児に驚くほど類似点があるという話は、世界各地で報告されています。

 

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.17  別々に育てられた2人のジェイムズには、愛車がシボレーなど様々な共通点があった

 

(i)「共有環境」と「非共有環境」とは?

 1960年代以降、別々の環境で育てられた一卵性双生児は、科学的に極めて貴重な素材として、行動遺伝学者によって徹底的に研究されました。人間の性格や能力を形作る要因には、「遺伝」と「環境」の影響があります。「遺伝」の影響は、双生児や養子の研究などによって統計的に推計可能で、それによって説明できない部分が「環境」の影響です。行動遺伝学者は、別々の環境で育てられた一卵性双生児を比較することで、「遺伝」と「環境」のどちらが人間の性格や能力に強く影響を与えるのか、調べられると思ったのです。

 「一卵性双生児」は、同じ受精卵が初期の段階で2つに分かれ、独立した個体に育ったのだから、両者は完全に同一の遺伝子を共有しています。それに対して「二卵性双生児」は、子宮に2個の受精卵が着床して生まれ、通常の兄弟姉妹と同じく、平均して50%の遺伝子を共有しているだけです。一卵性と二卵性の双生児は、遺伝子の共有比率を別にすれば、他の条件(出生前の胎内環境から、生まれたあとの家庭環境まで含めて)はほとんど同じです。行動遺伝学では、このような成育環境を「共有環境」といい、双生児を「似させようとする環境」のことです。だとすれば、遺伝子が100%同じ一卵性双生児と、遺伝子が50%同じ二卵性双生児のデータをたくさん集めて、もし一卵性の方がよく似ていたとすれば、それは「遺伝」の影響があることを示したことになります。そして、一卵性と二卵性の類似性の差が大きければ大きいほど、その分だけ「遺伝」の影響が大きいということができるはずです。

 

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.18  一卵性双生児は、両者とも完全に同一の遺伝子を有している

 

行動遺伝学者は、卵性と二卵性の双生児を比較する(この手法を「双生児法」といいます)ことで、人格や能力の形成についての重要な事実を発見しました。こうした行動遺伝学における「双生児法」によれば、身長や体重、指紋の数など量的な大小にかかわる項目は、二卵性に比べて一卵性の類似度が極めて高いです。双生児の「成育環境」は同じなのだから、類似性の差は「遺伝の影響」によるものと考える他ありません。類似性は相関係数で表され、1が完全に同一で、0が全く無関係ということです。例えば、体重の相関係数を調べると一卵性が0.8、二卵性が0.4となります。この21という比率は、一卵性が遺伝子の100%を共有し、二卵性が50%しか共有しないことに対応しています。つまり、「遺伝の影響」を、「環境の影響」をとすれば、次のような連立方程式が立てられます。

 

 

 これを解くととなり、家族間の体重の類似性は、「遺伝の影響」だけで完全に説明できるということになります。同じものを食べたり、似たような生活習慣を持ったりといった「共有環境」の影響は、体重には無関係なのです。しかし、これは「体重のすべてを遺伝で説明できる」ということではありません。一卵性双生児の相関係数が0.8なのは、2人の体重はよく似ているが、全く同じではないからです。この違いは、お互いが「異なる環境」から異なる影響を受けていることによります。例えば、親が2人を別々の学校に通わせれば、給食の内容が異なり、それが体重に影響するかもしれません。行動遺伝学では、このような独自環境を「非共有環境」といい、2人を「異ならせようとする環境」のことです。この「非共有環境」の影響が大きければ、「遺伝子」や「共有環境」が同じ一卵性双生児でも、違いが現れてきます。

 

心がざわつく遺伝の真実】知らないと損する行動遺伝学の興味深い研究 - AKIBLOG

.19  「非共有環境」は、友達関係などの兄弟が別々に体験する環境のことである

 

