・酸と塩基(電離平衡)


(1)酸解離定数や塩基解離定数とは何か?

 ブレンステッドの定義において、酸とはプロトンH+ を他に与える物質であるので、電離度が大きいほど、酸としての強さが大きいと考えられます。そこで、何か1つ塩基を決めて、それに対する電離度を測定すれば、酸としての強さが評価できます。通常、このプロトン受容体の塩基としては、大量の水H2Oを考えます。酸をHAとして、水H2Oと酸塩基反応させると、

 

HA() + H2O(塩基) A- (共役塩基) + H3O+ (共役酸)

 

ところで、この反応は可逆反応なので、逆反応もある程度進行します。つまり、共役酸であるオキソニウムイオンH3O+ が、共役塩基であるA- と酸塩基反応することも当然起こりうることなのです。この反応は、ある程度時間が経過すると、正反応と逆反応の反応速度が等しくなり、やがて平衡となって落ち着きます。このときの正反応の速度をv1、逆反応の速度をv2とすると、

 

v1 = k1[HA][H2O]

v2 = k2[A-][H3O+]

 

そして、平衡状態ではv1= v2が成り立っているので、K= k1/k2とすると、次のような化学平衡の式が導き出せます。

 

 

ここで、平衡状態にある酸HAの水溶液を2倍に薄めたと仮定しましょう。水溶液を2倍に薄めるのだから、[HA], [A-], [H3O+]は、すべて1/2倍になります。ただ、水溶液のほとんどは水H2Oでできているので、[H2O]1000/1856 mol/Lで事実上不変です。

よって、正反応の速度v11/2倍に減少し、一方で、逆反応の速度v21/2×1/2=1/4倍に減少するので、v1>v2となって、もはや平衡ではなくなってしまいます。そこで、この反応は右へ進行し、v1が減少してv2が増加していくうちに、あるところでv1=v2となって、再び平衡状態になります。

すなわち、酸の水溶液を薄めると、平衡は右に移動して、電離度は大きくなっていくのです。このように、電離度は濃度によって変わるので、酸の強さを評価するには、少々問題があります。しかしながら、v1=v2の平衡状態において、[H2O][H2O]56 mol/Lの定数と見なすことができるので、化学平衡の式を変形すると、

 

 

このような温度T において、一定の式を得ることができます。Kaはもちろん酸の濃度によらず一定であると同時に、これが大きければ平衡で右辺の量が多いのだから、酸として電離がしやすいということも分かります。つまり、Kaは酸の強さを表す指標として使うことができるのです。このKaを酸解離定数といい、塩基に対しても同様に定義でき、Kbを塩基解離定数といいます。ただし、KaKb10-x (x>0)となることが多いので、通常はpHの場合と同様に、酸解離定数Kaを負の対数で表したpKa値が使用されることが多いです。

 

pKa = -log10Ka

pKb = -log10Kb

 

このKaならびにpKaの数学的関係が示すように、Kaが大きいか、あるいはpKaが小さいほど、その酸の酸性度は強くなります。次の表.1に代表的ないくつかの化合物のpKa値を示します。一般的に5以下のpKa値を持つ化合物は強酸であるとみなされ、特に0以下のpKa値を持つ化合物は極めて酸性度が強いといえます。

 

.1  代表的ないくつかの化合物のpKa

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また、酸の強度と共役塩基の強度とが、逆の関係にあるということを覚えておくと便利です。すなわち、共役塩基A- が弱い塩基であるほど、その酸HAは強い酸であるということです。例えば、塩化水素HClは強い酸ですが、その理由は、共役塩基Cl- が弱い塩基だからです。共役塩基Cl- H+ に対して、非常に弱い親和性しか持っていないのです。それと同様の理由で、水H2Oは弱い酸であるから、その共役塩基の水酸化物イオンOH- は強い塩基です。共役塩基OH- H+ に対して、非常に強い親和性を持っているといえます。

 

(2)強酸の水溶液の場合

 C mol/Lの塩酸HCl[H+]を求めてみましょう。塩酸HClは強酸で電離度α1なので、C mol/Lの塩酸HClは、水溶液中ですべて電離していると考えて問題ありません。したがって、C mol/Lの塩酸HClからは、C mol/Lの水素イオンH+ が生じることになります。

