・コロイドの性質
【目次】
[実験1:水酸化鉄(III)コロイド溶液の生成]
@ 100 mLビーカーに純水50 mLを入れ、ガスバーナーで加熱して沸騰させる。
A 試験管に塩化鉄(III)六水和物FeCl3・6H2O 0.27 gを取り、純水を少量加えて溶かす。
B 沸騰水の中にAの塩化鉄(III) FeCl3水溶液を加え、すぐに火を止める。
C 生成した水酸化鉄(III)コロイド溶液の色と、コロイド粒子を肉眼で見ることができるかどうか観察する。
図.1 赤褐色の水酸化鉄(III)コロイド溶液
[実験2:疎水コロイドの凝析]
D 50 mLビーカーに塩化ナトリウムNaCl 1.17 gを取り、純水を20 mL加え、1.0 mol/L塩化ナトリウムNaCl水溶液を作る。また、別の50 mLビーカーに硫酸ナトリウムNa2SO4 0.71 gを取り、純水を10 mL加え、0.50 mol/L硫酸ナトリウムNa2SO4水溶液を作る。
E 2本の試験管に、Cの水酸化鉄(III)コロイド溶液を駒込ピペットで約5 mLずつ取る。
F 一方の試験管に、1.0 mol/L塩化ナトリウムNaCl水溶液を駒込ピペットで1 mLずつ加えていき、合計何mLで液が濁ったかを記録する。
G もう一方の試験管にも、0.50 mol/Lの硫酸ナトリウムNa2SO4水溶液を駒込ピペットで1 mLずつ加えていき、合計何mLで液が濁ったかを記録する。
[実験3:コロイドのチンダル現象]
H 部屋を暗くして、試験管に水酸化鉄(III)のコロイド溶液を取り、強い光束(レーザー光線など)を当ててみる。同様に塩化ナトリウムNaCl水溶液などでも行い、比較・観察する。
(2) 理論
沸騰水に少量の塩化鉄(III) FeCl3の飽和水溶液を加えると、次のような加水分解反応が起こり、赤褐色の水酸化鉄(III)のコロイド溶液が得られます。これは、沸騰水との反応では、高温のために加水分解反応が急激に進み、液中に多量にできた水酸化鉄(III)の小さな結晶核が、大きな沈殿粒子まで成長せずに、コロイド粒子の大きさで成長がストップしてしまうからです。水酸化鉄(III)は、化学式ではFe2O3・nH2Oと表され、n=1のFeO(OH)やn=3のFe(OH)3などの混合物です。化学反応式としては、次の反応が分かりやすいです。
FeCl3 + 3H2O → Fe(OH)3 + 3HCl
上式中のFe(OH)3が生成したコロイド粒子ですが、多数が集合してコロイド粒子の大きさになったものと考えられるので、上式を下式のように書くこともあります。この式では、[Fe(OH)3]xが生成したコロイド粒子を表していますが、実際の組成はもっと複雑なものです。なお、このコロイドは、溶液中の水素イオンH+ または鉄(III)イオンFe3+ が表面に吸着しているので、正に帯電した「疎水コロイド(hydrophobic colloid)」になっています。
xFeCl3 + 3xH2O → [Fe(OH)3]x + 3xHCl
このようにして作った水酸化鉄(III)のコロイド溶液には、水酸化鉄(III)のコロイド粒子の他、不純物として水素イオンH+ や塩化物イオンCl- が含まれます。コロイドを精製するには、生じたコロイド溶液を半透膜であるセロハン袋に入れて、流水中に浸して、「透析(dialysis)」を行います。すると、水素イオンH+ や塩化物イオンCl- は、拡散の原理に従ってセロハン膜を通過して出ていきます。しかし、水酸化鉄(III)のコロイド粒子は、大きいために半透膜を通過できず、セロハン膜内に留まることになります。この操作によって、水酸化鉄(III)のコロイドを、セロハン袋中に精製できます。
(3) 結果
水酸化鉄(III)のコロイドは疎水コロイドなので、少量の電解質を加えると、「凝析(precipitation)」が起こります。2本の試験管を用意し、作成した水酸化鉄(III)のコロイド溶液を5 mLずつ取ります。そして、一方には1.0 mol/Lの塩化ナトリウムNaCl水溶液を、もう一方には0.50 mol/Lの硫酸ナトリウムNa2SO4水溶液を1 mLずつ加えていき、どちらが凝析を起こしやすいのかを、今回の実験では調べました。
すると、塩化ナトリウムNaCl水溶液の方は、20 mL加えても凝析は起こりませんでしたが、硫酸ナトリウムNa2SO4水溶液の方は、1 mL加えたところで凝析が起こりました。これは、水酸化鉄(III)のコロイドが「正コロイド(positive colloid)」であり、凝析が起こるときに陰イオンの影響を強く受けるからです。正コロイドを凝析させるとき、二価の陰イオンは一価の陰イオンの数十倍、三価の陰イオンは一価の陰イオンの数百倍の凝析力を持ちます。
図.2 塩化ナトリウムNaCl(左)は凝析が起こりにくいが、硫酸ナトリウムNa2SO4(右)は凝析が起こりやすい
また、コロイド溶液に横から強い光束を当てると、「チンダル現象(Tyndall effect)」が起こって、光の通路が明るく輝いて見えます。これは、コロイド粒子の大きさが光の波長とよく似ていて、その表面で光がよく散乱されるためです。これはコロイドの特性の1つであり、これによりコロイドを見分けることが可能になります。
図.3 「チンダル現象」により、光の通路がはっきりと見える
・参考文献
1) 卜部吉庸「化学の新研究」三省堂(2013年発行)