 体重の家族的な類似性は「遺伝的な要因」でほとんどが決まり、家庭での食生活などの「共有環境」の影響はなく、体重の違いは「非共有環境」によってもたらされます。すなわち、体重に与える影響は「遺伝が80%、共有環境が0%、非共有環境が20%」です。同様の手法で、一般知能や学業成績、胃潰瘍や高血圧などの病気、情緒障害、自閉症、アルツハイマー、統合失調症などの精神疾患・発達障害について、どれくらい遺伝が影響しているかを調べることができます。その結果を見ると、すべての項目で一卵性の類似度は二卵性を上回っていますが、その「似ている度合い」はかなり異なります。

 

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.20  身体面および病理面における双生児の類似性

 

 例えば、胃潰瘍は遺伝的な影響が見られるものの、一卵性の類似度が二卵性よりも極端に高い訳ではありません。一方で、一般に遺伝的な影響が強いと考えられているガンは、胃潰瘍と比べて双生児類似性がずっと低いです。これは、ガンを引き起こすのが「ガン遺伝子」だとしても、それが発現するかどうかは「環境」によることを示しています。環境で発病が決まるのなら、親族にガンが多い「ガン家系」だとしても、食事や生活習慣に配慮することで、予防は可能です。今後、双生児研究がさらに進展すれば、「ガンにならない生活」がどのようなものか分かってくるかもしれません。このように行動遺伝学は、私たちの生活の改善に大きな可能性を秘めています。

 さらに、行動遺伝学における双生児研究は、「心理面の遺伝」についても重要な事実を明らかにしました。一卵性と二卵性の双生児の比較では、その影響は身体的な病気と同じか、それよりも大きく、自閉症や情緒障害といった発達障害は、身長や体重よりも「遺伝の影響」が大きいのです。もちろん、心理面のすべてが遺伝する訳ではありません。例えば、宗教性には一卵性と二卵性の違いがほとんどなく、どの宗教を信じるかは遺伝ではなく、「共有環境」で決まることを示しています。すなわち、親がキリスト教徒なら、その子供もキリスト教を信仰する可能性が高いのです。同様に、言語も「共有環境」の影響が大きいですが、これは子供が親の話す言葉を真似るからです。

 

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.21  心理面における双生児の類似性

 

 けれども、宗教や言葉などを除き、知能や性格に家庭環境や子育てのような「共有環境」の影響が見られないのはなぜでしょうか。外向性や調和性、神経症傾向など様々な一卵性双生児のパーソナリティの特徴を、一緒に育てられた場合と別々に育てられた場合で比較した研究があります。それによると、同じ家庭で育った(共有環境が同じ)双生児の相関の平均は0.49で、異なる環境で育った(共有環境が異なる)双生児の平均は0.5でした。家庭環境や子育てが性格に影響するなら、同じ家庭で育った双生児の方がよく似ていなければなりません。しかし、この差は統計的に全く意味がなく、「一卵性双生児の性格は、育った家庭に関わらず同じぐらいよく似る」ということを示しています。性格の相関係数が0.5ということは、性格の半分が「遺伝」で決まり、残りの半分は「環境」で決まるということになります。しかし、ここで言う「環境」は、家庭環境や子育てなどの「共有環境」ではないのです。

 

DNAに埋め込んだマルウェアがコンピュータを攻撃--米で実験に成功 - CNET Japan

.22  性格の半分は「遺伝子」で決まる

 

(ii)「遺伝」と「環境」の関係

次の表.1は、これまでの様々な双生児研(1958年から2012年までの2,748件の研究)基づいて、「遺伝」と「環境」の関係をメタ分析したものです。メタ分析は、過去に独立に行われた複数の研究を統合し、1つの研究であるかのように解析する手法で、個別研究よりもはるかに信頼性の高いエビデンスとされます。1つの研究結果は、それとは異なる別の研究結果で否定できますが、メタ分析を否定するには、学問分野全体を覆さなければなりません。ここで紹介するのは、行動遺伝学の中で最も大規模なメタ分析の1つです。