また、同様に水H2Oの電離も考えられるので、水H2Oから電離する水素イオンH+ a mol/Lとすると、

 

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ただし、Cが十分に大きい条件、すなわちC 10-6 のときは、次のように水H2Oから電離する水素イオンH+ の量を無視して、a0として近似することができます。

 

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このようにC 10-6で近似ができるのは、水H2Oの電離によるaが、無視できるぐらいに小さいからです。例えば、C 10-6 のときはC+a10-6 が必然的に成立します。よって、(C+a)a=10-14 より、a10-8 が成立することになります。つまり、C 10-6 ならばa10-8 となるので、Ca100倍以上大きいということになります。そして、もしC 100aならば、C+aCとしても誤差はそれほど大きくならないので、C 10-6 ならば、水H2Oの電離による水素イオンH+ の量を無視することができるのです。

ただし、強酸を水H2O1000倍以上に希釈するというような特殊な状況でない限り、C <10-6 の希薄酸を扱うということはほとんどないので、C mol/Lの強酸HA[H+]は、通常次のように表すことができます。

 

[H+]=C

※ただしC 10-6 のときに限る

 

(3)強塩基の水溶液の場合

 C mol/Lの水酸化ナトリウムNaOH水溶液の[OH-]を求めてみましょう。水酸化ナトリウムNaOHは強塩基で電離度α1なので、C mol/Lの水酸化ナトリウムNaOHは、水溶液中ですべて電離していると考えて問題ありません。したがって、C mol/Lの水酸化ナトリウムNaOH水溶液からは、C mol/Lの水酸化物イオンOH- が生じることになります。

また、同様に水H2Oの電離も考えられるので、水H2Oから電離する水酸化物イオンOH- a mol/Lとすると、

 

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ただし、Cが十分に大きい条件、すなわちC 10-6 のときは、次のように水H2Oから電離する水酸化物イオンOH- の量を無視して、a0として近似することができます。

 

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また、一般的にはC 10-6 の条件が成立していることが多いので、この場合は、水H2Oの電離による水酸化物イオンOH- の量を無視することができ、C mol/Lの強塩基MOH[OH-]は、通常次のように表すことができます。

 

[OH-]=C

※ただしC 10-6 のときに限る

 

(4)弱酸の水溶液の場合

 C mol/Lの酢酸CH3COOH水溶液の[H+]を求めてみましょう。酢酸CH3COOHは弱酸で電離度α <<1なので、水溶液中では、一部の酢酸CH3COOHが電離して、C mol/Lの酢酸CH3COOHからは、 mol/Lの水素イオンH+ が生じます。酢酸CH3COOHの酸解離定数をKaとすると、

 

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ただし、これは10-6 の条件が成立している場合に限ります。もし<10-6 ならば、水H2Oの出す水素イオンH+ の寄与を無視できなくなってしまうので、[H+]を求める式は、次に示すような3次方程式の解になってしまうのです。これを手計算で解くのは大変困難なので、大学入試レベルでは、通常10-6 の条件が、無条件に成立していると考えて問題ありません。

 

[H+]3 + Ka[H+]2 - (CKa + Kw)[H+] - KaKw = 0

 

また1-α1の近似は、α <<1の場合でしか用いることができません。αがある程度大きくなる条件、すなわちα >0.05(1-α <0.95)のときは、近似を用いずに2次方程式を解いて、αを求めなければなりません。このときの電離度αは、Ka=2/(1-α)において、

 

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この2次方程式の解αは、α >0.05のときの電離度となります。このように電離度が大きくなると、誤差が大きくなって、1-α1の近似が使えなくなるのです。

しかしながら、電離度αが十分に小さい条件(α0.05)なら、1-α1と近似できて、α0と考えて良いので、一般的にはC mol/L弱酸HA[H+]は、次のように表すことができます。

 

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※ただし10-6 かつα0.05のときに限る

 

