・フィッシャーのエステル化反応
【目次】
(1) 実験操作
@ 200 mLビーカーに水を7分目程度まで入れ、ガスバーナーで約80℃程度に加熱する。
A 50 mLビーカーに2%炭酸水素ナトリウム水溶液を約30 mL入れる。
B 約2 mLのエタノールと約1 mLの酢酸を試験管に入れる。
C Bの試験管に濃硫酸を約0.3 mL(6滴程度)加えて、少し振り混ぜる。
D
Cの試験管を約80℃の温水に浸して、時々振り混ぜながら、約5分間加熱する。
E 反応が終わったら、流水で試験管の周りを冷やす。
F Eの試験管にAの炭酸水素ナトリウム水溶液を駒込ピペットで約5 mL加え、よく振り混ぜる。
G Fの試験管を静置させて、液が二層に分かれるのを待つ。
H Gの試験管の上の層(油層)だけを注意深く駒込ピペットで少量取り、シャーレに移す。
I 移し終わったら、生成物の香りをかいでみる。(リンゴ、バナナ、洋ナシ、パイナップルのいずれかの臭いがする)
J 別のアルコールとカルボン酸で、手順B〜Iを繰り返す。
表.1 実験で用いるアルコールとカルボン酸の組み合わせ
組み合わせ |
アルコール |
カルボン酸 |
I |
エタノール C2H5OH |
酢酸 CH3COOH |
II |
ペンタノール C5H11OH |
酢酸 CH3COOH |
III |
メタノール CH3OH |
酪酸 C3H7COOH |
IV |
ペンタノール C5H11OH |
酪酸 C3H7COOH |
(2) 理論
カルボン酸の多くは、一般的に強い悪臭を持ちます。例えば、酢酸CH3COOHは食酢の刺激臭を持ち、酪酸C3H7COOHは腐ったバターまたは銀杏の悪臭を持ちます。また、アルコールの多くは、一般的に「鼻を突く」と形容される臭気を持ちます。しかしながら、任意のカルボン酸とアルコールを縮合させたエステルは、心地よい芳香を持つようになるため、香水や香料としての用途があります。例えば、低分子量のエステルは、心地よい果実臭を持ち、ギ酸エチルHCOOC2H5はパイナップル、酢酸プロピルCH3COOC3H7はバナナの芳香を持ちます。
エステルRCOOR’は、カルボン酸RCOOHの誘導体であり、ヒドロキシ基(-OH)の水素原子Hが、アルキル基R’に置き換えられています。カルボン酸RCOOHとアルコールR’OHを、濃硫酸H2SO4などの酸触媒存在下で加熱すると、エステルRCOOR’と水H2Oが生成し、反応物との間に平衡反応が成立します(有機反応機構(カルボン酸とその誘導体の反応)を参照)。この反応は、1895年にドイツの化学者であるエミール・フィッシャーによって報告されたので、「フィッシャーのエステル化反応(Fischer esterification)」と呼ばれています。この反応では、硫酸H2SO4から生じる水素イオンH+ が触媒として働くとともに、生成する水H2Oが濃硫酸H2SO4の脱水作用によって反応系から除かれるので、図.1の平衡がより右側へ進められます。
図.1 フィッシャーのエステル化反応
この反応は、混合物の状態で平衡に達するため、エステルを高い収率で得ることは、一般的に難しいです。そこで、カルボン酸かアルコールのどちらかの反応物を過剰量反応させたり、水を系外へ除去させたりすることで、平衡をエステル側へ偏らせる手法がとられます。この実験では、アルコールを過剰量入れることで、平衡をエステル側に偏らせています。
(3) 結果
実験で用いたカルボン酸とアルコールの臭気を、次の表.2に示します。酪酸は特に臭気が強いので、衣服に付かないように、十分注意して取り扱いましょう。
表.2 実験で用いたカルボン酸とアルコールの臭気
試薬 |
臭気 |
酢酸 CH3COOH |
お酢 |
酪酸 C3H7COOH |
銀杏、足の悪臭 |
メタノール CH3OH |
かすかなアルコール臭 |
エタノール C2H5OH |
消毒液 |
ペンタノール C5H11OH |
青臭いアルコール臭 |
また、実験で生成したエステルの芳香を、次の表.3に示します。この実験は定量的なものではないので、操作Hでは、エステル層だけを注意深く取るようにしましょう。
表.3 実験で生成したエステルの芳香
用いたカルボン酸 RCOOH |
用いたアルコール R’OH |
生成したエステル RCOOR’ |
エステルの芳香 |
酢酸 CH3COOH |
エタノール C2H5OH |
酢酸エチル CH3COOC2H5 |
パイナップル |
酢酸 CH3COOH |
ペンタノール C5H11OH |
酢酸ペンチル CH3COOC2H5 |
バナナ |
酪酸 C3H7COOH |
メタノール CH3OH |
酪酸メチル C3H7COOCH3 |
リンゴ |
酪酸 C3H7COOH |
ペンタノール C5H11OH |
酪酸ペンチル C3H7COOC5H11 |
洋ナシ |