行動遺伝学では、「構造方程式モデリング」という手法を使って、「遺伝」・「共有環境」・「非共有環境」の三要素が、それぞれどの程度の割合で影響するかを表します。行動遺伝学の最も驚くべき知見は、ほとんどの項目で「遺伝」の影響がずっと大きいということではなく、「共有環境」の影響がほとんどゼロに近いということです。日本だけでなく世界中で、「子供の人生は子育ての巧拙によって決まる」と当然のように信じられています。しかし、行動遺伝学は、この常識が極めて疑わしいとの膨大な知見を積み上げてきました。ほとんどの研究で、パーソナリティにおける共有環(家庭環境や子育て)の影響は、遺伝や非共有環境と比べてかなり小さいのです。

.1によると、「遺伝」の影響は、あらゆるところに及んでいます。その遺伝率は、音楽的才能の92%から言語性知能の14%まで様々です。しかし、それ以上に驚かされるのは、ほとんどの項目で「共有環境」の影響がゼロ(測定不能)とされていることです。例えば、論理的推論能力や一般知能において、「共有環境」の寄与度はゼロです。音楽、美術、数学、スポーツ、知識などの才能も、やはり「共有環境」の寄与度はゼロです。家庭環境や子育てが子供の認知能力に影響を与えるのは、子供が親の言葉を真似る言語性知能だけです。こうした結果は、学習だけでなく、性格でも同じです。人格を新規性追求、損害回避、報酬依存、固執、自己志向、協調、事故超越に分類して、遺伝と環境の影響を調べると、「遺伝率」は3050%程度で、残りはすべて「非共有環境」で説明できます。同様に、自閉症やADHD(注意欠陥多動性障害)などの発達障害でも、「共有環境」の影響は計測できないほど小さいです。さらに、男らしさ(男性性)や女らしさ(女性性)といった性役割にも、「共有環境」は何の影響も与えていません。

 

.1  「遺伝」と「環境」の関係

 

 

遺伝率

共有環境

非共有環境

認知能力

学業成績

55%

17%

29%

論理的推論能力

68%

31%

言語性知能

14%

58%

28%

空間性知能

70%

29%

一般知能

77%

23%

性格

神経症傾向

46

54%

外向性

46

54%

開放性

52%

48%

調和性

36%

64%

誠実性

52%

48%

新奇性追求

34%

66%

損害回避

41%

59%

報酬依存

44%

56%

固執

37%

63%

自己志向

49%

51%

協調

47%

53%

自己超越

41%

59%

才能

音程

80

20%

音楽

92%

8%

美術

56%

44%

執筆

83%

17%

外国語

50%

23%

27%

チェス

48%

52%

数学

87%

13%

スポーツ

85%

15%

記憶

56%

44%

知識

62%

38%

社会的態度

自尊感情

31

69%

一般的信頼

36%

64%

権威主義的伝統主義

33%

67%

性役割

男性性(男性)

40

60%

女性性(男性)

39%

61%

男性性(女性)

47%

53%

女性性(女性)

46%

54%

発達障害

自閉症(親評定・男児)

82

18%

自閉症(親評定・女児)

87%

13%

ADHD

80%

20%

物質依存

アルコール中毒

54%

14%

33%

喫煙(男性)

58%

24%

18%

喫煙(女性)

54%

25%

21%

 

なお、ここでいう「遺伝率」というのは、集団レベルのものであり、個人に当てはめることはできないので、注意が必要です。例えば、「一般知能の遺伝率が77%」というのは、一般知能のうち77%を「遺伝」で説明でき、残りの23%を「環境」で説明できるということです。一般知能の遺伝率が77%ということは、「知能の高い親から77%の確率で知能の高い子供が生まれ、23%の確率で知能の低い子供が生まれる」という意味ではありません。受精はDNAのランダムな組み合わせなので、両親の遺伝的特性から、どのような子供が生まれるのかを事前に知ることはできません。とはいえ、「遺伝率」が高いほど、遺伝的な要因が大きく作用することは間違いありません。