(5)弱塩基の水溶液の場合

 C mol/LのアンモニアNH3水溶液の[OH-]を求めてみましょう。アンモニアNH3は弱塩基で電離度α <<1なので、水溶液中では、一部のアンモニアNH3が水H2Oと反応して、C mol/LのアンモニアNH3からは、 mol/Lの水酸化物イオンOH- が生じます。アンモニアNH3の塩基解離定数をKbとすると、

 

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ただし、これは10-6 の条件が成立している場合に限ります。もし<10-6 ならば、水H2Oの出す水酸化物イオンOH- の寄与を無視できなくなってしまうのです。もし水H2Oの電離まで考えると、計算が複雑になり、解くのが大変困難となるため、弱塩基の場合も、10-6 の条件が、無条件に成立していると考えて問題ありません。

また1-α1の近似は、α <<1の場合でしか用いることができないので、α >0.05のときは、近似を用いずに2次方程式を解いて、αを求めなければなりません。このときの電離度αは、Kb=2/(1-α)において、

 

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しかしながら、電離度αが十分に小さい条件(α0.05)なら、1-α1と近似できて、α0と考えて良いので、一般的にはC mol/Lの弱塩基MOH[OH-]は、次のように表すことができます。

 

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※ただし10-6 かつα0.05のときに限る

 

(6)弱酸+強塩基の塩が加水分解する場合(弱酸+強塩基の中和点のpOH)

 弱酸+強塩基の中和によって生じる塩は、水H2Oに溶けると、加水分解(hydrolysis)して弱塩基性を示します。

ここで、C mol/Lの酢酸ナトリウムCH3COONa水溶液の[OH-]を求めてみましょう。酢酸ナトリウムCH3COONaは、水溶液中では100%が電離しており、酢酸イオンCH3COO- とナトリウムイオンNa+ とに電離しています。酢酸ナトリウムCH3COONaの加水分解定数をKh、酢酸CH3COOHの酸解離定数をKa、水のイオン積をKwとすると、

 

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ただし、これは10-6 の条件が成立している場合に限ります。もし<10-6 ならば、水H2Oの出す水酸化物イオンOH- の寄与を無視できなくなってしまうのです。もし水H2Oの電離まで考えると、計算が複雑になり、解くのが大変困難となるため、弱酸+強塩基の塩が加水分解する場合も、10-6 の条件が無条件に成立していると考えて問題ありません。

また、加水分解度αは通常α <<1なので、一般的にはC mol/Lの弱酸+強塩基の塩の[OH-]は、次のように表すことができます。

 

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※ただし10-6 のときに限る

 

(7)強酸+弱塩基の塩が加水分解する場合(強酸+弱塩基の中和点のpH)

 強酸+弱塩基の中和によって生じる塩は、水H2Oに溶けると、加水分解して弱酸性を示します。

ここで、C mol/Lの塩化アンモニウムNH4Cl水溶液の[H+]を求めてみましょう。塩化アンモニウムNH4Clは、水溶液中では100%が電離しており、アンモニウムイオンNH4+と塩化物イオンCl- とに電離しています。塩化アンモニウムNH4Clの加水分解定数をKh、アンモニアNH3の塩基離定数をKb、水のイオン積をKwとすると、

 

a.png

 

ただし、これは10-6 の条件が成立している場合に限ります。もし<10-6 ならば、水H2Oの出す水素イオンH+ の寄与を無視できなくなってしまうのです。もし水H2Oの電離まで考えると、計算が複雑になり、解くのが大変困難となるため、強酸+弱塩基の塩が加水分解する場合も、10-6 の条件が無条件に成立していると考えて問題ありません。

また、加水分解度αは通常α <<1なので、一般的にはC mol/Lの強酸+弱塩基の塩の[H+]は、次のように表すことができます。

 

無題.png

※ただし10-6 のときに限る

 

(8)緩衝液

 水H2Oに強酸や強塩基を少量加えると、そのpHは大きく変化します。しかし、酢酸CH3COOHと酢酸ナトリウムCH3COONaの混合水溶液に強酸や強塩基を少量加えても、pHの変化は小さいです。このように、酸や塩基を加えたときにpH変化を小さくする作用を緩衝作用(buffer action)といい、この作用の大きな溶液を緩衝液(buffer solution)といいます。

