塩基性にした過酸化水素水と塩素の化学発光


【目次】

(1) 実験操

(2)


(1) 実験操作

@ 試験管Aに、薬さじを用いて、さらし粉CaCl(ClO)H2Oを小さじ1杯(約0.03 g)だけ加える。

A 試験管Bに、駒込ピペットを用いて、4 mL 3%過酸化水素水H2O21 mL 6 mol/L水酸化ナトリウムNaOH水溶液を加えて、よく振り混ぜる。

B 試験管Cに、駒込ピペットを用いて、6 mol/L塩酸HClを約0.5 mLだけ量り取る。

C 試験管Aに、試験管Cの塩酸HCl1滴垂らし、塩素Cl2を発生させる。

D 駒込ピペットを試験管Aの底付近まで差し込み、塩素Cl2を吸い込む。このとき、塩酸HClやさらし粉CaCl(ClO)H2Oを一緒に吸い上げてしまわないように注意する。

E Dの駒込ピペットを試験管Bに差し込み、駒込ピペット内の塩素Cl2を吹き込む。化学発光が観察しにくいときは、暗室でこの操作を行うと良い。 

F 以降、CEの操作を、さらし粉CaCl(ClO)H2Oがなくなるまで繰り返す。

塩素Cl2は有毒な気体なので、吸引しないように注意すること。

  試薬の分量を厳守し、必要最低限の塩素Cl2を発生させること。記載されている分量ならば、試験管から塩素Cl2が漏れることはない。

 

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自動的に生成された説明

.1  塩基性にした過酸化水素水H2O2と塩素Cl2の化学発光

 

(2) 理論

 さらし粉CaCl(ClO)H2Oに塩HClを加えると、次のような化学反応が起こって、塩素Cl2が発生します。

 

CaCl(ClO)H2O + 2HCl → CaCl2 + 2H2O + Cl2 ・・・(I)

 

 塩素Cl2は強い毒性を持つ気体ですが、その取扱い方と発生分量に注意すれば、安全に教材として使用することができます。塩素Cl2発生時に注意したいことは、試薬の分量を守り、必要最低限の塩素Cl2を生成することです。この実験で示した分量ならば、試験管から塩素Cl2が漏れることはありません。

さらし粉CaCl(ClO)H2O6 mol/L塩酸HCl1滴加えたときに発生する塩素Cl2の体積を求めてみましょう。まず、1滴の6 mol/L塩酸HClの物質量は、1滴の体積を0.05 mLとすると、次のようになります。

 

 

 式(I)不可逆的に進行する反応なので、反応式の係数比より、発生する塩素Cl2の物質量は、となります。よって、圧力を1.0×105 Pa、温度を27℃、気体定数をR8.3×103 PaL/(molK)とすると、発生する塩素Cl2の体積は、理想気体の状態方程式PVnRTより、次のようになります。

 

 

 一般的な試験管(16.5φ)の容量は20 mLなので、3.7 mL程度の発生量ならば、試験管から塩素Cl2が漏れることはないということが分かります。実験操作Eにおいて、1滴の6 mol/L塩酸HClで生成する塩素Cl2は、1回の吹き込みでほぼ消費されてしまいます。繰り返し発光させたい場合は、さらし粉CaCl(ClO)H2Oに塩酸HClをさらに1滴追加して、塩素Cl2を発生させます。

 今回の実験の化学発光は、塩素Cl2と塩基性にした過酸化水素H2O2を混合することによって起こります。過酸化水素H2O2は、水酸化ナトリウムNaOHで塩基性にすることにより、過酸化水素H2O2の水素イオンH+ が引き抜かれて、ヒドロペルオキシアニオンHO2になります。

 

H2O2 + OH → HO2 + H2O ・・・(II)

 

 一方で、塩素Cl2は、水酸化物イオンOHと反応して、次亜塩素酸イオンClOを生じます。

 

Cl2 + 2OH → ClO + H2O + Cl ・・・(III)

 

 そして、式(II)および(III)から生成したヒドロペルオキシアニオンHO2と次亜塩素酸イオンClOがさらに反応し、酸素O2が生成します。このとき生成する酸素O2は、エネルギーの高い励起状態(一重項酸素O2*)であり、2分子の一重項酸素O2*がエネルギーの低い基底状態(三重項酸素O2)に戻るとき、波長がおよそ630 nmの赤色発光を示すのです。

 

HO2 + ClO → O2* + OH + Cl

2O2* → 2O2 + (630 nm)


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・参考文献

1) 田代敦士「化学発光―身近な薬品を使った化学発光の実験―」化学と教育6510(2017)