子供が親に似ているのは、「遺伝子」を共有しているからです。心理的形質や身体的形質の両方が、同じように遺伝の影響を受けているということは、一卵性双生児の類似性がことごとく二卵性双生児の類似性を上回ることからも明らかです。子供の個性や能力は、家庭環境や子育てのような「共有環境」ではなく、大部分は子供の「遺伝子」と「非共有環境」の相互作用によって、主に作られていきます。そして、この過程に親はほとんど影響を与えることはできないのです。同じ家庭で育った一卵性双生児でも、見分けが付かないくらいそっくりになることがないのは、どんな子供でもすべての環境を共有する訳ではないからです。子供の個性や能力がどうなるかは、まず「遺伝子」という土台があって、あとは主に「非共有環境」で決定されます。これが膨大な双生児研究から導かれる知見であり、次のような「行動遺伝学の三原則」として要約されています。

 

行動遺伝学の三原則

@ ヒトの行動特性はすべて遺伝的である(遺伝の普遍性)

A 同じ家庭で育てられた影響は遺伝子の影響より小さい(共有環境の希少性)

B 複雑なヒトの行動特性のばらつきのかなりの部分が遺伝子や家族では説明できない(非共有環境の優越性)

 

(5) 子供にとってなぜ「非共有環境」が大切なのか?

 世の中には、たくさんの子育て本が出回っています。「××したときには、もっと褒めるようにしましょう」など、様々な子育てテクニックが紹介されていますが、そうした子育てテクニックの効果は、行動遺伝学の立場から考えると、あまり期待できません。行動遺伝学の研究から導き出された重要な知見の1つは、個人の形質のほとんどは「遺伝」と「非共有環境」から成り立っていて、家庭環境や子育てなどによる「共有環境」の影響はほとんど見られないということです。アメリカの発達心理学者のジュディス・リッチ・ハリスは、子供の人格形成において重要なのは「学校や地元の友達集団」だと述べて、「子育ての努力に意味はないのか」との論争を巻き起こしました。既存の心理学は「幼児期の子育てが子供の性格を作る」ことを当然の前提としてきましたが、ハリスはそれを真っ向から否定したのです。

 

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.23  子育ては、子供の個性や能力にほとんど影響しない

 

 子供たちの人格形成にとって、なぜ「友達集団(ピアグループ)」が重要なのでしょうか?私たち人間の性質や心理を理解するためには、狩猟採集民だった祖先の頭の中に入り込む必要があります。ホモ属の人類は今から200万年前に誕生し、人類はほぼ全歴史を通じて狩猟採集民でした。隆盛を極める進化心理学の分野では、人間の意識や行動は、自然淘汰によって「200万年以上続いた旧石器時代の環境」に最適化されていると考えます。これは、遺伝的な変異が極めてゆっくりとしか起こらないためで、現代人の遺伝子は「旧石器時代の人類」とほとんど変わりません。そう考えれば、私たちは遺伝的に「200万年以上続いた旧石器時代の環境」に最適化されているはずです。

私たちは無意識のうちに、「農耕社会」や「歴史時代」を基準に人間を理解しようとしますが、農耕が始まったのは1万年ほど前で、歴史に至っては2年程度しか遡れません。こうした年月は、私たちの祖先が狩猟と採集をして過ごした膨大な時間と比べれば、ほんの一瞬に過ぎません。人類の歴史のうちの200万年は「旧石器時代」であり、私たちの現在の社会的特徴や心理的特徴の多くは、農耕以前のこの長い期間に進化しました。旧石器時代における人類の祖先は、血縁関係を中心とした小集団を形成し、食料を求めて非定住生活を送っていたと考えられています。このような環境を、進化心理学では「進化適応環境」と呼んでいます。

 

.24  ホモ属の人類は今から200万年前に誕生した

 

人類史で「子育て」の大切さが強調されるようになったのは、核家族化が進み、教育が将来の成功を左右するようになった近代以降です。それ以前の子供たちは、世帯主の兄弟姉妹の家族と同居するなどの大家族で育ち、親は教育のことなど気にかけていませんでした。行動遺伝学における双生児研究で分かったことは、親が「子育て」によって自分の子に影響を与えられることは、言語性知能やアルコールとタバコの依存症ぐらいであるということです。人間の赤ん坊は、旧石器時代の進化適応環境を生き延びるための「戦略プログラム」を持って生まれてきます。両親と子供だけの核家族で育ち、幼稚園・保育園で幼児教育を受け、小中高校から大学まで勉強し続けるようプログラムされている訳ではないのです。