血液は身近な緩衝液であり、外部から多少の異物が入り込んでも、致命的な影響が生じないようになっているのです。血液は炭酸H2CO3と炭酸水素イオンHCO3- との電離平衡により、緩衝作用を獲得します。また、唾液にも炭酸水素イオンHCO3- が含まれており、酸っぱいものを食べたときに、緩衝作用によって酸味を和らげる働きをしています。梅干しやレモンなどを食べると、唾液が大量に分泌されるのは、このためです。

一般的には、弱酸とその塩や弱塩基とその塩の混合溶液は緩衝作用を持つのです。このことは、次のように説明できます。

 

(i)弱酸とその塩の混合溶液

 例として、酢酸CH3COOHと酢酸ナトリウムCH3COONaの混合溶液を考えましょう。酢酸CH3COOHと酢酸ナトリウムCH3COONaは、水溶液中では次のように電離しています。

 

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酢酸ナトリウムCH3COONaは塩なので、そのほとんどが電離して酢酸イオンCH3COO- になっていますが、酢酸CH3COOHは酸解離定数Kaが非常に小さいため、酢酸イオンCH3COO- よりも、酢酸CH3COOHでいる割合の方がはるかに大きいです。よって、この混合液においては、

 

[CH3COO-]=加えたCH3COONa

[CH3COOH]=加えたCH3COOH

 

の関係が成立することになります。この混合溶液に酸と塩基を少量加えると、次のような反応が起こり、加えた水素イオンH+ や水酸化物イオンOH- が中和されます。

 

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酸や塩基を加えたときの反応は、ほぼ右に進む反応なので、少量の水素イオンH+ や水酸化物イオンOH- を加えても、[H+][OH-]の変化が抑えられ、pHの変化が緩やかになるのです。

ここで、Ca mol/Lの酢酸CH3COOHCs mol/Lの酢酸ナトリウムCH3COONaの混合溶液の[H+]を求めてみましょう。

 

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この式より、緩衝液の[H+]Ca ,Cs, Kaに依存することが分かります。また、Kaは温度一定なら一定値になるので、実質、緩衝液のpHCa ,Csにより決定されるということも分かります。この緩衝液に酸を加えるとCsが減りCaが増え、塩基を加えるとCaが減りCsが増えることより、緩衝液の[H+]は容易に求めることができます。

 

(ii)弱塩基とその塩の混合溶液

例として、アンモニNH3と塩化アンモニウムNH4Clの混合溶液を考えましょう。アンモニアNH3と塩化アンモニウムNH4Clは、水溶液中では次のように電離しています。

 

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塩化アンモニウムNH4Clは塩なので、そのほとんどが電離してアンモニウムイオンNH4+ になっていますが、アンモニアNH3は塩基離定数Kbが非常に小さいため、アンモニウムイオンNH4+ よりも、アンモニアNH3でいる割合の方がはるかに大きいです。よって、この混合液においては、

 

[NH4+]=加えたNH4Cl

[NH3]=加えたNH3

 

の関係が成立することになります。この混合溶液に酸と塩基を少量加えると、次のような反応が起こり、加えた水素イオンH+ や水酸化物イオンOH- が中和されます。

 

a.png

 

酸や塩基を加えたときの反応は、ほぼ右に進む反応なので、少量の水素イオンH+ や水酸化物イオンOH- を加えても、[H+][OH-]の変化が抑えられ、pHの変化が緩やかになるのです。

ここで、Cb mol/LのアンモニアNH3Cs mol/Lの塩化アンモニウムNH4Clの混合溶液の[OH-]を求めてみましょう。

 

a.png

 

この式より、緩衝液の[OH-]Cb ,Cs, Kbに依存することが分かります。また、Kbは温度一定なら一定値になるので、実質、緩衝液のpHCb ,Csにより決定されるということも分かります。この緩衝液に酸を加えるとCbが減りCsが増え、塩基を加えるとCsが減りCbが増えることより、緩衝液の[OH-]は容易に求めることができます。


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・参考文献

1) 石川正明「新理系の化学()」駿台文庫(2005年発行)