 

.25  タバコの依存症は親の影響を受けるとされている

 

 社会的な動物であるヒトが他の哺乳類と大きく異なるのは、無力な乳児期が極めて長いことです。生後少なくとも1年間は、母親が集中的に養育し、授乳しないと死んでしまいます。そして、母親はまた次の子を得ようと思っても、また10カ月の妊娠期間を必要とします。母親は胎内で子供をかなりの大きさまで育てる上、産まれた子供をさらに哺乳して育てるなど、繁殖に大きなコストを払っているから、産まれた子供をできるだけ大切に育てようとするはずです。進化論的に言えば、これが子供に母親が強い愛情を抱く理由です。しかし、その一方でその子供には兄や姉がおり、授乳期間が終わればまた妊娠できるから、兄弟姉妹の1人だけ手間をかける訳にはいきません。母親の進化論的な最適戦略は、できるだけ多く子供を生み、成人させていくことです。旧石器時代は、乳幼児の死亡率が極めて高かったから、1人か2人の子供にすべての子育て資源を投入する核家族型の戦略はあり得ませんでした。日本でも戦前までは、兄弟姉妹が10人近くいる大家族が珍しくなかったのです。

 

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.26  戦前までは、日本では大家族は珍しくなかった

 

 旧石器時代の進化適応環境では、母親は新しく生まれた赤ん坊に手がかかるから、授乳を終えた子供を以前と同じように世話することができません。旧石器時代の生活環境がどの程度厳しいものであったかは諸説ありますが、集落の近辺での木の実などの採集をするのも女性の仕事だったから、子育てに割ける時間は限られていたでしょう。こうした条件を考慮すれば、授乳期を終えた子供は、親の世話がなくても生きていけるように、予めプログラムされているはずです。もちろん、2歳や3歳の子供が、自分一人で生きていけるはずがありません。親が新しく生まれた弟妹の世話をしなければならないのなら、誰かがそれを補わなければなりません。旧石器時代の人々は、部族の集落で暮らしており、それができるのは兄姉か年上のいとこたちしかいません。

 旧石器時代の進化適応環境においては、授乳期を終えた子供は集落の一角で、兄姉やいとこたちと一緒に長い時間を過ごしてきたはずです。両親は、食事や寝る場所などの最低限の生活環境を提供してくれるだけです。つまり、子供にとって死活的に重要なのは、親との会話ではなく、子供たち同士のコミュニケーションなのです。子供時代のことを思い出せば、誰でも同意するでしょうが、親の影響が大きいのは幼少期までで、小学年高学年になれば友達との付き合いの方が大事になり、思春期を過ぎれば親の説教などどうでもよくなるものです。このように考えれば、子供の成長に当たって、家庭環境や子育てなどの「共有環境」の影響がほとんど見られない理由が分かります。思春期を迎えるまでは、この「友達の世界(非共有環境)」が子供たちにとってすべてなので、家庭での約束よりも友達集団との約束が重視されるようになります。子供が親に反抗するのは、そうしなければ仲間外れにされ、文字通り「死んで」しまうからです。

 

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.27  子供にとって大事なのは、親との会話でなく子供たち同士のコミュニケーションである

 

 子供は友達集団という「非共有環境」の中で、自分を集団と一体化すると同時に、集団の中での役(キャラクター)を決めて、自分を目立たせるという複雑なゲームをしています。アメリカの発達心理学者であるジュディス・リッチ・ハリスは、「非共有環境とは子供集団の中での役割のことだ」と述べています。子供たちは皆、グループの中で目立てるように、自分が得意なことをやろうとします。それはスポーツであったり、歌やダンスであったり、勉強だったりするかもしれませんが、そうした才能は「遺伝」の影響を強く受けています。子供のパーソナリティは、遺伝的な要素を土台として、友達関係(非共有環境)の中で作られていくのです。近年の行動遺伝学の研究によると、遺伝の影響は年齢を重ねるごとに増加していくことが分かっていますが、これは遺伝的な要素がパーソナリティの土台となっているためでしょう。このように考えると、別々に育てられた一卵性双生児がなぜよく似ているのか、その理由が分かります。一卵性双生児は、全く同一の遺伝子を持っているのだから、たとえ別々の家庭で育ったとしても、同じような友達関係(非共有環境)を作り、同じような役割を選択する可能性が高いでしょう。遺伝的な適性と非共有環境が同じなら、その相互作用によって、瓜二つのパーソナリティができ上がったとしても、何ら不思議もありません。

 

Judith Rich Harris: against nurture

.28  ジュディス・リッチ・ハリスは、親は子の発達にとって最も重要な要因であるという信念を批判し、論争を巻き起こした

 

 家庭環境や子育てが重要でないとすれば、親が子供に対してやれることは、どんなことがあるでしょうか?友達関係(非共有環境)が子供の人生に決定的な影響を及ぼすのならば、親の一番の役割は、子供の持っている「才能の芽」を摘まないような環境を与えることです。子育て本のパターン通りに、誰にでも当てはまる教科書のような関わり方をするのではなく、自分が経てきた経験に根差す価値観に基づいて、子供の中にある形質を見つけるよう、努力することが大切です。子供の知的能力を伸ばしたいになら、よい成績を取ることがいじめの理由にならない学校(非共有環境)を選ぶべきです。同様に芸術的才能を伸ばしたいのなら、風変わりでも笑いものにされたり、仲間外れにされたりしない環境が必要でしょう。しかし、有名校に子供を入れたとしても、そこでどのような友達関係を選び、どのような役割を演じるかに、親が介入することはできません。子供は無意識のうちに、自分の遺伝的な特性を最大限に活かして目立とうとしますが、それは多分に偶然に左右されるのです。

複雑系においては、初期値を少し変えただけでも、全く違った結果を生み出すようになります。人間の観測には必ず誤差が生じるため、完全に正確な初期状態を知ることはできません。その初期状態に存在する誤差が、時間経過に従って大幅に増幅され、無視できないほど大きな差を生むと指摘したのが、気象学者のエドワード・ローレンツでした。物理現象を完全に解明しても、未来を予測することができないのはこのためで、「ブラジルで蝶が羽ばたくと、テキサスで竜巻が起こる」という寓意的な言い換えが「バタフライ効果」です。人格形成期の遺伝と環境の関係も、それに似ているかもしれません。スポーツが得意でも、友達グループの中に自分よりずっと野球の上手い子がいれば、別の競技(サッカーやテニス)が好きになるでしょう。たいして歌が上手くなくても、友達にいつも褒められていれば、歌手を目指すようになるかもしれません。最初はわずかな遺伝的適性の差しかないとしても、友達関係の中でその違いが増幅され、ちょっとした偶然で、子供の人生の経路は大きく分かれていくのです。


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・参考文献

1) 安藤寿康「日本人の9割が知らない遺伝の真実」SBクリエイティブ株式会社(2016年発行)

2) 安藤寿康「行動の遺伝学―ふたご研究のエビデンスから」日本生理人類学会誌22(2),107-112,2017

3) 科学の謎検証委員会「封印された科学実験」彩図社(2016年発行)

4) 竹内薫/丸山篤史 共著「まだ誰も解けていない 科学の未解決問題」株式会社KADOKAWA(2014年発行)

5) 橘玲「言ってはいけない 残酷すぎる真実」新潮社(2016年発行)

6) 橘玲「無理ゲー社会」小学館(2021年発行)

7) 長沼毅「Dr.長沼の眠れないほど面白い科学のはなし」中経出版(2013年発行)

8) 日本博学倶楽部「[決定版] [科学の謎]未解決ファイル」PHP研究所(2013年発行)

9) 長谷川英祐「面白くて眠れなくなる生物学」PHP研究所(2014年発行)

10) 山口幸夫「理科がおもしろくなる12話」岩波書店(2001年発行)

11) Yuval Noah Harari /柴田裕之 訳「サピエンス全史(上)―文明の構造と人類の幸福」河出書房新社(2016年発行)